大日本帝國召喚   作:もなもろ

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アルタラス侵攻の余波はこんなところにも飛び火します。


ロウリア王国首都ジン・ハーク ハーク城 中央暦1639年11月16日(月)午前8時30分

ロウリア王国首都ジン・ハーク ハーク城 

 ― ロウリア王国宰相 フランチェスコ・マオス

 

 9月1日の講和条約締結以後国内情勢は不穏な状態が続いている。敗戦の報を知った諸侯の中には、これを機に独立せんとして内乱を起こした者達もいた。だが、王国の騎士団の中にはさしたる損害もなく戦を終わった団もあり、彼らを差し向けて恭順させることに成功した。だが、服属して日が浅い南部諸侯の間には大きな反乱が起こらなかったことは訝しいし、西岸地域の諸侯が抱えていた海賊衆の離反は終息の兆しを見せなかった。講和条約締結後の諸侯の反乱は鎮圧することができたが、諸侯の動揺は収まったようには見えなかった。

 だが、時は待ってはくれぬ。講和条約の本文には記されていないが、我が国が交戦した各国と国交を正常化するためには、国王陛下の退位が条件となっている。この秘密条項は、議事録にすら残されず、サインをした文書もない。口頭の了解でしかないが、ロウリア王の権威を損なうまいとする交戦各国からの最大限の歩み寄りであった。外国からの要求で王位を降ろされたとあっては、ハーク・ロウリア陛下の地位、ロウリア国王の地位に傷がつくのは間違いない。そうなっては、国内が荒れる。それは、クワ・トイネとクイラにとって良いことではない。そういう政治的な意図もあったが、ハーク・ロウリア陛下の退位後の地位もそれほど悪いものにはならぬので、陛下も退位には同意しておられる。国内の動揺の為に退位が先延ばしになっている状況は、交戦各国との関係悪化にもつながりかねぬ。

 退位の方針を既定路線とするためにも、10月1日、国王陛下の従弟である、ウィンチェスター・テルエ・フォン・タレーラン公爵殿下を摂政に任じた。この際に、ハーク・ロウリア陛下は、ダールドルフの大公位、ヘッセン、クラッセンブルクの公爵位、モリスの伯爵位をタレーラン公爵に譲り渡した。ロウリア国王の権威の源泉たる、ハーク城の主たる地位を差すジンハーク城伯とテールマエの家名ともなっているテールマエ伯爵位は、まだ陛下が保有している。

 国王陛下の退位に向けて我が国が動き始めたと認識したのだろう。交戦各国は在アルタラス王国のロウリア大使館を通して、我が軍の軍縮について監視と調査を行う同盟国国際監督委員会と戦争の賠償について決定する賠償委員会の設置を通告してきた。我がロウリア王国と交戦4カ国の間には正式な国交がない。我々五か国の在外公館が全て存在している国は多くはない。特にクイラ王国は最近まで他国とかかわりをほとんど持ってこなかったためロデニウス戦争前までは、クワ・トイネ公国とムー国と直接やり取りが存在するのみで、それ以外の国々とはクワ・トイネを通じて若干の交渉があったに過ぎなかった。ロデニウス戦争の講和会議がアルタラス王国で開かれることになり、クイラとアルタラスの間で正式な国交が開かれたを期として、諸外国とも次々と国交を開設した。

 賠償委員会には、交戦5カ国から同数の委員が選任され、4カ国それぞれから提出された賠償要求額を審査決定することになっている。この5カ国の委員が合議して決定された賠償額は、確定前に中立国から選任された監査委員が査定することになっている。この監査委員はアルタラス王国から選出される予定であったが、これにムー国からも監査委員が選出されることとなった。10月26日に賠償委員会の第一回の会合が開かれ、ロウリア、日本、満洲、クワ・トイネ、クイラの五か国から1名づつの委員が任命された。

ロウリア王国選出賠償委員   大蔵卿 伯爵 ギルベルト・マイヤーハイム

大日本帝國選出賠償委員    大蔵省大臣官房審議官 男爵 井上光五郎

満洲帝國選出賠償委員     財政部大臣官房審議官 ハインリッヒ・ヴェースラー

クワ・トイネ公国選出賠償委員 大蔵局理財官 子爵 ゴリン・アップラー   

クイラ王国選出賠償委員    大蔵審議官 子爵 カブドラ・ハフマン

 委員会には委員に対する上位職としての委員長職は設けられず、司会進行の役目のみを行う委員首座を設け、日本の井上男爵を推戴した。委員会の事務局は日満両国軍の保障占領がなされている、ジンハーク城外北東部の城門附近に仮設の建築物が設けられ、そこで行われることになった。この周辺には、同盟国国際監督委員会の事務局も設けられている。

 第一回の会合では、我が国の賠償能力の調査のための実地確認が行われることが決まった。いくつかある鉱山と、我が国の林業、牧畜業の視察が主となる。検証団の構成は交戦5カ国の他、公正な結果を保証するため中立国のアルタラスとムー国の人間が加わることとなった。王国の騎士団が護衛に着く他日満両軍からも護衛が同行するが、移動は主に日満両国の保有する航空機で行われることになった。

 最も、これらの話は賠償委員会が設置される前には大筋で合意されていたことから日満両国の工兵隊が航空基地建設の為にロウリア本土内に展開している。彼らの存在が王国内の諸侯の動きを鈍らせたことは疑いがない。馬が引かない鉄の馬車、空飛ぶ鉄の箱の存在は諸侯の度肝を抜いたことは間違いない。荒野を瞬く間に整地し、大地を踏み固め、簡素な造りではあるが、建物を次々と立てていった。講和以来、いやあの強大な軍備を保有している時点で我が国は蹂躙されて当然であったことを考えると講和以前から我々は助けられている。

 パーパルディア皇国によるアルタラス王国支配の動きが起こると、おとなしくなっていた諸侯に不穏な動きがあるという噂が立った。日満両国の驚きは確かに国内諸侯を驚かせたことに違いない。パタジン将軍の言によれば、日満両国とパーパルディア皇国との軍事力は比べ物にならないとのことであった。パーパルディア皇国から送られた兵器と日満両国の兵器の両方を実際に見て知っている彼は、日満両国は、赤子の手をひねるように、地べたを歩く蟻を踏みつぶすようにパーパルディア皇国を蹂躙するだろうとのことであった。だが、地方の諸侯はパーパルディア皇国と日満両国の実力を比較しているわけではない。それだけ、パーパルディア皇国のネームバリューというのは大きいということだろう。まだ、彼らの動きは表面化しているわけではない。だが、パーパルディア皇国を後ろ盾にして、現国王ハーク・ロウリア陛下の退位を中止してロウリア王国の復権という動きは水面下でよどんでいる。

 

 早朝と言うのにも関わらず、国王陛下より参内のお召があった。ご用件はいったいなんであろうか。

 今週もまた忙しいことになるだろう。アルタラス王国選出の監査委員は、一時帰国したことによって、賠償委員会の動きは一時停滞している。だが、軍縮問題を取り扱う国際監視委員会は動きを活発化しており、ミミネル将軍が中心となり、王国全土に飛び回っている。ギム攻略戦で日満両軍の強さを自身の身で体験した東部諸侯たちは軍縮提案を受け入れ、その準備に余念がないが。それ以外の諸侯の動きは鈍い。このような中で表面上は従っている地方諸侯に対して我々は隙を見せずに、既定の方針を一気呵成に推し進めて、既成事実を積み上げていく他に手段はない。速度で地方の諸侯を圧倒するしかないのじゃ。

 

「陛下、お召により臣マオス参内いたしました。」

「来たか。まずは座れ。」

 

 陛下の御前に参るとそこには、摂政ウィンチェスター・テルエ・フォン・ダールドルフ大公が控えていた。

 

「驚くな、というのも無理があろうな。このような早朝に摂政と宰相を召し出したのだからな。」

 

 そのとおりだ。いまや摂政殿下は、国王即位に向けての動きを既定路線とするため、様々な会議や式典に出席している。国際委員会の委員への歓迎晩餐会を催した時も主催として出席したのは摂政殿下であり、国王陛下は出席されなかった。

 

「話と言うのは他でもない。余の退位についてだ。これまで、機を伺うということでの伸ばし伸ばしにしてきたが、そろそろ時機を決定したい。具体的には一月後には、ダールドルフ大公の即位式典を開きたいのだが、マオス頼めるか?」

 

 なんと。いきなりの話に驚いた。

 

「おそれながら、ダ―ルドルフ大公殿下が摂政就任以来各所に顔見せを行い、次期国王として即位するという流れを演出しております。権力移譲を円滑に行う為には、ダ―ルドルフ大公殿下が王冠の継承者であると言うことをそれとなく広める必要があります。空気を醸成するためには、今少し時間が欲しいところです。」

「わたくしもそのように考えます。そも、王位を継ぐのは本来の流れであれば、王太子殿下でした。この流れを断ち切り、私が後を継ぐためには今少し時間が欲しいところです。」

 

 早急に動いては、承服していない貴族の反発を招きかねない。慎重に事を進める必要があるのだが・・・

 

「其方らの意見は分かる。だが、時は待てとは言っていないと余は思うのだ。パーパルディア皇国によるアルタラス侵攻がはじまったのは其方らも知っていよう。」

 

 はて、そのことがどういうふうに我がロウリア王位にかかわるというのだろうか。

 昨日の昼過ぎのことだった。在パーパルディアのロウリア大使館から外務局に対して魔信が入った。「パーパルディア皇国貴族を乗せた船団がエストシラント港を出港。目的地はアルタラスとの風聞あり。」とうとう来るべきものが来たという感想を抱いた。あの8月の変事以来、この日が来ることは分かってた。いや、むしろこの日が来るのが遅すぎたという思いもある。それにしても、目的地はアルタラスと言う風聞というのも面白いことじゃ。パーパルディアに歯向かうが如き行動をした国に対する懲罰じゃから、大々的に出陣式でもやると思っていた。軍事行動を秘匿するような動きをするとはのう。おそらく大々的にやり過ぎてはということでアルタラスに権益を持つミリシアルに配慮した結果と思うのじゃが・・・。

 

「この動きは、大きな意味を持つと余は思うのだ。おそらく、パーパルディア皇国は、アルタラスを支配するが如く動くのではないと思う。パーパルディア皇国の威力が南下する中でその矢面に立つ我が国がどうなるか。余はこの勢いに呑まれるべきではないと思う。ロデニウス大陸の東半分は日満両国の勢力圏に入っている。我が国がパーパルディア皇国に呑まれるとなると再びクワ・トイネやクイラとの国境で争いが起こるだろう。そうなっては、我が国は今度こそ滅ぶ。これを防ぐためには、パーパルディア皇国の勢いをロデニウス水道で食い止める必要がある。どうだ、そうは思わぬか。」

 

 なるほど。陛下は日満両国の陣営に加わることを欲しているということか・・・。さて、その前に内乱が起こりそうな事態を放置するわけにもいかぬが。

 

「陛下。陛下の御宸襟を悩ましてございます、パーパルディア皇国のアルタラス侵攻ですが、陛下の御想像されているかのような大規模な併呑は起こらぬというのが予想でございます。アルタラスは高品質の魔石輸出国です。このことは列強第一位の神聖ミリシアル帝国もアルタラスから魔石を輸入しておる通り、ミリシアルがアルタラスのそのような地位を保障しております。パーパルディア皇国もこのことをよく理解しております。莫大な権益をアルタラスが保有しているというのは、パーパルディア皇国にとっては面白からぬことではございますが、だからといって、ミリシアルにケンカを売ってまで現状に変化をもたらすようなことをするとはおもえませぬ。来年は先進11ヵ国会議が開催される年でございます。招致国であるミリシアルの機嫌を害するような対応をパーパルディア皇国が取るとすれば、ミリシアルはパーパルディアを会議に招かないかもしれませぬ。そんなことになっては、パーパルディア皇国の面子に関わります。ここで、大規模な軍事行動を起こすだけの価値があるとは思えませぬ。」

「なるほど、マオスはそう思うか。ダ―ルドルフ大公はどうか。」

「わたくしも宰相に同意いたします。これは外務局で話し合われた予想ですが、おそらくパーパルディア皇国はアルタラス島の北部を一部割譲させ、そこを大々的に発展させることでアルタラスの民心を動揺させるという方針をとるのではないかと思われます。ちょうど、フェン王国国内にパーパルディア皇国が設置した植民街が参考になるでしょう。在フェンのロウリア大使館からの報告では、フェン王国のアマノキから西部の都市ニシノミヤコに向かう際の中継地として大規模に発展しており、馬車の換え馬を多数保有し、宿場としての機能も拡張傾向にあるということです。街の規模の拡張に伴い、近隣の住民が人足として集まり、それが更なる経済効果を生んでいるとのこと。パーパルディア側も駐留将兵の人選は徹底しているようですし、パーパルディア皇国人のなかでも温厚なポクトアール提督が駐留軍司令官として駐留軍将兵の軍紀維持に努めておることから、現地民のパーパルディア皇国への心証は良好とのことです。最もアマノキのフェン政庁では、フェン人が街に出稼ぎに行くことでフェン人のパーパルディア皇国に対する警戒心が薄れていくことに戸惑いがあるようです。ただ、せっかく紳士的に振る舞っている彼らの心証を害するような注意を喚起するような布告を行う訳にもいかずと言ったところで対応に苦慮しているようです。何分、アマノキに存在しているパーパルディア大使館の人間はこれまでと変わらず現地フェン人に対して侮蔑的な対応をし続けていますからね。まあ、このような方式で、アルタラスの一部領土割譲でパーパルディアとミリシアルとの間に話はついているというのが外務局の見解です。2,3回在パーパルディアのミリシアル大使とパーパルディア外務局の人間が行き来しているらしいので、意見の交換があったことは確かでしょう。そして、交換後ミリシアル本国は特に動きを見せない。以上の状況を考えると今回のアルタラス侵攻は、大規模なものにならぬと私も思います。」

 

 我等二人で陛下の御考えの前提条件に付いて異議を申し上げた。陛下の焦りは、アルタラスがパーパルディアに組み込まれることで、次の標的が我が国になることを懼れてのことであったが、国際関係を考えるとそれはないだろう。

 

「そうか。確かに、国際関係を考えるとそうだな。アルタラスの領土すべてが併呑されるというのはあり得ぬ話だな・・・。だが、ムー国と日満両国が国交を樹立するという話がほぼ整ったとも聞いた。とすれば、パーパルディアとてもこれまでのように日満両国を無視し続けるということもできまい。日満両国は我が国の周辺の国家とすでに外交関係を構築している。今外交関係を持たないのが、我が国とパーパルディア皇国だ。このままだと我が国が唯一彼らと外交関係を持たない国ということになる。そのようなことは避けたいと余は思うのだ。」

「なるほど。」

 

 おそらく陛下が恐れているのは孤立。我等二人はお互い顔を向け合い、頷いた。

 

「陛下。少なくとも、日満両国は我が国の国内の現状をよく理解しております。そして、ダ―ルドルフ大公殿下の摂政就任についても高い評価をしております。もともと交戦四か国が申し出てきた条件は、外交官の信任状を陛下宛では発行せぬとのものでございます。いささか異例ではございますが、摂政殿下宛に以後外交官の接受及び外交官の信任状の発行は国王の署名ではなく、摂政の署名を以て王国の官吏と為すとの勅令を発していただきますれば、彼らの要求にはかなうかと存じます。引き続き譲位に向けた動きは継続することを条件に、日満両国そして、クワ・トイネとクイラとの間に国交樹立を働きかけるようにいたしましょう。」

「うむ。マオスよ、宜しく頼む。そして、もう一歩踏み込みべきだ。」

「はて、これ以上のこととは。」

「うむ。ダ―ルドルフ大公。大公は日満両国を訪問し、彼らの政府に対して自分が国王に即位するということを伝えてきてくれ。そして、反対派の排除に協力してほしいと要請するのだ。私の親書も必要とあれば発行する。」

「陛下!」

「来月には、遅くとも今年中には譲位を行いたい。我が国が今後国際社会で再度雄飛するためには余ではだめなのだ。大公、大公が早く即位できるように彼らの協力を取り付けてくれ。」

 

 これは弱った。いくら何でも我が国の譲位の工作に外国の力を借りるなどそれこそ我が国の権威を損なう。さて、どうしたものか・・・。

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