大日本帝國召喚   作:もなもろ

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総理の答弁を受けた軍側の反応とそれに対処する政府官僚の一幕。軍側はお怒りです。


大日本帝國東京都 内閣官房庁舎 内閣副書記官長補室 2676(平成28・2016)年1月18日(月) 午前10時15分

 内閣官房とは、内閣の補助機関であり、内閣総理大臣を直接補佐および支援する機関として、閣議事項の整理、内閣の庶務、行政各部の施策の総合調整、内閣の重要政策に関する情報の収集分析などを行っている。

 内閣に内閣書記官長や法制局長官をはじめとして各省大臣の直接の管理に属しない職員が置かれたのは明治10年に内閣制度が始まった当初からではあるが、内閣官房と言う組織が設置されるようになったのは、大正13年になってからである。大正13年12月20日に「内閣所属部局及職員官制(大正13年勅令第307号)」が制定され、内閣官房が設置された。この官制では、内閣に内閣官房と恩給局、拓殖局、統計局、印刷局の4局が置くことが定められた。

 内閣書記官長は内閣官房に置ける長であり、翰長という雅称の他にも、内閣官房長官と言う別称もある。しかし、この内閣官房の長は他の省庁の官房長・官房主事とは違って、強力な権限を有する。内閣所属の各局長は「内閣総理大臣ノ命ヲ承ケ局務ヲ掌理ス」ることが定められ、この規定は各省官制通則における各省の局長と同様の既定(「局長ハ大臣又ハ次官ノ命ヲ承ケ其ノ主務ヲ掌理シ及局中各課ノ事務ヲ指揮監督ス」)となっており、4局は内閣総理大臣を長とする機関の内局としての扱いを受けていると言える。内閣書記官長の規定は、「内閣総理大臣ヲ佐ケ機密文書ヲ管掌シ内閣ノ庶務ヲ統理シ所部ノ職員ヲ監督シ判任官以下ノ進退ヲ専行ス」と定められており、これは各省官制通則における官房長の規定(「官房長ハ大臣ノ命ヲ承ケ大臣官房ノ事務ヲ掌理ス」)と比べると強い権限を持つ規定となっている。

 即ち、各省庁の官房長が、大臣や次官の命を承けて職務を執行するのに対して、内閣書記官長は自己の権限で職務を執行する。内閣総理大臣の補佐という前提条件はあるが、自由裁量の幅が広い。そして、判任官以下の進退を専行する、すなわち高等官(キャリア官僚)ではないものの役人(ノンキャリア)の人事権を握っているというのは大きな違いである。各省であれば、これは各省大臣の権限であり官房長が専行できる権限ではない。

 

 大臣官房の組織は発足から徐々に拡充されていった。かつては内閣情報室という情報収集調査機関を内閣官房に置いていたが、これは独立して内閣直属の組織となった。しかし、内閣所属部局及職員官制に定められる機関として内局としての「情報局」は設置されず、情報局官制として外局扱いとなり、その長にも国務大臣が任命されることとなった。現在、内閣官房の組織は下記の通りとなる。

 

内閣官房

内閣書記官長

  内閣副書記官長(3人、政務担当2・事務担当1)

  軍事参議院書記官長(1人)

    軍事参議院事務局

    (総務課、調査第一課、調査第二課、調査第三課、戦略課、情報課、経済課)

    書記官長

    副書記官長(2人、危機管理担当・外政担当の内閣副書記官長補が兼任)

    軍事参議院書記官(7人)

    軍事参議院事務官(10人)

    軍事参議院理事官(3人)

    軍事参議院属(89人)

  内閣危機管理監(1名)

  内閣副書記官長補(3人、危機管理担当・内政担当・外政担当)

  内閣広報官(1人)

    内閣広報室

    (内閣広報室、国際広報室、総理大臣官邸報道室)

    内閣広報官

    内閣広報室内閣副広報官(1人)

    内閣広報室企画官(1人)

    内閣広報室調査官(1人)

    内閣書記官(2人)

    内閣事務官(2人)

    内閣理事官(1人)

    内閣属(11人)

  内閣情報官(1人、情報局副総裁兼務)

  内閣総務官(1人)

    内閣総務官室

    (内閣総務官室、総務課、人事課、公文書監理官室、総理大臣官邸事務所)

    内閣総務官

    総務課長

    人事課長

    内閣総務官室公文書監理官(1人)

    内閣総務官室総理大臣官邸事務所長(1人)

    内閣総務官室企画官(1人)

    内閣総務官室内閣副参事官(1人以上3人以内)

  内閣電網官(1人)

    内閣電網統括室

    内閣電網官

    電網統括官(1人)

    審議官(3人)

    内閣技監(3人)

    電網防禦監査官(6人)

    上席電網防禦分析官(1人)

    電網防禦運用専門官(1人)

    内閣書記官(5人)

    内閣技師(5人)

    内閣事務官(15人)

    内閣技手(55人)

    内閣理事官・内閣属(通じて20人)  

  内閣副書記官長補室

  (内閣審議官各1人が補佐に就く。)

    内閣審議官(3人)

    内閣書記官(10人以内)

    内閣事務官(20人以内)

    内閣理事官・内閣属(通じて60人)

 

  内閣官房参与

 

内閣総理大臣補佐官(5人以内)

内閣総理大臣秘書官(5人)

内閣総理大臣秘書官補

 

 ―――――

大日本帝國東京都 内閣官房庁舎 内閣副書記官長補室・軍規粛正問題担当室 2676(平成28・2016)年1月18日(月) 午前10時15分

 

 

『一体どうなっとるんですか。』

 

 国会中継を見ていた内閣書記官東雲勝也は、これはまずいと思った。東雲は、直ちに部下を走らせ、内閣副書記官長補室の数名の書記官や事務官を交えて対策会議を開こうとした。しかし、東雲の予感は対策を取る前に的中した。

 

『総理の答弁じゃあ、何か問題があった時の責任は我々が被ることになるじゃなかですか。こんじゃー、あんまりじゃなかがですか。』

 

 東雲に電話をかけて、怒鳴りつけてきたのは、大本営総務部総務課長の東陸軍大佐だった。陸空軍の不正事件が起こったとき、真っ先に閣議で軍規粛正について強硬に主張したのは李大蔵大臣であった。蔵相の場合は、公金の横領と言うのに怒ってというのが本音だろうが、総理周辺の場合は、この問題を軍を押さえつける材料とした。国会では兵部省の経理局長が起案して、大臣の決裁を経たということになっているが、それは事実であって事実ではない。一介の兵部省の局長に帝國軍全部隊に一斉に監査を行うというような荒療治ができるだけの力はない。この問題は官邸主導で行われたのだ。

 内閣副書記官長補室は、政策の企画・立案及び総合調整を担当する組織であり、各省からの出向者で構成されている。案件ごとに責任者として高等官である内閣書記官が置かれ、各省庁で課長級ポストを経験した者が割り当てられる。関連する案件については兼任することがあるため、実際に立案を主導するのはその下の高等官である内閣事務官ということになる。あるいは、判任官から昇格して高等官となった内閣理事官が責任者になることもあるが、ノンキャリアから昇格したというのは相当な実力者ということでもあり、実際のところ長期的に企画される重要な案件の責任者には、理事官が採用されることも多々ある。

 

「いや、東大佐。総理も言っていたが、総理は何も統帥部に全責任をおっかぶせて、知らん顔をしようと言うのではない。それにあの案件はあくまでも軍政側の要求であって。」

 

 総理周辺の事情を知る東雲にとっては、実態は別であることを知ってはいる。それに、帝国議会において総理の答弁が出た以上、それを踏まえたうえで話をしなければならない。総理の見解に反するようなことを外部に喋るわけにはいかないのだ。ただこんな言い方では相手も納得しないだろうということは東雲にも分かっていた。

 

『何をいうとるがですか。あんた私に会いに来て、この場限りですがと前置きしたうえで、軍部隊の一斉経理監査についてご理解いただきたいと、こういったがやないですか。総理もこれは軍に対する国民の信頼回復のためには、ぜひやるべきだとおっしゃっていたというから、我々軍部は、軍の予備費を割いてまで査察に同意したがですよ。』

「それは、私としても、軍の協力については深い謝意を抱いている。その気持ちに偽りはない。」

『だったら、総理のあの答弁はなんなんだがですか!!』

 

 結局のところそこに尽きる。本来は関係各部との間に根回しをして、総理の答弁はその骨格が定まる。ある程度の肉付けは、総理自身や書記官長クラスが行うとしても土台の部分は官僚たちが作成するのが常識だ。根回しもしていない段階で総理が答弁したことに東雲は心の中で悪態をつく。何のために予算委員長のポストを与党で握っているというのだ。質問通告の無い話が出た段階で、詳細については関係各部署からの情報を確認してから答弁するという形に、与党の予算委員会理事を動かして、質疑を打ち切ってしまえばよかったのだ。

 

「総理には・、その・・、筋を通さないといけないという思いが強いわけです。原理原則。憲法上軍の統帥権は、天皇陛下にある。統帥権は行政権の一部である以上、我々、政府側も勿論担っています。しかし、伝統的に大元帥が軍を統率するという枠組み自体、それ自体は総理は尊重しておられます。その、原理原則と言う観点から。」

『御為ごまかしはやめてくれませんか。佐藤栄作が首相だった時代から軍は政府から統制を受けてますやないですか。今回のこれも、政府による軍の統制の一つだったということは、わしらはちゃーんと理解しとるんです。それでも、国務優先と言う思いから政府の要求ば受け入れたがですよ。なしてこがん弱った犬ばさらにぶっ叩くごたあな真似ばするがですが。』

 

 軍部の側の怒りは収まらない。佐藤栄作政権による粛軍以降、軍の規模や勢威は縮小していった。佐藤政権下で、陸海軍省が廃止され、兵部省に統一された。対中国を見据えて、陸海軍の武官が充てられていた朝鮮総督と台湾総督も規模が縮小され、朝鮮総督府と台湾総督府も朝鮮事務局・台湾事務局と変更され、拓務省の外局扱いとなり、陸海軍大将が就任するポストではなくなった。それでも・両事務局長官は陸海軍中少将クラスのポストとして残ってはいたが、中曽根政権下の行財政改革により、拓務省が廃止となり、その組織は内務省に吸収され、ポスト自体が無くなった。軍はこれまで予算編成権を盾にした政府側により苦汁を飲まされ続けていた。

 

「軍部の側も誤解をしておられる。総理には、今回の件で軍をいじめようというような、そのような意図はありません。この件については、なんとか、適当な形で誤解を解くようしますので。」

『ほんなら、答弁を修正してもらえるっちゅー話だがね。』

 

 話をしているところに、部下からメモが入る。

「予算委員長、議事を中断。理事を招集。本件の質疑は中断し、後日の予算委員会で再度質問の時間をとる方向で、理事と協議。」

 やっとか、という思いがある。しかしそれにしても、判断が遅い。

 

「東大佐。たった今入った情報です。予算委員会は議事を中断し、この問題に関する答弁は後日行われることになった。その間に我々も総理周辺を動かして、軍部側にも納得していただけるような環境をつくります。しばらく、しばらく、お待ち願いたい。」

『なんっ・・・そがんこつ、ほんなこつ、腹んたつ・・・』

 

 東大佐が、口ごもるような小声で悪態をついている。独り言のようではあるが、相手に聞かせるつもりだったのだろう。東大佐が少したって、口を開いた。

 

『そっちがそげなつもりなら、わしらもこれ以上政府には真摯に協力できませんけんね。』

「お怒りはごもっとも。総理と書記官長が官邸に戻り次第、なんとか動いてもらいます。どのみち、総理へのぶら下がり取材があります。そこで、何らかの形で軍への配慮をと思っております。」

『ほんなこつ。わしらだけがババ引くようなことにならんようにしてつかあさいよ。全くほんなこつ。』

 

 東大佐は東雲の返事も待たずに通話を切った。東雲は、椅子の背もたれにがばっともたれかかり、どっと疲れた表情をした。

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