大日本帝國召喚   作:もなもろ

226 / 362
アルタラスの「処分」は、秘密裏に決定していました。実にスマートです。


ムー国首都オタハイト郊外 パーパルディア皇国大使公邸 中央暦1639年10月24日(土)夜

ムー国首都オタハイト郊外ラウフェンス緑地区域 パーパルディア皇国大使公邸

 ― ムー国駐箚パーパルディア皇国大使 オスヴィン・ゲラルト・フォン・グレーゴール=パルネス

 

 ムー駐箚のパーパルディア大使である私は、普段は首都オタハイトに構える皇国大使館に隣接している大使官邸に居住している。大使公邸は貴族の趣味でもある狩猟のために、年に数回、ムー国王室関係者や外交関係者、各国大使などを招く他は、年2回の一週間ほどの長期休暇でも使用される。即ち、半分公的、半分私的な館が大使公邸である。文明国、それも列強の大使とあっては、ムー国情の収集調査のため、大使は基本的には大使館もしくは大使官邸で居住することが求められる。どこぞの文明圏外国に赴任する大使のように首都から離れた場所に設置した大使公邸に年がら年中入りびたるような無能で怠惰な職務は、我々には許されない。

 その公邸玄関の車寄せに3台の自動車が停まろうとしている。一台はムーの国産車である「ステラ・デラックス」。ガラッゾ・オートモービル社製で、公用車、特に政府幹部が乗る車として認識されており、我々外国大使も移動の便を図るために購入している。この車に乗っているのはムー国外務次官のトーマス・ブラッケだろう。

 次は我がパーパルディアの隣国である大日本帝国で製造された「クラウン」。日本国が誇る自動車メーカー、トヨタ自動車が生産販売している高級車であり、防弾装備もついているという。この車に乗っているのが、日本国のムー派遣団全権である大谷寛治だろう。

 最後がパーパルディアと国境線を接している満洲帝國で製造された「青龍」。満洲国の総合重工業企業である満洲重工業が生産販売している高級車であり、これまた防弾装備がついている。この車に乗っているのが于東節全権だろう。

 なるほど。話には聞いていたが、やはり、自動車の形と言うか、全体から受ける印象は、日満両国のそれは、精錬されたデザインと言えるだろうな。ムーのステラは野暮ったい印象を受ける。それに2階の窓からも車のエンジン音に違いがある。日満両国の車のエンジン音はムー国のそれに比べると静かだ。

 彼らがこの大使公邸にやってきたのには当然ではあるが理由がある。

 

 ムー国を来訪した日満両国の全権団は、ムー国の各地を訪問し、ムー国情を調べていた。日満全権団は政府関係者、司法関係者、財界産業界、教育界と様々な分野で構成されており、日満両国にとってムー国を対等な関係を結べるのか否か、言い換えれば、日満両国の国民がムーを来訪中にムー国政府が正当な扱いを行うことができるのかどうかを調べているようだ。これは、日満国民が何らかの犯罪の嫌疑をかけられた場合に限らない。日満両国の国民がムーに旅行に行ったときに不当な扱いを受けないか、家族を連れて仕事で長期赴任した場合にムーの学校に子女を通わせる必要が出たときに、ムーの教育機関の教育水準は、日満両国の子女を通わせるに確かな水準を持っているかかどうかなど様々な状況を想定して、視察を行っている。

 全権団が視察に動いている6日前の日曜日の夜、地方視察に出ているもの以外の視察団員は、ムー国外務大臣の主催による交流レセプションに出席した。日満両国の全権団員と世界各国の大使達を招いたこのレセプションには、ミリシアルやエモールの列強国の大使も出席した。当然私も出席したわけで、ムーの外務次官の紹介により私は日満両国の外交使節団と初めての接触を果たすこととなった。

 私はムー国のジルベルト・チャーチワーデン外務大臣の紹介で、日満両国の使節団全権と初めての挨拶を果たした。彼らは、私が皇族の一人であることを知るや否や非常に丁寧なあいさつを返してきた。なるほど、確かに彼らは、文明外の国の人間ではない。挨拶一つとってみてもそれがわかる。

 彼らは、私に対して贈り物をしてきた。それぞれ日本国皇帝の家紋である「菊」と満洲国皇帝の家紋である「蘭」の意匠を凝らした懐中時計。なるほど、細かい細工であることがよくわかる。確かにムー国の時計と比べると性能は上のように思える。

 幾ばくかの時間、歓談を楽しんだが、チャーチワーデン大臣は去り際に、我が国と日満っ両国には深い溝があるように思うと述べ、今週の週末にも、日満両国使節団全権を大使公邸に招待するようにと勧めてきた。仲介には、ムー国の外務次官が担当すると付け加えてだ。なるほど。あのことについて根回しをせよとのことなのだろう。私はムー国からの提案を了承して、今日に至るのであった。

 

 ―――――

 ― ムー国外務次官 トーマス・ブラッケ

 

「すると、大使殿下。あくまでも貴国の本国はアルタラスに対する領土的な野心は有していないとおっしゃるのですか?」

 

 満洲国の于東節全権がゲラルト・パーパルディア大使に確認した。日本国の大谷寛治全権は腕を組んで難しい顔をしている。無理もあるまい。

 

「左様。本国の方針はあくまでも平和的にアルタラスの鉱山資源を再開発することにある。アルタラス国内にある鉱山は元々魔法文明国各国において高値で取引をされている有望な鉱山であることは非魔法文明の日満両国において御承知のことだと思う。今は、アルタラス政府が之を生産調整して高値を維持している。これは実によろしくないことだ。魔法文明の発展を阻害する要因となっているともいえる。しかもだ、アルタラスは非文明国に属している。高性能の魔石が各国に流れることで魔法の研究が進めばどうなるか。仮にだ、研究の結果、一つの魔石から取り出す魔素の変換効率が高められたとしよう。そうなればだ、一つの魔道具における魔石の消費量が下がる。そうなれば、魔道具の価値は低下するが、庶民にも手が届く魔道具が生産されるかもしれない。そうなれば、魔法文明が更に発展すると言えよう。そうなれば、高価な魔道具の原料生産国として保持している彼らアルタラス国の相対的な国際的な地位は下がると言えよう。もしも、彼らがそれを忌避しているとすればだ。もしも、そうと解すればだ、于閣下。彼らが自国の地位に固執するがために、世界各国の人民の幸福追求の権利が疎外されている。そうとみることもできるのではないのかね?」

 

 于全権が息を呑む。流石は、第三文明圏の雄、列強パーパルディアが外に出した大使だ。自国の権勢の拡大が他国の益になるとまで言い切った。我等は、過去にパーパルディアの国内における圧政を非難した経緯がある。パーパルディアが世界各国の人民のことを考えて行動するということなどにわかには信じがたい話だ。

 

「しかしそれは、仮定の上に仮定を重ねたお話ではありませんか。何より、魔石の増産を行うということであれば、鉱山の所有権を移転する必要はないでしょう。鉱山の採掘権を買い取ることでも可能なはずです。何より、アルタラス側に秘匿した上で話が進んでいる。このようなだまし討ちのような真似は世界各国の信を得られないのではありませんか。」

「無論、その点は考慮している。確かに、アルタラス側からしたら反発は大きかろうと思う。しかしだ、アルタラスは文明圏外の国である以上、発言権は無視できると解するのが、この世界の文明圏国家に許された権利なのだ。そのあたりは、ブラッケ次官も理解されているはずだが、そのあたりは事前にご説明いただけていないのか。」

 

 ここで、私に振るのか。やれやれ。

 

「于閣下、それに大谷閣下。この世界は第一、第二、第三の文明圏国家が世界をリードしています。無論、それぞれの文明圏で文明圏国家とそれ以外の国に対する扱いには、多少の温度差があります。第二文明圏における我がムー国と周辺諸国の関係性については、既にご理解いただいているものと思いますが、やはり我々と周辺国の関係はある種の指導的関係というのがあります。そして、それぞれの文明圏においては、基本的に相互不可侵の関係にあります。列強一位のミリシアルと雖も、パーパルディアの権益に手を入れることは控えているのです。」

「手は出してはいないが、口は出されてはいるようですがね。」

 

 ゲラルト大使が皮肉げに口を挟んだ。これには私も苦笑するほかにない。我がムーもそうだが、ミリシアルとて第三文明圏外国家がどう扱われようともどうしようもない。単純に距離の問題だ。パーパルディアの諸外国に対する態度、国内の属領に対する支配が目についたとしても、それを糺すために軍を派遣してどうこうするなど議論の外だ。遠征の費用が馬鹿にならないだろう。

 

「しかし、アルタラス側の意思を無視して国土の一部を割譲させるというのは、アルタラスを属国とすることに外ならないのではありますまいか。そのような要求は我々としては首肯しがたいというのが本音です。我が国の国是に背きます。」

 

 大谷全権が話に加わってきた。なるほど、話に聞いていた通りだな。日本国の外交の原則は「八紘一宇」にあると言われている。国家間の善隣友好関係の構築が第一義ということで、その認識からすればパーパルディアのやり方は好ましいとは思えないだろう。

 さて、ゲラルト大使がどう捌くのかだが。

 

「そこまで大げさな話ではないのだ、大谷閣下。今回の本国の意向はあくまでも鉱山の再開発だ。この方針そのものは、ミリシアルにも大枠で合意を得ている。この世界の基準からすれば、別段不当なものとはいえぬ。そして、王族の婚姻は外交上の手段の一つ。これは、貴国等の元々の世界でも同じだと思っていたのだが、違うのか。王族の外交はポピュラーな手段の一つであると聞いているのだが。」

「いえ、違いはありません。我が皇室は基本的に国内で婚姻を行い、女子は臣下に降るのが常でありますが、諸外国では王室同士で婚姻外交が行われております。」

 

 驚きだな。パーパルディアはパーパルディアで日満両国とその転移前世界の背景を調べていたのか。ふむ・・・。やはり、パーパルディアは侮れぬな。

 

「さもありなん。それならば、この言葉も御存じであろうな。「郷に入りては、郷に従え。」だったか。」

「「!!」」

 

 ゲラルト大使、踏み込んできたな。日満両国が我が国に対して徹底的な調査を行っているが、これに対する我が国民の反発も無視はできない。やれやれ、パーパルディアに貸しを作ったか。

 

「この問題は我々の権限では処理できません。本国に伺いを立てたいと思いますが、」

「それは構わぬ。だが、この件は本来は高度に秘匿された案件だ。本国の側にも情報の秘匿をお願いしたい。ブラッケ次官はどうか?」

「勿論であります。両全権閣下。本来であれば、この案件は、既にパーパルディアとミリシアル、そして我がムー国で一定の理解を得た案件でございます。我がムー国は、貴国等がこの案件に関わるに足る十分な国力を保持していると判断して、こちらのゲラルト大使殿下の許可を取り、この会合を設けさせていただきました。我々としては、無用の混乱を望んではいません。両閣下には何卒その趣旨をご理解いただいたうえで、本件の本国での取り扱いについて厳重な対応を願い出ていただきたいと思います。」

 

 私の申し出に対して両全権が頭を下げた。秘密を守れぬ外交官はいない。それは洋の東西、時代を問わぬ。外交上の秘密というのは何時の時代も存在する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。