大日本帝國召喚   作:もなもろ

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さあ、運命の11月の始まりです。


中央暦1639年11月
帝都新聞朝刊 2675(平成27・2015)年11月1日(日)


運輸省、日鵡定期航空便開設を近日中に認可

 ムー資本の国際会社「オリエンタル航空」設立で合意

 

 運輸省は、昨日10月31日土曜日午後1時の的場耕助運輸次官の記者会見で、ムー国へ親善訪問している使節団からの報告で日本―ムー間の定期航空便が国交樹立を期に開設されることを発表した。我が国とムー国との国交開設に向けての弾みがつく形となった。

 的場運輸次官の説明によれば、日本―ムー間の航空便は、国内の複数の空港から発着便が設けられることとなる。そのいずれも神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスにあるルーンポリス国際空港を経由地にして、ムー国首都オタハイトにあるオタハイト空港へと向かうルートを予定している。既に割り当てが決まっているのは、成田発着が1日2便、新千歳・台北発着が1日1便、新京発着が隔日1便であり、運行状況の経過を確認したうえで、順次発着便の増加を検討している。今後の展望としては、仙台、中部、関西、福岡も開港したうえで、1日2便以上の発着を見込んでいる。

 運用する機体は、時空災害前に大東亜共栄圏各国や南洋群島連邦が調達していた、大東亜航空70-21が使用される。この機体は、アジアからアメリカ・ヨーロッパなどを繋ぐ長距離国際線に多く使用されている機体であり、今回の日本―ムー間の長距離路線には的確な期待である。さらに、時空災害による国際線の運用停止に伴い、大量の航空機が露天係留されている中での新規の長距離国際線開港は航空会社にとっては福音となるだろう。

 但し、日本とムー国との間の距離は21000キロメートル離れており、直接乗り入れすることはできない。そこで、ムー国は神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスにある国際空港をトランジット用のハブ空港として利用することを申し入れ、ミリシアル側も之を了承したため、同空港の改修工事が行われる予定も公表された。この際に重要となるのが、ミリシアル帝国への日本人の乗り入れである。現在外務省は、我が国とミリシアルとの国交樹立交渉を行っているが、双方の国交開設に向けた条件の隔たりから順調な交渉には至っていない。このため、日本人はミリシアルに入国資格がない状態で国際空港に着陸する。この点については、国際空港にトランジット用の区域を設けることで、そこでの滞在に限りミリシアルへの入国とは扱わないということで、ミリシアル側からの了解が取れている。

 また、日本の航空会社の飛行機がミリシアル国内の空港に乗り入れることについても別途の調整が行われた。今回、ムー政府の出資で、ムー国の特殊法人が設置される。この新会社の社名を「オリエンタル航空株式会社」と言い、株式の出資比率はムー国と日本、満洲で8対1対1となる。日本と満洲の出資人は大日本航空や満洲航空と言った航空会社が出資者となるが、これらの航空会社は、自己保有の航空機材による現物出資を行う。新会社の運航機材は原則としてこの機体を持って行われ、ミリシアルとの国交樹立または、航空機乗り入れに関する暫定協定の発効までは、このムー資本の新会社が独占して航空機の定期運航を実施する。

 新会社の従業員の大半は、日満両国の航空会社から従業員が出向する形となる。ジェット機の運用については、ムー側に技術もノウハウもないため、ムー人パイロットや管制員の育成もこの会社が実施することとなる。

 

 的場次官の記者会見には、不鮮明な部分があった。それは定期便の飛行ルートについてである。この世界の各国の位置関係から鑑みれば、我が国の各空港とミリシアル国の国際空港を直線で繋ぐルート上にはパーパルディア皇国という列強国が存在している。我が国とは距離的に極めて近い位置にあり、同盟国である満洲国とは国境を接しているにも関わらず、皇国とは国交樹立交渉が遅々として進んでいない。識者によれば、この国の対外的な姿勢は、19世紀末の清王朝に似ており、自国中心主義的な価値観から周辺諸国に対して政治的経済的な圧迫を常習として行っている。

 領空の概念については、転移前世界においてもいくつかの説があったが、パリ国際航空条約の規定によれば、たとえ民間航空機であったとしても無害通航権が認められているわけではない。定期国際航空における領空通過となれば、通過する国の事前の許可を必要とする。この点について、記者からの質問に対して的場次官は、上空を通過する航空機の安全に関しては、ムー国側の責任においてされるものであって、飛行機材の運航主体がムー国であることからもそれは当然為されるべきであろう手続きであると答えた。次官は、我が国を発着する飛行機が、パーパルディア上空を通過することについて、パーパルディア側から明示の意思表示が我が国に対してあったのかと記者から重ねて問われたことについて、全てムー国の責任において対処すべき事案であるとして、我が国とパーパルディア皇国が直接交渉したかどうかという記者の質問に対しては明確な回答は避けた形となった。

 

用語・・・大東亜航空70-21

 アジア地域の民間旅客機の製造を引き受けている大東亜航空が、長距離飛行用に設計販売した機体。平成22年において70-11が、大日本航空と満洲航空に各1機初納入されて以来、70-12、70-13と小規模の規格変更を経た後に昨年中規模の改修を経て70-21として売り出された。同シリーズのこれまでの販売機数は143機に及ぶ。

 

 

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クイラ王国、ムー国首都オタハイトに公使館を設立

 

 昨10月31日夜、ムー国首都オタハイト市南西区ミルシュール通り34番地にクイラ王国の公使館が開設されたのを祝して、関係各国を招いた晩餐祝賀会が開かれた。

 ムー国駐箚の特命全権公使として着任したのは、従前の予想通り、使節団の随行であったクイラ王国外務省西方局長のイブン・ムサド・バイダス男爵である。もともと、ムー国とクイラ王国は、クイラ王国で算出される石油取引の関係もあったため、国交を有していた。しかし、大東洋の地とムー大陸は距離的に離れていたため、大使等の交換は行わず、ムー国の大使がクイラに派遣されていたに過ぎなかった。今回の日満両国の訪鵡団の派遣が、ムー国との国交開設の交渉でもあり、我が国とムーの国交樹立後は大東洋の地とムー大陸との交通の利便性が格段に増すことが期待されたことを受けて、クイラ王国はムー国に公使の常駐を決めた形となった。

 既に国交樹立時の取り決めにて、外交使節の交換が条約上の権利として認められていたため、ムー国側は、外交公館の用地を選定し、ムー外務省職員の研修所として扱われていた建物をクイラ王国の公館として、貸与することを決定した。ムー外務省高官の話によれば、大東洋地域から第二文明圏へ在外公館を設置した例は今回が初めてとなるそうだ。

 公使館では、客船東洋丸や貨物船信濃丸から荷揚げされた業務用機器が持ち込まれた。ムー国で使用されている電気は、コンセントや電圧の関係で、直接使用することができなかったが、あらかじめ制作されていた変圧機器を使用することで日本製満洲製の電子機器の利用が可能となった。

 

 公使館開設の祝賀会には、ムー大陸にある第二文明圏の各国だけではなく、第一文明圏の各国からも来賓が出席するなど盛況のうちに終わった。

 

 

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懸念薬物使用事案、正式裁判へ

 

 10月30日、警視庁において、警視庁と東京地方裁判所検事局の合同捜査会議が開かれた。その席上、9月4日に都内四か所で一斉摘発された公然猥褻及び麻薬及向精神薬取締法違反被疑事件について、東京地方裁判所検事局は、明日2日にも東京地方裁判所予審部に対して起訴手続を行うことを匂わす発言が行われたことが捜査関係者への取材で明らかになった。

 この事件は、9月4日の夜、会員制社交倶楽部に偽装した組織的な買売春を摘発したことから明らかになったものである。情交時に違法な薬物が使用されたとの疑いがあり、それがアルタラス島に自生する植物から精製されたものであると判明したことから、国際問題なった。

 駐日アルタラス公使館は、当該植物はアルタラス王国内において、薬草として扱われており、中毒や違法性があるという警視庁当局の見解に反駁しており、外務省を通じて抗議を行った。一方で、警視庁当局は、当該薬物を取り締まりの対象としてとらえており、一種の司法取引を通じて、本件を終局させようとした。

 外務省を通じたアルタラス公使館からの抗議を受けて、警視庁は会員制社交倶楽部の客として逮捕されていたアルタラス人他外国人の男女に対する取調べを在宅での捜査に切り替えた。外務省が仲介に入り、警視庁の捜査と起訴か不起訴かの方針が定まるまでは、住所を明らかにしたうえで、アルタラス公使館が被疑者の身元引受人になることで、警視庁は勾留を断念した形となった。

 今月の頭に警視庁側は一つの方針を示したと言われている。公然猥褻の事案については、これを捜査段階における処分保留として取扱い、麻薬及向精神薬取締法違反被疑事件については、最も軽い処分である科料として、違警罪即决例に基づき、警察署長による即決処分によって事件を終局させるという方法である。これにより、警視庁側としては、アルタラス産の薬草を麻薬及向精神薬取締法違反の薬物として指定した実績を獲得し、アルタラスの被疑者に対しては、極めて微罪処分に近い形での処分と言う穏当な処分であるという実益を得られる形とすることで事件の終局を図ろうとした。しかし、即決手続に依って科料に課せられる以上は、前科がつくことになり、アルタラス公使館側がアルタラス産の薬草の使用が犯罪として扱われるのは、許容しがたいとして難色を示した。東京地裁検事局側からも、法に依り明確に指定されていない薬物である以上は、即決手続の要件である「事案が明白」なものであるとは言い難いのではないかと言う懸念が表示され、裁判官の判断にゆだねるべきであるという方針が示された。

 起訴不起訴の決定はあくまでも検察官が行うものであり、警察官が行うものではない。刑事訴訟法上は、捜査の主体はあくまでも検察官であることが規定されている。とはいえ、現実の捜査においては、検察官が事後承諾や最終決定を有するにすぎないケースが多く、現実にはそのような対応がほとんどである。このためだろうか、警視庁側は続けて、刑事訴訟法上の略式命令手続による起訴を行うことを検事に依頼した。

 略式命令は、刑事訴訟法に定められている裁判手続の一種であり、公開の法廷において被告人に対する尋問手続を行うことなく、検察官調書という書類審査によってのみ、有罪無罪が決定される手続きである。起訴の請求は区裁判所検事から区裁判所裁判官に対して行われる。被告人が質問することもないため、書類に不備がない限り、自動的に有罪の判決が降りる形となっている。

 事案の複雑性から検事側も難色を示したと言われており、東京地裁検事局の担当検察官は、正式に略式命令の手続を行うことなく、内々に東京地方裁判所予審部の裁判官に、本件を東京区裁判所の略式命令に付するべきかを相談した。もし略式命令手続によって行われるのであれば、管轄が地裁検事から区裁検事に変わるので、移送の手続きが必要となる。略式命令手続不適当となれば、再度の管轄移送の手続きが必要となる為、事務煩雑を避けるためには必要な相談であったであろうし、果たしてその相談は功を奏し、地裁予審部は、本件を略式手続不適当の事案と判断し、司法省を通じて警察を管轄する内務省に恣意的な事件指揮に対するクレームを入れたと伝わっている。

 このような経過から、司法取引的な手法を用いようとした警視庁上層部の意図とは外れて、本件は、公然猥褻及び麻薬及向精神薬取締法違反被疑事件について、正式裁判が開かれる見込みとなった。この内、検事局としては、麻薬及向精神薬取締法違反被疑事件については有罪の確証が得られていないとして不起訴処分とし、公然猥褻についてのみ起訴しようとしたようであるが、警視庁側からのたっての要請で、両事件について公訴を提起する方針となり、明日の公訴提起に繋がったようだ。

 

 この件に関して、東京弁護士会会長の渡辺博一弁護士は、「異世界転移後初の外国人が絡む大きな事件ということで、私も経過を観察していたが、大きな憤りを感じている。事件被疑者に対する人権保障という点では、誠に不敬であり、畏れ多いことではあるが、帝國憲法が発布された明治大帝の御代よりも今の時代の方が進み、各種の法的な社会的な整備もされている。にもかかわらず、平成の御代にこのような官憲の横暴は許しがたい。法律上明文の規定がない以上は、罪刑法定主義に基づき、無罪となる。にもかかわらず、有罪の方針を推し進めるとは、帝國憲法第二十三條に違背する手続でもある。この度の裁判を通して、警視庁による思い上がりを糺していきたい。東弁は、この事件の弁護人として、アルタラス公使館に協力していきたいと考えている。」と述べている。

 一方、第一東京弁護士会の会長の陳松五郎弁護士は、「違警罪即决例に基づく即決手続も、刑事訴訟法に基づく略式命令手続も、いずれの手法に依ったとしても言渡の手続を受けた後に被告人に正式裁判の手続が保障されている。これは、帝國憲法上も認められたる被告人の権利であり、この規定は外国人に対しても均しく及ぶというのは、大審院の判例でも明らかであり、帝國憲法昭和増補の規定にも合致する。帝國憲法の意図するところは、正式裁判を受ける権利を被告人に対して保障することであり、何が何でも被告人に正式裁判を受けさせるというものではない。正式な手続は、どうしても長期間に及ぶために、簡易・短期の手続きで終わらせたいというのは被告人側の利益にもなる。周囲がどうのこうのいうのではなく、被告人がどう考えるのかが重要だ。」と述べ、部外者が騒ぎすぎであるという意見を述べた。

 第二東京弁護士会の金寿美子会長もまた「刑事事件について、被告人がどう向き合うのかは、被告人自身が考えて行動すべきことであり、弁護士はそのためのサポートの為にいます。言うまでもなく国家というのは強大であり、被告人はその前では小さな存在でしかありません。一人では裁判を戦えません。その手助けをするのが我々弁護士ですが、被告人を支えるのはそれだけではありません。周囲の人の助けも必要です。まずは、被告人がどうしたいのか、徹底的に争うというのであれば、そのサポートも含めて弁護士も共同して戦いますが、罪状認否を争わずに穏便にというであれば、その方向で情状酌量を狙ってのサポートもできます。まずは、周囲の人の意見も参考にして、被告人がどうしていきたいのかを自身で決定することが必要でしょう。」とのべ、裁判開始に向けた準備が必要であることを明らかにした。

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