大日本帝國召喚   作:もなもろ

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拙作レミ様による事態打開の為の奔走が始まります。ただし、うまくいくとは限らないのが、この世界線の悲しさです。


パーパルディア皇国皇都エストシラント 中央暦1640年1月18日(月) 深夜

パーパルディア皇国皇都エストシラント レミール侯爵夫人邸 中央暦1640年1月18日(月) 深夜

 

 その館の主、パーパルディア皇后内定者、レミリア・ブラウンシュバイク・フォン・レミールは遅い就寝についていた。前日のエストシラント港への日満両国特使への緊急訪問、同特使らの歓迎晩餐会への出席、そして本日の見舞金御下賜式典施行へ向けた最終調整といったかたちで本来安息日であるにもかかわらず、精力的に活動した。邸宅に戻ってきたのは、とうに暗くなってからであったが、それでも明日の式典とその後に開かれる日満両国との国交樹立に向けた交渉についての事前資料に再度目を通してからベッドに入ったので、12時近くになっていた。ベッドに入ったものの緊張感からなかなか眠れずにようやく寝息を立て始めたのは床に入ってから1時間もしてからだった。

 眠り始めてから1、2時間ほどたった午前3時過ぎ、不寝番をしていたメイドがレミールを叩きおこした。レミールが目を開けると、外はまだ真っ暗であり、時計を見ると3時過ぎと言う時間であった。まだ、頭が覚めていないレミールは起こしたメイドを烈火のごとく叱り飛ばした。本日は対日対満交渉という皇国の命運を左右する重大な会議を控えているにも関わらず、十分な睡眠がとれないではないか、貴様もわらわの本日の行動は知っているはずだろう、其方は主人を眠そうな顔で重大な会議に参加させようとするのか、不忠者めと罵詈雑言を加えた。メイドはレミールの怒声が止むのを待った。このような時に口を挟むとレミールの怒りに油を注ぐことになることを知っていたメイドは静かに平身低頭してその時を待った。そして、怒声が一時止んだその瞬間、メイドは声を出した。

 

「お叱りはごもっともでございます。しかし、レミール様宛に第一外務局より緊急の魔信が入っております。魔信室へお急ぎください。」

 

 レミールに長く仕えたメイドはレミールの怒りがボルテージが落ち着いたところを見計らって間髪入れずに早口で用件を伝えた。すると、レミールはきょとんとした顔をして、あっという声を漏らして、気まずそうな顔を長年仕えたメイドに見せる。

 

「すまぬ・・・。其方がわらわを害そうとすることなぞないにもかかわらず、つい声を荒げてしまった。許せ。」

「いえ、お気遣いなく。それより、マリンドラッヘ外務局長から緊急の連絡が入っております。お急ぎください。」

「う、うむ。しかし、こんな夜更けにエルトめ、一体なんだと・・・。」

 

 魔信室とは、家庭用の魔信機が設置している部屋である。新世界においては、軍用の魔信は小型化に成功しているが、これは魔信機が軍の通信室と通話者のみを直接繋ぐだけの機能しかついていないためであり、電話のように様々な魔信機とつなげることができないためである。家庭用の魔信機は大型ではあるが、魔信機毎に固有情報の登録をすることで電話のように様々な機器間で通信をすることができるようになっている。

 レミールの寝室は二階にあり、魔信室は一階にある。レミールは急ぎ靴を履き、階段を降りて魔信室に向かっていった。

 

「今何時だと思っている、エルト。」

 

 待たせたことを謝りもせず、開口一番レミールはエルトを詰った。

 

「夜分の連絡、お叱りはごもっともでございます。」

「すまぬ、分かっている。一体、何があった。」

 

 夜中に起きたが、流石に頭も冴えてきたレミールは、エルトの言葉を遮って要件を聞き出そうとした。しかし、エルトは要件については話さなかった。

 

「魔信では複雑な内容です。それに、ムーや周辺諸国の大使館などからの傍受の可能性もあります。至急第一外務局へお越しください。」

 

 ただ事ではないと、結論付けたレミールはすぐに向かうと話して通話を終了した。そして、メイドにこれから第一外務局に向かうと話し、着替えを後で持ってくることと馭者に馬車の準備をさせることを命令した。

 

 ―――――

パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局

 

 レミールは第一外務局に着くと、直ちに局長室に向かった。そして扉を勢いよく開けると、周囲を睥睨した。

 

「レミール殿下、御召し物が。」

 

 エルトは驚いた。レミールの服装が寝巻にガウンを羽織った程度に過ぎなかったためである。およそ、貴人が人前にでるときの服装ではない。

 

「至急、と言ったのは貴様だぞ、エルト。それにしても、このような深夜に皇国の重鎮たちが雁首揃えて・・・一体何があったというのだ。」

 

 レミールが再び周囲を見渡すと今度は男性たちは目をそらした。先ほどはとっさのことで動くことができなかったが、本来寝間着姿の女性を男性はみるものではない。寝間着姿の女性を見てよいのはその夫か女性の肉親に限られる。ましてや、相手は主君ルディアス皇帝の皇后に迎えられようとしている人物だ。男たちが目をそらしてしまうのは、しかたのないことだ。

 

「チッ。エルト、説明せよ。」

「はい。御存じの通り、明日の対日対満式典に関しては、外3が主催することになっておりますが、殿下のご差配で我等外1も全体管理を行っております。それで、明日の式典の最終確認の為に、私とオイゲンベルグ次長は残業をしておりました。」

 

 レミールの眼がきつくなった。では、なぜここに外3の職員がいないのかということだ。明日の式典の調整をしていたというのであれば、その主催がいなくてどうするということだ。

 

「殿下のおっしゃりたいであろうことはわかりますが、本題はそこではございません。残業をしていたところ、国家戦略局のミクリッツ男爵がやってきまして我等に、容易ならざる事態が発生したことを告げてきました。」

 

 レミールは国家戦略局のミクリッツ男爵と面識がなかった。聞いたことのない名前にいささか困惑していると、この場にいた男が一人片膝を着いた。

 

「初めて御意を得ます。皇帝陛下よりミクリッツの男爵位を賜りました、ヘンリー・ミクリッツ・フォン・イノスと」

「挨拶はよい、して、何があった。疾く話せ。」

 

 レミールはイノスの挨拶を遮り、彼に詰め寄り、頭上から報告を促した。

 

「はっ。我が国家戦略局は、第三文明圏外各国に諜報員を派遣しております。その関係で様々な情報が日々魔信によって届けられます。」

 

 普段のレミールであれば、話の前置きに対してわざわざ口を挟むことはない。話の前提としての共通理解の確認をレミール側が欲しているのもあったし、皇族に内定している自分を前にして報告する相手が、自分を落ち着かせるために前置きを離すことで少しでも自分を落ち着かせることができればとのことで、報告者の話を遮るようなことはしなかった。だが、今回は緊急で呼ばれた以上、レミールは要点のみが知りたかった。

 

「知っておる。前置きが長い。手短に要点のみ話せ。」

「失礼しました。先ほどフェン王国に派遣した諜報員から、ショーンレミールを衛戍する我が監察軍がニシノミヤコ近辺の日本人施設を襲撃し、日本人満洲人の多数を捕らえたとの緊急信が届きました。拘束の理由はスパイ容疑とのことです。」

 

 イノスが一息に話した内容をレミールは理解しきれなかった。いや、理解したくなかったというのが正確だろう。レミールにはとても長い時間が流れたように感じられたが、しかしそれは一瞬の出来事であった。レミールの両脚から力が抜け、床に倒れそうになった。

 

「殿下!」

 

 すぐさまエルトが駆け寄り、レミールが倒れ込まないように体を支えた。寝間着の上にはおっていたガウンがはだけ、胸元を大きく開けた寝巻があらわとなる。男たちは瞬時に目を背けた。

 

「あ、、、あ、、、」

「殿下!お気を確かに!殿下!」

 

 エルトがレミールの両肩を握り、椅子に座らせた。気付けの酒が準備され、レミールの口に運ばれた。

 

「エフォッ!!エフォッ!!」

 

 レミールが涙目で目を覚ますや否やレミールは椅子から立ち上がり、イノスにつかみかかった。

 

「ど!!どういうことだ!!貴様っ!!説明しろっ!!」

「そ、それがっ!その一報以来、続報がなく。こちらから問い合わせをしようとしているのですが、フェン王国への魔信が通じないのです。」

「ふざけるな!!このような大事に魔信が通じぬなど、一体全体、国家戦略局の魔道具の保守管理体制はどうなっておるのだ!!それに、国家戦略局の魔信が通じぬならば、外1の魔信機でも使ってあちらに呼びかければよいだろうが、何をグズグズしているのだ。」

 

 レミールは、魔信が使えないというのを魔道具の故障と決めつけ、イノスを詰った。襟首をつかんで締め上げられたイノスの胸にレミールの豊満な胸があたる。このままではまずいとエルトが助け舟を出す。

 

「お待ちください、殿下。魔信が通じないのには理由があります。」

 

 レミールがエルトを横目でギロリと睨むと、イノスの襟首をつかんでいた手を緩めた。

 

「し、失礼しました、殿下。実は、日本経由の情報ですが、2日前からフェン西部の広大な範囲で魔素の急激な上昇があり、同地がいわゆる魔力嵐の中にあることが分かっております。魔素濃度が上がると魔信の使用が制限されます。これがため、現地と連絡を取ることができないと我々は考えております。」

 

 イノスは締まった襟元を緩めながら、現地と通信が取れないことを説明した。話を聞いたレミールはいくばくか冷静さを取り戻して、イノスに詫びた。

 

「そうか・・・。すまぬ、イノスとやら、取り乱した。それで、なぜここにアルデ統帥本部総長がいるのだ?」

「実は、殿下。カイオス局長が不在の間、監察軍の指揮権は第三外務局ではなく、統帥本部に依属してあるというのです。」

「なに?エルト。本当か。」

「はい、詳しい話は総長にお話しいただきます。」

 

 後ろに控えていたアルデがすっと前に歩み出た。

 

「殿下。話は、カイオス局長が本国を離れる直前のことでした。局長は皇帝陛下に伺候する際に私の同席を求めてきました。その席で局長は自分が皇国を離れてある間の外務監察軍の指揮権を一時統帥本部に預けたいと皇帝陛下に奏上されました。監察軍は弱体したと言っても、自分が皇国を離れてある間、勝手な命令を出すようなことが無いようにしたいとのことでした。皇帝陛下もこれを受け容れて、カイオス不在の間、監察軍の指揮権を私が握ることになりました。監察軍の動きについては、日報を作成させて日々提出させているところです。」

 

 アルデの説明に対してレミールは腑に落ちない顔をした。それは、アルデの表情に暗いところがあったためでもある。

 

「それなら、監察軍の不審な動きは探れるというところだが、アルデの意見は違うということだな。」

「はい。ここエストシラントと近辺の部隊については、間違いなく動きが知れます。日報には、一定の時刻の部隊保管の物資の量なども記録して、日々統帥本部に提出させておりますから、少なくとも一日遅れではありますが、部隊の状況は分かります。日報には、統帥本部からの派遣監督官のサインをさせるようにしておりますので、大きなごまかしはできません。ですので、不審な動きがあれば、物資などの動きから判断ができると踏んでおります。」

「ふむ・・・。それがフェンの監察軍とどう関わる?」

「実は、フェンの監察軍にも日報の提出を義務付けておりますが、統帥本部への提出は7日毎の定期便での提出となっております。何分距離がありますので・・・。」

 

 アルデの表情がさらに苦しくなってきたことで、レミールも苦々しい顔になり、声を絞り出した。

 

「なるほど・・・。つまり、統帥本部は、ショーンレミールに駐屯する部隊の動向を掴んでおらぬということだな。」

「はい、慙愧に堪えぬことではございますが。」

 

 アルデが頭を下げて、恐懼した表情で言葉を繋いだ。レミールは怒りで震えていたが、パッと顔を挙げて、事態の把握を試みようとした。

 

「とにもかくにも、何が起こったかを知るのが先決だ。魔力嵐が原因と言うのであれば、いつかは晴れるだろう。エルトは駐フェン大使館に、アルデ総長はショーンレミール駐屯部隊に、イノス卿は現地諜報員に通信を掛け続けるのだ。それから、アルデ総長は駐屯部隊に日満両国人に対する拘束の一時中止命令書を届けさせるのだ。私の名前を使え。」

「では、殿下の命令書をお出しいただきたく願います。」

 

 アルデがレミール名の命令書を戴きたいと申し出たが、レミールは首を横に振った。

 

「私は監察軍に対する命令権など持っていない。あくまで、次期皇后としての権威のみでことを行うしかない。私の命令書など出しては越権行為だ。下手な前例となりかねぬ。」

「はっ。差し出がましいことを申し上げました。お許し下さい。」

 

 外3の高官に対する事情聴取、皇帝陛下への報告などレミールは次々に指示を出した。しかし、この事態に対処するためには、特に手を借りねばならぬ人間の存在がいることを思い出した。レミールはエルトにそのことを尋ねた。

 

「エルト。カイオスは見つかったのか。」

「それが、予定よりもはやくエストシラント港を出港した後は、何の音沙汰もなく・・・。」

 

 カイオスは独自行動をなしていたため、消息がつかめていなかった。カイオスを乗せた船が海難事故に遭遇したのではという噂も流れたが、エストシラント港を出港してアルタラスに向かった船の中でその報告は上がっていない。ル・ブリアスへの移動中に賊に襲われたという見解がこの当時のパーパルディア皇国上層部の見解となりつつあった。

 

「あの、愚か者め。きゃつのことだ。何か良からぬことを企んでいるに相違ない。だが・・・、こうなってはカイオス抜きでこの難局を凌がねばならぬ。エルト、カイオスが見つかったならば、戴冠式の出席は中止させて、すぐさまエストシラントに戻るように外3の連中にアルタラスの大使館に連絡をさせろ。」

「し、しかし、彼の消息はまだ。」

「奴が生きていればの話だ。生きていれば、明日のアルタラス国王の戴冠式に出席するはずだ。それから、明日の式典だが、わらわの代わりを立てよ。わらわはこの問題に尽力せねばならぬ。」

「そ、それは!日満両国には殿下が出席すると伝えてありますよ。」

「ふん。どうせ、姿かたちも見せずに、声も聞かせずに、外3の職員がわらわの声を代理で話すだけだ。日満両国が何というかもほぼ台本通りだろうに。そんな式典よりもこちらのほうが重要だ。」

「り、了解しました。」

 

 レミールは果断に様々な決定を下していった。一通りの指示を出し終えた後に、自邸のメイドが持ってきたドレスに着替えて、パラディス城に向かうこととなった。外はまだ暗いが、皇帝陛下への報告を為さねばならず、その報告はこの中で一番身分が高い自分が行わねばならぬと考えており、後事を託して、パラディス城へと向かっていった。

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