大日本帝國東京都三宅坂 参謀本部会議室
「一號計画を基準に考えればよいというわけではあるまい。」
「そこは理解している。それでは、動員兵力が大きくなりすぎる。だが、検討の際のたたき台は必要だろう。」
豆國在勤帝國公使館附陸軍武官よりもたらされた情報により参謀本部は作戦の事前調整に動いていた。コの字型に設置されたテーブルに二人の陸軍大佐が向かい合って座っている。
「それでも無理だ。この世界は中世のような国々が多い。これでは兵站の確保は容易ではない。一號計画のみならず参謀本部の作戦計画は、少なくとも我が国の道路の整備状況を大体の基準として計画されている。これを土台とすると兵站は破綻する。」
一號作戦計画を土台、あるいはたたき台とした作戦計画を立てようとしているのは、参謀本部第一部作戦課長の石毛正弘陸軍大佐。それに対して、一號作戦計画から離れて考えるべきと主張するのは、参謀本部第一部編制動員課長の小田新之助陸軍大佐。
帝國陸軍が平時から計画立案している作戦計画は、大別して攻勢作戦と守勢作戦がある。
第一號作戦計画。対ロシア帝国。ウラジオストクとラザレフが主攻となり、ニコラエフスクとナホトカが助攻となる。ウラジオストクからロシア東方の根拠地たるハバロフスクを占領することが作戦目的となる。作戦計画が発動されると近衛師団及び北部軍五個師団中四個師団、中部軍七個師団中五個師団、朝鮮軍七個師団中四個師団に動員令がまず下される。これらの部隊平時編制から戦時編制に移行し、出征した段階でそれ以外の軍に対して動員令が下される。なお、軍事同盟を結んでいる満洲国は北満地方で防衛行動を採り、東満地方では攻勢を取る。綏芬河からウスリースクを目指して後方を遮断するか、綏遠からハバロフスクを直接狙うかは状況に依る。
第二號作戦計画。対中華民国。天津、青島、上海が主攻となり、福州、香港が助攻となる。作戦計画の前提としては、中華民国の満洲国侵攻に対する反撃となる。満洲国熱河省において満華両軍が激突しているため、天津、青島の戦線は後方遮断を意図しており、上海への上陸は中華民国首都南京の制圧を意図し、福州は南方からの増援に対する牽制である。香港は同地の防衛目的もある他シーレーンの切断を意図している。初回の動員令は、近衛師団、台湾軍二個師団全て、西部軍六個師団一個旅団全て、朝鮮軍七個師団中五個師団となっている。
第三號作戦計画。対アメリカ合衆国。この作戦計画はハワイ王国の動向が重要となる。ハワイ王国は西太平洋戦争の講和条約の結果、独立が維持された。ハワイ王国が中立を維持すれば、主攻はアラスカ方面に限定される。ただし、ハワイがアメリカ軍によって占領あるいは、アメリカと共に敵対するときはハワイ王国を占領後、サンフランシスコ、ロサンゼルスの攻略が主攻となり、北部アラスカ方面が助攻となる。また、この作戦計画はサンディエゴを母港とする米太平洋艦隊の動向に左右される。このため三號作戦の全体の統括は、帝國海軍が主たる担当となる。
第四號作戦計画。欧州派兵計画。日英同盟を基礎としたイギリスとの共同作戦のための作戦である。所属部隊の少ない台湾軍以外の各軍から1乃至2個師団を抽出して、方面軍又は軍を編成する。この手の作戦計画には、中東方面派兵の第五號作戦計画とアフリカ方面派兵の第六號作戦計画がある。中南米方面は、モンロー主義を掲げるアメリカ合衆国からの不快感を避けるために派兵計画は独立して策定されておらず、第三號作戦計画の助攻の一部として中米への派兵について計画されているに過ぎない。
第七號作戦計画。対フィリピン共和国。台湾の南部に位置しており、この地を敵対勢力に制圧されるとシーレーンが脅かされる。フィリピン共和国政府の動向によって作戦方針は変化する。即ち、フィリピン側が味方であれば救援及び共同防衛が主任務となり、敵対となれば、フィリピン軍自体も相手する形となる。近衛師団と西部軍3個師団の4個師団を中核とした部隊派遣が計画されている。
第八號作戦計画。大東亜共栄圏共同防衛及び災害派兵を任務とする。作戦地域は英印帝国からニュージーランドまで幅広く、東南アジア側は中部軍、西部軍と朝鮮軍が、大洋州側は中部軍と東部軍が主に派兵の計画に入っている。現地政府からの救援を待って発令される作戦であり、現地政府及び対象周辺国との協議により派兵規模が変化する。このため野戦部隊の動員計画と言うよりは兵站部隊の動員に主眼が置かれている。
帝國陸軍のドクトリンとして、日本本土内で戦闘を行うという本土決戦思想は採用されていないとするのが建前である。このため、日本各地で行う戦闘については統合総軍及び各軍単位で計画される各部隊動員計画令や粘土各部隊動員計画令で作戦担当部隊を策定して、それを参謀本部が承認しているという体制を取っている。この動員計画は災害派遣の担任部隊を設定するという意味でも使用される。
「小田さん。しかし、そうは言っても、計画をゼロから作るという訳にもいかぬでしょう。その、なんです、魔王ですか。相手の戦力についてもよくわかっていないのですよ。今あるものを使用して動かす以外に他に手はないのではありませんか。」
「一號作戦は最低でも14個師団を動かすことを前提に作られている作戦計画ですぞ。オークやゴブリンといったいわば雑魚モンスターが主兵力となっている軍勢を相手にそこまで動かす必要があるというのですか。」
小田課長は隣に座る部下を見た。その部下は一つ頷いて話し出す。
「駐在武官からの報告に依りますと、オークやゴブリンと言った敵は、現地人でも討伐できるというのが確かな情報です。数が多いので、そこは注意が必要ですが、いわゆる冒険者と呼ばれている数人の個人事業主の集合体での討伐報告はこれまで多数挙がっていると伺っています。従って、今回の事例は大規模なイノシシやクマの駆除と作戦の難易度としてはさほど変わるものではないと編制掛では考えております。」
「熊駆除だと!!馬鹿な!!何を言うか。敵の軍勢はつかみで2万とも言われているのだぞ。」
「それに、作戦内容は作戦課が判断するものです。いくら同じ第一部に属すると言っても編制動員課が作戦内容に口出しするとは越権行為も甚だしい。」
小田編制動員課長に促されて作戦について編成課の課員が発言すると、石毛作戦課長が敵の兵力を軽んじていると反発し、石毛の部下が自分達の職掌に手を出してきたとして反発する。
「人間を食べる。ならばそれは獣と同然ではありませんか。その程度の知能しか持たぬゴブリンだのなんだのは駆除と表現するより他にありませぬ。ならば、本来軍を動員するというまでもない話ではないかと私は考えている。」
「何をおっしゃる。」
「石毛大佐。まあ、お聞きください。私は今回のことは、北部軍の獨立混成第四聯隊を派兵することでまずは様子を見るべきと考えております。獨立混成聯隊は、各軍で編制に違いがありますが、北部軍のそれは規模が大きい。それにこの部隊は即応部隊であり、警急編成にも対応できる。輜重もしっかりしている。少なくともゴブリンのようなモブ如きに後れは取らぬでしょう。」
小田課長はそう言いながら、最小限度の派兵規模で様子を見るべきと主張する。北部軍の独立混成聯隊は、北海道札幌市に連隊本部を置き、歩兵二個大隊、騎兵、砲兵、工兵、輜重兵の各一個大隊を有する。
「独立混成聯隊を動かすのはよいとしても、そのあとはどうするつもりです。ゴブリン共は、あるいはそれでもよいという可能性はあるでしょうが、いかんせん数が多い。小田さんは数の暴力と言うのを軽んじておられるのではありますまいか?」
「別に我が軍だけで駆除する必要はないでしょう。空軍の爆撃機で空から爆撃すればよろしいのではありませんか。」
「いや、既に国境の要塞は突破されたとのこと。敵兵がむかうのはトルメスと言う城塞都市です。都市周辺での爆撃ですが、流れ弾の心配がある。今の情勢では空軍は動かんでしょう。」
「ふむ・・・。」
小田課長は会話を止めて考え込む仕草を見せる。そこに参謀本部第一部長が入ってきた。介入するか否かは別として、大蔵省へ臨時予算の編成について打診に行っていた。コの字型の座席の真ん中に座り、彼は口を開いた。
「大蔵省の唐沢主計官に出兵についての感触について尋ねてきたが、あれは駄目だな。」
「駄目と申しますと?」
「うむ・・・。ゴブリン相手に出兵など馬鹿げている。追加予算ではなく、予備費で対応すべきではないかということだ。」
部屋の空気が重くなる。石毛大佐はもとより、小田大佐も苦い顔をする。
「予備費で対応ですか・・・。いくつかの予算の執行を停止して、独立混成聯隊についてもそのまま派兵と言うわけにはいかんでしょうな。まずは、部隊から抽出した先遣隊を派遣して、戦力の分析。その後の報告の如何で、増援を送り込むとするしかないですな。」
「しかし、魔王について我々はどれほどのものかわからんのですぞ。」
「それについてもだ。伝承の通りならば、1万年前のこの世界の人間で封印できたのだから、貴方方現代兵器を有する陸軍部隊なら鎧袖一触でしょうとのことだ。全く、情報がなにもないというのに簡単に言ってくれるものだよ。」
先の戦争、例のギム西方防衛陣地での機関砲弾を防いだ魔獣の外皮強度については軍機扱いとなっている。原因がはっきりしない以上、下手に公開でもすれば、リントヴルムを有するパーパルディア皇国の強さが周辺国に再認識されてしまう。それでは、今はおとなしくしているロウリアの動向に変化が生じかねない。軍事参議院会議でこの情報が軍機とされるに至ったが、ここにきて足を引っ張ることになろうとは。当時、軍機扱いにすることを主張した石毛大佐は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
―――――
獨立混成第四聯隊
聯隊長(陸軍少将又は陸軍大佐)
聯隊本部(北海道札幌市)
幕僚(参謀、副官)
主任参謀
作戦参謀
戦務参謀
情報参謀
副官
兵器部
経理部
軍医部
法務部
連隊本部中隊
斥候小隊
施設小隊
通信小隊
衛生小隊
行李小隊
[戦時編制]
聯隊大行李(行李長:陸軍曹長)
通信班
行李班
経理班
歩兵二個大隊(平時:六個中隊・二個歩兵砲中隊/戦時:八個中隊・二個歩兵砲中隊)
第一大隊(北海道札幌市)
第二大隊(樺太道豊原市)
大隊長(陸軍中少佐)
大隊本部
副官
附
書記
通信班
経理班
医務班
[戦時編制]
大隊小行李(行李長:陸軍軍曹)
中隊
第一大隊:第一中隊乃至第三中隊[戦時編制]第四中隊・第一歩兵砲中隊
第二大隊:第五中隊乃至第七中隊[戦時編制]第八中隊・第二歩兵砲中隊
中隊長(陸軍大尉)
中隊本部
副官
書記
小隊(三個小隊・一個重火器小隊)
[戦時編制]
中隊小行李(行李長:陸軍伍長)
小隊(兵器定数:歩兵銃十六丁(予二)・機関銃三丁(予一)・無反動砲三丁(予一))
小隊長(陸軍中少尉)
小隊本部
小隊長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
小隊本部附(陸軍軍曹・伍長)
三個分隊(分隊長:陸軍軍曹)
(分隊人員配当:陸軍軍曹一名、伍長又は兵六名)
[戦時編制]
小隊本部に兵二名追加
各分隊に兵一名追加
重火器小隊(兵器定数:迫撃砲六門)
小隊長(陸軍中少尉)
小隊本部
小隊長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
小隊本部附(陸軍軍曹・伍長)
三個分隊(分隊長:陸軍軍曹)
(分隊人員配当:陸軍軍曹一名、伍長又は兵七名)
[戦時編制]
小隊本部に兵二名追加
各分隊に兵一名追加
歩兵砲中隊
中隊長(陸軍大尉)
中隊本部
副官
書記
三個迫撃砲小隊・一個観測小隊・一個弾薬小隊
[戦時編制]
中隊小行李
迫撃砲小隊(兵器定数:重迫撃砲三門)
小隊長(陸軍中少尉)
小隊本部
小隊長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
小隊本部附(陸軍軍曹・伍長)
射撃指揮班(班長:陸軍曹長又は陸軍軍曹、伍長、兵長)
三個分隊(分隊長:陸軍軍曹)
(分隊人員配当:陸軍軍曹一名、伍長又は兵八名)
[戦時編制]
小隊本部に兵二名追加
各分隊に兵一名追加
観測小隊
小隊長(陸軍中少尉)
小隊本部
小隊長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
小隊本部附(陸軍軍曹・伍長)
観測指揮班(班長:陸軍曹長又は陸軍軍曹、伍長、兵長)
三個分隊(分隊長:陸軍曹長又は陸軍軍曹一名)
(分隊人員配当:陸軍曹長又は陸軍軍曹一名、伍長又は兵七名)
[戦時編制]
小隊本部に兵二名追加
各分隊に兵一名追加
弾薬小隊
小隊長(陸軍中少尉)
小隊本部
小隊長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
小隊本部附(陸軍軍曹・伍長・兵長)
三個分隊(分隊長:陸軍軍曹)
(分隊人員配当:陸軍軍曹一名、伍長又は兵九名)
[戦時編制]
小隊本部に兵二名追加
各分隊に兵二名追加
騎兵一個大隊(平時:二個中隊・一個整備廠一個整備支廠/戦時:二個中隊・一個大隊段列)
大隊長(陸軍中少佐)
騎兵大隊本部(北海道旭川市)
副官
附
書記
通信班
経理班
医務班
[戦時編制]
大隊小行李(行李長:陸軍軍曹)
中隊
第一中隊本部(北海道旭川市)
第二中隊本部(樺太道敷香市)
中隊長(陸軍大尉)
中隊本部
副官
書記
小隊
(平時:二個小隊)
(戦時:三個小隊(一個小隊を騎兵第七聯隊及び騎兵第三十六聯隊より編入))
[戦時編制]
中隊小行李(行李長:陸軍伍長)
小隊(兵器定数:戦車五両)
小隊長(陸軍中少尉)
小隊本部
小隊長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
小隊本部附(陸軍軍曹・伍長)
二個分隊(分隊長:陸軍曹長)
(分隊人員配当:陸軍曹長一名、陸軍軍曹一名、伍長又は兵六名)
[戦時編制]
小隊本部に軍曹一名、伍長又は兵五名追加
整備廠及び整備支廠
整備廠長及び整備支廠長は、各々騎兵第七聯隊及び騎兵第三十六聯隊の陸軍技術尉官が兼任す。車両整備もそれぞれの騎兵聯隊の整備廠をして担当せしむ。
[戦時編制]
大隊段列
段列長(陸軍大尉)
段列本部
段列長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
段列本部附(陸軍軍曹・伍長)
二個整備分隊(分隊長:陸軍技術曹長)
二個補給分隊(分隊長:陸軍曹長又は陸軍軍曹)
砲兵一個大隊
(平時:一個野砲兵中隊・一個観測中隊)
(戦時:二個野砲兵中隊・二個観測中隊・一個高射砲中隊・一個大隊段列)
大隊長(陸軍中少佐)
砲兵大隊本部(北海道函館市)
副官
附
書記
通信班
経理班
医務班
[戦時編制]
大隊小行李(行李長:陸軍軍曹)
野兵砲中隊(兵器定数:自走榴弾砲五両)
中隊長(陸軍大尉)
中隊本部
副官
書記
射撃指揮班
弾薬班
[戦時編制]
中隊小行李
中隊本部に兵五名追加
北部軍砲兵聯隊より一個中隊を編入
観測中隊
中隊長(陸軍大尉)
中隊本部
副官
書記
観測指揮班
[戦時編制]
中隊本部に兵六名追加
北部軍砲兵聯隊より一個中隊を編入
[戦時編制]
北部軍砲兵聯隊より一個高射砲中隊を編入
[戦時編制]
大隊段列
段列長(陸軍大尉)
段列本部
段列長補佐(陸軍准尉又は陸軍曹長)
段列本部附(陸軍軍曹・伍長)
二個整備分隊(分隊長:陸軍技術曹長)
二個補給分隊(分隊長:陸軍曹長又は陸軍軍曹)
工兵一個大隊
大隊長(陸軍中少佐)
工兵大隊本部(樺太道間宮郡鉾部町)
副官
附
書記
通信班
資材班
経理班
医務班
[戦時編制]
大隊小行李(行李長:陸軍軍曹)
施設中隊
交通中隊
架橋中隊
整備廠
[戦時編制]
野戦道路構築隊
架橋材料中隊
渡河材料中隊
野戦整備廠
輜重兵一個大隊
大隊長(陸軍中少佐)
輜重兵大隊本部(北海道札幌市)
副官
附
書記
通信班
輸送班
経理班
医務班
小隊
(平時:二個小隊(一個歩兵弾薬小隊及一個糧秣小隊))
(戦時:六個小隊(四個小隊を北部軍輜重兵聯隊より編入))
整備廠
補給廠
[戦時編制]
野戦騎兵廠
野戦砲兵廠
野戦工兵廠
野戦輜重兵廠
野戦衣糧廠
物資集積基地諸廠
兵站輜重兵隊本部(北海道札幌市に設置)
兵站通信中隊
聯隊長直率
通信中隊
[戦時編制]
衛生中隊(札幌陸軍病院)
野戦予備病院(札幌陸軍病院)
患者輸送部(札幌陸軍病院)