大日本帝國召喚   作:もなもろ

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アルタラス情勢の続報です。王女派閥にとっては苦しい時期です。空中分解の危険性もあるでしょう・・・。


アルタラス王国王都ル・ブリアス アテノール城 中央暦1639年10月21日(水)夜

アルタラス王国王都ル・ブリアス アテノール城

― アルタラス王国外務卿シモン・ド・ユグモンテ

 

「畏れ乍ら、今はまだ時期が悪いと考えます。」

 

 国王陛下の御諮問に対するわたしの返答はその一択に限る。

 

「しかしな。このままでは娘の面目が立たぬままだ。社交界での評判が落ちる一方よ。先だっても、ルミエス王女は病を得ているという社交界の噂話が聞こえてきた。このままでは、あの娘の将来がな・・・。」

 

 陛下の顔が曇る。無理もあるまい。陛下はルミエス殿下を殊の外可愛がられている。亡き王妃陛下の一粒種。

 

「しかし、社交界への復帰、また外務局への復帰となりましては、パーパルディアの反発が予測されます。向こうは、王女殿下が蟄居していると考えているからこそ、手を出してこないのだと、予想されます。彼らの刺激するのは得策とはいえません。」

 

 あの8月15日の王女の演説以降パーパルディアは何らのアクションを起こしてはいない。それは意外であった。あの国ならば、難癖をつけてくることが十分に予想できた。だが、パーパルディア大使館は沈黙している。郊外に居住している大使も動いていない。パーパルディアに動きがあるとすれば、大使が王都入りを行うはずだ。あのパーパルディアをしてこの事態に対して動いていないということをどう評価すべきか。

 

「むう。このままでは・・・。パーパルディアの動きを封じる一手が必要ということだな。」

 

 実際のところを言えば、婚姻外交を展開できるルミエス王女がこの状態であるというのは痛い。何しろ、現在妙齢の女性はルミエス王女しかいないのだ。だが、国王陛下がルミエス王女を嫁として他国に出すのではなく、我が国に婿養子を迎えようとしているがため、此の手段が使用しがたい状況になっているのも事実。

 国王陛下は、マール王国から婿養子を迎えようと考えておられる。亡き王妃陛下もマール王国から降嫁した。マール王国の王族か上級貴族をルミエス王女の婿として迎えることができれば、二代続けてマール王国と縁を結んだということになる。マール王国は第三文明圏に位置する文明国だ。我が国が文明圏外国家と雖も、両王家が二代続けて婚姻を結んだという事実は大きい。将来的な文明圏入りも見えてくるというもの。

 だが、マール王国からすれば、女子を降嫁させるのと男子を婿に出すというのでは話が違ってくる。嫁ということであれば、格上の国から格下の国に出すというのは婚姻外交からしてあり得るが、男子を格下の国に出すというのでは、その男子の格が下がることになり、格上の国の男子としては嫌がるものだ。この辺りの利害調整に難航している。

 

「日本や満洲と手を結ぶというのはどうだ。彼らと組むことができれば、パーパルディアもおいそれと手を出してくることはできないのではないか。」

「陛下、実はそのことですが、国内の富裕層にとって日本や満洲の商売敵となっております。」

「何?どういうことだ?彼らは科学文明国だ。我等と競合するはずが・・・」

 

 そう。本来的には、我等魔法文明国と科学文明国は本質的には競合しないものだ。何しろ、科学文明国であるムー国はこれまで我が国の商売敵とはなってこなかった。だが、日満両国の科学文明製品は、安価で高性能な品を大量に作り出している。

 魔石を使用した夜間灯がその一つだ。夜間灯は日が沈んだ後の灯りとして用いられる魔道具だ。この魔道具は等級の劣る屑魔石でも照明として機能する。だが、等級の低い屑魔石だと、明るくなったり暗くなったりと光の強さが一定せず、照明としての利用価値が低いと言える。魔石の等級が上がれば上がるほど光量が一定する。

 そこへ、日満両国の照明機器が輸入された。ムー国の製品と同じく電力なるものを利用する為、王宮や貴族の館のシャンデリアのような大規模な照明設備には現状対応してはいないが、部屋の灯りとしては、一定の光量を絶えず供給する。驚くべきことに上級の魔石を使うような高精度の魔道具と同じものを、日満両国は最低品質の機械でも可能としている。

 この日満両国の照明機器を大量に輸入したのがルミエス王女だ。一括で大量に購入するということで値引きをしてもらい、それを自身の派閥の下級貴族に低価格で譲渡した。これによりルミエス王女は着実に基盤を固めつつあった。

 これに危機感を抱いたのが、大貴族や既存の魔道具や魔石の売買を扱う商人だ。これまでは屑魔石と雖も売却先があった。我が国の鉱山からはどうしても屑魔石が産出する。それは、採掘技術の未熟さゆえにでもあるが、元々の品質のせいでもある。鉱山を掘り進めていけば、いつか魔石が枯渇する。それゆえに産出の調整が行われなければならない。それに産出を抑えることで供給を絞る。それが高品質の魔石の価格を高価格で維持できるという側面がある。とはいえ、緊急で大量の魔石を必要とする場合がある。そのためにも採掘技能者は一定量確保しておく必要がある。そのためにも屑魔石を産出する鉱山にも労働者を配置しているのだ。

 この屑魔石が売れ無くなればどうなるか。鉱山の経営が圧迫されることは確かだ。掘っても利益にならないのであれば、鉱山労働者を削減する必要が出てくる。それは、我が国にとっては失業者を発生することになりよろしくない話と言える。

 

「日満両国は確かに陛下のおっしゃる通り科学文明国でありますが、その製品が我が国にも輸入されています。彼らの品物は、我が国の魔道具と同じような結果を産みだすものが、我々の魔道具よりも安価でなおかつ、我が国のそれよりも高品質高精度のものが多いのです。今陛下の御側にある明かりですが、それも王女殿下から贈られたものと聞いております。」

「むう・・・。関税は。関税を引き上げるわけにはいかぬのか。」

「畏れ乍ら、関税に関しては、既にパーパルディアやムーのそれよりも高い税率を設定しておると大蔵卿から報告を受けております。勿論、あからさまな高率を設定しているわけではございません。あまりの高税率になると日満両国側も面白くありませんでしょうから。まあ、それなりの税率とは聞いておりますが。」

「高い税をかけても下級貴族に売れているというのか。」

「いえ、そちらは王女殿下のルートで流れてきております。」

「・・・どういうことだ?」

 

 ルミエス王女殿下は、満洲国の女公使から数々の品物を輸入している。王家のものとはいえ、他国から物品を輸入するのであれば、他国の商人は我が国に物を持ち込んだ時点で関税が掛けられる。あの女公使が狡猾なのはその制度を利用せずに我が国に物を持ち込んでいるということだ。

 

「満洲国のマニャール公使は、王女殿下に「献上品」を「贈与」することで物品を持ち込んでいます。外交活動に使用する必要経費として書類上処理されておりますので、これを掣肘することは、我が国が満洲国の外交活動に介入することになります。外交行李は不可侵とされるべきことは、日満両国とともに国交を樹立した際に確認された事項です。我々としては、マニャール公使の行動を制止できません。」

「・・・それでは、マニャール公使、満洲国側の持ち出しでしかないではないか。低価格の品物と雖も、下級貴族に出回るだけの量だ。それなりの量となる。輸送にも費用が掛かろう。売買ではなく贈与と言っているが、それは一体どういうことだ。」

「はい、王女殿下は時折、マニャール公使に御手許金を下賜なされておりました。施しを与えるだけではなく、マニャール公使からは国際政治を学んでおるため、その謝礼としても贈与していると御付の宮内官から申請されているとのことでありました。」

 

 私が説明を終えると、陛下は一瞬呆けた顔をしていたが、豪快に笑った。

 

「ハハハ。なるほど。それは確かに売買ではないな。いや、流石ルミエスは優秀じゃのう。うむ。素晴らしい悪知恵じゃ。ハハハ。」

「陛下。お笑いになることではありませぬ。魔石の貿易によって成り立っている我が国の根幹にかかわる大事です。」

 

 陛下は、ルミエス王女の行為をほめたたえている。しかし、これはおそらくあの女公使の入れ知恵に相違ない。日本国の大場公使はこのような形で王女に取り入ってはいない。やはり日本公使から苦言を呈してもらうようにすべきか。

 

「いやなに、ルミエスもそういう裏手を学んでいると思うと嬉しゅうてのう。きれいごとだけでは国は動かせぬ。そのあたりの差配を学んでいるのだと思うと頼もしいことではないか。」

 

 確かにその点は同意ではある。ルミエス王女をこれまでいろいろと眺めてきたが、確かに頭の回転はよく、将来有能な人物になるとは思っていた。それに裏工作を覚えているとなれば確かに陛下のおっしゃる通りだ。

 

「ですが、現状王女殿下の存在は我が国にとって不確定要素の強い問題です。今はまだ現場復帰は厳しいと再度奏上させていただきます。」

「ふむ・・・。惜しいのう。」

 

 ルミエス王女は逼塞している。現状大貴族たちも王女殿下に目をつけていない。この問題が大きくなることが我が国にとってどうなるのかわかりかねているからだ。今しばらくは、このままであるべきだろう。

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