大日本帝國召喚   作:もなもろ

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パーパルディア皇国の運命を左右する会議。当事者たちは誰もまだそのことを知りません。


休日ニ關スル件(平元勅5) / パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局 中央暦1639年12月25日(金)

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休日ニ關スル件

朕昭和二年勅令第二十五號休日ニ關スル件改正ノ件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

勅令第五號

 左ノ祭日及祝日ヲ休日トス

  元始祭   一月三日

  新年宴會  一月五日

  昭和天皇祭 一月七日

  紀元節   二月十一日

  上巳節   三月三日

  神武天皇祭 四月三日

  昭和節   四月二十九日

  端午節   五月五日

  七夕節   七月七日

  重陽節   九月九日

  神嘗祭   十月十七日

  明治節   十一月三日

  新嘗祭   十一月二十三日

  天長節   十二月二十三日

  大正記念日 十二月二十五日

  春季皇霊祭 春分日

  秋季皇霊祭 秋分日

   附則

 本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス

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パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局 中央暦1639年12月25日(金)

 

 第三文明圏とその周辺地域において、パーパルディア皇国の地位は絶対的なものであった。中央世界においては、第三文明圏の圏域のほとんどをパーパルディア皇国が占め、そのほかに文明圏国家としてみなされているのは、パンドーラ大魔法公国、リーム王国、マール王国の三カ国であり、文明圏全体としては4カ国しか存在していないとされている。アルタラスやクワ・トイネ、クイラといった国々は文明圏外国家として文明国としては扱われていない。このため、中央世界においては、第三文明圏は実質パーパルディア皇国のみが存在しており、複数の文明国家群からなる領域としての第三文明圏という枠組みを否定する者もいる。

 もちろん、このような声は少数ではあったが、提唱している者のなかにはミリシアルの外交部局の高官がふくまれていたことから、パーパルディア皇国内部では無視できない声ではあった。故に、パーパルディア皇国は旧式ではあるものの魔道具を文明圏外国家に渡すことで、徐々にではあるが文明圏外国家を文明国化し、第三文明圏圏域に組み込むことで第三文明圏全体を拡張し、中央世界に対峙しようと試みていた。

 その動きは今年初めに出現した国家によって絶大的なパーパルディア皇国の地域列強としての地位が脅かされることによって破綻しつつあった。日満両国の接触を受けたクワ・トイネとクイラは早々に発展しつつあり、一部の地域ではパーパルディア皇国はおろか中央世界とも遜色ない街並みをそろえつつあった。パーパルディア皇国は曲がりなりにも官僚組織を有しており、組織の末端職員からの情報は組織の上層部に上がることにはなってはいる。だが、このような情報を中央に上げる職員は少なかった。文明圏外国家に派遣される職員はやる気がない職員が多く、また社会制度上の身分も低く、情報を簡単に得られる地域にいながら直接情報に接しないか、接したとしてもそれを上層部に認めさせるだけの報告をあげる権限を持たない者のいずれかであった。このような状況であったため、政府上層部は、文明圏外諸国家がパーパルディア皇国との従属関係を見直そうと動き出していることを知るのが遅く、上層部がこの動きを察知したのは文明圏外各国が貿易協定―パーパルディア皇国と文明圏外諸国家は魔道具と奴隷とをそれぞれ主な商品としていた―見直しの申し出を受けたときであった。

 時期が降るにつれ、皇国第三外務局長であったクラウス・カルステン・フォン・カイオス子爵は、一つの考えに行きついた。第三文明圏を拡充し、大日本帝國と満洲帝國を第三文明圏の二大巨頭に位置づけ、パーパルディア皇国は三番手に落ち着く。第三文明圏の盟主と言う立場から自ら後退する形となる。日満両国は科学文明ではあるが、魔法の研究も始めていると聞く。そして、その研究結果は一部ではあるが一般にも公開されている。魔導文明という観点では、第三文明圏とその周辺地域においてパーパルディア皇国が一歩長じているのは疑いのない事実だ。このアドバンテージを保持したまま、日満両国の忠実な同盟者として振る舞う。日満両国は列強国として迎えられることが確定している。ならば、我々は列強国の先達として彼らの道案内をするという立場を以て列強国に居座り、その地位を保全する。ゆくゆくは列強国としての相応しい国力を持つように発展するだろう。

 これに対して、パーパルディア皇后に内定している外務監察官レミリア・ブラウンシュバイク・フォン・レミール侯爵夫人をはじめとした皇国上層部の人間の考えはパーパルディア皇国が列強国としての地位を保持し続けることを前提としていた。日満両国にロデニウス大陸の各国、そしてマオ、トーパと言ったフィルアデス大陸北東部の各国を第四文明圏として扱うことで、別の文明圏として盟主の地位を保持させて、自らは第三文明圏の盟主として対峙する。対峙すると言ってもかれらは日満両国と敵対関係になることはできないと理解している。多少の緊張関係をはらむとは雖も全体的には友好的に対峙し、科学文明の視点から魔法を解析した結果を取り入れて、魔導文明を向上させる。アルタラス、シオス、フェンといった日満両国の文明圏との境界線上にある国家群を第三文明圏に組み込み、これらを発展させることで、第三文明圏全体の国力を更に高める。神聖ミリシアル帝国とて科学文明に後れを取ることは望まないはずであるから、パーパルディア皇国の国力が高まることに反対はしないはずである。科学文明国である日満とムーとの接近を警戒する立場から上下アルタラス水道を抑えることで、ミリシアルに対して我々は味方だというメッセージを与える。

 カイオスとレミールの立場は異なってはいた。カイオスは自身の考えを他人に話したことはない。この思想が皇国にとって自ら敗北を認めるに等しいということを理解し、急進的な考えは受け入れられないと思っていたからだ。レミールはカイオスの考えに気づきつつはあったが、それでも彼らは協力する以外途はなかった。パーパルディア皇国の官僚は日満両国の真の姿を知らず、彼らを文明圏外の未開国家と認識している者が多数を占めていたからである。考え方に相違があるとしてもレミールはカイオスを信頼していたし、彼女はカイオスにもう一番高い地位を用意しようと画策していた。この日、パーパルディア皇国の今後を左右する会議が第一外務局で行われた。

 

「カイオス。先日話したが其方には勅命が下されることとなった。」

 

 レミールはお気に入りの満洲製の応接椅子に姿勢を正して座り、恭しい口調でそう言った。

 

「はっ!謹んでお承けいたします。」

 

 カイオスは座っていた応接椅子から立ち上がり、跪いてレミールの言葉を受けた。

 

「うむ。カイオス座れ。まだ話は続く。其方への勅命は三日後宮中において皇帝陛下より直接下されることとなっている。新年の宴では其方の噂で貴族社会は持ち切りになるであろう。故に宴には出席せず、出立の準備をしているとして欠席せよ。来年の3日ごろをめどとして出立してもらう。」

「委細承知しております。」

「うむ、其方ならば、アルタラスを我が国につなぎとめることができるであろう。」

 

 カイオスは目線を落とし、複雑な表情を浮かべる。

 ロウリアの新国王の戴冠式が来月18日に行われることを聞き及び、パーパルディア本国は対アルタラス工作を急がせた。空位になっているアルタラス国王位にホーラント王太子を据えることを発表させ、戴冠式を急ぎ実施するように工作を開始した。ホーラント王太子の即位に難色を示していたユグモンテ外務卿は失脚し、屋敷で自主的に謹慎している。政府中央では王太子の即位を阻む者はなかったが、それでもアルタラス貴族の中にはパーパルディア貴族出身であるメラニエル男爵夫人を母に持つ王太子の即位に懸念を有する者がいたことは事実だ。カイオスは、日満両国を刺激しないために、アルタラス王の即位問題は静観していた。アルタラスを所管とする第三外務局としては動かなかったが、第三外務局にはレミールの出身であるブラウンシュヴァイク公爵家の係累の者もおり、その伝手でレミールは対アルタラス工作をさせた。

 もちろん、レミールは第三外務局局員に指示はしていない。直接指示を出せば越権行為となる。ゆえに、あくまで世間話の一環として、アルタラスとロウリアの二か国の戴冠式でどういう国々がどういう立場の者を派遣してくるのか探りたいという希望をだしたに過ぎなかった。このような比較をするためには、同時期に戴冠式を行うより他にない。第三外務局員は在アルタラスの大使に訓令を発し、駐アルタラス大使はアルタラス政府の要人たちにアルタラス国王の戴冠式を早期に行うように希望を述べた。

 斯くしてロウリア国王の戴冠式と同じ日にアルタラス国王の戴冠式がセッティングされた。

 

「この件で、其方は皇帝陛下の名代を務めることになる。皇族以外で皇帝陛下の名代を務めることができるということは、皇帝陛下の信頼が厚いということの証左だ。いずれ其方が我が国の外交責任者となるときの大きな援護となろう。」

 

 レミールは、現在の皇帝専制政府に限界を感じていた。すべてを皇帝権力に集約させるという方法は効率が悪い。国家統治の各セクションをいくつかの省に分け、その責任者である尚書に権力を移譲する。外交については外務省を設立し、外務尚書を責任者とする。

 現在パーパルディア政府において省を名乗る国家機関は、内務省と司法省の二つしかない。しかし、内務尚書は空席であり、臣民統治機構長のバーラスが内政の最高責任者となるのを防ぐために便宜上の上席を創ったのみにすぎない。臣民統治機構は、その下部組織である属領統治機構を加えると全属領に権限が及ぶ巨大官庁であり、全ての権力を皇帝に帰するとする現在の政府の建前からすれば、膨大な人員と広範な権限を持つ官庁が皇帝の下部組織にあるとするのは具合が悪い。皇帝の部下の部下という程度の格付けとし、帝前会議での席次も後とする。そういった政治上のレトリックが内務省という存在である。

 これとは別に司法省は、諸外国、特にミリシアルとムーから司法権の独立を要請された際に「作られた」官庁である。パーパルディア皇国では、貴族領や各属領における司法権は貴族領主や統治機構長が処理するものとされている。しかし、諸外国からすれば、統一された刑事法典を持たず、領主の恣意が通用する裁判制度など文明国ではあり得ないと考えられて、司法制度の改正が要請された。このため、パールネウス王国時代から続く司法局所属法服貴族を中心として、司法裁判所の整備が進められ、エストシラントに高等法院が設けられた。各領主が司法権を行使する現状は存続したうえで、各領主の裁断に対する高等法院への上訴と死罪に相当する判決の高等法院への即時報告と高等法院の認証、各領内でのすべての裁判の年次報告を司法省に上げることが決められた。

 司法省に所属する貴族は、他官庁の貴族と違い、土地持ちの一般的な貴族ではなく、土地を持たない法服貴族が多数を占める。中でも高等法院の判事に就任する法服貴族などは皆パールネウス王国司法局時代から続く法服貴族の家柄の者ばかりだ。一般の領主貴族からは、土地を持たないため平民と変わらぬと蔑まれることもあるが、その事務処理能力は折り紙付きと言える。称号としての爵位であるため地位の世襲はないとされているが、実際的には爵位は世襲されている。

 このような中でレミールは、外交の組織を一元化して、外務省を設立する腹積もりであり、その長の尚書にはカイオスを充てる気でいた。第一外務局長のエルト・マクシーネ・フォン・マリンドラッヘ伯爵令嬢も、第二外務局長のベルトホルト・イザーク・フォン・リウス伯爵も、第一外務局次長のハンス・ツー・オイゲンベルグもまたカイオス子爵の力量を認めており、彼ならばということで内諾を得ていた。しかし、皇国の大多数の貴族は尚書と言う職は、司法尚書を除き、陛下の名代として権力を行使する職であり、皇族かそれに準ずる者達が就任するものであると認識しており、子爵風情が就任する職とは考えていなかった。反対の声が挙がることが予想されたために、レミールは先に手を打って、皇帝陛下の名代としてカイオスをアルタラス王の戴冠式に向かわせることを決めた。

 

「殿下のご意向につきましては、私も理解しております。ですが、その時期には日満両国の派遣使節が来ることになっています。こちらも、いえ、こちらこそが我が国にとって重要事項だとわたくしには思えるのです。殿下の前で僭越ではございますが、日満両国の情報を収集している者といたしましては、そちらを重視したいのですが。」

「カイオスの懸念はよくわかっている。其方はアルタラス王の戴冠式が終わった後はすぐに帰国せよ。なに、初日や二日目の会談などは儀礼的なものに過ぎぬ。補償金の下賜という儀式的な面会のみだからな。それにだ、駐ムー大使のゲラルト公爵が日満両大使に我が国はムー国と比べて聊か権威主義的な傾向があると伝えている。日満両国も儀礼的な場面では儀礼的な対応にのみ終始するはずだ。特に日本国は貴族制度が残っている国だから、そのあたりの機微は心得ているだろうよ。」

「そういえば、日本では今日は先々代の皇帝が崩御した日で休日扱いでしたね。先々代の皇帝の崩御日を国民の休日とするとは、君主に対する国民の尊敬の念は強いと言わざるを得ません。我が国も君主国ですし、レミール殿下のおっしゃる通り、ファーストコンタクトは問題なく済むのではないかと思います。」

「エルトもそう思うか。うむ。まあ、本番の国交樹立のための交渉は、其方が戻ってからだ。エルトにも関わらせるが、其方が交渉の首席でなければならぬ。其方を外して、日満両国と対峙するわけにはいかぬ。其方が戻ってくるまでは、日満両国の使節にはエストシラントの見学をしてもらうつもりだ。我が国の状況を彼らの目で知ってもらうことが国交樹立の交渉にも役立つはずだからな。」

 

 日満両国と対峙するというレミールの言葉遣いには、カイオスは一抹の不安を覚えざるを得なかったが、日満両国との国交樹立の交渉にこそ全力を尽くすべきと考え、日満両国との国交樹立に関しての素案を提示した。

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