大日本帝國召喚   作:もなもろ

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いろいろな方面から、フェン王国における法人襲撃事件が日本国内にもたらされます。
しかし、何ですな。流石は拙作の読者の皆さまです。更なる混沌をお望みのようでございますな。


フェン王国首都アマノキ 中央暦1640年1月18日(月)正午

フェン王国首都アマノキ 中央暦1640年1月18日(月)正午

 

 この日の正午、フェン王国首都アマノキに設置されている大日本帝国公使館敷地内の東屋では、駐フェン公使の島田大吾が、フェン国王の側近である御側衆筆頭マグレブ・サエモンノカミ・ノリタケを迎えて、野点の席を設けていた。帝國の政治家や官僚には茶道を嗜む者が多い。それは、狭い茶室が密談に向いているからである。

 転移前の世界において、日本駐在の外交官が赴任前に必ず触れておくことを推奨されたものに茶会の作法がある。談話室、喫煙室、飲み会などと並んで帝國における意思決定の際の根回しの舞台が茶席である。但し前三者と違い、茶席は作法を習得しておかねばならない。勿論、帝国の政治家や官僚の側も厳格な作法を以て他国人に求めてはないが、だからといって何も知らなければ、それはそれで逆に不興を買う。故に、帝国駐在の外交官は前任からの引継ぎを受ける際に同時に茶道の手ほどきを受けることがある。

 今回、駐フェン公使の島田が設けたのは野点の席である。東屋に毛氈を敷いてのものであり、作法も気楽にということで島田はマグレブを招待した。今回は、島田の方からなかなか難しい返答を行わなければならぬので、出来得る限りのもてなしをと考えて、島田はこの席を用意した。

 

「なかなか趣深い庭でございますな。」

「ありがとうございます。」

 

 公使館の敷地内には庭園が設けられており、東屋からはその風景が一望できる。

 

「結構なお手前に御座った。」

「いえ、お粗末様でした。」

 

 亭主たる島田はマグレブをもてなしたが、不思議なことに異世界の人間であるはずのマグレブの作法はなかなか様になっていた。島田は不思議なことだと思った。フェンに駐箚してから半年以上になるが、フェンには茶道に類するような文化はみなかったからである。

 

「なるほど・・・。茶の湯とは良いものですな。日々の疲れがじわりじわりと抜けていくようでござる。」

 

 冬ではあるが、フェンの気候は日本よりも暖かい上に、風もなかったため、幸いにして火鉢で暖められた空気は風で飛んでいくようなことはなかった。東屋の空気は暖かいが、外交官の茶席は気候ほど暖かくはなかった。

 

「さて、マグレブ殿。貴国から要望のありました、通信設備の増強なのですが、、、」

「ははは、島田殿のご様子を見れば大体は理解できますが。」

「恐縮なことです。」

 

 フェン王国から申し出のあったフェン国内全土をカバーする通信設備の増強については、乗り気の逓信省に対して文部省が待ったをかけていた。日本映画界の至宝と言われている白沢監督が次の映画の舞台をフェンに定めており、そのフェンでの撮影が終わるまでは、フェンに高層の通信塔などを立てないように映画行政を主管する文部省に対して申し入れをしていた。

 

「しかし、不思議ですな。」

 

 マグレブは一言つぶやいて、手を胸に入れて、スマホを取り出した。

 

「このような薄くて軽い板切れ一つで、遠くの者と話ができるというのですからな。日満両国の技術には、恐れ入る次第です。」

「恐縮です。」

 

 島田は点てた茶をマグレブに差し出した。マグレブは一礼して茶碗を手にとり、再度口に運んだ。マグレブは茶碗を床に置いてから、再び口を開いた。

 

「だからこそではありませんが、時折発生する通信障害がなかなかどうして。いや、昔と比べると不便などとは言っておれませぬが。」

 

 島田とマグレブは同時に苦笑した。

 フェン王国全土の無線通信網の構築は、フェン王国を一気に発展させる土壌となると思われた。日満両国の出現以前、フェン王国では、早馬やのろしによる通信手段を使用して、全国各地と首都との間でおおよそ7日から10日かけて情報をやり取りしていた。これが、ほぼ一瞬で全土からの情報を首都アマノキに集め、またその逆ができるようになった。このため、フェン王国では一時期、周辺国家並みの通信環境の構築ができた。

 しかし、フェン王国において魔素濃度上昇という現象が断続的に発生すると発展の障害となった。後に、この現象は通信環境を悪化させることが日本や満洲の研究施設により明らかになったが、フェン王国の上層部は日満両国に対して安定的な通信環境の整備を求めるようになった。フェンの駐日駐満公使館の外交官が日満各国国内の図書館などで調べたところによれば、電線による有線通信や高層の電波塔を設置することでこの不安定な通信環境が改善されるだろうという結論が得られたのである。この情報が公使館を通じて本国へ届くと、フェン政府は日満両国の公使館を通じて高層無線塔の建築による通信の安定化を依頼した。

 

「力不足ですみません。」

 

 島田は本省に対してフェン政府の要望を届けた。フェン王国内での通信状態の不良は、フェン王国を担当する島田にとっても良いことではなかった。邦人の旅行客からの苦情が外務省や公使館に届けられることもあった。海外への在住や滞在する邦人の安全保護もまた外務省所管であるからである。

 

「映画撮影というのは、国家的な事業ということなのでしょうか?」

「いえ、そういうわけではないのですが・・・。」

 

 島田はマグレブの問いに苦笑する。

 帝国の権力の構造は複雑だ。省庁の力関係においては外務省の力は文部省のそれを凌駕する。ましてや、外務省は帝國のエスタブリッシュメントである華族が中枢部に食い込んでいる。外務省が政策の方針を示せば、内務・大蔵・兵部の3省が大きな反対を示さぬ限り、それが帝國の政策として動いていく。しかし、何事にも例外はある。文化人・芸術家といった階層は華族と密接にかかわり合いを持つ。今回はその彼らが文部省に加勢した。そうすると華族の多くが彼らに賛同する。外務省は板挟みの形となり、政策を推進することができない。

 

「一瞬で遠くと連絡が取れる。文明圏外周辺国ではある程度それが当たり前でした。そして、今や我々も同じような境遇を得ている。それは感謝すべきことですな。」

 

 マグレブの言葉に島田は一礼した。島田が最も恐れていることはフェン側が、日満政府と直接交渉をすることである。それは島田の顔を潰すことになる。島田は外務省の中では非主流派に属している。転移災害によって華族外交官の多くが地球に取り残されたことにより外務省内部の権力構造に変化があったが、主流派と非主流派の立場を逆転させるほどではない。島田の顔がつぶれるのは同時に外務省の顔がつぶれることになるのだが、その事態を引き起こした島田を外務省が救済するということはない。島田の失点として取り扱われ、今後の出世に響くことになるだろう。

 ピリリリリ。ピリリリリ。

 ふと、マグレブのスマホに着信が入った。マグレブは苦笑して島田に言った。

 

「最も、楽しい時間に無粋に割り込んでくるのは感心しませんな。」

 

 島田も苦笑して、遠慮せずに電話に出るようにと促し、席を外すこととした。

 

 

 ーーーーー

 同じころ、公使館の正門に日本人が二人やってきているという知らせを受けて、駐フェン公使館一等書記官の春原丈太郎は書記官室を出て玄関に向けて歩いていた。

 

「檜上・・・。ひのがみ・・・。聞いたことがある名前だな・・・。確か。」

 

 春原は記憶を手繰って正門前にやってきた男の素性を思い出そうとした。

 

「そうか、あれか。警視庁の切れ者であり且変わり者の彼か。」

 

 春原が内閣官房に出向していたころ、同じく警保院から出向していた内務官僚から聞いたことがある人物だ。東京帝大法学部を首席で卒業したにも関わらず、内務官僚でも警保官僚でもなく警視庁に入庁した変人がいると聞いたことがあった。そしてそれがまたべらぼうに頭の切れるやつであったということで一時期噂になった。しかし、その彼がなぜフェンにいるというのだろうか。疑問は尽きないが、ひとまず急ぐこととした。

 

「お待たせした。駐フェン公使館一等書記官の春原(すのはら)です。」

 

 春原もまた公使館一等書記官という高級官僚であり、自身の着る服にはそれなりの服を選んでいる。彼が見るところ、檜上の服もまた高級そうな仕立ての背広だが、砂や泥で汚れが目立つ。このアンバランスは一体どうしたというのだろうか。

 

「お初にお目にかかります。警視庁特命係檜上です。本日こちらに参りましたのは、大至急お知らせしなければならぬことができたためです。至急、島田公使に御取次ぎをお願いしたい。」

 

 檜上は警察手帳を見せて、公使との面会を求めたが、春原からしたら、いきなり公使との面会など尋常ではない。まして島田は今マグレブとの会談中であり、その会談を中止するのも難しい。

 

「島田公使は今用談中です。お話は私がいったん受けたいのですが。」

「事は重大であり、緊急の対処を必要とします。機動憲兵隊の出動を要請すべき事案です。」

「なんですと!」

 

 機動憲兵隊。憲兵の名がつく通り、兵部省が監督する組織ではあるが、警視庁及び各道府県警察高等警察部の要請により凶悪事件や人質事件への対処を担っている。

 

「ええ、この件は既に警保院総裁官房主事の小和田閣下にも今、僕の部下が報告しているところです。ああ、戻ってきました。春原書記官、僕の部下の鶴川巡査部長です。」

「鶴川です。」

「ちょ、ちょっと二人ともこちらに。」

 

 春原は、二人を正門の中に引き寄せて少し離れたところまで連れていった。

 

「一体何が起こったというのですか。機動隊の出動など尋常ではありませんが。」

「驚かれるのも無理はありません。実は、」

 

 檜上は、昨日あったことを話した。そして、自分たちはパーパルディアの監視の目から逃れるべく山中を進み、ある程度進んだところで、街道に出て、馬車を用立てて、アマノキ迄戻ってきたことを話した。

 

「事態は急を要します。すぐさま本国にこの旨を知らせて救出部隊を派遣しなくてはなりません。その為にも島田公使の口から外務省へも連絡してもらわねばなりません。」

「確かにこれは・・・。しかし・・・。証拠は、そう、証拠は何かあるのですか。」

「残念ながら、スマホの写真は遠距離からだったので、うまく撮れていません。しかし、事態は急を要します。」

「だが・・・。こんな大事、もし何かの間違いだったら、国際問題に・・・。」

「春原さん!!!!」

 

 檜上は春原に詰め寄り、プルプル顔を揺らしながら一喝する。

 

「帝國臣民と満洲国民の生命に危険が迫っています。一瞬の躊躇もならない!至急公使閣下に取次ぎを!!」

「わ、分かった。公使に至急連絡する。公使館の中の応接室で待っていてくれ。」

 

 春原書記官は踵を返して、駆けていった。

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