満洲帝國新京特別市 国務院閣議室
― 国務院官房長官 テレンス・ストーニー
「では、パーパルディア皇国、それも本国と直接交渉の機会を得たということですか?」
閣議終了後の閣僚懇談会の席で王農相が森山外相に対して質問を行った。他の閣僚も興味津々と言う顔で外相の返答を待っている。
「はい、パーパルディア皇国は、皇帝秘書官長フリートヘルム・ゲープハルト・フォン・フォルストブルグ伯爵と第三外務局長クラウス・カルステン・フォン・カイオス子爵の連名で御見舞金御下賜式の招待状を発送したいという申し出が、ムーにいる于東節使節団長を通じてありました。今回のアルタラスでの誤射事件における我が国の被害者に対して見舞金を渡したいが、何分にも国交がないため、御見舞金は政府のほうで代表して受け取って、被害者に渡すということになります。ただ、アルタラス方面で混乱がありますので、それについての目途がついた時点でということになりまして、現時点で具体的な日時は未定という形になります。」
閣議が始まる前の今朝の五相会議の場において森山外相がそのことを報告したときは私も驚いたものだった。外交部は、クワ・トイネの帝国公使館を通じてパーパルディア皇国大使館へ接触していた。半年かけて粘り強く交渉した成果がようやく表れたという思いだ。しかし、それと同時にパーパルディア皇国本国の動きが遅すぎるという思いもある。これまで我が国は、在クワ・トイネ公国の皇国大使館に何度も接触していた。ムー国内においてもパーパルディア大使と数回接触していた。我が国はムー国へは国交樹立のために訪れている。クワ・トイネでは目的を明らかにして接触し、ムー国内においてもパーパルディア皇国との間で国交がないということに苦労をしているという旨の話を伝えてもいる。にもかかわらず、皇国本国はこれまで何の反応も示してこなかった。
森山外相の話に閣議の席がざわついた。そして、トールマン厚相がむすっとした声を出した。
「外相、「御見舞金御下賜式」とは一体どういうことだね。見舞金を渡すから取りに来いと?冗談じゃない、そんな話を外交部は受けたのかね。」
「それだけじゃないぞ厚相。外相、下賜というからにはパーパルディア皇族が授与の主体となるだろうが、国交を結んでいない国の相手をパーパルディア皇帝恩自らがなされるというのかね?到底信じられぬ話だ。誰が下賜の主体なのだ?事前の資料では、パーパルディア皇帝はまだ年若く、御結婚もされておらぬ。おまけに御自身が初代皇帝となられた際に皇帝の権威を挙げるために、皇兄弟は臣籍に降ろしたと聞いた。誰だ!誰が授与式の主催をされるというのかね。」
「それに、見舞金というのも気に入らん。パーパルディア皇国軍の攻撃で、我が国の国民は被害を受けたのだ。ならば損害賠償金ではないか。損害賠償金を取りに来いなどと、しかもそれを下賜するとは無礼にもほどがある。外相、我等は、いや満洲国民の多くはこのような話に納得がいきませんぞ。向こうから持ってこさせるべきだ。」
いらだった声で唐労相が発言し、不満の声を挙げたトールマン厚相への援護射撃をおこなった。高橋実相が明確に反対意見を出すと閣僚の多くが首を縦に振った。森山外相がパーパルディア皇国が見舞金を出すという話をした直後の時と、詳細を説明した後では閣僚の空気が一変した。
「于団長の話では、正式な決定ではないがという話ではありますが、おそらくは、レミリア・ブラウンシュバイク・フォン・レミール侯爵夫人が式典の主催となるだろうということを伝えてきたということを報告して起きております。レミール侯爵夫人は、来年にもパーパルディア皇帝と結婚式を行う予定となっておりますから、「未来の皇后陛下」というべきお方です。儀式の主体としては、パーパルディア皇国が用意できる最高の御方をご用意されたと、外交部では評価しております。」
森山外相の更なる説明で納得する閣僚と未だ不満をあらわにしている閣僚に分かれた。
「未来の皇后陛下と外交部大臣はおっしゃる。未来はと言うのであれば、ならば今は臣籍にあられるお方でありましょう。他国の臣下から金を下げ渡されるのを良しとするのですか、外交部は。」
不満をあらわにしている者のなかで、一番初めに不満を言い出した唐労相はなおも反対意見を言う。しかも、外交部の姿勢をあてこするような言い方でだ。流石にまずいと感じたのか、劉財相が話を打ち切ろうとした。
「まあまあ。この席は閣僚懇談会の席であって閣議ではない。まだ、物事を決める段階ではないのです。まずは、相手側からこういう話があったということを知っておくという程度でよろしいでしょう。話が本決まりするまで、時間はあるでしょう。細かい話や修正意見などは、後日また調整するということで。」
反対閣僚もこれ以上話を追求するということはなく、次の話題に移った。
「では、司法部から。斉斉哈爾高等法院長の依願退職に伴う新人事が最高法院法官会議で可決されました。・・・」
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李内閣閣僚名簿
国務総理大臣 李 陽詢
国務院官房長官 テレンス・ストーニー
民政部大臣 遠山 重治
外交部大臣 森山 直次
財政部大臣 劉 浩仙
軍政部大臣 ローベルト・コチェルキン
文教部大臣 山本 猛
司法部大臣 古田 正武
実業部大臣 高橋 康順
交通部大臣 平井出貞三
厚生部大臣 エドガー・トールマン
農務部大臣 王 康望
建設部大臣 楊 文玄
労働部大臣 唐 白央