桃號作戦
作戦指導大綱
第一 方針
一
現在トーパ王国北東部を占領しある敵部隊の進攻に対し反抗戦を指導し、其の企図を破砕す
戦闘方面をトーパ王国内北東部とし、第一に敵部隊を当該地域に留めしめ、第二に之の後方を遮断し、第三に之を撃滅せむとす
作戦は即時に開始し、概ね十二月中に所期の予定の完遂を期す
第二 要領
二 第一
(イ)敵を捕捉し極力敵戦力を漸減しその進攻を防止するに努む
(ロ)手段を尽くして敵情偵知に努む
(ハ)本作戦においては陸軍平時人員を以て遂行す
(ニ)第一作戦は裁可後直に作戦準備を発令し翌日には発動す
三 第二
(イ)トーパ北東部の前線に部隊を増援し、前線を押し上げ王国旧領を奪還す
(ロ)本作戦においては陸軍平時人員を以て遂行す又海軍部隊とも協力す
(ハ)北部軍緊要地に兵站司令部を設置し適宜兵站地を開設す
(ニ)作戦は第一作戦発動後作戦準備発令し爾後順次警戒態勢に移行す作戦の発動は参謀本部之を決定す
四 第三
(イ)トーパ王国より北東に位置する大陸に上陸し敵部隊後方を遮断し彼の増援を排除す前線部隊と連携し敵野戦軍と決戦之を殲滅す
(ロ)本作戦においては大本営を編成し作戦使用兵力に対して動員下命す
(ハ)北部軍管区司令部に兵站監部を設置しトーパ王国内に兵站司令部を開設す
(ニ)作戦準備及発動は参謀本部之を決定す
五 第一段階使用兵力
北部軍独立混成第四聯隊より兵力を抽出し独立混成中隊を警急編成す
六 第二段階使用兵力
北部軍独立混成第四聯隊の残余兵力を使用す
七 第三段階使用兵力
北部軍より一個師団を使用す
八 兵站
(イ)兵站組織開設の為予備役を召集す
(ロ)第一段階の時点においてトーパ王国内に少なくとも一箇所兵站地を開設す
(ハ)第二段階に移行するにあたりては先ず兵站司令部を編成す
(ニ)第三段階に移行するにあたりては大本営の編成に先立ち兵站総監部を編成す又北部軍管区司令部に兵站監部を編成す
本作戦を桃號作戦と呼称し第一以下の作戦段階を桃一號作戦等と区分す
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桃一號作戦使用兵力表
独立混成第四聯隊
歩兵第二大隊第一中隊
騎兵大隊第一中隊第一小隊
工兵大隊第一中隊
輜重兵大隊第一中隊
通信中隊
衛生部隊
兵站部隊
兵站輜重兵隊本部
北海道札幌市
※兵站輜重兵隊本部は北部軍補給廠より人員を抽出し、予備役を編入の上編成す。
兵站輜重兵隊
北海道札幌市
樺太道豊原市
トーパ王国アールバラ市
※兵站輜重兵隊は北部軍各師団輜重兵部隊より人員を抽出し、臨時編成す。
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大日本帝國樺太道豊原市大澤駐屯地 2675(平成27・2015)年12月12日(土)
― 大日本帝國陸軍中尉百田太郎
「天皇陛下の命により」
駐屯地の講堂内で一糸乱れぬ動きをして直立不動するのは、私の指揮する小隊隊員達と今回臨時編成された部隊員。その部隊員たちが私の顔に注目している。
騎兵大隊や工兵大隊から抽出された人員が組み込まれた増強小隊とでもいうべき部隊の指揮官に任ぜられたのは私で、今ここで命課布達式が行われている。札幌から羽沢聯隊長がいらして直々に行われるというのだから尋常ではない。通常であれば、この歩兵第二大隊内の命課布達式は大隊長が行うことになっているのだから。
「陸軍中尉百田太郎、今般トーパ王国派遣先遣隊長に補せらる。」
事前に説明を受けた所に依ると本来の先遣隊は私の第一小隊を含めた歩兵第二大隊第一中隊の規模の歩兵部隊に戦車小隊と工兵中隊や輜重兵中隊を加えた規模を予定していたようだ。しかし、先ごろ行われた軍事参議院会議で政府側、なかでも蔵相が偵察や敵情調査を主眼とするのであれば、もっと少ない兵力で充分であろうと主張し、その意見が通ったため、先遣隊の更に先遣隊を派遣するということで話がまとまったようだ。
「因て同官に服従し」
それによって、私の率いる先遣隊は規模が縮小され、第一中隊長が率いる予定であった先遣隊は私が率いることとなり、基幹兵力は私の歩兵第一小隊、重火器小隊一分隊と騎兵大隊第二中隊第一小隊の一分隊ということになった。工兵と輜重兵は独立中隊として別途派遣されることとなった。
「各々軍紀を守り」
身軽に動けるというのは、大きな利点だろう。戦車は分隊規模なので2両が派遣される。この戦車が最大火力となるが、敵と想定されているのは。害獣と呼称されているオークやゴブリンといった動物だ。特にゴブリンは人間の子供の大きさのものが多数ということである。そう考えると、過剰戦力と言える。
「職務に勉励し」
だが、油断はできない。何しろ数が多いというのだから。今回は、敵の情勢調査、威力偵察が主眼となっている。本隊の集結まで、城塞都市を陣地にして防衛戦を展開すればよいということになっている。
気がかりは兵力の少なさだ。基幹兵力は一個小隊25名。重火器分隊8名。戦車2両。増強小隊の扱いということなので、戦時編制に準じて下士官兵10名が追加で配備され、戦車輸送車2両の人員が6名追加される。また戦車やその他戦闘車両の整備で10名程度が配備されるが、これは戦闘要員には原則として含まれない。50名程度の人員だ。兵力としては心もとない。
だが、オークやゴブリンといった害獣は、現地の騎士団でも対処は可能ということだ。我等が相手するのは、指揮官級と言われている巨大な大きさの害獣ということになっている。この大きさの害獣は数が少ないようなので、やり様はある。
「其の命令を遵奉すべーし」
「直れ」
聯隊副官の号令で一同が再度正面の軍旗に注目する。
「捧げー銃」
将校と分隊長級の下士官は刀礼を行い、その他の下士官兵は歩兵銃を使用しての捧銃を実施した。この瞬間はもっとも緊張すると言ってもいいだろう。喇叭手により皇御国が吹奏され、私も静止する。
命課布達式が終われば、分列式が取りおこなわれるのが通常であるが、今回はといえば、時季と時期の観点から省略だ。時季とは、冬季の樺太であるということ。分列式を行う広場は雪が積もっており、分列式を行うには適さない。そして、時期というのは、直ちに派遣の準備を完遂する必要があるからである。
式終了後、直ちに私は歩兵第二大隊長室に向かい、そこで、連隊長、大隊長、中隊長と作戦内容について再度の確認を行った。その席で連隊長は、陸軍中央では師団規模の派兵を考えていたようだが、大げさすぎる。原則としては、現地での状況を確認後、直ちに増援派遣を願い出るようにと言う参謀本部の作戦指導はあるが、当然、状況次第ではそのまま反撃に移ってかまわないということだ。反撃に移れるだけの余裕があるのかは分からないが、弾薬類の輸送は潤沢に行うということで、弾切れの心配はするなと言うことであった。大隊長は大隊長で、もちろん派兵準備はするが、するだけで済むように頼むということであった。ふむ。中央と我々の間で認識に相違があるな。まあ、いろいろと考えるのは現地に到着してからだな。