ちょっと話の構成に変更を加えてみました。
この話に出てくる人物
唐沢博夫(主計官、大蔵省主計局主計官(国防担当))
高等官三等。昭和44年、平壌道平壌市生、46歳。平壌道立徳山中学校、第一高等学校、東京帝國大学法学部。法学士。
大学在学中に本籍地で徴兵検査乙種合格。在学者特例制度である司令部及本部附短期入営を申請し、近衛歩兵第一聯隊本部において書類作成整理業務、窓口補助、営内清掃の庶務や当直補助に従事。1年間の服役を終え、陸軍一等兵で満期除隊。高等試験行政科試験に合格後、近衛師團長及び近衛歩兵第一聯隊長の推薦を受け、大蔵省に入省。入省後は主計局を中心にキャリアを重ねる。
官房秘書課課長補佐在職中に当時の主計局長汪光政(現貴族院勅撰議員)の仲人で統合総軍経理部長滝山一益陸軍主計少将(現東京商科大学講師(物流管理学))の次女と結婚。以下来歴。
任大蔵事務官
叙高等官七等
叙従七位
大蔵省主計局総務課附兼財政金融総合政策研究所研修生
大蔵省主計局総務課企画係員
英オックスフォード大学留学・経済学修士
大蔵省大臣官房附
叙高等官六等
叙正七位
東海財務局豊橋税務署長
東海財務局局長官房総務課長
大蔵省大臣官房秘書課課長補佐
大蔵省理財局国有財産企画課課長補佐
叙高等官五等
叙従六位
大蔵省主計局総務課課長補佐
大蔵省主計局主計官補佐(文教科学担当第3係(初等教育関連)主査)
大蔵省主計局主計官補佐(司法警察担当第2係(裁判所検事局関連)主査)
叙高等官四等
叙正六位
大蔵省大臣官房文書課課長補佐兼文書課企画調整室長
免大蔵事務官
任京城府書記官
京城府知事官房長
兼京城帝國大学経済学部客員講師
免京城府書記官
免兼職京城帝國大学経済学部客員講師
任主計官
叙高等官三等
叙従五位
大蔵省主計局主計官(国防担当)
高柳洋子(大蔵事務官、大蔵省主計局主計官補佐(国防担当第4係(陸海軍航空隊関連)主査))
高等官五等。昭和57年、福島県会津若松市生、33歳。旧姓宮口。官立福島高等女学校、東北帝国大学法学部。法学士。
大学在学中に女子志願兵令に基づく短期従軍制度及び休学を申請し、輜重兵第二聯隊本部附となる。書類作成整理業務、窓口補助、営内清掃の庶務や第二師団内の連絡業務に従事。1年間の服役を終え、陸軍一等兵で満期除隊。高等試験行政科試験に合格後、第二師團長及び輜重兵第二聯隊長の推薦を受け、大蔵省に入省。入省後は税務畑を中心にキャリアを進める。
福島県会議員の次男(建設省入省同期)と結婚。以下来歴。
任大蔵事務官
叙高等官七等
叙従七位
大蔵省主税局総務課附兼財政金融総合政策研究所研修生
大蔵省主税局総務課企画係員
独ザクセン王立大学大学留学・経済学修士
叙高等官六等
叙正七位
四国財務局高知財務支局中村税務署長
台湾財務局文武税務署長
台湾財務局局長官房総務課長
北陸財務局課税徴収部次長(法人税担当)
叙高等官五等
叙従六位
大蔵省大臣官房秘書課課長補佐
大蔵省主税局税制第二課課長補佐
大蔵省主計局主計官補佐(国防担当第4係(陸海軍航空隊関連)主査)
横井渉(大蔵属、大蔵省主計局国防担当第4係係員)
判任官三等。昭和47年、大阪府大阪市生、43歳。大阪府立天王寺中学校、大阪市立高津青年学校本科編入。天王寺中学第五学年時に近畿財務局の文官普通試験に合格。卒後近畿財務局の雇員に採用され、週2を学校で学業に、週3を近畿財務局で事務労働に従事。青年学校本科第二学年時の徴兵検査で甲種合格。学校・職場の薦めもあり、青年学校本科卒業後に歩兵第八聯隊に入営。聯隊本部附、第二大隊本部附を経て1年半の服役を終え、陸軍一等兵で満期除隊。
除隊後雇員に再度採用され、2年の勤務を経て税務属判任官四等に任官。数年の税務署勤務の後、税務署長の推薦で財務局属に転官し、近畿財務局に異動。課税徴収部、財務局長官房勤務を経て、大蔵本省の中途採用普通試験に合格し、近畿財務局長の推薦を得て、本省勤務となる。本省では主計局国防担当第4係を中心に勤務する。
近畿財務局職員時に課税徴収部長の仲人で大阪府学務部中等教育課長の次女と結婚。以下来歴。
近畿財務局雇員として雇用
近畿財務局課税徴収部、データ入力・データ整理
退職
近畿財務局雇員として再雇用
堺税務署勤務、データ入力・データ整理
近畿税務研修所研修生
任税務属
叙判任官四等
堺税務署徴収部門法人税担当係員
同個人課税部門所得税担当係主査
同総務課企画係員
免税務属
任財務局属
近畿財務局課税徴収部資産税課第2係員
近畿財務局課税徴収部消費税課第1係主査
近畿財務局局長官房会計課執行係主査
依願免財務局属
任大蔵属
叙従八位
大蔵省大臣官房秘書課附兼近畿財政金融総合政策研究支所研修生
主計局国防担当第4係員
叙判任官三等
叙正八位
主計局国防担当第1係員
主計局主計監査官補附
主計局国防担当第4係員
叙勲八等授瑞宝章
村山重明(陸軍主計大佐、作戦本部総務部会計課長)
高等官三等。昭和45年、山梨県甲府市生、45歳。山梨県立中学徽典館、陸海軍経理学校。
任陸軍主計少尉(高等官八等)
叙正八位
第九航空師團経理部附庶務班員
任陸軍主計中尉(高等官七等)
叙従七位
兵部省経理局主計課企画係員
満洲帝國陸軍経理学校交換留学生
第六航空師團第一飛行戦隊経理部予算係主査
任陸軍主計大尉(高等官六等)
叙正七位
第六航空師團第一飛行戦隊第二飛行隊本部管理室長
兵部省経理局主計課編成第三係主査
陸海軍経理学校甲種課程
任陸軍主計少佐(高等官五等)
叙従六位
陸軍士官学校教官(兵站基礎学)
兼東京商科大学大学院経済学研究科修士課程
第一航空師團経理部部長補佐
作戦本部総務部会計課課長補佐(予算総括)
任陸軍主計中佐(高等官四等)
叙正六位
兵部省経理局主計課課長補佐
中部航空軍経理部高級部員(第一航空師團総括)
第一航空師團経理部長
任陸軍主計大佐(高等官三等)
叙従五位
航空総軍経理部高級部員(中部航空軍総括)
西部航空軍経理部長
作戦本部総務部会計課長
磯野寛一(陸軍主計大尉、作戦本部総務部会計課予算係主査)
高等官六等。昭和39年、山口県長門市生、51歳。長門市立日置青年学校尋常科、山口高等商業学校。専門学校在学中に本籍地で徴兵検査乙種合格。在学者特例制度を利用し、徴兵猶予。卒業後に陸軍歩兵第四十二聯隊に入営し、陸海軍経理学校の下士官候補者課程を志願し、連隊長の推薦を受ける。1年間の課程を修了し、陸軍主計伍長に任官。10数年の下士官勤務を経て、幹部候補生課程への推薦を受け、経理学校入校。以後主計将校となる。
任陸軍主計伍長(判任官四等)
第十六航空師團第二十七飛行戦隊経理部附庶務班員
第十三航空師團第十八飛行戦隊第二飛行隊管理室附予算判員
第十三航空師團第十八飛行戦隊第二飛行隊整備隊附経理室記録員長
第十三航空師團第十八飛行戦隊第二飛行隊整備隊附経理室長補佐
第八航空師團第二十一飛行戦隊経理部附庶務班員長
任陸軍主計軍曹(判任官三等)
第八航空師團第二十一飛行戦隊経理部長附
第十六航空師團第二十七飛行戦隊副官部附
第十六航空師團経理部附会計班員
叙従八位
西部航空軍経理部附
陸海軍経理学校幹部候補生課程推薦
任陸軍主計少尉(高等官八等)
叙正八位
第十三航空師團第十八飛行戦隊第二飛行隊管理室長補佐
第十六航空師團第二十七飛行戦隊経理部長補佐
叙勲八等授瑞宝章
第十三航空師團第十八飛行戦隊第一飛行隊管理室長
任陸軍主計中尉(高等官七等)
叙従七位
第十三航空師團経理部附
西部航空軍経理部附会計班主査
兵部省経理局予算課企画係員
航空総軍経理部第一課会計班長
任陸軍主計大尉(高等官六等)
叙正七位
兼航空総軍経理部第一課課長補佐
兵部省経理局予算課第三係員長
作戦本部総務部会計課長補佐
―――――
大蔵省主計局主計官室(国防担当第4係)
「こんなものが認められるわけないだろう!!!」
横井係員は作戦本部から渡された書類を表紙から数ページ読むや否や相手のテーブルに叩きつけた。二人の武官は苦虫をかみつぶしたような顔をして突き返された書類を睨んだ。
「あんたがた、どうかしてますよ。こんな黒塗りの軍機だ、軍機だと書かれた書類を持ってきて、予備費の執行を求めるだなんて我が社(と呼んで大蔵省と書く)を舐めてるのか!」
「いや、御説ごもっとも。ごもっとも。」
平身低頭して首の後ろを手で揉みながら話すのは、この場におけるもっとも官等の高い二人のうちの一人である村山陸軍主計大佐。それに対する横井係員はこの場における最も官等の低い男のはずだが、この言動である。予算行政実務において大蔵省の主計係員の存在は非常に大きい。
「横井さん、抑えて下さい。村山課長は陸軍大佐殿ですよ。官等においては唐沢主計官と同格です。敬意を以て遇して差し上げなければなりません。」
紅一点の存在、高柳主査はそのように言いつつも、椅子を引いたままで足を組みながら話すということで不快感を露にしている。横井係員は高柳主査の言葉ではなく態度を見て話し方を幾分修正した。
「了解しました主査。しかしだ、しかしですよ。お二方、月曜の朝早くから御足労頂きましたが、こんなろくでもない書類をよくもまあ持ってこれましたな。1週間前、航空偵察作戦に係わる追加予算を請求されたときには、作戦計画の概要とともに派遣軍人軍属の諸手当、旅費、庁費、糧食費、燃料費、整備品費、整備費と概算見積もしっかりしておられた。主計係員としてある程度の査定はさせてもらいましたが、それでも手当と燃料費は査定していません。全体としては9割の概算要求には応じたはずです。それが1週間で追加が必要とは、いったいどんなどんぶり勘定をおたくらの派遣軍司令はされたのですかね。」
「いやあ、まあそれはそのですね。」
「前回の追加予算の計画書では作戦期間は1か月とありました。偵察作戦は大体2週間から3週間の期間を見込んでおり、撤収も含めると余裕を以てだいたい1か月と。ならば、足が出た部分は陸空軍の予備費で対応可能と踏んで1割程度は査定させてもらいました。大蔵省(と書いて我が社と読む)の査定はそんなにおかしいですかね。それとも、そちらの概算要求に誤りがあったとでも言うのですかね。」
横井係員は舌鋒鋭く陸空軍の主計大佐を論難する。村山課長とて主計将校として今日まで過ごしてきた。予算の取り扱いには精通しているし、簿記の資格も持っている。陸海軍経理学校本科は商業専門学校程度の学歴に相当するし、陸海軍経理学校甲種課程は大学の商学部に準じる課程ともされている。概算要求に誤りなどあろうはずがない。
「いや、まあその予見しがたい費用の支出があったと言いますか。」
「それならそれで、なぜそのような支出の記載がないのですかね。だいたい、」
横井係員は、先ほど相手側のテーブルに叩きつけた文書を取り、表紙をめくった。
「作戦行動の概要は黒塗り、成果も黒塗り。そして、支出項目にある調査研究費。予算計画書にはこんな支払予定費目はなかった。そしてここに予算全体の6割を支出している。その内訳は軍機に付詳細は不開示。こんなものが認められるわけないだろう!!!」
バサッと音と立てて、書類をテーブルに叩きつける。横井係員は、村山課長を睨みつける。オレはハンコを捺さないという念を込めているかのようだ。通常ならば、陸軍大佐に対する物の言いようではない。本来ならば、上司である高柳主査が抑えに回る場面ではあるが、当の主査も椅子を引いたままで足を組み、議論に参加しない姿勢を継続している。
「そうは言ってもです。このままでは前線の部隊は、食うものも困るということにもなりかねません。流石に彼らに飯を食うなとは言えんでしょう。」
磯野大尉が口を開いた。情に訴えかけようというのだろうか。作戦行動の継続という点から離れて、食事の費用も事欠くという方向で話を変えようとした。だが、大蔵省の役人には通じない。
「それもおかしな話じゃないですか。追加予算計画書には、3週間から4週間分の糧食費を計上していたはずです。本土の各部隊が保有している食材やレトルト食品を現地に輸送して、部隊内の下士官兵が調理し部隊員に提供するということになっていたはずです。それが、支出費目では調理事務委託費、調理委託費や調理担当現地人雇用斡旋事務委託費に代わっているじゃあないですか。」
「それはですね。迅速な部隊派遣と展開のために純粋な戦闘要員と航空機整備要員の派遣に注力するために後方要員の派遣については後回しにしたということでして、そういった意味でのアウトソーシングというのはよくあることではないですか。」
「だったら、部隊人員表を出してくださいよ。予算計画書では隊司令部には経理部が設置されることになっているじゃないですか。部隊人員表や需品管理簿の作成は主計科マターじゃないですか。経理部で把握しているはずでしょう。」
「いや、部隊人員表作成も需品管理も確かに主計科で行いますが、参謀部を通して隊司令の決裁を仰ぐべき書類でして、私たち中央軍令機関にはまだ書類が届いておらんのです。」
「それはおかしいんじゃないんですかね?」
今まで話に全く加わらず、四人が宅を囲っていた応接机にも近寄らず、自分の席で話を聞いていた唐沢主計官が口を挟んだ。
「派遣部隊の司令部として調製する陣中日誌の取り纏めはその司令部の経理部と副官部が行って部隊司令が確認するんでしょうが、同時に部隊のそれぞれの部署が、参謀部、経理部、衛生隊、飛行隊や整備部などなどのそれぞれが作成する陣中日誌があるはずですよね。部隊取りまとめの陣中日誌や戦闘概報の別に部隊下部のそれぞれの陣中日誌や戦闘概報はそれぞれでオンラインで上級部隊に送られることになっているのでは。」
「え、あ・・・。」
唐沢主計官は、耳かきで耳掃除をしながら、手元にある新聞に目線を落としたまま話を続ける。
「確か作戦要務令で陣中日誌は毎日上級司令部に送る規則になってますよね。派遣部隊は航空總軍の直轄で部隊が編成。指揮系統からいえば派遣部隊経理部の陣中日誌は航空総軍の経理部に送られて、その後作戦本部の総務部会計課と兵部省の経理局監査課と衣糧課に送られることになる。つまり、文書はほぼタイムラグなく流れる。」
「・・・。」
「高柳君、大臣室に連絡して。空軍さんについてなんか大臣経由で話入ってないか確認して。」
「わかりました。」
「横井さん。お客さんがお帰りですので、お見送りをしてください。」
「了解しました。」
高柳主査は自分のデスクに戻り、内線を掛ける。横井係員は立ち上がって、入り口のドアに向かう。唐沢主計官は耳掃除が終わるや否や新聞に集中し始めた。これ以上の話はできないと感じたのだろう。武官の二人は鞄と軍帽を手に持ってうなだれながら入口に歩いて行った。