アルタラス王国王都ル・ブリアス アテノール城 国王御座所
― アルタラス王国国王 ターラ・ド・ラ・ファイエット
愈々明日は決戦じゃ。ル・ブリアスの郊外に陣取るパーパルディア皇国兵よ。目に物を見せてくれるわ。
午前中のアマンダ港沖合での海戦。パーパルディア海軍は遮二無二我が艦隊に突っ込んできたと聞く。強国であるパーパルディア皇国の海軍にはふさわしくない泥仕合であったということだ。後方の海軍本部でも不可解極まりないと困惑していたし、なにより、アマンダ港近辺に布陣していたル・ブリアス騎士団、聖タス騎士団、アルタラス中央騎士団も混乱した。
パーパルディア皇国は軍事行動を開始した。軍部は正式にパーパルディア皇国への開戦を主張し、王都の民に動員令を発するよう唱えた。ミリシアルの仲介などを待っていては王都が占領されてしまう。そのような屈辱は受け入れられないとのことだった。
対する外務局、ユグモンテ外務卿もまた引かなかった。全面戦争となれば、我が国はどうあがいても力負けする。ミリシアルとて、パーパルディア皇国の専横を糺すために我が国に味方して参戦してくれるわけではない。正式に開戦ともなれば、ミリシアルも仲介しずらい。戦争の一方の国に肩入れするような形になるのはミリシアルとしては望まない。戦争状態にはないということがミリシアルが仲介できる前提条件、それも我が国の方に有利な形で仲介してもらえる条件なのだとユグモンテは言い切った。
軍部、特に陸軍首脳はアマンダ港沖合の戦闘が始まった頃から、騎士団を迎え撃たせるのか、それとも対峙させるだけにするのか、あるいは道を開けるのかユグモンテ卿と激論を交わした。ミリシアルはパーパルディア皇国に対して無茶をしないようにと伝えてある、と従前からユグモンテは主張していた。ミリシアル大使からそのような話を聞いているとのことであった。全面戦争、敵味方がはっきりするような事態に発展させてはならないと強く主張していた。
だが、事態はユグモンテの主張するような状態とはならずに推移した。パーパルディア皇国軍の船団はアマンダ港到着後次々と上陸し、先陣争いをするかのように進撃を続けた。方針の定まらぬ状態では、騎士団も効果的な対処はできず、徐々に陣を下げ始めた。そして、パーパルディア皇国魔法兵による魔法攻撃が行われると騎士団は混乱した。パーパルディア皇国兵は攻撃を仕掛けてこないという前情報があったところに、我が海軍艦船が攻撃を受け、それでも迎撃指示が出なかったために、現地部隊では中央からのどうなっているのかという困惑のまま防御魔法のみを展開しようとした部隊、中央からの指示を待たずに迎撃を開始した部隊、右往左往してともかく一時離脱を図ろうとする部隊達と千々に乱れた。
ミリシアルとムーとの間に結ばれた条約によって、ルバイル国際空港周辺地帯は我が国の領土であるが、行政権が制限されている。平時であれば騎士団がこの地域の治安維持警察行動を行うことは容認されている。それどころか、積極的に治安維持に参加してほしいという取り決めがなされている。ミリシアルもムーも治安維持のための人員を我が国まで派遣するコストを渋ったということのらいい。だが、戦時において騎士団がこの地帯に侵入することは許されていない。戦時においては中立地帯として存続するとのことだ。敵味方どちらの陣営にも加わらないのだから手を出すなということらしい。ルバイル空港と言うミリシアルとムーの重要施設を守るための條約上の措置だ。
今回、「戦場」を離脱した部隊が安全地帯であるとして、ルバイル国際空港周辺地帯へ逃げ込もうとした。宣戦布告はなされていない、戦時ではないのだからということで、騎士団が「侵入」することは許されると思っていたようだ。追撃してきたパーパルディア皇国兵は魔導砲による攻撃を行った。周辺施設の建物に被害が生じたようだ。慌てたミリシアルとムーの空空港管理職員は、周辺地帯に出入りする門を施錠しようとした。我が騎士団との間でひと悶着が起こりかけたが、追撃してきたパーパルディア皇国兵により、討たれたとのことだった。
ユグモンテは、報に接するや直ちにミリシアルとムーの本国に伝えて、パーパルディア皇国との仲介を迅速なものにしようとした。だから、騎士団に対して陣を下げるようにと主張した。軍部は怒号を以て彼に答えた。パーパルディア皇国はおろかにもミリシアルとムーを攻撃した。ミリシアルとムーは既に攻撃を受けたのだ。敵の敵は味方だ。ミリシアルとムーに追従して宣戦布告し、パーパルディア皇国兵とをアルタラス水道に追い落とすべし。この期に及んで何を躊躇するか、と。
ユグモンテは尚も軽挙妄動してはいけないと言い募るが、業を煮やした軍部の将軍がサーベルを抜いてそれを彼の眼前に突き付けるのを見て、予はここまでかと思うようになった。周辺施設に攻撃を行ったパーパルディア皇国兵も突如進軍を停止したという報告が入った。軍部は喝采を挙げて、ユグモンテを詰り始めた。パーパルディアは下手を打ったのだ。この機に乗じて敵を殲滅すべし。宮中は危険な状態となり、予はユグモンテに自邸での謹慎を命じた。軍部は、一気に外務卿を解任し、宣戦布告を行うようにと予に奏上したが、一日待てと答えた。宣戦布告の文書には国王である予と外務卿のサインがいる。ユグモンテでは宣戦布告の文書にサインしないと軍部は思ったのであろうが、情勢は最早ユグモンテの思う通りには推移していない。しかも、パーパルディアは重大な失策を行った。この機を逃すわけにはいくまいが、一日頭を冷やさせれば、あれも切り替えるだろう。この重要時期に外務卿の交代を行う方が危険だ。
王宮の武器庫に眠っていた魔導砲を使用することとなった。少し古い攻撃兵器であるが故か、大量の魔石それも高純度のものを使用する。定期的な点検は行っていたので、動作には問題はない。今は魔力を充填させる為に大量の魔石が運ばれている。予の鎧や本陣に置く魔道具にも魔力の充填が必要ということで魔石の箱がここにも持ち込まれている。常のことではない。本来ならば厳重に保管しなければならぬが、時間がないのだからな。
・・・。静かだ。静かすぎる。王宮は明日の出陣に向けて、準備をしているはず。さっきまでは、侍従たちが行き交う足音が聞こえていたはずだ。魔石を使用しての魔力の充填の作業があるはずなのだが・・・。何が起きた・・・。
―――――
― パーパルディア皇国陸軍統帥本部直属独立第一魔導兵中隊 中隊長ハインリヒ・アナスタージウス・ツー・ヘルゲン
国王の居室のドアノブを慎重に回して突入する。日本国満洲国の機関短銃を模倣した魔導銃を手に持った部下たちを先導し、おそらくはアルタラス国王陛下であろう彼に銃口を向ける。私が小隊長を兼任する直属の第一小隊8名と中隊副官が部屋に突入した。残りの第2から第4小隊は付近の制圧を行っているが、時間稼ぎでしかない。すぐにでもここを離れなければならない。部屋が明るい。玉座に人がいた。国王陛下か?ちっ、まだお休みになっていなかったかのか。予定が狂ったな。
「何者かっ!!」
「アルタラス国王、ターラ14世陛下にあらせられますか?」
私の声とおそらくターラ陛下と思われる方の声が同時に発せられると、ターラ陛下は驚いた顔を浮かべた。
「いかにも、予はアルタラス国王ターラであるが・・・。」
「お初にお目にかかります。官姓名は故あって名乗れませんことをお許しください。ですが、胸の紀章のデザインは御存じかと。」
我らはまだ実験部隊。そして、影の部隊。公に動くわけにはいかない。
「なるほど・・。して、何用じゃ。いや、その前にどうやってここまで来た?」
「侵入ルートを明かすわけにはいきませんが、国王陛下におかせられましては、我等に同行していただきたい。」
下水道を通って王宮に侵入した。我ながら思い出したくはないことだ。流石に帰りは上水道を通っていく。侵入ルートを秘匿するためではあるが、国王陛下に下水道を通っていただくわけにもいかぬ。
「なるほど。予を連れ出すか・・・。何のためかな?」
「国王陛下の命令でアルタラス全軍の戦闘停止を命じていただきます。さあ、時間があまりありません。ご同行を願います。」
部下に目くばせして、国王陛下に枷をはめようとした。不敬ではあるが、やむを得ないことだ。部下が頷き、陛下に近づこうとした。陛下が立ち上がった。観念されたか。
「一つ問う。貴殿らの持っている武器だが、見覚えがある。それも「写真」でだ。」
玉座から降りて、我等から後ずさりしながら、話しかけてくる。まずいな。発砲するわけにはいかぬが。
「その銃は日本製か。それとも満洲製か。」
答えるわけにはいかぬ。この銃は我が国の最高機密だ。だが、このお方はよく知っているようだ。やはり、彼らと国交を有しているということは日満両国の情報が我々よりも届きやすいということなのか。これはレポートに記載すべきだな。もう少し、外見も魔導銃を似せないようにすべきと。
「フ、フハハハハ」
突如として国王が笑い出した。不味いな。普段ならもう就寝されている時間ということだったのだが・・・。已むをえん。口をふさぐしかないか。
「ルミエス・・・すまぬ。」
ルミエス?最近亡くなられたという王女殿下か?
国王は木でできた箱の側まで後ずさりした後、その箱を持ち上げて逆さまに落とした。なんだ。一体何をしようとしているのだ。だが、時間がない。
「陛下。時間がありません。お手向かいせずに」
「中隊長!!急速な魔導膨張反応を確認!!」
!!何っ!?あれか?あれは魔石を入れた箱か?なぜ国王の部屋にそんな危険物が!!
「日本国と満洲国、パーパルディアと裏で繋がっていたか、ユグモンテが正しかったな・・・・」
「中隊長!!!!!」
小隊員が悲鳴を上げた。クソ、作戦は失敗だ。
「作戦中止!!脱出路より脱出するぞ。各小隊も急げ!!」