大日本帝國召喚   作:もなもろ

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2675(平成27・2015)年2月23日 外務省大東亜局中東アフリカ局合同局内会議

 外務省内部では次の外交関係開設に向けた協議が大詰めを迎えていた。大東亜局内では、クワ・トイネ公国国内にある各国の大使館を訪問し、そこから国交樹立につなげたいという意見が大勢を占めていた。直接各国に向けて外交官を派遣するよりも国交樹立のスピードは速くなるし、クワ・トイネの口添えも期待できることから、国交樹立の成功確率も高くなることは間違いないだろうとの判断に立ったものである。

 

「クイラ王国はここから離れた国と国交を持っていると聞いたが、それについて報告してくれ。」

 

 大東亜局長の細江智文は局員を見まわし、報告を求める。では、私からと外務省中東アフリカ局所属の一等書記官勧修寺則英が挙手をする。クイラ王国が中東の国に似ているということから、クイラ王国については、中東アフリカ局中東第二課が担当することとなっていた。したがって、本日は大東亜局と中東アフリカ局の合同会議となっていた。

 

「クイラ王国から聴取した話によりますと、我が国からはだいたい2万kmほど西にある国らしいのですが、その国はクイラ王国から石油を購入しているという話をしていました。」

 

 会議室内にどよめきが起きる。細江局長は手を上げて局員を制止させ、続きを促した。

 

「クイラ王国からの情報によりますと、この世界は第一文明圏、第二文明圏、第三文明圏とそして、文明圏外の国という形でランク付けがなされているようです。このうち、我が国を始めとするクワ・トイネ、クイラともに文明圏外の国に当たるらしく。第三文明圏というのが、昨今貴局でも話題に上っているパーパルディア皇国であるとのことでした。クイラが石油を通して関係を持っているのが、第二文明圏のムーという国らしいです。石油の採掘施設を確認した建設省の関係者曰くですが、文明のレベルはさほど高くはないと感じられるとのことですが、石油を調達する以上は、この近辺にある国家とは文明の違いはあり、クワ・トイネが中世ならば、少なくとも近代の入り口にはいるのだろうとは結論付けておりました。どの程度の力を持っているのかも含めて調査を行っていきたいと思います。また、ムーと接触して国交樹立を含めた交渉を開始すべく、現在当局で派遣メンバーを検討中です。」

 

「聞いての通りだ。パーパルディア皇国がマスケット銃らしきものを持っていると聞いているので、近世あたりの文明であると仮定するのであれば、ムーはそれ以上となる。クイラから石油を調達する意思があるということは、それなりの文明レベルであることは容易に想像できるが、約2万キロはなれた場所から運んでくるということは、やはり、それなりの科学力が無くてはできない。注意が必要だ。」

 

 細江局長は周囲を見渡しながら、局員に話しかける。局員から質問があがった。

 

「大東亜局南亜課員の柳原です。クイラ国内にある石油の施設を鑑みれば、ムーの技術力がわかるかもしれないという話ですが、施設建築はクイラ側が行ったのでしょうか。ムー側がおこなったのでしょうか。」

 

「クイラの説明によると、ムー側からは大体の方法を指示されて、それに従ってやっているとのことでした。大規模な技術指導のようなものが行われているとは確認できておりません。」

 

「とすると、ムー側が技術流出を危惧しているのかもしれませんね。パーパルディア皇国も列強という地位にある以上は、皇国が自身の地位を脅かさないように、ムーはクイラ国内にあえて石油に関する施設を自前でおいていないことも考えられます。だとすれば、我が国が大規模な石油施設を建設するのは拙いのでは?」

 

 この意見に対して、局員たちは周囲と小声で相談を始めた。少したってから細江局長は話し出した。

 

「その意見は検討の余地はある。ただ、我が国が置かれた状況を鑑みれば、大規模な石油関連施設の建設は必要不可欠だ。安定的な供給を得るためには、現在ある計画は動かせない。外交上の懸念については、上には報告しておく。」

 

 局員一同が頷く。これを確認した、秀島純一郎中東アフリカ局長は次の懸念事項について話し出した。

 

「ムーと名乗る国については、クイラ国内で接触した結果だが、特に可もなく不可もなくといったところのようだ。良い感情は持たれていないが、悪い感情も持たれていない。まだ、向こうも我が国を知らない状況であるので、接触を繰り返していけば、国交樹立に持っていくことは問題ないだろう。だが、問題はこの近辺にある国家で、既に我が国に悪感情を抱いている国家だ。ここをどうするのか、これについて局員諸君の意見を聞きたい。」

 

 ロウリア王国担当の現中東アフリカ局中東第一課長東野栄五郎が挙手をして話し始めた。

 

「局長御懸念の件ですが、まずいままでの経緯から話しますと、クワ・トイネにおける大臣級の拡大会合の結果を得まして、当課ではクワ・トイネ側の了承を得て、クワ・トイネとロウリアの国境付近にあるギムの町に当課から外交官の資格を持つ者を顔見せの形で送りました。ギムの町で情報収集に努め、商人間のつながりからロウリアの下級役人にコンタクトを取ることに成功しました。これが2月18日のことです。しかし、結果的に言えば、良好な接触とはいいがたいものでした。相手方は、クワ・トイネ側から我々が来たこと、それ自体に不満を持っておりまして、クワ・トイネのような亜人がたくさん住む国と仲良くしている国は我が国の上層部の受けが悪い。上に取り次ぐ自信はとてもないという状況でした。なんとか、接触自体は維持しようとまだ上に取り次がなくてもよいということで、2月28日に再度の会合を持つことだけは成功しております。まずは、我が国としてロウリアとも親交を深めていきたいということを根気強く訴え続けていく、そして相手方との接触が切れることのないようにあまり押し付けがましくならないように対話を重ねていく必要がある。そのように課内では結論付けまして、東野局長に掛け合って、外務報償費から付け届けを出してもらうように工作を進めていく所存です。」

 

「大東亜局英印課長の石狩です。クワ・トイネからもたらされた情報では、ロウリア王国国内の情勢はあまりよくないとの話が上がっております。ロウリアの陸海軍共に物資の集積を進めているような話や傭兵の雇い入れを始めたというような話がちらほらと聞こえてくるという情勢です。お話を聞く限りですと、じっくりと腰を据えて取り組んでいくより他に手段はないというのはわかりますが、時間切れの可能性もあります。ここは、ロウリアの首都近辺に直接外交官を送って、首脳部と直接談判に当たってはいかがでしょうか。」

 

 石狩課長の意見は、ここに集う外交官外務官僚ならば一度は考えたことだ。局面を一気に打開するためには、直接交渉しかない。

 

「石狩君。君は軍艦を送れというのかね。」

 

 大東亜局長の細江智文は、外交官の仕事に他の職種が介入することをことのほか嫌う人物であった。転移前の世界で日本と中華民国間の経済協定―賃金の安い労働力として見込んだ中国人の日本国内への呼び込みを主眼とした協定であり、財界の支援を得ていた―を推し進めていたが、地方や政軍界の反対にあって頓挫した。これ以来、外交官の仕事に多職種がからむことを厭うようになったのである。その彼が、英印課長を掣肘した。

 

「この非常時だ。あらゆる方策を取ることそれ自体は反対しない。だが、石油備蓄の問題も含めて、安易に軍艦を派遣などして、かえって問題がこじれてはいかん。外交官の仕事が軍の仕事に変わってしまう。我が国はまだ軍事作戦を円滑に進めるだけの資源を握ってはいない。慎重に事を進めるべきだと思う。」

 

 細江の主張そのものは間違ってもいないし、現時点では日本国内の資源量を鑑みれば正解であることは間違いではない。

 

「細江さんの意見はまあわかる。」

 

 秀島中東アフリカ局長は続けて話す。

 

「外交官の仕事は口八丁手八丁だ。弁舌を以て相手をミスリードする。兵器を持たない戦争だ。兵器を出しての交渉は、外交官としては二流だとは思う。まあ、今は非常時だからそういう考え方に固執するわけにもいくまいが、せっかく繋がりは保てているわけなので、もう少し事態の推移を見守ってみてはいかがだろうか。あと、数回の接触でも変化がなければ、砲艦外交もやむを得ないと思うが、細江さんそれでどうかね。」

 

 落としどころを用意した秀島局長に対して、細江局長も首肯する。

 

「秀島さんの意見に賛成です。大臣もクワ・トイネでロウリア王国の開戦を思い止まらせるべく、外交的手段の検討に入ることを向こうの外務卿とも話し合っておられます。このためには、軍事的な威圧というのはやはり必要となります。この世界では、我が大日本帝國は国際連盟理事国の大日本帝國ではないのですから何らかの形で軍事力という形を見せる必要はあるでしょう。ただし、まだその段階ではないと考えます。諸君もこの方向性で動いていただきたい。軍への支援を始めるのは、外交的な手段を尽くしてからとしたい。」

 

 局長提案は外務省の方針として決定された。当面は、クワ・トイネ公国とクイラ王国を通じた各国との外交関係構築・ギムの町に派遣された外交官を通じてのロウリア王国との外交関係構築の二本柱で異世界の大日本帝國外務省は行動を進めていくこととなった。

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