大日本帝國召喚   作:もなもろ

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いくつかの伏線回収です。そして、回収中の問題について一つ触れています。それが最終的にどう回収されるか、乞うご期待です。


パーパルディア皇国皇都エストシラント パラディス城第一外務局迎賓館 中央暦1640年1月18日(月)午後0時10分

パーパルディア皇国皇都エストシラント パラディス城第一外務局迎賓館 中央暦1640年1月18日(月)午後0時10分

 

 これまで描写してきた通り、帝國日本の外務省は、華士族階級がその中核となっている。大日本帝國の官僚機構は、天皇大権たる官制大権によって組織されるが、当然のことではあるが、外務省官制には、華族士族を優先して任官する既定は存在していない。華士族の職員数が他の官庁と比して多いのは、あくまでも人事上慣行に過ぎない。

 外務省に於て官制上の筆頭とされる局は総合外交政策局であり、次いで大東亞局、欧州局、北米局、中南米局、中東阿弗利加局、條約局、國際情報局、領事局となっている。しかし、実質上の筆頭局は欧州局であり、欧州局は華士族の職員がその6割近くを占めている。平民籍の欧州局職員も華族の次男三男が、分家して一家を構えることになった平民籍の者かその者を父に持つものがほとんどである。

 そういった状況であるから、純粋な平民籍の者が欧州局の職員となることは珍しいと思われるが、例外がある。一つが、判任官や雇員のそれである。官吏は高等官と判任官に分けられる。高等官がいわゆるキャリア官僚と呼ばれるものであり、判任官はノンキャリアの官僚ということになる。高等官が高等試験といういわゆる国家公務員試験総合職に該当する試験を経て採用されるのに対して、判任官は一般職や専門職に該当する普通試験を経て採用される。試験の対象も、高等試験が大卒を対象としているのに対して、普通試験は中卒を対象としている。難易度は高等試験に比すれば普通試験は低い。

 華士族やその子女であるからと言って、その全てが高学歴に達することができる頭脳を持っているということはないが、華士族はその階級が階級であるがゆえに、普通試験を受けるというのは体裁が悪い。それがために判任官の華士族というのは、いないわけではないがその数は少ない。雇員となるともなると更に少ない。雇員というのは、いわゆる非正規雇用の職員であり、長期務めれば判任官への任官も考慮されるが、華士族がそういう職に就くことは判任官のそれよりも更に体裁が悪いため、応募自体が少ない。

 欧州局の職員の中で華士族以外の者が職員となる場合のもう一つは、優秀な成績を修めた平民籍の者が華族の後ろ盾を得て奉職する場合である。欧州局が華士族の寡占状態となっているのは好ましくない。大日本帝國憲法第19條には、「日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得」と定めており、高等試験合格という資格を経て官吏となった以上、均しく官吏に任ぜられてなければならず、寡占状態であるのは帝國憲法に違背する可能性もあるのである。

 そういった事情で、欧州局はときどき平民籍の者を入局させるが、その者は華族の貢献を受けていることが多い。原作でもおなじみの朝田泰司は拙作ではそのような経緯で欧州局の局員となっている。

 

 帝國日本の華士族は、いわゆる貴族的な価値観を保持しており、いわゆるプライドの高い人間である。公家や武家が保持してきた伝統的な価値観に幼少期から触れており、格下から舐められるというのを嫌う。しかし、平民籍であった朝田はそういった価値観とはある種無縁で育ってきた。むしろ、帝國日本のエスタブリッシュメントを敬ってきた側であり、格下の存在であった。また、英領香港領事として勤務した経験から、外国での帝國臣民の保護を専一に考えるという下地もあった。

 そういった経緯から、大日本帝國特派大使である、朝田泰司は、今回の不測の事態に対しても、帝國臣民の身体保護を一番に考え、レミールに対して下手に出ることを選んだのだった。

 

「レミール殿下。殿下に対し奉り、お伺いしたきことがございます。殿下、そして殿下の側にて伺候されておりますタール卿は日満両国の国民がスパイ容疑として拘束されたとおっしゃいました。我々は、そして、この場にいらっしゃいますムー国では、罪は裁判を経て確定するものであるという価値観を有しております。それ故に、現時点では彼らに対するその事実は未確定の状態であると存じます。彼らの身の安全は保障されますのでしょうか。」

 

 朝田の脇に立つ陳は、一瞬だけ眉をひそめたが、直ぐに表情を戻し、正面のレミールの姿附近をじっと見つめつつけた。

 朝田と朕の背後に控える日満両国の使節団は、朝田が跪いたまま話始めたことに当初動揺した。そして、或る者は天皇・皇帝の代理人たる特使が他国の人間にへりくだる様を見て憤った。その中には、平民が帝國の特使などを務めたのが間違いであったと考えるような者もおり、帰国後に朝田の排斥を考える者もいた。或る者は命乞いをするかのごとき朝田の行為を醜態として捉えてしかめ面を浮かべた。この者達の中にも朝田の排除を考える者がいた。そして、或る者は帝國を脅そうとしているパーパルディア皇国に対していかなる制裁を以て臨むべきか、冷ややかな目を浮かべていた。様々な思惑がうごめいてはいたが、彼らはうろたえるような真似はしなかった。

 部屋の横でパーパルディアと日満両国との間の会談を眺めていた、ムーの駐パーパルディア大使、ムーゲらムー国の者達は朝田の行動に驚き、息をのんでいた。駐アルタラス大使館やロデニウス大陸のクイラ王国に置いてあるムーの出先機関を通じて日満両国の動向を注視していたムーから見たら、パーパルディアと日満両国の差異は火を見るよりも明らかであった。大国が小国に阿るような姿を見ることになるとは彼らは思わなかった。満洲国の特使はいつの間にか礼法を解き、レミール殿下に相対しているが、日本の特使は未だに礼法を継続している。彼らには日本国という国がわからなくなっていた。

 そして、この場で此の状況に一番当惑しているのが誰あろう、この場でレミールの介添えをしているタール卿、即ちパーパルディア皇国第三外務局東部担当部長を拝命している、アルダンテ・ブラジウス・タールその人であった。

 パーパルディア皇国第三外務局は無能の吹き溜まりと噂されている。それは、外1や外2といった皇国内の政府機関からではなく、ムーやミリシアルと言った列強諸外国からも同様の評価を得ていた。局長のカイオスはルディアス皇帝が自ら任命している通り、有能な人物であることには相違ない。しかし、その下は門閥貴族の係累や紐付きの無能が跳梁跋扈し、文明圏外諸国から富を巻き上げることしか能がない、無能集団であるという認識には総間違いがないと列強諸外国からは言われているところである。

 けれども、本局末端職員は別として、本局の幹部人事は皇帝ルディアスがチェックしており、箸にも棒にも関わらないような無能が本局幹部に就任することは、皇帝専制のパーパルディア皇国ではありえない。なるほど確かに、外3の幹部は、日満両国についての情報を騙されているだの、ありえないだのと初めのうちは切り捨てていたが、カイオスが独自に調査していた報告書などを盗み見るにつれて、徐々にではあるが日満両国が大国であることを理解しつつあった。彼らが情報の精査に利用しているのは、貴族御用達の商人達からの情報である。パーパルディア皇国もクワ・トイネやアルタラスといった日満両国と国交を有する国に大使館は設けてあるが、大使館員は、文明外国から富を搾り取るだけの無能であり、本国の本局での勤務には適さないとされた連中の吹き溜まりである。彼らから日満両国の情報が集まる事はまずない。そこで活用されたのが貴族御用達の商人からの情報で、タールら外3の幹部はうすうすながらも日満両国の強大さを理解しつつあった。と、同時に、日満両国が平和を貴ぶ、主権国家の平等といった国際関係を基調とする価値観を有していることも知り、付け入るスキがあるとあるとみていた。

 タールは、日満両国との交渉の初手で奇襲攻撃をくらわし、目いっぱい押し込みつつも、危険水域に達するとすれば、後退する算段で交渉に臨んだ。そして、タールはこの人質を得ての交渉を危険水域に足を踏み入れつつあると解釈しつつも、初めにこの交渉条件を単なる希望であることを、口頭で強調しつつ、相手方に譲歩する算段を立てていた。そうすることで初めから対等な条件で交渉するよりも、なおパーパルディア皇国に有利な形で交渉を妥結することができる。それがだめでも、日満両国の平和、相互に平等な国際関係を基調する精神からマイナスにはならないと踏んでいた。

 それゆえに、タールは朝田の行動に当惑した。カイオスが主体となって調査し、商人たちが保有する情報が間違っていたのかとも不思議な気持ちになった。ここは、抗議する場面ではないかと。レミール殿下の御前であることを考えると、強い言葉での抗議はできないだろうが、それでも、抗議の意思が先に来るだろう。もし、ムーの国民に対して、我が国にが同じようなことをすれば、まずは抗議と拘束されたものの無条件釈放が要求があってしかるべき場面だ。もし、我が国の民が文明圏外国家から同じような扱いを受ければ、監察軍が出動する場面だ。

 タールは理解が追い付かなかったが、彼がこの部屋でただ一人のパーパルディア側の行動を決定できる人物であること思い出した。外3の職員が自分を見つめる視線に気づいたからだ。彼らは、まだ押せるとニヤニヤした顔を私に向けてきていた。バカ者め。ムー国のムーゲ大使の目の前だぞ。ここは、我が国の寛大さを見せつけ、議論を出発点を固定化させることに主眼を置くべきだ。日満両国の考える議論の出発点よりも我が国を有利とした議論の出発点をだ。どうせ、交渉そのものは、外1がすることになるのだ。交渉の結果として多少の譲歩をすることがあっても、我が国が有利となる出発点を確保することのほうが、外1の連中に対して貸しをつくることが出来よう。

 タールはそう思いながら、声を出そうとした。すると、これまで、フェンで捕らえられている日満両国人の姿を映していた魔導通信機の画面が突如として暗くなった。タールは心の中で毒づいた。こんなに早く魔力切れになるとは、使えぬことだ。予定では、彼らと日満両国特使との間に会話をさせて、彼らの口から、現時点での安全は確保されているということを証言させる予定であったというのに。ならばやむを得ないと、タールは、レミールの口から日満両国特使たちに人質の身柄の安全が確保されているということを告げることとした。

 

「魔導通信機が使用する魔力量は大きい。現状については理解いただけたと思うので、これ以上は必要ないと思い、魔力を切らせてもらった。」

 

 ざわざわとする部屋の中でタールは、このような言い訳をせねばならぬとは腹立たしいことだと思った。

 

「朝田特使の申し出に対して、レミール殿下がお答えする。殿下は、案ずるなと仰せである。皇国は貴国等の民に対して慈悲の心を以て遇するであろうと。皇国と貴国等との間の司法制度には、違いがあることは承知している。しかしながら、勾留中の貴国等の民には、食事と寝床を与える。更に、取調べの課程において、体調不良を起こした者には、治癒師の癒しを与える。これらはわらわの名において実行に移すように現地の部隊に通知する。」

 

 タールの言葉に対してムーゲ大使は目をパチパチと瞬いて驚いていた。2か月ほど前にパーパルディアはアルタラスでムーとミリシアルに対して敵対的ともとれる行動を採った。ムーゲは、ルバイル国際空港襲撃事件を思い出し、パーパルディアは日満両国に一目を置いているということを理解した。市民を拘束したと言っても、刑の確定までは彼らを丁重に扱うということを宣言したのである。これまでのパーパルディアの行動を鑑みれば、大きく異なることだ。

 しかし、パーパルディアが紳士的に対応すると言っても、このようなだまし討ちともいえる行動を採ったことに対しては、日満両国は抗議の声をいれねばならないだろうとムーゲは思っていた。そう思っていたところに満洲国の陳特使は痛烈な抗議を行った。

 

「タール閣下。我が国がこれまで行ってきた外交活動から得られたところによれば、貴国のこれまでの他国に対する姿勢には、共感を抱けるところが少ないと感じております。私は危惧を抱いております。貴国が我々の市民の生命と身体の安全を守ってもらえるのか、そして、貴国によって拘束された市民の中には女性も数多くいるはずです。彼らの尊厳は確かに守ってもらえるのでしょうかな。」

 

 陳特使は冷ややかな目でタールを見つめており、信用ができないという感情が露になっていた。タールは不愉快に思いつつも、声を張り上げて再度宣言した。

 

「レミール殿下のお言葉を疑うなかれ。殿下は重ねてこう仰せである。皇国は、無辜の民を、それが他国の民であったとしても害することのないよう、皇国貴族の名中でも最上位に位置するわらわの名により、寛大なる慈悲の心を以て、貴国等の民への保護を与えることを約す。また、わらわも女性である。其方の懸念とするところは、わらわの懸念でもある。スパイ容疑で拘束中であることから心穏やかに過ごせるとはいえぬ。快適にとはいえぬが、取調べ以外では楽に過ごしてしてよいこと認める。決して気持ちが沈み込むことがないよう本国の家族らとも連絡が取れるように計らうつもりである。」

 

 ムーの大使館員から驚きの声が挙がった。パーパルディアの法令では、罪人として捉えられた者は家族と連絡を取ることは許されていない。何らかの手段で証拠隠滅などをされてはならぬからである。そこを曲げてきたということで、ムーの大使館員は、パーパルディアの本気度を理解した。

 

「・・・・我が国は、今回の拘束に際しては、再度、担当者から詳細な説明を求めます。」

 

 陳特使の抗議に対してタールは陳を睨みつけた。とはいえ、タールとしてもこれ以上の冒険をするつもりはない。ただ、収穫はあった。理由は分からぬが、日本の朝田特使は今回の拘束に異を唱えてはいない。あとは、外1の連中が更に押し込むか、引き下がるのかを決めればよい。

 収穫はあった。まずは、このまま見舞金を渡して、式典を終わらせる。そして、外1に報告書を出す。そこから先は、外1のお手並み拝見というところだな。手こずるようなら、外3がこの案件を横取りしよう。タールはそう考えて、式典の本題の言葉を発した。

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