大日本帝國召喚   作:もなもろ

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戦前の進学制度には、五修、四修という制度がありました。いわゆる飛び級の制度であり、6年卒業の小学校を5年で卒業するのが「五修」、5年卒業の中学校を4年で卒業するのが「四修」です。複線型教育制度における拙作の学生の進学について描きました。


或る家族の日常 (2)

 福岡真一は学年末試験にむけて試験勉強をしていた。真一は、四修での高等学校受験を控えている。学年末試験を万が一落とすようなことがあれば、入学資格は取消となる。緊張はしていたが、四年生のこれまでの試験結果を振り返って考えると、定期試験を落とすことはない。

 

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福岡真一 第四学年成績通知表

         一学期  二学期

修身        82   85  (83.5) 甲

国語及漢文

 国語購読     84   87  (85.5) 甲

 漢文購読     80   82  (81.1) 甲

 作文文法習字   82   75  (78.5) 乙

外国語

 英語購読     78   80  (79.5) 乙

 英語会話     76   78  (77.0) 乙

 英語文法作文   76   80  (78.0) 乙

歴史地理

 外国歴史     82   84  (82.0) 甲

 世界地理     80   78  (79.0) 乙

数学

 代数       76   75  (75.5) 乙

 幾何       75   73  (74.0) 乙

 論理       78   80  (79.0) 乙

博物        76   76  (77.0) 乙

物理及化学

 物理       72   70  (71.0) 乙

 化学       70   74  (72.0) 乙

図画        70   70  (70.0) 乙

体操        80   80  (80.0) 甲

【平均】    77.4 73.4  (75.4) 乙

 

評定

     80点以上 甲

60点から80点未満 乙

50点から60点未満 丙

40点から50点未満 丁

     40点未満 戊

 

及第

各学科平均50点以上、全学科平均60点以上

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 通知表のコピーを見ながら思う、ここから甲の数が減ることはないだろう。そして、もう少し頑張れば、乙が甲になるのがいくつかある。

 

「とはいえ、四修の条件をクリアしている以上これ以上頑張ってもなあ。」

 

 中学校の修業年限は五年である。しかし、高等学校の入学資格は中学校四年修了である。大学に進む者の半分は、四修で高校入学する時代だ。その半分に入っているのだからよいのではないか。もう少しゆっくり物を考えてもよいのではないかという気持ちが芽生えている。

 そういう考え方は甘えであり、堕落であると指摘する者もいる。他ならぬ真一の父隆史である。海軍軍人を志し、それを行動に起こした父は、自分に厳しくあることを心掛けている。それがあったから、国際大会にも出られる選手になれたのだと、よく自分たちに話をする。

 そういう考えは分からなくもない。だが、気持ちの問題と実際に行動を起こすかはまた別の問題だ。なかなか気持ちの整理がつかないとき真一はルーティンの行動をとる。重点的に勉強していた英語の教科書を閉じ、部屋を出る。向かうのは、祖父勇作の居る和室だ。

 

「祖父ちゃん、開けるよ。」

 

 部屋の外から声を掛けながら、襖を開ける。そこには、祖父勇作だけではなく、弟善吉がいた。祖父と弟は碁盤の前にいた。

 

「どうしたね、真一。」

 

 碁盤から顔を上げて勇作は真一に声を掛ける。手番は弟のようだ。

 

「いや、祖父ちゃんと一局と思ったんだけど、善吉と打ってたんだね。」

 

「ああ、善坊を借りとるよ。観戦もまた気分転換にはいいじゃろ。お前も隣に座れ。」

 

「ああ、そうさせてもらうよ。」

 

 返事をしながら、真一は勇作と善吉の間に胡坐をかく。盤面を眺めてみるに四子を置いての指導碁と見た。祖父はアマ五段の棋力を持ち、周辺の小学校・青年学校の囲碁部で時折指導をお願いされている。実力は十分だろう。お互いに気持ちよく打てているようだ。善吉が石を置いてから話しかける。

 

「兄貴。試験勉強はどうした。」

 

「気分転換だよ。お前と同じだ。」

 

 お互いに言いながら苦笑する。心持の内容は違えども、気分が乗らないのは互いが知っている。

 弟の気分が乗らないのは、不完全燃焼だ。「甲子園」を目指して、福岡の野球名門校、福岡工業学校に進学したのまではよかったが、先月の異世界転移による電力統制のため、学校のナイター設備が事実上の使用禁止となった。食料品の統制令で各界からの反発を受けた政府は、直接的な勅令という方法ではなく、文部省・県を通じた「行政指導」という形で、ナイター設備の使用自粛を「要請」してきた。現状を考えれば、事実上の禁止命令だ。

 弟は、野球の練習ができないことに不満を漏らしていた。基礎トレでもやればいいだろうにと言ったが、野球は打って守って走ってじゃないと詰まらないという。まだまだ2月は暗くなるのが早い。異世界に行ってもそれは変わらなかった。太陽の光だけを頼りにした野球の練習時間は短い。

 気持ちは分からなくもないが、現状を考えれば已むを得ないことだと言えば、兄貴は詰まらん、野球人の心を知らぬ、とのたまう。俺は野球人じゃないから知らないのも当然だ。兄貴も水泳をやっているんだから、競技人としての気持ちは分かるだろうというが、俺はそこまで真面目じゃないからなというと、真面目にやってないのに県大会や九州大会に出られるわけないだろと言われた。

 練習そのものは真面目にやっている。現に、全国大会に出場する姉の練習量とそう変わらない程度は泳いでいる。タイムだって、姉より少し劣る程度だ。3か月ほど前に一度、勝ったことがあったが、弟のくせに生意気だと、笑いながら、水に沈められ、ヘッドロックを掛けられた。

 姉に勝つことができた以上、真面目に練習はやっていると自信をもって言える。だが、気持ちの上では今一つ真面目ではないと感じている自分がいる。特に異世界転移以来そういう気持ちを強く感じている自分がいる。

 祖父の手からジャラりとした音が聞こえ、甲高い音とともに碁盤に石が置かれた。

 

「真一。悩むことは恥ではない。」

 

 祖父が腕を組みながら碁盤に視線を落としたまま、自分に声を掛ける。

 

「お前が何を悩んでいるのか、それはたとえ家族であってもわからんだろう。それにそういうことを考える年頃だ。わしにも同じような時代があった。進路選択の時期というのはそういうものよ。まあ、最もお前の場合は昔から物事を一歩引いて考えるようなところがある。それゆえにだろうな、気持ちがふわふわとしたものになっとるんじゃと思う。」

 

 祖父はまだ碁盤に目を落としたままだ。

 

「人はそれぞれに違うもの。わしもお前も善坊もみな違う。皆が自分と違うと思うと不安になる。だからこそ、自分自身の心を鍛えねばならん。人と自分は違うのだと。それを自信を持って言えるためにの。精神主義的な言い方やもしれんが、自分の中に一本のしっかりした芯を持つことそれが大事だ。」

 

 祖父は脇に置いている茶碗を持ち上げ口に運んだ。わずかに顔を上げたがこちらを見ようとはしない。

 

「人は城。人は石垣。人は堀。いろいろな解釈はあるがな、「石垣」たる役割を持つ人もいれば、「堀」の役割を持つ人もいる。「門」の役割を持つ人もいれば、「天守閣」の役割を持つ人間もおるだろう。そういういろいろな人間が集まって「城」という社会を形作っておるものだと思う。人と違うことを恥じることもない。己が己だとしっかりした心根を持てたとき、真一の悩みは解消するのだと思う。今は大いに悩みなさい。」

 

「結局祖父ちゃんは武田信玄の言葉が言いたかっただけじゃないの。」

 

 弟は空気を読まずにそういった。なんかとても深い話だったのに台無しだ。すると祖父が笑い出す。

 

「カッカッカ。そうよ、囲碁と武田信玄をこよなく愛する71歳男子。これが、福岡勇作を形作るものよ。とまあ、真一よ。こういう風に善坊から揶揄われても笑って飛ばせるようになれば、お前の悩みは解決するだろうて。さて、そろそろ晩飯の時間だな。善坊打ち掛けにするぞ。」

 

 祖父は立ち、リビングに向かう。弟と俺も続いていく。今日の夕食はすき焼きだった。

 

「お母さん。すき焼きだなんて、どうしてこんな。今野菜も肉も卵も入手困難なはずじゃ。」

 

 鍋を持ち抱えて移動する母が答えた。

 

「あんたうちの実家を忘れたとね。佐賀の実家は農家ばい。野菜と卵は実家から送ってきたとばい。」

 

「じゃあ、肉は。」

 

「ふふん。こういうとき農会職員は便利かね。卸に出す前の牛肉を手に入れることができたとさ。」

 

「えー、そがんことして大丈夫とね。違法やなかろうね。」

 

 リビングに入ってきた姉が怪訝な顔をしながら言う。

 

「人聞きの悪いこといいなんさんな。こんバカチンが。職員の福利厚生の一環たいね。いつでも買えるわけじゃなかとよ。順番があるったいね。そがんこというんやったら、彩香は食べんでよかとよ。」

 

「わー、お母さま。申し訳ありません。是非とも食べさせてくださいませ。」

 

「なら、はよ配膳手伝わんね。ほら、真一も善吉も手伝わんね。涼子はもう手伝いよるよ。」

 

 子供一同で配膳を手伝い、夕食が開始された。テレビはニュースを流している。クワ・トイネの使節団は、東日本北日本の視察に出ている。寒冷地における農業。ハウス栽培などを通して、日本の農作物を確認している。クワ・トイネの農作物と日本の農作物は見た目、味共に同じようだ。食卓からも明るい声が聞こえる。

 

「これで、食料危機も解決できそうやん。クワ・トイネからの輸入が始まれば、農作物の統制は少なくとも緩和されること間違いなしやね。」

 

「うむ。彩香の言う通りだな。少なくとも緊急勅令の改正は視野に入れてしかるべきだろう。」

 

「廃止とまではお父さんは言わないの?」

 

「善吉、まだ結果が出たわけではない。クワ・トイネの開発が進まない限り、農作物の安定供給は難しいだろう。この時点では、廃止ではなく改正だな。少し基準を緩めるところまでが政府としては限界だろう。」

 

 父のいう通りだと思った。まだ、農作物を運ぶ貨物船も十分な量がそろっているとはいいがたい。安定供給には、まだ難がある。

 ニュースは次の話題に移った。アルトゥル・コラベリシコフ満洲国農業団体連合会会頭による、我が国農業団体の請願についての批判だ。曰く、請願が日本の農業団体の毎年の恒例行事とする政府の説明には同意できない。異世界転移という未曽有の事態を迎えての請願なのだから、普段とは事を異にする。日本の農作物と満洲の農作物を比べて、満洲産のものに関税をかける、あるいは日本産に補助金を投下するということであれば、満洲産としては、値下げをするより他に手段がなくなる。満洲農民の売り上げが減るということだ。そのような事態の将来をただ、眺めて待つのは、政府としては無策である、とのことだった。

 一理あると思った。だが、自分は今国産の野菜や肉を食べている。母の話によれば、母方の実家を通して、野菜が送られてくることもあるだろう。ということは自分は他の人とは恵まれている立場になる。そのような立場の人間が、満洲農民の側に立つなど許されるのだろうか。箸を停めて考え込んでいるときに、母から呼びかけられる。

 

「彩香と真一。今度の日曜日の午後、予定を開けておいてほしいのだけどいいかしら。」

 

「あたしはトレーニングがあるだけやけん別に大丈夫やけど、真一は。」

 

「俺も、同じくかな。試験勉強は順調だし。」

 

「あー、よかったわ。実はね、今度の日曜日に農会のデモ活動があるのよ。ほら、今テレビでも言っていた、あの請願の。職場から動員掛けられちゃって、お母さんも人集めしないといけないのよ。」

 

「えー、まだ外寒いとに。絶対かったるいやつやん。」

 

「しょんなかとよ。今年はお母さん、労働組合の委員ばしよっちゃけん。そいやけん、福利厚生の順番も融通利かせてくれとーっちゃけん。あんたたちももう肉ば食べとーっちゃけん、今更なしとかは言わさんよ。」

 

「あ、あの善吉は・・・」

 

「善吉はまだ若っかけんダメたいね。マスコミも呼んどーとよ。あれくらい若いもんがおったら、サクラやとバレろーもん。」

 

 隣で姉が私もまだ若いしと、愚痴をつぶやく。逡巡していると、父が口を開く。

 

「彩香、真一。お母さんを助けてあげなさい。何も難しいことをやれと言っているんじゃない。サクラとしてそこに立っているだけでいいんだから。風邪を引かないように厚手の服を着て行ってきなさい。」

 

 家長である父の裁決が下った以上はやむをえない。了承の返事をして食事を再開する。少し冷えてしまったが、卵に絡めた肉を食べようと箸を伸ばしたが、そこにあるはずのものがなかった。

 

「あれ、俺の肉・・・」

 

「あれ、あんたまだ食べるつもりやったと。冷めてしまうのに、食べんもんやけんさ、もったいなかけんあたしが食べたばい。」

 

 犯人は姉だった。あろうことか、他人の鉢に侵略してきてまで、肉を食べた。どんだけ食べたかったんだ。

 

「彩香。あんた、弟の食べ物ば横からとっとか、そがんはしたんなかことして!女ん子として、恥ずかしゅーなかとね。」

 

「ばってん、真一が食べんとやっもん。」

 

 母と姉の口喧嘩を聞きながら、久々の肉を食べられなかった喪失感が俺を襲う。祖父ちゃん、心を鍛える前に俺の心は折れそうです。そのころ祖父はホクホク顔で、ジャガイモをほおばっていた。

 

 

――――――――

 

複線型進学制度と単線型進学制度について

 

拙作における進学制度について説明をしたいと思います。

 

単線型は現在の日本と同様に小中高大と一つの線のように連なっている進学システムです。小学校を始点にして終点が大学という形ですね。

これに対して戦前の教育システムである複線型は、複数の進学先に分かれて、それぞれが別々のゴールを目指して進学先に分かれます。小学校がスタートである点は変わりません。

大学に進むコースとしては、小学校→中学校→高等学校→大学というコースが一般的ですが、それ以外にもたとえば、私立であれば、高等学校尋常科(中学校にあたる)→高等学校高等科→大学と進むコースがあったり、大学が予科という高等学校にあたる課程を設けてあるコースもありました。

女子の場合は、小学校→高等女学校→専門学校、小学校→高等女学校→高等女学校高等科という課程が終点が大学に類似するコースでありました。また、数少なくはありますが、高等女学校卒で帝国大学に進んだ人もおりました。

実業学校とは、農業、工業、商業などについて専門的に学ぶ学校で、現在でいうところの、農業高校、工業高校、商業高校に近いものとなっております。小学校→(高等小学校→)実業学校→就職というコースが一般的ですが、実業学校卒業後その上の、専門学校というコースに進むものもありました。

この専門学校ですが、実業専門学校と(一般の)専門学校に分かれます。農業の専門学校であれば、高等農業学校と呼ばれます。教養課程の他に農業に関する専門課程を教授しました。こういった実業学校の上の課程の専門学校もあれば、中学校卒を対象とする専門学校があり、医学専門学校というものもありました。

かの有名な手塚治虫は旧制高校の受験に失敗して、大阪帝国大学付属医学専門部(医専)に入学しております。医学部ではないところがミソです。医学部だと旧制高校を卒業しないと入学できませんが、医専だと旧制中学卒で入れます。つまり、戦前の医者は大学医学部と医学専門学校の二頭立てで養成されていたわけです。

違いは何かですが、もともと帝国大学の授業はすべて外国語で行われていました。なので、これが関係していると思われます。外国語で授業を行う大学と日本語で授業を行う医専です。(もっとも、のちには大学の授業も日本語で行われております・・・)

このほかにも、社会人を中心にした青年訓練所やその後進の青年学校、小学校教師や中学校教師を要請する、師範学校、高等師範学校などがありました。

それぞれが、別のゴールを目指して教育を行っていたために、複線型と呼ばれるわけです。

 

 

拙作における教育制度は、この複線型の教育機関の発展形を考えております。中等学校と呼ばれる段階の教育課程においては、男子が高校大学へと通うルートとなる中学校、女子が高等女学校高等科(男子における高等学校に該当する)大学へと通うルートとなる高等女学校、農業工業商業学校など卒業後は就職もしくは専門学校へと通うルートとなる実業学校、それ以外の男女が通う青年学校と別れております。

一風変わった学校制度の味をどうぞお楽しみください。 




日常シリーズ第二弾となります。

本作は、「日本国召喚」の二次創作ですが、いまいち趣が違うと皆さん思われておると思います。しかし、拙作世界線を政府や軍の上層部以外からみた視点というのをどうしても描きたいと思いましたので、創作しております。ちょこちょここういうのを挟んでやっていきたいと思っておりますので、宜しくお願いします。
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