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内務省は、省庁の中の省庁と呼ばれる巨大官庁である。内務省の内局には大臣官房、神社局、行政監督局、地方局、地方財政局、国際戦略局、情報通信政策局の六局がある。
大臣官房。組織管理、内部部局間の連絡調整などを所掌する。秘書課、人事課、文書課、会計課、企画課、広報課の6課を置き、総括審議官、政策立案総括審議官、公文書監理官、電網防禦官、審議官、参事官の課長級分掌官を置く。
神社局。内務省の建制上筆頭に位置付けられる。神宮神社、神官神職に関する事務を所掌する。規模としては内務省の局内で一番小さい。文化的・歴史的建築物として文化財としての神社は、文部省の所掌となる。総務課、人事課、営繕課、考証課の4課を置く。
行政監督局。中央省庁の業務の改善、独立行政法人及び特殊法人の新設・改廃の審査、独立行政法人の評価、情報公開の推進、政策評価制度、行政相談などに関する事務を所掌する。中央省庁の全ての政策を総合的に評価し、その評価結果は大蔵省の予算査定にも影響することから大きな大きな権力を持つ。内務省を省庁の中の省庁と言わしめる力の源泉の一つを構成する。総務課、総合調整企画課、調査法制課、政策評価企画課、政策評価課、行政相談課の6課を置き、評価監視官、行政監督官、行政相談管理官の課長級分掌官を置く。
地方局。地方行政、行政書士、地方吏員、議員選挙、選挙制度、住民制度、個人番号制度に関する事務を所掌する。局内に地方吏員部と選挙部の2部を置く。内務省の出先機関としての都道府県を監督することから内務省内で一番の権力を有する。道府県知事の官選候補者を指定する権限を有する。総務課、行政課、住民制度課、市町村課、地域政策課、地方吏員部公務員課、福利課、選挙部選挙課、管理課、政治資金課の10課を置き、国際関係を掌る課長級分掌官たる参事官を置く。
地方財政局。地方財政制度、地方交付税交付金制度、地方債制度、地方税制度に関する事務を所掌する。局内に地方税務部の1部を置く。内務省の一部局であるが、税務部には大蔵官僚が出向している。都道府県には内務省の官僚が出向しているが、大蔵省の官僚も都道府県の財務部局に出向している。その元締めたる地方税務部は、地方税制度の企画立案に力を持っているが、地方財政そのものを監督する税務部以外の財政局には内務省側の抵抗もあり、出向者はいない。財政課、調整課、交付税課、地方債課、公営企業課、財務調査課、地方税務部企画課、都道府県税課、市町村税課、固定資産税課の10課を置く。
国際戦略局。内務省の所管行政全体の国際戦略に関する事務を所掌する。電気通信関係における国際機関との調整、国際間の電気通信規格の整備、宇宙通信の企画などを掌る。国際戦略課、技術政策課、通信規格課、宇宙通信政策課、国際協力課の5課を置く。
情報通信政策局。情報の電磁的流通・利用の規律企画、日本放送協会の監督、放送事業の規律などに関する事務を所掌する。テレビ・ラジオといった一般地上波放送、衛星放送、市区町村放送、インターネット通信、アマチュア無線などの電波に関する統制の企画を行う。但し、本局においては、統制の規律を策定するにとどまり、地上波テレビなどの放送免許の審査運営については、内務省の企画などに基いて、逓信省において管掌する点に注意が必要である。総務課、情報通信政策課、情報流通振興課、放送政策課、放送規律課、通信規律課の6課を置き、他省庁にまたがる通信行政を調製する課長級分掌官たる参事官を置く。
内務省には外局が存在する。警保院である。かつては内務省警保局として一内局を構成していた。警察官僚は内務官僚でもあり、内務官僚は警察官僚であった。府県警察部長の経験者が府県知事に就任するということが多々あった。しかし、警察の業務が増大し、警察官の数が増えてくると、内務本省と警察のポストの数が足らなくなっていく。法令も分野ごとに細かく制定され、内容が高度に専門化していくと数年で他の部署に移動することになる内務官僚が警察官僚を兼ねるというのは業務遂行上の足かせになっていくことが多くなっていった。
そこで、内務本省で採用する者の他に警察独自で採用し、内務本省に異動することのない者が一定数いることが望ましいということから警察機構の改革が行われた。生え抜きの警察官僚を採用育成することが決まり、内務省警保局の外局化が決まった。名称は警保院であり、長は総裁とされ、内務大臣の兼任で警保院はスタートした。その後、警察官僚側の運動が実り、警保院総裁に国務大臣が充てられることとなり、内務本省からの一定の独立を得たが、内務本省の人間が警保院に出向する異動人事は続いている。
警保院には総裁官房(秘書課、人事課、文書課、経理課、監察課)のほか、生活安全局(企画課、防犯課、保安課、災害対策課)、刑事局(企画課、刑事課、鑑識課、組織犯罪対策課)、交通局(企画課、指導課、運転免許課)、高等局(企画課、高等課、特別高等課、外事課、検閲課、警護課)、電網警備局(企画課、捜査課、通信分析課、技術課)の5局がある。
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大日本帝國東京都某所 2675(平成27・2015)年12月31日(木)
「それで?何がそんなに気になっているの?」
東京都内の某回転寿司店で、レーン上を流れてきた皿を取りながら、警保院総裁官房主事小和田公安は語り掛ける。小和田は、東京帝國大学法学部在学中に高等試験(現実の国家公務員I種試験)に合格し、大学卒業後、内務省に入省する。警保院総裁官房主事とは、内務省や大蔵省ならば官房長に該当し、その官等は高等官二等の勅任官。陸海軍でいえば少将閣下に相当する高官である。回転寿司屋などは、彼の身分で行く店ではないが、一風変わりもののこの官房主事はこのような店を好んで利用することがある。
「僕と鶴川君、そして長崎憲兵分隊の横川憲兵兵長の3人はニシノミヤコにおいて聞き込みを重ねてきました。すると、彼らフェン人の中には日本人に対して複雑な感情を抱いているように思いました。」
「複雑な感情ねえ・・・。」
警視庁生活安全部特命係長檜上左京。東京帝國大学法学部在学中に高等試験に合格し、東大法学部を首席で卒業。各省より就職勧誘があり、どこにでも入省できる成績であったが、本人は警察官を志望し、内務省ではなく警保院に就職した。この世界では、キャリア警察官僚は入職時に高等官たる警部に任官する。警部には高等官たる警部と判任官たる警部の二種類が存在し、後者はノンキャリアの警察官が巡査、巡査部長、警部補と昇進した後に就く階級である。キャリア組の警部は任官から1年で高等官たる警視に転官する。
檜上は、警保院に就職後、警視庁刑事部捜査第二課に出向して活躍を見せた。その時は警視の階級に在ったが、ある事件における責任をとらされる形で警部に転官させられたまま現在に至っている。
「フェンには日本人が多数進出しており、その中にはやくざ者もいるようです。彼らは帝國の法が及ばぬということで少々アコギな商売をしているようでして、中には武器弾薬も売り物にしているという噂があります。」
「ふーん。」
この世界においてもやくざは存在している。しかし、歴史的な発生経緯は異なる。
江戸幕府から明治新政府に変わった後、上部の政治機構には大きな変革があったが、下部の行政組織はあまり変化がなかった。特に治安組織であった町方同心が治安維持に携わっていた点には変わりがなかった。江戸幕府期の同心は、俸禄は少なかったが、諸大名家や町屋からの付け届けなどでその数倍の実収入があった者も多かった。このため御用聞き・岡っ引と呼ばれる私的な捜査補助を行う者を雇っていた。
明治新政府の体制が整備され始めると、町方同心は巡査として雇用され、俸給を受け取る準官吏の身分となったが、代わりに付け届けの類を受け取ることが禁止された。これにより、町方同心から雇われていた御用聞きは自活を始めることとなるが、その多くは、町屋から同心に渡っていた付け届けを直接もらう形に変わったに過ぎなかった。もともと、御用聞きの多くが顔役と呼ばれる地域の有力者であったことからこの転換は無理のないものではあった。
しかし、その有力者が勢力を拡大するということになると抗争が生まれる。この抗争の中で地域の顔役としての面を残し続け、地域の行事等で率先して活躍する表の顔を数多く持つ「やくざ」者と裏社会に染まり、法の穴をくぐる、あるいは違法な行為を行うなどする裏の顔を多く持つ「ヤクザ」者とが存在しているのがこの世界の日本である。
「それは厄介だねえ。フェンには帝國の取締法は及ばないし、もともと他国に行く際に護身用の武器を持ち出すことは実は取り締まっていないから、彼ら自身の護身用の武器を売り払ったとしても、直ちに法令違反に問うのは難しいかもしれないねえ。」
小和田は積み重なった皿をレーンに戻しながら檜上の言葉に答える。
「皿は戻さないでください。」
小和田がああそうというのををしり目に檜上はレーンから皿を戻す。
「しかし、官房主事。この世界の情勢についてもだいたいわかってきました。クワ・トイネ公国やクイラ王国などの友好国は確かに存在しますし、日本在住の住民が満洲国以外の国外に行く際には一定の自衛を認めていた法律はそろそろ改正すべきではないでしょうか。」
「檜上。それはまだ時期尚早だよ。国民に自衛するなとはいえんよ。」
「しかし、僕にはどうも武器が不正に売られているという感じがいたしました。先ほど言いましたフェンのことですが、フェン人の中に銃を突き付けられた者がいるということらしいのですよ。日本人が海外で多少乱暴なことをしているというような感じがいたしました。」
小和田は湯呑の茶を飲んでから檜上に答えた。
「それで、檜上。もう一度フェンに調査に行きたいというの?」
「ええ、どうもあのやくざ者、多数の武器を売買しているようです。売買目的で武器を持ちこんでいるということであれば、関税法違反で検挙も可能かと思います。」
「警視庁管内で起きた犯罪じゃないじゃないの。なんだって、そこまでして行きたがるのさ。」
「どうも、細かいことが気になってしまうのが僕の悪い癖です。」
「ああ、そういえば、お前はそういうヤツだったねえ。まあ、少し時間はかかるだろうけど、何とか機会を作ってあげるよ。」
「ありがとうございます。」
「しかし、難儀なことだねえ。」