大日本帝國召喚   作:もなもろ

222 / 362
トーパを主題にして一本。クワ・トイネやクイラをうらやむ外交官。トーパの本国はそうとまでは思っていないようですが。


大日本帝國東京都港区 帝都テレビ 2675(平成27・2015)年10月19日(月)午後3時30分

大日本帝國東京都港区 帝都テレビ文化部スタジオ

 ― 大日本帝國駐箚トーパ王国特命全権公使 ソイリ・ヒエルペ

 

 

「いやー、美味い。実に美味いですね。やはり調味料の差でしょうか。故郷で食べるカニ料理よりも美味しいですね。」

「故郷の料理とどういう違いがありますか。」

「やはり、カニの味本来の濃厚さなどが表に出ているということでしょうか。故郷で食べるカニは海から陸揚げされてベルンゲンに運ばれます。トーパは寒い地域なので、腐るということは無いのでしょうが、やはり鮮度が落ちます。そういうわけで、味が落ちますが、日本で食べるカニは鮮度がよいので、・・・うん、美味い。」

「なるほど。どれでは、最後に公使閣下より一言お願いします。」

「えー、日本の皆さん。トーパのカニを買ってください。トーパのカニは、トーパ人の私が驚くような美味しさです。」

「はい、カットォー!」

 

 今の私はトーパの大商人といってもいいだろう。祖国トーパは日本国に対してカニ・鮭などの魚介類を輸出している。これが実によい稼ぎとなっている。

 トーパは寒冷な土地柄であるため、農業に適さない大地が多い。このため、これまで我が国は、クワ・トイネやマオなどの好意で食料を安価で融通してもらっていた。もちろん、パーパルディアからも奴隷の供出と引き換えに食料を輸入していた。

 農作物の代わりとなる食料が魚であった。港から水揚げされた魚は貴重な食料として王都へ運ばれる。寒冷な気候が故に腐るということはなかなかないことだが、保存の便、輸送の便も考慮された塩漬けの魚はあまりうまいと感じることは無かった。だが、昔は貴重な食料であった。

 我等の食糧事情は日本国の登場によって一変した。彼らは、我が国の沿岸近くまで来て漁業を行う権利を求めてきた。ただし、彼らのやってくる海域と言うのは、我々の漁民の小舟では基本的に漁に向かうことができない「遠洋」だった。

 王国政府は、日本政府との間にいくつかの条件を付した協定を締結することに成功した。当初日本政府が求めた漁獲高は年間9万トンという途方もない規模のものであった。我が方の漁民の漁獲高は、漁村で消費するものも含めるとこの1000分の1程度の量だろう。あまりにも大きな数字であり、現実感がなかったと交渉に当たった外務局の担当官は話していたそうだ。暫定協定による試験操業期間を経て、正式な漁業協定を結んだところ、年間6万トンの上限が設定されるに至った。トーパ側の意見である、そんなに持っていかれては、トーパ人が食べるものが無くなってしまうという主張を日本側が受け入れたものである。だが、日本側が要求した9万トンには満たない。日本側が要求した漁獲高は彼らの食糧事情も考慮している最低漁獲高を基準としているということであった。

 この3万トンの差をどうするか。答えは貿易だ。我がトーパから日本が魚介類を買う。これにより、3万トン分の不足分を得るということであった。だが、我々の漁民が収穫する魚介類は王都の人間や漁民が食べるものだ。輸出するだけの量が得られているわけではない。

 そこで日本側がさらに提案してきたのが、漁業権の売買という方策であった。3万トンに相当する魚介類の価格を日本側がトーパ側に支払うことで日本側は追加の魚介類を得ることができるというものだった。

 但し、日本側の漁業関係者は何百人にも及びとてもではないが個別交渉を行うだけの人員の用意は我々にはできなかった。そこで、日本政府が一括して交渉を行い、その後漁業権を日本人に販売するという形がとられた。

 この貿易方式は我が国にとってありがたかった。貿易収入を使用して、クワ・トイネなどから農作物を追加で大量に輸入することで、我が国の食糧事情は大きく好転した。日本の食料品なども輸入することができるようになったため、今や漁民は現物で支払っていた税を貨幣で納めるようになった。トーパの港湾都市アールバラ市に開かれた日本の領事館付近は日本の商社が出張所を設けており、そこで申請をすれば現物を購入してくれるということだ。村単位での申請ともなれば、商社側が買い付けに来てくれるという。この購入価額がとても良いらしく、漁民は税を支払っても、懐に余裕が生まれているらしい。

 

「ヒエルペ閣下。お疲れさまでした。」

 

 撮影が終わったということでだろう。帝都テレビの麻川学芸部長が寄ってきた。

 

「閣下もだいぶテレビ慣れしてきたとお見受けします。」

「それはありがたいお話です。私も故国トーパの美味しい海の幸を日本の皆さんに紹介できる機会を得る事が出来まして非常に助かっております。」

「それは結構なことでございます。」

 

 帝都テレビには世話になっている。こうして時々テレビの文化番組に出させてもらい、主にトーパの食文化の紹介をさせてもらっている。そうすることで、トーパのカニの知名度も向上してきた。そして、番組で作られた料理の調理法などを故国に教えることで故国の食文化の発展も捗るというものだ。そう考えると至れり尽くせりということなのだが。

 

「お疲れでしょう。別室でお茶でもいかがですか。」

 

 ・・・。これさえなければということもあるのだが。

 

「・・・ええ。いただきましょう。」

 

 別室に案内されると、帝都テレビの品川政治部長と帝都新聞社の渡良瀬政治部長が座って待っていた。やはりか。

 

「浅川さん。困りますよ。民間の方に外交交渉の話をすることは難しいんですから。」

 

 自分で言っていてなんだが、これもまたポーズでしかない。私がこういうと相手は、次のように返してくる。

 

「まあまあ、公使閣下。我々も公使のお立場については十分承知しています。公使から公表OKの御了解を戴かないうちは、報道したり記事にしませんから。」

 

 全てが予定調和の会話だ。

 6月上旬に東京の日比谷公会堂や他の大都市で開かれたロウリアとの戦争貫徹を求める日本国民の集会にクワ・トイネのオランゲ公使とクイラ公使館の一等書記官が出席した。集会に集った2000人の熱い声にオランゲ公使は感極まり、日本国民との連帯を嬉しく思うと上機嫌で挨拶を行ったらしい。

 その翌日オランゲ公使は、秘密裏に日本国外務省に呼び出され、「強い要請」を受けたと言われている。日本の野党勢力が中心となって企画された集会への参加そのものは、公使の職分として我々日本政府側が掣肘するところではないが、発言内容は抑えたものにしてほしかったということだ。クワ・トイネの公使が出席したことで、国民の共感の高まりも大きくなり、日本政府が計画していたよりも軍事行動の規模が大きくなる可能性が指摘されたということだ。即ち、日本政府が意図していたのはクワ・トイネとクイラの防衛であり、消極的な攻勢である。対して、野党主催の集会が意図していたのはロウリアの撃滅であり、積極的な攻勢であった。戦争には金が掛かる。これは洋の東西、世界の違いを問わず、同じようであり、日本政府としては最低限の負担で済ませたいという思惑があったようだ。

 戦争当事国であり、真っ先に被害を受ける立場にあった、クワ・トイネの公使が、手を差し伸べてくれた日本国民に対して熱い謝意を送る。なるほど、短い期間ではあるが、日本人の心に訴えかけるものがあるということは私にも理解ができる。だからこそ、我々外交使節責任者は日本人と慎重に接する必要がある。下手な発言をして、それが日本政府、山上首相の足を引っ張るようなことになってはいけない。

 

「それで、閣下。漁業協定改正交渉ですがね、貴国の本国政府は、漁業権販売枠の拡張、操業漁業権縮小の方向について、どの程度本気なのです?」

 

 渡良瀬部長が、ボイスレコーダーを起動しながら話しかけてきた。

 本国は日本国に売却した漁業権で獲得した貿易黒字のうま味に味を占めたのか、日本人が漁船を操業することで漁獲類を獲得する操業漁業権の縮小を、日本側に提案してきた。その代わりに漁獲高の総量を更に上昇させることを併せて提案した。「ありがたい」ことに東京での交渉担当は私だ。

 日本政府は、記者会見・報道発表などの手段を使って国民に国政に関する情報を開示している。トーパからの提案については内容を一部ぼかした形で発表された。「トーパ側から販売漁業権の拡充が提案された。」という一部の内容のみが公表されている。だが、流石は報道関係者と言ったところだろう。オフレコと言う形で彼らは情報を中央官庁から入手している。

 

「トーパの海産物は、まずトーパの民が享受すべきもの。なるほど。貴国の本国のお話の向きは分かりますが、そもそも獲っていなかった資源ですよね。それを水揚げできるようになったからと言って、我等のものだと言うのはいささか・・・」

「・・・一応、本国の意向としては、急激な水揚げで、海産資源に変化、生態系に変化が起きるのではないかということを懸念しての提案です。トーパ側である程度、海の変化を確認したうえで、その都度調整していく。そいういうことを考えての提案なのです。そして、漁業資源の保護については、トーパ日本漁業協定でも規定されているところです。」

 

 トーパ側の提案は、一応表向きには海産資源の保護を理由としたものであり、原則的には操業漁業権の縮小は漁業協定の規定に基いた通告だ。だが、これに対して日本の北部地方、北海道・樺太道の漁業関係者が反発するだろうことは目に見えている。故に販売漁業権の拡大ということで情報を操作している。日本の漁業関係者からすれば、操業漁業権を拡大することが彼らの利益になるのだ。縮小となれば、其の反発は当たり前だろう。

 

「しかし、その漁業資源の保護という理由ですが、あまりにも見え透いているとしか思えませんよ。これまでそちらの漁獲高は微々たるものだったはずです。今我々が大規模な出漁をしていますが、今のところ変化はないでしょう?もともと水産資源が余っていたということのものだったのではありませんか。」

「海では確かに今のところ変化はないようです。それは間違いありませんが、陸では乱獲で山の生態系に変化が生じたという事例は過去トーパでも報告されています。そういうことを懼れたということは十分あり得ます。故に本国はそういう提案を行ってきたということは充分考えられます。」

「ふーむ。」

 

 政府が販売漁業権枠を拡大したいという意向は、販売の利益が巨額ということに尽きる。クワ・トイネから十分な食料を輸入してもなお余り、それを日本製の民生品や武器の購入費用に充てている。寒冷地でも育つ作物の購入も始めている。これにより、パーパルディアからの魔道具購入や食料購入量を減少させ、パーパルディア向けの奴隷供給量の削減に成功している。

 

「しかし、これはオフレコで頼みますが、やはり漁業権の購入価格が高額だったのが、本国の申し出の遠因となったようにも思えますが、いかがでしょうか。」

「公使もそう思われますか。しかし、なぜ政府はこの案件を国際連盟開発援助の案件にしたのでしょうか。」

「ま、それは置いておきましょう。浅川部長も、恩賜財団の運営方針に疑義を呈することは不敬ですよ。」

 

 多少は、彼らの話にも耳を傾けなければならない。そうしなければ、次の機会が無くなるからだ。私の発言に対して、浅川部長が疑問を口にした。

 国際連盟開発援助。この言葉は私がこの国に赴任してから初めて知った言葉だ。日本国は元の世界で列強に位置している国だった。列強国は国際連盟と言うこの世界でいうところの先進国会議の常時参加国だった。国際連盟の常任理事国は、我等の世界でいう文明圏外国家に対して支援する義務を有していた。先進国が発展途上国を支援することで世界を発展させていく。実に進んだ価値観と言える。

 国際連盟開発援助を所管する団体が恩賜財団一宇會となっている。皇室財産からそれぞれ一定額の拠出金を毎年度計上し、資産運用と国民の寄付、日本政府からの拠出金を以て、財団を運営しつつ、開発援助を行っていたという。その財団が、漁業権を高額で買い取り、漁業関係者に適正価格で販売する。差額分は財団の損ということになるが、それが援助ということになっている。

 おそらくはと言う考えはある。クワ・トイネやクイラは財団の援助を受けて開発が進んでいる。これは、財団の金が日本の企業に流れて、それが事業開発の資金となっているからである。クワ・トイネやクイラから日本が農作物や鉱物を輸入する価格は、我がトーパと同じように色がついてある。そして、その金を利用して、クワ・トイネやクイラ政府は日本の企業に開発を依頼している。だが、我がトーパにはこのような金の流れ方がされていない。

 その理由は明らかだ。我がトーパは、クワ・トイネやクイラのような治外法権区域を指定していない。その区域に日本の企業は進出し、クワ・トイネやクイラからの権力行使を受けていない。日本政府が日本企業を保護しているからこそ、日本企業は進出しているのだ。

 経済文化振興協定か。我がトーパもこれを締結できれば、より発展していけるのだが・・・。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。