兵部省大臣官房文書課・作戦本部総務部総務課編『航空武官公文書作成必携』(大蔵省印刷局・平成20年)
臨作委命・臨作作命・臨変作委命・大空命・大空指
大日本帝國憲法第十一條は、「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」と規定する。本條は、大元帥たる天皇陛下の御統帥の下に陸海軍の各部隊が存在していることを示している。中央軍令機関は、陸軍のそれの名が示すように、司令官を補佐する参謀であって、各部隊に対する指揮命令権限はないとされているのが、明治の建軍以来の我が国軍の根本精義である。”参照「明治十五年陸海軍軍人に賜はりたる敕諭」”
しかし、この正確な意義を額面通りに受け取っては、軍は機能しない。蓋し、我が国は北は千島樺太から南は台湾まで広大な国土を保有しており、大元帥たる天皇陛下唯御一人にその全ての権能処理を集結させることは不合理であり、又時間的にも不可能であるからである。
そこで、軍令各機関には平時から統帥権の一部が委任されている。例えば、各部隊の練度維持のための訓練計画もまた本来であれば、大元帥たる天皇陛下の御統帥の下に行われるものであるが、軍令機関は、毎年年間の陸海軍航空部隊(海軍航空隊の航空母艦搭載飛行隊を除く)の練度維持のための訓練計画を「年度作戦計画要領」という形で策定している。この計画は、軍事参議院での議決を受けて、上聞に達せられ、陸空軍の場合は、作戦総長から航空総軍総司令官に対して、「臨時作戦総長委任命令(臨作委命)」という形で伝宣される。
平時の年間計画という毎年作成される行政文書、いわばルーティン業務であったとしても、その行動の根本は大元帥陛下の御統帥によって行われているという国軍の根本精神から、「臨時」「委任」という語句が法令文書に使用されている。天皇陛下の統帥大権を作戦総長に委任するが、このような委任は常例ではなく、臨時の措置であるという意図が込められているため、「臨時」という語句が語頭に接辞している。実戦部隊に対する命令が、作戦総長固有の権限ではなく、大元帥陛下から「委任」されたものであるということを言明するために「委任」という語句を使用しているのである。なお、この法令は作戦総長から発令されたものではなく、あくまで大元帥陛下の御命令を作戦総長が伝達しているだけであるということを強調するため、「発令」ではなく、「伝宣」であるということが法令の語句上徹底される。法文中に「奉勅伝宣」という語句が使用されているのがそれである。(なお、海軍においては、「奉勅」という語句が使用されている。)
この臨時作戦総長委任命令が伝宣される際、当該命令を根拠として発令される実戦部隊に対する具体的な作戦行動や当該命令に附随して発令される中央軍令機関から実戦部隊に対する施行細則があるが、これは、「臨時作戦総長作戦命令(臨作作命)」、「臨時作戦総長命令(臨作命)」として「発令」される。
臨作作命や臨作命は、臨作委命を前提として発令される。既定の作戦が事前の命令通りに遂行されるときは追加で臨作作命が発令されるときがある。但し、何らかの理由で、事前の計画そのものに変更や中止を行うときは注意が必要である。臨作委命は、一旦勅諚を経た命令である。綸言汗の如しという言葉もある如く、大元帥たる天皇陛下の御命令は重たいものとして扱わねばならない。このため、既定の計画に変更が生じるときは、、再び勅諚を経る必要がある。この際に発せられる命令は、「臨時変更作戦総長委任命令(臨変作委命)」として、別個の命令として伝宣される。事実としては、事前の計画に変更を行うものであり、文書の内容もまたそのような記載になるのであるが、法令の表題としては、まったく別個の作戦が作成されたものとして扱われ、即ち事前の御命令を変更するものではないという「表現」を行っている。
以上の中央軍令機関が伝宣・発令する命令は、平時におけるものであり、戦時及び陸海軍航空隊特別大演習においては別個の法令体型が施行される。それが、大本営航空部命令(大空命)と大本営航空部指示(大空指)である。作戦本部は、平時から大本営の一機関として設立されており、陸軍の参謀本部、海軍の軍令部とともに共同軍事作戦を実施するための統合調整の任を追っているが、動員令が下達されると、予備役の召集が行われるなどして、規模が拡充される。そして、大本営を構成する一部局として総務部(平時の大本営総務部)、陸軍部(平時の陸軍の参謀本部)、海軍部(海軍の軍令部)、兵站総監部(平時の兵部省、参謀本部第三部)、情報部(平時の内閣情報局)とともに航空部として運営されることとなる。特別大演習については、戦時のような大本営は組織されないが、特別大演習実施の為部分動員が行われ、作戦総長は大演習関係の命令は戦時のそれに準じて発する形となる。
戦時及び特別大演習において発せられる命令は、臨作委命や臨変作委命が大空命として発せられ、臨作作命や臨作命が大空指として発せられる。このように法令の名称に変更が加えられるほか、法令番号にも変化が生じる。臨作委命等の平時の命令の法令番号は元号年月日を纏めた形で発行される。例えば、平成3年2月1日に発せられた「陸海軍航空隊平成3年度作戦計画要領」は、臨作委命第030201号として、平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震に際して作戦総長から航空総軍総司令官及び中部航空軍司令官に対して下令された災害派遣についての命令は臨作作命第161023号の1(航空総軍総司令官宛)、臨作作命第161023号の2(中部航空軍司令官宛)などと番号づけられている。これと異なり、大空命及び大空指の場合には、動員から復員までの期間で通し番号で番号づけされる。
また、大空命が発せられる戦時であったとしても、作戦総長の伝宣する命令全てがそれによって行われるものではないという点には注意が必要である。例えば、年度作戦計画要領はその策定時期が戦時にあったとしても、大空命で発せられる命令ではなく、平時と同じ臨作委命として伝宣されるべきものである。我が国で最後に戦時大本営が組織されたのは、昭和59年のポーランド分割において、駐英軍部隊の一時増強に際して行われたものであるが、この際も大空令と臨作委命は同時期に発せられている。
公用文作成の際には、発する命令がどの発翰区分に該当するか、適切な処理が必要である。
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航空偵察作戦関係文書
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臨作委命第二七一一一〇号
命令
(一)航空総軍総司令官及南部航空軍司令官ハ各々隷下部隊ヲシテ「アルタラス」水道ニ於クル派国軍隊ト或国軍隊トノ紛争発生時ニハ速ニ該地ノ情勢ヲ調査セシメ大本営及空軍中央ニ報告スベシ
(二)細項ハ作戦総長ヲシテ指示セシム
平成二十七年十一月十日
奉勅伝宣 作戦総長 大河内之綱
航空總軍総司令官 横田満男殿
南部航空軍司令官 子爵康志翼殿
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臨作作命271110号の1
命令
(1)臨作委命第271110号に基づき、航空総軍総司令官は、戦略偵察隊中左の部隊をクワ・トイネ公国マイハーク西部租界に進出せしむべし。
飛行隊より
2個飛行小隊
整備隊より
1個検査小隊
1個装備小隊
1個修理小隊
1個補給小隊
飛行場隊より
1個通信小隊
1個衛生小隊
(2)部隊の進発は速やかに実施し、(1)の部隊指揮官の選出は11月13日を以て完結せしむべし。
(3)11月14日9時を以て部隊の編成は完了せしむべし。
平成27年11月10日
作戦総長 大河内之綱
航空總軍総司令官 横田満男殿
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臨作作命271110号の2
命令
(1)南部航空軍司令官は、第九航空師團より左の部隊をロウリア王国カルーネス市に位置する連合軍航空基地に進出せしむべし。
第九飛行戦隊より
1個飛行小隊
支援飛行隊
第九整備隊より
2個検査小隊
2個装備小隊
1個修理小隊
2個補給小隊
第九飛行場隊より
1個通信小隊
1個衛生小隊
(2)部隊の進発は速やかに実施し、(1)の部隊指揮官の選出は11月13日を以て完結せしむべし。
(3)11月14日9時を以て部隊の編成は完了せしむべし。
(4)作戦命令は航空総軍総司令官よりも下達せしむ。
平成27年11月10日
作戦総長 大河内之綱
南部航空軍司令官 子爵康志翼殿
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航總戦偵作命乙第1号
航總命令 11月11日0900 横田
1、現下の情勢に鑑み、アルタラス水道におけるパーパルディア皇国軍隊とアルタラス王国軍隊の海上に於ける衝突は相当確実なるものと作戦本部は認識せり。
2、この認識は畏くも上聞に達せられ、臨作委命第271110号の奉勅命令が小官に下令せらるに至る。
3、作戦本部は情勢把握に資するため戦略偵察隊の派遣を検討し、允裁を受け、臨作作命271110号の1が発令さるに至る。
4、戦略偵察隊司令は臨作作命271110号の1に基づき、速やかに派遣部隊を選任し、進発を開始せしむべし。
航空總軍総司令官 横田満男
下達法 印刷配布
下達先 戦略偵察隊
写 作戦本部
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航總戦偵作命乙第2号
航總命令 11月12日0900 横田
1、マイハーク西部派遣偵察隊戦闘序列別紙の如く下命す。
2、マイハーク西部派遣偵察隊司令は偵察行動の終了毎に直ちに戦闘要報を作成し、作戦本部、航空總軍総司令部、戦略偵察隊司令部に送信すべし。
3、マイハーク西部派遣偵察隊は偵察行動に関する命令を航空總軍総司令官より受け、部隊の維持管理に関する事項については、戦略偵察隊司令の区処を受くべし。
航空總軍総司令官 横田満男
下達法 印刷配布
下達先 戦略偵察隊
写 作戦本部
(別紙)
マイハーク西部派遣偵察隊司令 陸軍中佐 柏野博之
部隊名・官名(動員管理主任)
偵察隊司令副官(高級副官)
偵察隊参謀部(参謀長)
偵察隊兵器部(兵器部長)
偵察隊経理部(経理部長)
偵察隊衛生隊(軍医部長)
偵察隊通信隊(飛行場隊長)
偵察隊法務官(法務部長)
飛行中隊本部(飛行隊長)
飛行隊第1飛行小隊(飛行隊長)
飛行隊第3飛行小隊(飛行隊長)
整備中隊本部(整備隊長)
第2検査小隊(整備隊長)
第1装備小隊(整備隊長)
第2修理小隊(整備隊長)
第2補給小隊(整備隊長)
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航總戦偵作命乙第3号
航總命令 11月12日1030 横田
1、マイハーク西部派遣偵察隊は、11月13日13時迄にマイハーク西部租界に開港せられたるマイハーク西空港に集結せしむべし。
2、同空港における部隊集結完成までは臨時陸軍工兵聯合隊司令の指示に従ふべし。
3、11月13日14時を以て作戦開始時刻とす。偵察隊飛行中隊に所属する飛行小隊の偵察機によりて夜明けから日没までの時間帯に偵察行動を実施すべし。
航空總軍総司令官 横田満男
下達法 印刷配布
下達先 戦略偵察隊
写 作戦本部
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平成27作本第387號
平成27年11月13日
大蔵大臣殿
作戦総長 陸軍大将大河内之綱
航空偵察部隊隊員に対する手当支給に関する件
標記の件、閣議通報の如く、作戦行動が発令されました。つきましては、派遣部隊隊員に対して陸海軍航空隊給与令による勤務地手当・赴任地手当支給を実施し度く、本年度予算予備費中陸海軍航空隊予備金の交付の申請を行います。宜しくお取り計らい願いたい。
以上
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マ偵作命甲第1号
マ偵命令 11月13日1330 マイハーク西
1、マイハーク西部派遣偵察隊は、現刻を以て編組を完結せり。小官は部隊員諸氏の迅速なる行動に厚い謝意を告ぐ。
2、マイハーク西空港第二滑走路及び同第三駐機倉庫は、現刻を以て臨時陸軍工兵聯合隊司令より小官が管理の権限を委譲されたり。第二滑走路は以後我が部隊の優先使用が認められており、この旨マイハーク西空港管制からも連絡あり。以後、第三駐機倉庫を部隊司令部とす。
3、パーパルディア皇国皇都エストシラントに於ける皇国貴族の動向は日に日に不穏の色を強む。従って、我が部隊の作戦行動は、明朝より実施す。以下明日までに実施すべき命令を伝達す。
4、偵察隊副官は小官附とし、部隊内及び関係各所への連絡任務に従事すべし。
5、偵察隊参謀部は明日より実施される航空偵察作戦の内容確認及び部隊内状況把握に従事すべし。
6、偵察隊兵器部は整備中隊と協同し、偵察機の検査に従事すべし。
7、偵察隊経理部は部隊人員表を作成すべし。作成完了後は司令部官舎及び部隊員宿舎の点検整備に従事すべし。
8、偵察隊衛生隊は部隊員の健康状況を調査し、就中偵察機搭乗員の健康維持に努むべし。
9、偵察隊通信隊は本国作戦本部、航空總軍総司令部、戦略偵察隊司令部との通信確保を実施し、編組の完結並びに司令部設置の完成を報告すべし。報告完了後は通信隊長以下2名を残し、残余の隊員は経理部長の指示を受くべし。
10、偵察隊法務官は、作命綴を作成し、戦闘要報、陣中日誌の作成の準備を実施すべし。
11、飛行中隊は、指揮下の飛行小隊員の心身の状況確認を実施し、其の結果を衛生隊に報告すべし。その後は、整備中隊と連絡を密にし運用機体の状況把握に従事すべし。
12、整備中隊は検査、装備、修理及び補給小隊を指揮し、運用機体の保全に尽力すべし。
13、小官は部隊司令部司令室に在り。
マイハーク西部偵察隊司令 柏野博之
下達法 口達後印刷配布
下達先 副官、参謀部、兵器部、衛生隊、通信隊、法務官、飛行中隊、整備中隊
写 作戦本部、航空總軍総司令部、戦略偵察隊司令部
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