大日本帝國召喚   作:もなもろ

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ターニングポイント第一幕の始まり始まり。


フェン王国ショーンレミール市 中央暦1640年1月5日(火)

―――――

フェン王国ショーンレミール市 中央暦1640年1月5日(火)

 

ビシッ!!バシッ!!

 

 薄汚れた部屋――地下牢の一室で、一人の女が鞭で叩かれている。彼女の各腕は、天井から吊るされた鎖によって持ち上げられ、強制的に起立させられている。また、彼女の各足には鎖が括り付けられており、その鎖には重りがつけられている。つまるところ、拘禁された状況下で、拷問を受けているのである。ただし、彼女の衣服は鞭を打たれた衝撃で所々破けているが、その身体には鞭の跡はない。

「ウッ!!クッ!!」

「しぶとい奴だ。これでも本当のこと言わぬのか。」

 

ビシッ!!バシッ!!

 

「ウッ!アグッ!!」

 

 女の皮膚から鮮血がほとばしる。鞭の衝撃で皮膚が破け、肉が裂けたのである。これまでもこんなことは何度もあった。

 

「ちっ!またか。おい、治癒師。」

「はいはい。しかしまあ、強情な女ですなあ、ここまでしても口を割らぬとは。」

 

 拷問は二人の男によって行われている。一人は中肉中背の中年の男、一人は初老の男。中年の男は拷問官としては手慣れた様子で女を甚振っているが、焦りの表情が見える。これまでもこの男は捕虜を拷問して自白を得てきた。しかし、この男の経験をもってしても女は口を開かない。上司から口を割らせろとの命令を受けて、女を拷問してきたが、一向に状況が進展しないので焦っているのだ。

 治癒魔法師もまた手慣れた所作で女にできた傷を修復していく。身体にできた傷は修復されたが、衣服の損傷は修復されないため、ぼろぼろの装束を身にまとう形となっている。

 

「ハァハァ・・・」

「よう。もういいだろ。これだけ責められても、呻き声しか上げないで耐えているんだ。女のくせに大したもんだよ。」

 

 拷問官のほうが先に音を上げたかのように自白を促したが、女は何も言わない。男が肩を落としたところで、部屋の重たいドアが開いた。鉄製のドアは捕虜の逃走防止の為もあるのだろうが、開閉には難のあるもので、男性二人がかりで開閉するようなものとなっている。

 

「これはっ!!ヘルゲン閣下っ!!」

 

 ドスドスッと足音を鳴らしながら、パーパルディア皇国陸軍独立魔導兵中隊の第二小隊長カール・エドワルド・ツー・ヘルゲンが入室してきた。眉間にしわを寄せて、不機嫌な表情のまま拷問官の側にやってきた。女はちらと一瞥した後、直ぐに目をそらした。

 

「どうだ。吐いたか?」

「いえ、それが・・・。面目ありません。」

「そうか・・・。ふむ、意外だな。文明圏外の蛮族にしては骨のあるやつだな。」

 

 ヘルゲンが女の側に近寄ると、女は顔をそむけた。その態度が気に入らなかったヘルゲンは、女の髪を掴むと、自分の方に向きなおさせた。

 

「ふん。上手くごまかそうとしたつもりだが、俺の目はごまかせんぞ。貴様の衣服は、文明圏外の蛮族共のそれではない。そして、貴様の持ち物もだ。話に聞いたことがあるものばかりだ。小型の魔信装置。インクの要らないペンと上質の紙を纏めた覚書。これらは、みな日本国や満洲国の持ち物だ。貴様は、我々に自らを日本国か満洲国の者だと思わせようとしたのだろうが、ふふふ、詰めが甘かったな。」

 

 ヘルゲンはそういうとメモ帳の中を開き、書いてある文字を見せつけた。

 

「これだ。これを見ろ。これは日本国や満洲国の公用語である日本語や協和語か?そうではないだろう。」

 

 ヘルゲンは勝ち誇った顔をして、メモ帳の文字を見せる。

 

「これは第三文明圏公用語ではない。そうなるとだ。我がパーパルディアの施設に潜入するだけの能力を持っているというのは、蛮族共の中でも下層階級の者であろうことは想像に難くない。上澄みの者であれば、パーパルディアの名を聞けば縮み上がるはずだ。パーパルディアの施設に潜入任務など怖くてできまい。文明圏外国家の上の者達も、そのような者達にパーパルディアの施設に潜入を命じるようなことはできまい。そもそもが能力的に劣る蛮族の連中が、更に能力を発揮できない状況に陥るのだ。失敗は目に見えているだろう。」

 

 ヘルゲンは得意になって自分の推理を披露した。拷問官はなるほどと言う顔をして神妙に頷いているが、女は信じられないような顔をしてヘルゲンを眺めている。女は的外れのことを得意げに言うヘルゲンを怪訝な顔で眺めていただけだが、ヘルゲンはこの顔を図星を言い当てられて愕然とした顔であると誤認した。魔導師もなるほどという顔をしかけたが、疑問点があった。

 

「閣下。この第三文明圏周辺地域において、パーパルディアの名を知らぬほどの下層階級の者が文字を扱うことができるというのは、得心が行かぬのですが、これはどういうことなのでしょう。」

「ふむ。貴様はこの第三文明圏の歴史というのをよく知らぬのだな。かつて、そう何万年も前の話だが、この第三文明圏周辺地域では魔王ノスグーラの侵攻があった。トーパ王国の果てのグラメウス大陸というところから押し寄せた魔王軍はフィルアデス大陸を呑み込み、ロデニウス大陸まで攻め込まれたらしい。この侵攻によってロデニウス大陸のクワ・トイネの一部の地域には、この侵攻のために当時の人類の一部が固まって住む地区ができたとのことだ。そして、今でもその地域は残っており、かつての人類の子孫が住んでいるというのだ。あまり、外界とは付き合いはないらしいぞ。その地域で使われているのが、古代エルフ語ということだ。」

「なるほど。閣下は実に博識でいらっしゃいますね。では、この文字がその古代エルフ語だということですか?」

「うむ。それ以外には考えられぬ。現物はみたことがないが、覚書に書いてあるくらいだから、文字なのであろう。そして、この周辺で、第三文明圏公用語を使わぬ蛮族と言えばそれぐらいしか考えられぬ。」

 

 魔導師の質問に答えながら、得意げな顔をしたヘルゲンは、勝ち誇った顔をして髪を掴んで女を振り向かせた。

 

「どうだ、女。貴様はクワ・トイネの諜報員であろう。よくも、我がパーパルディアの施設に忍び込んでくれたな。これは、クワ・トイネへの懲罰攻撃の原因となるぞ。パーパルディアの大軍団がお前の国を蹂躙するぞ。」

 

 ヘルゲンは勝ち誇った顔をして女を絶望させる言葉を投げかける。実は見当違いの話ではあるが、その顔を不快に思った女は、ヘルゲンを睨みつけて、その顔に唾を吐きかけた。

 

「このあばづれめが!!」

 

 ヘルゲンは激高し、自分が持っていたメモ帳を床に叩きつけ、拳を握りしめ、女を殴打しだした。

 

「ガッ!!ギッ!!グウェッ!!」

「クワ・トイネの劣等民族が!!この光輝あるパーパルディア貴族の私に唾を吐きかけるとは、万死に値するぞ!!」

 

 ヘルゲンは女を拳で顔を殴り、膝で腹を蹴り、とうとう口から血を吐き出した。

 

「閣下!!これ以上はいけません。」

 

 拷問官がヘルゲンを停めに入る。もともと、鞭による裂傷で出血していた身体である。治癒魔法で傷は修復されるが、一度出た血は元には戻らない。拷問は自白を得るための手段で殺す手段ではない。

 

「大丈夫だ。治癒師、さっさと癒せ。」

 

 ヘルゲンはドアの近くに戻り、小さなかごを持っている兵を呼び出した。

 

「女、これが何かわかるか?」

 

 ヘルゲンは、かごに入っている草を見せる。女の顔に不審が浮かんだ。

 

「これはな、アルタラスに生えている野草だ。これを香として焚く。この煙を吸うとだ、頭がぼーっとする。そうなるとだ、俺たちの質問に素直に答えざるを得なくなる。」

 

 女の顔がゆがむ。アルタラスの薬物事案の裁判の話を知っていたのだろう。あの時は男女の乱交に使われた。そのことも思い出したのだろう。

 

「クックック・・・。貴様はもう終わりだ。貴様のせいで貴様の祖国クワ・トイネは蹂躙されるのだ。男は殺され、女は犯される。我がパーパルディアが、ロデニウスにくさびを打ち込み、日本国と満洲国の技術を接収するのだ。フハハハ・・・。見ていろ、日本国、満洲国よ。」

 

 高笑いするヘルゲンは、血痕が付いたメモ帳を踏み付けていた。フランス語が書かれたページを開いたままで―――。

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