大日本帝國召喚   作:もなもろ

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国交樹立交渉大詰め。いろいろな視点から描いてみたいと思います。


迎賓館会議室 2675(平成27・2015)年2月18日

―外務局職員ヤゴウ

 

 14日に渡った日本視察を終え、本日は日本国との条約交渉に入る。既に何度か非公式会談を行い、条約の大まかな内容については、両者の間で既に合意されている。本日はその集大成というべき条約本文を、クワ・トイネ側及び日本側両者の全権委員が署名するという儀式だ。

 もちろん、条約そのものについては、条約への署名後に本国において再度の検討がなされ、正式な決定が行われることはなっているが、既に本国には大体の内容を伝えて了承を得ている。会議の行方そのものについての不安はない。

 

「こちらが、大日本帝國とクワ・トイネ公国が国交を樹立するにあたっての基本的な関係を表した条約文書となります。」

 

 日本側担当者が文書を配布する。なるほど、やはり事前の取り決めの通りの内容だ。

 

「言語については、当方の作成した文書を読み上げたものをオランゲ氏にタイプしていただいたものを第三文明圏共通言語の正本として扱うという形にしております。まだ、翻訳するうえでの言語の解読が終わっていない部分が多々ありますので、今回は斯様な形となりました。ご承知ください。」

 

「では、私から確認を。」

 

 ハンキ将軍が挙手をして、発言を始めた。

 

「最終的な確認なのですが、本当にこのような対等な形での条約でよろしいのですかな。私どもは、日本滞在中にいろいろなところを見聞した結果として、我が国と日本国との間には、途轍もない格差があるということがわかっております。このような場合は、格上の国と格下の国が対等の関係を結ぶということはありえない。我が国でいえば、パーパルディア皇国と我が国は一応の国交を結んでおりますが、対等な関係ではありません。パーパルディア皇国民が我が国を訪れることはめったにありませんが、パーパルディア皇国民には、格上の宿を与えるように特に依頼されておりますし、役所の手続きでも優先して対応しなければならないということもあります。我々の常識からすれば、このような形の条約はあり得ないものであります。そこで、条約締結最終段階でもありますので、最終的な回答をお聞きしたいと思います。本当に日本国は、我が国と対等な関係を結ばれるということでよろしいのですか。」

 

 なるほど。ハンキ将軍の存念というのは、我々使節団員も唯一の気がかりとしていたところだ。第三文明圏の常識からしたらありえない待遇であったが、これが国交樹立の後も続くのかどうか。どれだけ友好的な姿勢を示そうと国としての格が違うのも事実。この辺りがどのように我が国との関係に影響してくるのか、これを見極めなければならない。日本側を代表して、徳川外相が答える。

 

「そうですね。これは、我が国が元の世界にいたころからの外交上の原則であったのですが、主権国家平等の原則というものがありました。いろいろと言葉の意味はありますが、この言葉は国家間の平和を産み出すための基本的な前提であると思っております。今回クワ・トイネ公国と国交を樹立するにあたって、我々の間の関係は平和的なものにあらねばならないと思う次第ですが、それを規定する関係というものが、この言葉に現れているのではないかと思う次第です。この原則を規律するものとして、修好通商航海条約第二條以下第五條までで、お互いが同じ条件を認め合うという形であらわしている次第です。私どもはこの世界の常識に疎いところがございますが、この点は我が国の根本的な大義をあらわすものとして、曲げてご承知願いたい。また、我が国が貴国との間に対等な関係を構築したいという意思を表示したことについては、これはそのとおりで、我が方の議事録にも記載しておりますし、そちら様の議事録にも明記していただいて、結構です。」

 

 なるほど。予想と違うことが無くてほっとしている自分がいるが、常識の違いというものはずいぶんと疲れるものだ。パーパルディア皇国とは違った緊張感がある。ん、まてよ。パーパルディア皇国・・・、そうか、これはまずい。

 

「外務局職員のツールレイ=ヤゴウです。発言の機会を頂きたい。・・・ありがとうございます。今回我が国と対等な形での国交樹立の機会を頂き、誠にありがたく思う次第です。しかしながら、我々の世界の常識について今一度説明の機会を頂きたいのです。といいますのも、我が国は、パーパルディア皇国と国交を結んでおりますが、この時に結んだ条約というのは、パーパルディア皇国が属国に対して結ぶような条約よりかは緩い条件でありますが、やはり、いろいろな条件のもとに結んだ条約です。一例をあげますと、1年に一度皇国に対して国交を結ばせてもらっていることに対しての御礼言上の使者を出す必要があります。我が国は、航海技術が整わないことを言い訳にして、奴隷の供給を行っておりませんが、他国の中には奴隷の供給を行って居る国もあります。」

 

 日本側の席がざわつく。パーパルディアが奴隷を供給させていることに戸惑っているようで、何と野蛮なという声も聞こえる。やはり、我々とは常識が違う。我々の席を見る。皆の顔を見る限り私が何が言いたいかが分かったようだ。

 

「そこで本題なのですが、我々が条約を結ぶことについての、パーパルディア皇国の反応です。属国の中には、新たに外交関係を結ぶことを禁止されている国もあります。我が国は、幸いにしてそこまでは求められてはありませんが、我々が、独自で動くのは、パーパルディアにとって、面白くないことと思います。この辺りをどうしたらよいのか。すみません。私もパーパルディア皇国の反応について考えが今の今まで及んでおりませんでした。今となってはでございますが、この場を借りて対応を協議させていただければと思います。」

 

 日本側の席から、うなり声やため息が聞こえる。なんということだ。ここまで来て。私は外務局の職員であって、旅行者ではないというのに、外交官としてあるまじき失態だ。日本の国内の様子に浮かれていて、肝心なことを忘れていたとはな・・・。

 

 

――――――――――

―外務大臣 侯爵徳川義輝

 

 ヤゴウ氏やハンキ将軍の顔色を見るにパーパルディア皇国は相当に扱いが難しい国家のようだ。しくじったな。クワ・トイネでの会談で、リンスイ卿からパーパルディアについてはそれなりに聞いていたが、奴隷を献上させているとは知らなかった。いや、リサーチ不足をいまさら言っても、仕方あるまい。ここは、渡りに船とあの件と絡めてなんとかなだめるしかあるまいな。

 

「皆様の懸念されるところについては、我々も理解しました。これについてではありませんが、ちょうど私どもから提案したいことがございましたので、何かの役に立つとは思い、提案させていただきたい。我が国が貴国との間に国交を樹立するに際しての交換する外交使節の長の話なのですが、特命全権大使ではなく、特命全権公使を派遣しあうこととしていただきたい。」

 

 クワ・トイネ側の席がざわつく。我が方の真意を測りかねているのだろうか。ハンキ将軍が手を上げたか。

 

「すみませぬが、貴国の提案の意図がよくわかりかねるのですが。そもそも大使と公使の違いとは何でしょうか。」

 

 なるほど。この世界では公使という存在はないのか。ならば猶更好都合か。次官を見ると次官は説明を他の者に促した。

 

「外務省南亜課長の田中です。詳しい説明をさせていただきます。先ほど私どもの大臣が転移前の我が国がいた社会の国際情勢について説明をさせていただきましたが、これに関連しまして、国家主権は平等ではございますが、現実問題として国力の差というものは、存在しました。その点を踏まえまして。我が国は以前外国に派遣する外交使節を、特命全権大使と特命全権公使とで分けて派遣しあっておりました。この違いでありますが、外交使節として外交活動を行う際の活動能力については、同様です。たとえば、国際会議を行う際の発言権や投票権などは大使公使問わず一人あるいは一票として、それぞれ扱われます。違うのは席次や儀礼における立場となります。また、各国国内法上では、俸給の違いとして表れておりまして、大使のほうが公使よりも高給となっております。転移前の世界では、大国と呼ばれていた国に対しては、大使を交換し合い、それ以外の場合には公使を交換し合うという形をとってきました。以上が、大使と公使の違いですが、この先は大臣お願いいたします。」

 

「つまり、我々と交換し合う使節団の長を公使とすることで、パーパルディアの目をそらせる役割があるのではないかということです。一段格下の公使を交換し合うことで、パーパルディアに対して一目置いているという形にする、私どもの方がへりくだることで、パーパルディアの自尊心を満たすことができる。そういう風に説明を持っていくようにしたいと思って居る次第です。」

 

 ふむ。ざわつくか。目くらまし程度にしかなりはせぬだろうが、しかしやむを得ん。パーパルディアとの国交交渉は難しいものとはなるが、なるべく相手を刺激せぬようにしなければならんな。

 

――――――――――

―外務局職員オランゲ

 

 トクガワ大臣の説明を聞いたが、驚いた。いや、呆れはてた。日本は、どう見繕っても、列強上位に位置する大国だ。なぜ、そこまでしてパーパルディアごときに遜るというのだ。我が国がいうのも、なんだが、パーパルディアごときは日本からしたらワイバーンと蟻だ。パーパルディア皇国の意向など歯牙にかける必要すらないではないか。

 

「徳川大臣の指摘に対しては、有効かどうかは測りかねますが、我が方としてもパーパルディアの警戒心を緩ませることができるのであれば、一考の価値ありと思います。しかし、公使という職は我が方にはありません。おそらく第三文明圏全体を見渡してもこれに該当する職はないかと思います。これをどのように説明するのか、そのあたりはどのように思われますか。」

 

 ハンキ将軍が尋ねているが、これは私も同感だ。公使を派遣しあっているというが、これは大使とどう違うのか。この辺りをうまく説明しなければ、パーパルディアの連中も納得しないだろう。

 

「我が国からの提案としては、転移前の日本国が存在した世界では、外交官に階級があり、その階級として、大使、公使の階級があることと、パーパルディアに配慮して、一段下の階級のものを派遣していると答えていただければと思います。」

 

 なんと。これでは、日本国が自らパーパルディアより格下の国であると認めているようなものではないか。トクガワ大臣には日本国民としての誇りはないのか。

 

「それでは、貴国が損をすると思うのですが。自分からパーパルディアよりも格下の国であることを認めているようなものですぞ。」

 

 ハンキ将軍が日本側に再考を求めている。当然だろう。国際社会にあっては、自国の地位を向上させることはあっても下に置くということはあってはならない。他国から見下されるようなことはあってはならないはずだ。

 

「やむを得ません。まずは、貴国との間に速やかな国交を樹立し、貴国国内の開発を進めて、我が国が食料を輸入する体制を構築することが最優先です。これは、我が国政府が掲げる至上命題であって、これを達成することこそが最も重要なのです。優先順位としては、これが一番に挙げられる。それに、現実問題として、大使の成り手がいないのです。転移前に我が国が派遣していた大使は転移前の世界に取り残されてしまいました。大使の資格というものは、外交官であることが条件ですが、内規として年配の者が選ばれます。一方で、公使はそれよりも年かさの若い者が選ばれます。年齢という観点から、大使に選ぶことができる人間が不足しております。」

 

 なるほど、日本国内の国内問題も絡むか。ということは、この公使という制度我が国も取り入れることができれば、私であっても日本駐箚がかなうやもしれんな。この制度は私にとっても福音か。

 

「なるほど。そして、大使のほうが俸給が高いので、若い者が高給取りになってはやっかみもある。ということですかな。」

 

「ご推測にお任せいたします。」

 

 トクガワ大臣はじめ日本側の皆が一斉に苦笑した。

 

「わかりました。この件は本国に申し入れを行います。給料が安くですむのであれば、あえて反対する者はおらぬかと思いますぞ。」

 

 ハンキ将軍の軽口にクワ・トイネ側、日本側ともに笑いあった。よい傾向だ。国交樹立交渉は順調に進んでいる。本国に対する照会も必要であったため、暫時休憩となった。




国交樹立交渉の一幕です。さあ、いよいよ、条約正文の発表に移ります。
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