大日本帝國召喚   作:もなもろ

236 / 362
原作では、この日にアルタラスはパーパルディアに対して国交断絶を通告していますが、拙作ではこの日に大事件が起こりました。


アルタラス王国王都ル・ブリアス パーパルディア大使官邸 中央暦1639年11月5日(木) 13時

 アルタラス国王のもとに、パーパルディア大使からの招待状が届いたのは、昨日4日の夕方であった。

 4日昼過ぎに行われた、日満両国公使と外務局長を交えた会議では、アルタラスの立場としてはパーパルディアへの恭順姿勢が確認された。同時にミリシアルを通じての、宣言内容の緩和への外交努力を進めていくことも確認された。アルタラス王国は、魔石取引を通じてミリシアルにも顔が利くという文明圏外国家にしては高い地位を誇っていた。第三文明圏の雄たるパーパルディア皇国としてはその地位が目障りであったことは想像に難くない。

 パーパルディアが強国となる以前のパールネウス王国の時代から彼の国はアルタラス王国に手を伸ばしていた。大陸の滅ぼした王家を伯爵家の格として遇し、その息女をアルタラスの第一夫人として乗り込ませた。しかし、第一夫人の派閥は、アルタラス国内では思うように多数派とはならなかった。パーパルディアに対する警戒心がそうさせた。パーパルディアの二雄ブラウンシュバイクとリッテンハイム両家は、その権門の子女をアルタラスの貴族と縁組させた。徐々にではあるが、パーパルディアのの意を組む者が現れ始めた。

 パーパルディアは、アルタラスの国内最大の魔石鉱山を改名させた。名前を変えさせることで国の内外にパーパルディアの威を知らしめようとした。しかし、アルタラスは、国際的な名称の変更には同意したものの、国内における鉱山の名称には手を打たなかった。国内の様々な書類の変更には時間と手間がかかる。国際的に使用する新規の書類はまだしも、国内だけで通用している既存の書類に手を加えることは時間や手間を考えるとすぐには無理だとして、国内で使用する書類を書き換えることはしなかった。パーパルディアのアルタラスへの支配の手は着々と伸びていたが、アルタラスもアルタラスなりに抵抗していた。

 その抑圧と抵抗の均衡が崩されたのが、2日のパーパルディア外務局の声明である。アルタラスは、ミリシアル大使館と協議を行い、アルタラスへの声明内容の緩和を図っていた。アルタラス駐箚のミリシアル大使は、パーパルディアへのとりなしについては、本国に調整を依頼することを約束してくれた。ミリシアル大使としては、アルタラス産の魔石の取引が困難となるのは避けねばならぬことであり、鉱山の割譲にアルタラスが頑強に抵抗することが目に見えていることから当然の配慮であった。

 実は、声明を発したパーパルディアとて、この声明にアルタラスが粛々と従うとは意図してはいなかった。カイオス第三外務局長の意図は、国内の引き締めにあった。パーパルディアの国力はミリシアルには及ばない。皇国上層部はその認識の下、ミリシアルからの介入を後に受け入れることを目的として声明を公表していた。いかに傲慢なパーパルディアの貴族とて、自国とミリシアルでは、ミリシアルのほうが国力が上であることを知らぬ者はいない。それでも、皇国の意向が覆されたことを不満に思う者はいるだろう。その不満を吐露し、反政府活動を起こしたものを、皇帝の外交政策性を批判したものとして粛清する。これが、皇国上層部が意図した外交声明の公表であった。権門二雄にはその意図が知らせられ、地方統治の任についていた家門のなかで手癖が悪いいくつかの貴族が粛清の対象とされるに至った。

 彼らは、ミリシアルやムーがパーパルディアに要求した属領の住民に対する待遇改善の要求に関しての皇国中央からの指示に従う姿勢を見せない。勿論、皇国上層部とて属領から搾取した富でエストシラントの繁栄があることは理解している。それゆえに、段階的に対応することとしているのであるが、第一段階のそれにもあの手この手でかわそうとしている。

 彼らを排除することは現地行政の停滞を招き、下手を打てば、現地住民の反乱をも誘発しえない情勢から積極的に会う動きを見せることができなかった。中央から統治機構への官僚を派遣するための教育を行い、ようやく数人の地方統治機構長を更迭する準備が整ったため今回の対応が可能となった。

 そのような裏の意図は、アルタラス駐箚のパーパルディア大使にも当然に伏せられた。パーパルディア大使も亦、皇国上層部からみたら警戒リストに入っていたからである。第三外務局は、アルタラスのパーパルディア大使館に対しては、アルタラス側からの返答を受領することについての権限のみを与え、返答については直ちに本国に送るようにと伝えてもいた。交渉には参加させないとする本国の意向にパーパルディア大使館は、困惑と怒りの声に満ちていた。反発する大使館員をおさえて、パーパルディア大使アルベール・ハイトベルグ・ツー・カストは、部下にアルタラス国王に対する招待状という名の召喚状を用意させた。交渉を行うのではなく、返答を促すということであれば、第三外務局からの権限には抵触していない。それも、呼び出したのはアルタラス外務局ではなく、アルタラス国王なのだから、その点からも問題ない。

 斯くして、アルタラス国王ターラ14世は、ル・ブリアスにあるパーパルディア大使官邸に行幸した。

 

 ―――――

「おお、待っていたぞターラ王よ。まずは、そこに座りたまえ。」

 

 カスト大使は、応接室の椅子に腰を掛けたまま膝を組み、ターラ王に着席を促す。およそ上位者に対する態度ではないことに目をしかめたターラ王だが、言われたとおりに席に座る。

 

「早速ですがパーパルディア大使殿」

 

 早くこの場を離れたいターラ王が席に座るや否やカスト大使に話しかける。するとカスト大使は吹き出して、哄笑した。

 

「グハハハ。やはりアルタラスの王と言っても田舎者よな。茶会のマナーも知らんとは情けないことよ。皆もそう思うであろう。」

 

 カスト大使がそういうと、パーパルディア大使館員も嘲笑した。ターラ王の側近は顔を下げて怒りに身を震わせている。ターラ王は更に眉間にしわを寄せて歯を食い縛る。上位者に対する礼節で応対しないお前らはどうなのだという気持ちはあるが、ここでそれを言い返しても何もならない。

 

「まあよい。貴殿が田舎者だとしても、アルタラスの王を自称しているのだ。ならばまずは、私の客として遇しなければならない。」

 

 そういうと、カスト大使は始めよと言い、給仕を始めさせた。

 

「これはパーパルディア本国でも最近はやり出した茶葉でな。貴殿のような田舎者にはもったいないとも思ったのだが、まあアルタラスの王を自称しているのだ、それなりの物を提供せねばならぬだろう。次は何時飲めるのかわからぬのだ。さあ、味わって飲むがよいぞ。」

 

 給仕された茶を飲んだターラ王は幾分上気した顔色をなした。国王の頭のなかに靄がかかったような不思議な感覚を覚えたが、それはすぐに消失した。カスト大使は、「貴殿のような田舎者は滅多に味わうことができないのだから、この機会にたらふく飲んでおけ」と数回に渡りお代わりを与えた。数回飲むと国王の意識がややだるくなってきたのが、カスト大使にはわかった。それを確認すると、カスト大使はターラ王に受諾書は持ってきたかと問いかけた。

 

「よもや手ぶらで招待を受けたなどとは言わぬよな。皇帝陛下は速やかな鉱山の接収がお望みなのだ。」

 

 底意地の悪いニヤニヤとした顔を浮かべて言い放ったカスト大使に対してターラ国王は憮然とした顔で返答した。

 

「実はまだ政府内部で意見の調整が済んでおりません。貴国からの要請に対して何か対案がないかを・」

 

 ターラ王が話している途中であったが、カスト大使はテーブルに拳を振り下ろした。ガンッという打撃音が応接室に響き、ターラ王は目を丸くする。

 

「愚か者がっ!!アルタラスのような遅れた蛮族集団が第三文明圏の雄たる我が国の要請よりも有益な提案ができるなどと思い上がりも甚だしいっ!」

 

 ターラ王とその側近の心臓がバクバクと鼓動をたてる。不愉快な物言いに怒りの感情が沸き起こるがそれを表に出すわけにはいかない。彼らは、表情を知られないように俯き加減になり、目を細めた。

 

「全くもって嘆かわしいことだ。皇帝陛下の英知を理解せぬ蛮族共は救いようがない。通達から3日もたって猶返答もできぬとはな・・・。だが、ターラ王よ。私は寛容と言う言葉を知っている。貴殿も側近たちの手前、なかなか思うようにしゃべれまい。ちょっとこちらに参られよ。ターラ王の側近は其の侭にな。」

 

 カスト大使はそういうと立ち上がり、部屋の隅に向かうようにターラ王を促した。部屋の隅に追い詰めて、カスト大使は、ターラ王や自身の側近たちに背を向けて小声で話し始めた。

 

「王よ、つまらぬ強情を張るでない。我がパーパルディアからの要請は基本的に受けてもらわねばならぬ。それは貴殿もよく知っておろうに。」

「しかし、此度の要請は我が国の財政収入の多くを占める鉱山を割譲せよとのお話です。我々の国の運営に決定的に関わるお話です。そう簡単には結論がでませぬ。」

 

 先ほどから続く靄のかかったような頭を振り払い、ターラ王は訴えかける。実際には、外務卿を通じてミリシアルの介入を依頼している途中なのだが、そのようなことを知らせるつもりはない。

 カスト大使とてアルタラス側の思惑については承知していた。公開宣言後にアルタラス外務局からミリシアル大使館へと向かう外務局職員の姿をカスト大使は掴んでいた。何をしに行ったかは言うまでもないだろう。だが、公開した魔信で要請を出したのは、本国の第三外務局だ。本国がどういうつもりで、このような前例のないことをしたのかは定かではないが、アルタラス現地の外交官が要求を吊り上げるような真似をさせないという意思が本国にはあるということだけは理解できた。

 ミリシアルが介入すれば、鉱山の割譲などできぬ話だ。ミリシアルにとって、自国にも供給されている魔石がパーパルディアの所有となることは避けたいはずだ。必ずや外交的な介入を行ってくるだろうということは想像に難くない。故に、本国は魔石鉱山の割譲には本気ではないということがカスト大使にはうかがい知れた。

 自分の顔を蔑ろにした本国の顔をつぶそうとしてか、カスト大使は下卑た顔をしてターラ王へ告げた。

 

「それだけではあるまい。要請には鉱山の割譲の外にもターラ王の第一王女の輿入れについても書いてあっただろうに。」

 

 ターラ王の顔が一瞬ゆがんだが、彼も一国の王だ。すぐに顔を平静に戻して、カスト大使に反応した。

 

「そのことですが、娘は今、病を得ています。気鬱の病のようでして、とても大国たる貴国の貴族として遇されるのは難しいかと。輿入れの時期を遅らせていただくことはできますでしょうか。」

 

 これまでのカスト大使の言い分に反抗したくなったターラ王は、娘の瑕疵ともなりかねない病について言及した。破談にさせるのではなく、ただ、時期を遅らせようというだけであった。小さな抵抗であり、多少の嫌がらせのようなものであったが、同時に愛娘を他国にやりたくないという王の意思がそうさせたところもあっただろう。

 カスト大使は、ターラ王がルミエスを可愛がっているという話を聞いていたから、ターラ王がひょっとしたら、娘の輿入れに反応するのではないかとおもっていたが、果たしてそれは当たった。ニヤリと心の奥で笑ったカスト大使はターラ王を追い込む言葉を続けていく。

 

「ふむ。ま、いずれにしても私が確かめねばならぬまいて。ターラ王よ。貴殿の娘、なんといったかな、とりあえず私の下に来てもらわねばなるまい。」

「は?ルミエスを、カスト大使の下にですか。それはいったいなぜ。」

「おお、名はルミエスだったな。そうそう、うむ、ルミエスと言ったな。それは決まっておろうに。国と国とをまたいだ輿入れになるのだ。当然、私が橋渡しにならねばならぬ。如何に蛮族の姫とはいえ、モノではないのだからな。あとで返品と言う訳にも行くまい。私がルミエスのモノの具合を確かめておかねばならぬまいて。」

 

 大使が両国間における婚姻の橋渡しをするという話それ自体はおかしな話ではない。だが、ターラ王の耳には不穏な話が続けて入ってきた。尋常な話ではない。

 

「あの、大使殿。確かめると今、申しましたが。いったい何を確かめると?」

 

 おかしな話ではないはずだが、どうもおかしな話になっている気がする。それも不愉快で嫌悪すべき話のようだ。果たしてターラ王の予感は当たった。

 

「決まっておろうに。嫁いだ女が夜の営みができるかどうか先に確かめておかねばならぬであろうに。蛮族の姫である以上は生娘でないことは本国の貴族も承知しておるし、どのくらい廻してもよいか確認しておかねばならぬであろう。」

「ま、廻す?」

「如何にも。嫁いだ後は、一夜の内に何人か相手をせねばならぬこともあるであろう。先にどの程度廻してもよいか、確認しておき、それを輿入れ先の貴族にも伝えておかねばならぬであろう。」

 

 ターラ王の心に憤怒の感情が巻き上がる。どういうことか。パーパルディア外務局の通信内容ではそれ相応の扱いを受けることになっていたはずだ。

 

「む、娘は第一夫人として遇されるはずでは。第三外務局の公開魔信でも大貴族の家門に連なる貴族との縁組となっていたはずです。」

「なにを言っておるのだ。蛮族の姫を第一夫人になどできるわけもなかろう。確かにリッテンハイム侯爵家に連なる貴族に輿入れするようだが、身分は愛妾というところであろう。我等が過去に征服した他国の姫君もまた同じように遇した。征服した他国の姫君は、貴族に下げ渡されるが、数が少ない。国だけではなく姫君を征服したいと考えている貴族は数多くいるのだ。故に、時折、同門の貴族が集まって代わる代わる姫君と致す夜会が行われるのだ。獰猛で勇敢な我等パーパルディア貴族が姫君を屈服させるのは、痛感の一言に尽きる。勿論日常は何一つ不自由のない暮らしは約束されている。第三外務局は嘘はついていないであろう。」

 

 悪びれもせずに言い捨てるカスト大使にターラ王の表情が硬くなる。おまけに段々と朦朧とした感覚も強くなってきている。

 

「そういえば、征服した国ではない姫君を相手にするのは初めてであるな。フフフ、楽しみではあるな。気鬱の病と言っていたが、事ここにいたっては、そうも言ってはおられまい。ルミエスは、女にしてはなかなか頭が回るようだが、はてさてどれだけ凛としておられるだろうな。果たして、何人目で心が折れるか。あまり早くに屈しても面白くはない。下げ渡した後も我が部下を愉しませてやらねばならぬ。無抵抗の女よりも抵抗する女を手籠めにする方が征服しがいがある。どれだけ泣き叫んで、許しを請うのか。あるいは、私を、そして、部下たちを睨みつけながら必死で息を殺して、終わりまで我慢するのか。フフフ、楽しみであるな。」

 

 下卑た妄想を口に出して、ルミエスを辱めようとするカスト大使に、ターラ王の怒りは限界を超えた。

 

「ふざけるな!!」

 

 言うのが早いか、手が出るのが早いか。ターラ王の拳がカスト大使の顔面を殴打し、カスト大使は後ろによろめいた。それだけではなく、カスト大使は、不自然なほどに後ろに仰け反って、先ほどまで座っていたテーブルに手をついて、テーブルをひっくり返した。先ほどまでカスト大使とターラ王が飲んでいたティーカップが宙に浮き、床にたたきつけられて割れた。

 

「お、おのれ!!蛮族の酋長の分際でパーパルディア貴族の私に手を挙げるとは不届きにもほどがある。衛兵、こやつらを全員叩き出せ。」

 

 カスト大使の部下が一斉に動き出し、ターラ王やその側近を羽交い絞めにして大使館から外に出そうとしている。ターラ王に至っては連行の際に衛兵からみぞおちを圧迫され、先ほど飲んだ茶を吐き出した。

 

「慮外者め。我が屋敷を不浄にも汚すとは。つくづく見下げ果てたやつだ。魔信官、本国と全世界に向けて発信せよ。ターラ国王がパーパルディア大使に対して不当にも暴力を放った。これは、アルタラス王国から我がパーパルディア皇国に対する宣戦布告に等しい事態だ。外交官の身体は不可侵。これはミリシアルを始めとした文明国の共通理解である。文明国の共通常識を理解しない身の程知らずの非文明国に対する文明の、正義の鉄槌を降さねばならない、と。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。