派国、戦争準備に邁進
エストシラント港に軍民の艦船続々終結
今月5日のアルタラス国王の暴挙に対して膺懲の干戈を動かさんとして、パーパルディア皇国国内では軍民一体となり、其の準備に邁進している。皇国首都のエストシラントは、パーパルディア皇国今上陛下の肝入りにより建設された都市であり、百万の人口を擁している。皇帝陛下の居城たるパラディス城を中心とする国家行政組織地区、皇国の大貴族が居を構える貴族街区、大商会の本店が立ち並ぶ商業・金融地区、中小の有産階級や工場労働者が居住する地区、そして工場群が立ち並び皇都の物流拠点でもある一大生産拠点を構える工業港湾地区、その全てが戦争準備に邁進している。
官庁街は言うまでもない。軍が動くということは莫大な兵器や糧食を消費する。パーパルディア皇国軍は魔導銃・魔導砲という銃火器を運用することが既に判明している。その性能は18世紀、19世紀程度の性能のものらしく、連射は不可能とのことであるが、それでも銃火器ということであれば、大量の銃弾を必要することは想像に難くない。また人が多数動くこと言うことはそれに伴い食料も大量に必要となる。戦う兵士の他に兵士が食する食料を運ぶ人足が動員されるが、その人足もまた食料を必要とするので、必要な量は動員する兵士の数よりも大きな量となる。
大規模な軍兵が屯しているのは、正規軍の駐屯地ばかりではない。パーパルディア皇国は、君主制国家であると同時に封建制を維持する国家でもある。このため、国土の大部分は貴族の所領となっている。王と諸侯が御恩と奉公の関係に立つのは、洋の東西を問わずある程度共通しているので、貴族は戦争の際には、王のもとに馳せ参じる事務がある。パラディス城から見て、東側は貴族街が広がっている。パーパルディア皇国がパールネウス共和国と呼ばれた時代から存在している皇国の大貴族であるブラウンシュバイク公爵邸やリッテンハイム侯爵邸は、傘下に収めている子飼いの貴族たちがアルタラス出征に参加すべく集まっている。門閥貴族の巨頭達は、パラディス城の東側に広がる広大な貴族街に存在するリップシュタットの杜と呼ばれる保養地にも軍勢を集結させ、出陣を待っている。彼らは皇国中央政府の官庁街から直接の指示は受けないが、皇帝から伝えられる作戦の大綱に従って動くことになっている。中央官庁の直接の指示を受けない以上、彼らは自身の行動については自身で律することとなっている。
皇都に店舗を構える大商会の中には貴族の後援を受ける大店も存在している。ブラウンシュバイク公爵領都ブラウンシュバイク市に本店を構えるグロトリアン商会とリッテンハイム侯爵領都リッテンハイム市に本店を構えるアウフブラッケ商会がそれである。どちらも、パーパルディア皇帝の勅許会社である。パーパルディア皇国における勅許会社とは独立して複数の分野の業種にまたがる商行為を行う会社である。通常の商会は各ギルドに所属し、ギルドを通じて納税を行う。ギルドには各商会に対する監査権限が付与されており、適正な納税が行われるよう帳簿の鑑査が行われる。勅許会社はこのギルドに所属せず、直接納税を行う特権を与えられているが、このためにはムーやミリシアルで採用されている複式簿記(日本国で採用され、クワ・トイネにも導入されつつある会計書式に類似している)や財務諸表に類している書類を備えるなどの高度な会計処理が必要とされている。
これらの特許会社が中心となって、皇軍正規軍や貴族義勇軍に対して糧秣を供給したり、渡海用の船舶を都合したりしている。特に貴族義勇軍がアルタラスへ渡海するためには船舶が必要であるが、貴族の所有する船舶は貿易の為の少数の貨物船か貴賓ヨットくらいしか保有していないため、貨客船や輸送船の類は保有していない。そこで、彼ら特許会社が中心となり、自身の保有する輸送船の徴発に応じたり、ムーやミリシアルなどから貨客船の借り入れを行っているのである。特許会社は特権を付与されている代わりに国事に際しては皇帝の勅命を奉じる必要があるのである。
エストシラント港湾地区に設置されている工場群は現在昼夜を問わぬ生産体制を敷いている。パーパルディア皇国の工業能力は産業革命期のそれに類していると評価されており、魔導銃砲の弾薬生産は急ピッチで進んでいる。エストシラント以外でもデュロの工場でも弾薬の生産はフル稼働となっているようで開戦の準備に余念がない状況となっている。パーパルディア皇国では近年の対外政策の変化により、兵器の採算体制が見直されていたと噂されていた。このため、大量の弾薬の備蓄を行うには至っていなかったようである。
これらの兵器の輸送、兵士の輸送のために、エストシラント港では軍港地区以外の商業港地区にも多数の船舶が屯している状況となっている。民間の貿易船は埠頭への接岸が制限されている状況であり、いわゆる文明圏外諸国の貿易船は沖合で接岸待ちの状況ができている。この事態に対して、エストシラント港湾管理局からは、接岸待ちの民間船に対してエストシラント港以外への回航も推奨しているという発表がなされた。だが、他港で荷揚げしたとしてもそれを皇都まで輸送する手段に乏しいことなどから各国の貿易船は二の足を踏んでいるということだ。
【クワ・トイネ通信エストシラント支局 文筆:アーノルド・マキワリ(クワ・トイネ人)】
・・・・・
※クワ・トイネ通信
5月にクワ・トイネ公国西マイハーク市に本社社屋を設置して発足した東西新聞グループ子会社。東西新聞本社が80%の株式を保有し、10%をマイハーク伯爵が、10%をクワ・トイネ公国大蔵局が保有する。異世界におけるニュースを取材する目的で設置され、従業員にはクワ・トイネ人やクイラ人など現地の人間が優先して雇用されている。現時点で、日本国とパーパルディア皇国には国交がないため、パーパルディア皇国と国交を有するクワ・トイネ人をパーパルディア皇国に送り込む手段として設置された。クイラ王国はパーパルディア皇国と直接の国交を得ていなかったので、本社選定地に選ばれなかった。
―――――
帝國外務省、対アルタラス問題の平和的解決を望むとの声明
松平次官「同盟国とは協調して対アルタラス問題に望んでいく。」「帝国軍隊による恫喝的な和平斡旋はしこりを残す。」
クワ・トイネ市において今月9日から12日の日程で開かれている大東洋共栄圏外相理事会の動きに関連して、10日夕方、松平外務次官は霞が関の外務省本庁舎で会見を開き、緊迫しているアルタラス問題に対して、平和的な解決策を模索している段階であることを強調した。
クワ・トイネ市の大東洋共栄圏機構常設事務局ビル内で行われている外相理事会においては、ロデニウス大陸西部地域の海賊対策の為、日満両国の海上警察部隊の出動依頼が討議されているという情報が流れている。この動きに関連して、フィルアデス大陸とアルタラス島との間の海域であるアルタラス水道のシーレーン防衛を名目に日満両国海軍部隊が展開する可能性が噂されている状況での、外務次官の声明発表はこの噂を掣肘する意図がありそうだ。
松平次官は、声明の中で、対アルタラス和平問題は大東洋共栄圏の基本理念に基づき、同盟国が一致協力して事に当たっていくことを強調するとともに、あくまでも平和的態度を徹底していくことを言明している。軍事力を背景とした抑止を進めるべきではと言う記者からの質問に対しても、国交のない現状では恫喝的な対応はしこりを残すと回答しており、軍の出動は考慮に入れていないことがうかがえた。
この声明に対して官邸筋は、外交は外務省において一次的に対処すべき事案であるとして、官邸からアルタラス外交についてのコミットはしないとしている。
軍幹部の反応は様々であり、陸軍高官筋は、陸軍は外交問題に原則的には口入れせずとの反応を示しているが、海軍高官筋は、誤ったメッセージを与えかねないのではという懸念を表明している。意見の隔たりもあり、政府内部での混乱が生じそうである。
―――――
ヒエルぺ駐日トーパ公使、トーパ王国アールバラ市の開発計画に言及
ソイリ・ヒエルペ駐日トーパ公使は、10日に出演した帝都テレビの番組内で、トーパ国内の都市開発に対する言及を行った。
公使は、トーパの国内法を以てアールバラ市の一部地域に治外法権地域を設定することで、日本資本の投資を促すことは可能であるとの見解を述べた。クワ・トイネやクイラのように条約を以て治外法権地帯を設定することは現在日本政府・外務省は消極的である。クワ・トイネやクイラの治外法権設定は転移直後の混乱を治め、資源調達の為に必要な最小限の手段であったとして、後年治外法権設定を解消することを条約締結時の声明に盛り込んでいる。トーパ国内に同じような地域を設定することをトーパ公使は一度外務省に打診しているが、日本政府としてはこの申し出を断っている。
トーパ公使の今回の発言の真意は、対日投資を積極的に促すことにあり、北洋有業で円の在る北海道・樺太の企業が興味を示している。札幌に本社を置く山本土建の山本文二社長は、従業員の生命財産が守られるのであれば、工事受注はやぶさかではないと前向きな発言を行っている。豊原の日魯水産豊原工場では、トーパ国内に水産工場を置くことができれば、北洋業業における利便性が高まるとして、本社の会議に稟議を回す検討をしていると答えている。
一方で、トーパの国内法のみで治外法権地帯が設定されることには不安の声もある。日本共産党は、日本政府とトーパ政府の間で条約上の権利として設定されたものではない以上、トーパ政府の都合で日本人の生命及び財産の安全が損なわれる可能性があると指摘している。臣民公権の保障は帝國政府において第一義的に守護されねばならず、立憲主義を採用していない専制君主の統治下にあるトーパ国内への投資は臣民の財産保全が十分ではなく、この危険性を充分に言及しない日本政府の態度には強い憂慮を覚えると機関紙上で述べている。
トーパ国内への投資が強化されるためにはまだまだいくつかのハードルを乗り越える必要がありそうである。
―――――
クワ・トイネ公王庁、モリトヤマ公爵の元首化につき答申を発表
クワ・トイネ公国における国会に該当するとされている公王庁は、議論が続いていたモリトヤマ公爵の元首化について一定の理解を示した答申を発表した。
現モリトヤマ公爵の隠居を示唆する発言に伴い、新たな公爵はこれまで居住していたモリトヤマ公爵領領都からクワ・トイネ市に居を移すことを検討している。この際に、モリトヤマ公爵はモリトヤマ公爵位を継承するとともに、新たにクワ・トイネ公爵を名乗り、クワ・トイネ公国の元首として公国内に君臨することを検討していた。
クワ・トイネ公国では、これまでの歴史的経緯から公爵の元首化には国内貴族の同意を取り付けることができない状況が続いてきたが、このたび公王庁の会議は、元首化受け入れの答申を発した。公国では今後吉日を選んで、公爵の爵位継承式及び元首就任式典が挙行される見込みである。