満洲帝國奉天省大連市 大連ヤマトホテル 2675(興信27・2015)年12月19日(土)午前9時
― ターラ王第一王女附筆頭侍従武官 リルセイド・ド・ザーム
「日本軍、トルメス到着ですか・・・。」
2日前の17日にトーパ救援の日本軍先遣隊300名がトーパ王国のアールバラ市に上陸した。部隊は戦車2両を有する部隊であり、そこから魔王軍との戦いの最前線のトルメスに向けて進軍した。トーパ国内の道路事情は、日本軍の迅速な展開の為を資するものではないと言われていたが、アールバラからベルンゲン迄の道のりは予想以上に良かったそうだ。
報道によれば、初めに日本や満洲に話が行ってから10日程度で日本軍は出発したとのことだ。日本政府が派兵を正式に決定したのは、今月14日ということだから3日で上陸したことになる。極めて迅速な対応と言うべきだろう。
今、テレビでは、報道番組内で日本軍のトルメス到着の状況が報じられている。ここ満洲の新分やテレビの記者だけではなく、日本の記者たちも現地入りをしている。トルメスの一角に日満両国の報道陣を集めた区画が作られ、そこは日本軍の陣地に隣接している。日本軍の部隊長は、まだ年若い百田陸軍中尉という人物であった。
陸軍中尉というのは、日本軍や満洲軍の軍人の階級を指す。軍人になる為の学校を卒業すると陸軍少尉に任官する。大体20歳ぐらいだという。そこから2年無事に勤め上げると同期の少尉全体の3分の1の人間が中尉に進級するそうだ。そこから1年後には残りが中尉に進級する。早い者は更に4、5年で大尉に進級するという。つまり、彼は30歳弱の人間ということになる。
若い。他国へ派遣される先陣の指揮官としてはとてつもなく若いというべきだ。このような若い人物を日本軍が送ってきたことを考えると、日本はトーパへの援軍について、対魔王戦についてやる気がないようにも思えるが、日本軍というものは我々が考えるよりも強力な装備を持っている。我々の常識だけで考えるべきではないだろう。
『作戦開始はいつごろになりますでしょうか?』
『作戦発動の時期については統帥の秘密にも関わりますので、記者の方々に軽々しく話すことができるわけではありませんが、我々は、ここトーパの人々の危機を救うために来たのですから、可及的速やかに行動を開始するべきであるとは思います。』
『在地のトルメスの騎士団との間で共同作戦を行うことになると思うのですが、意思疎通は取れておるのでしょうか。』
『ご承知のように我々は只今到着したばかりです。共同作戦を取るようなレベルに双方を高めるのには時間がかかります。ここトルメスの状況を鑑みますと、訓練に時間を取るわけにはいかないでしょう。相互に緊密に連絡をとることに留めてそれぞれで動くべきだと思います。』
うーむ。しっかりとした返答ではないか。30歳前の若輩の言動とは思えない。
「トーパは日本軍の救援を招くことに成功したのですね。我々はどうして日本軍に救援を求めなかったでしょうか・・・。」
ルミエス殿下が沈んだ声でつぶやいた。御いたわしいことだ。
確かに我々は、あのとき、日本軍や満洲軍に救援を求めなかった。あの時には我々はすでに日満両国軍の装備などについて情報を得ていた。それを潰したのは、ユグモンテ外務卿であった。勿論ユグモンテ外務卿も日満両国軍については情報を得ていたはずだ。パーパルディア皇国の軍隊と日満両国軍が戦闘になったとすれば一方的な戦闘になるだろう。だが、それがわかっていながら、我が国の外交当局は日満両国と手を結ぶことはなかった。
「それは無理な話ですよ・・・。」
マニャール公使が言うには、日本側にはパーパルディアと戦う意思はなかっただろうという。大垣公使の態度がそれを示している。日本本国がアルタラスとパーパルディアとの間に介入するのであれば、早期に大垣公使に訓令を発していることだろう。元々ムー国が置いていた空港があるなどの重要な地域であったし、アルタラス海峡は対ムー貿易のための海路として重要視されるはずであった。それをパーパルディアにゆだねたと言ってもいい状況になっているのは、日本や満洲にとって、アルタラスがパーパルディアに屈したとしても対して問題ではないことを示している。
「裏で話がついているとみてもいいでしょうね。日本側だけでなく、我が国もアルタラス問題は大ごとにしたくないのだと思います。現に、外交部は、ルミエス殿下と在満アルタラス公使との接触を当分控えてほしいと言ってきてから、もう5日です。」
満洲海軍の潜水艦から駆逐艦に乗り移り、クワ・トイネのマイハークに上陸した我々は、日満共用空港から飛行機に乗り、満洲国大連市に到着した。満洲国外交部の役人から、このヤマトホテルの貴賓室に案内され、ここで当分お待ちいただきたいとの連絡を受けた。部屋の調度は確かに上級である雰囲気を醸し出している。王族の格を考えると、その点では不当な扱いはされていないが、実質的な軟禁状態と言える。
だが、側仕えの者達と合流出来ないのがつらい。殿下のお世話を私一人で担当しているが、アルタラスの伝統的な衣装をお着せすることができない。最も外に出るのには外気温が寒くて向かないのだが。
『最後に、今回の作戦に向けての意気込みをお聞かせください。』
『皇軍の向かうところ敵はありません。先陣を担う我々300名は一致団結し、必ずや敵を撃滅します。』
テレビからは、カメラのフラッシュとともに力強い言葉を発する、百田隊長の姿があった。