大日本帝國召喚   作:もなもろ

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大日本帝國東京都帝國議会院内閣議室 2675(平成27・2015)年3月3日午前9時

 定例閣議。

 閣議は、大日本帝國内閣総理大臣以下国務各大臣が一同に集い、内閣の意思を決定するために開く会議である。毎週火曜日と金曜日が定期の閣議招集日とされ、定例閣議と呼称されている。閣議の様子は非公開であり、議事録は作成されない。内閣総理大臣官邸の閣議室で行われるのが、常例とされているが、帝國議会の会期中は帝国議会議事堂内部にある院内閣議室で挙行されることが多い。

 

―――――

 

「ようやく日本丸が国際社会という荒波に漕ぎだしましたな。」

 

 飯島厚相は文学的な言辞を好んで使う。当然この言葉は、日鍬条約の発効をさしての発言である。

 

「まだまだ、国交を結ぶべき国は多いです。既に条約の発効待ちのクイラを除くと、北の方にあるトーパ王国、マオ王国、アワン王国、シオス王国、アルタラス王国、ムー国。この辺りはなんとか普通に国交を締結できるでしょうな。クワ・トイネ公国やクイラ王国の線からコンタクトは取れておりますので、じきに朗報が届けられると思います。」

 

「ということは、やはり徳川さん。難しいというか、外務の方で問題とされているのは・・・」

 

「ええ、田中大臣ご推測の通り、既に閣議で皆様にお伝えしておる次第ですが、ロウリア王国とパーパルディア皇国との間の国交樹立交渉はいささか、いや極めて難航しそうですな。」

 

 徳川外相がため息交じりに吐露した感情に閣議列席者からもため息が混じる。下田司法大臣が、詳しい説明を求めようと話を振る。

 

「極めて難航とおっしゃるか。」

 

「ええ。極めて難航です。下田大臣には、クワ・トイネ公国内部における法律問題を検討していただいたので、大体のところはご承知ですが、中世並みの法思想ですので民事刑事の区別もついていない。日本国民や特別在留者の公民権をクワ・トイネ公国に守らせるのはまずもって難しい。ですが、租借地と鉄道付属地を設定することによって、その範囲内ならば、日本の裁判権が通用する形となりましたので、陛下の赤子を恣意的な裁判から守ることはできました。これは、日本使節団に日本法のあり様などを講義していただいた下田大臣の労を多とするものでありますが、クワ・トイネ公国とクイラ王国から他の国々に働きかけてもらい、他国の裁判権を免除する形での国交交渉がある程度期待できると考えております。」

 

「然り然り。中世の国家に陛下の赤子の生殺与奪の権を握らせるわけにはまいりませんからな。そのあたりを野党に突っ込まれては厄介です。」

 

 名前を言われた下田大臣が合の手を入れると、周囲からも同意の声が上がる。如何に友好国とはいえ、人権意識が皆無の国家に国民の裁判権をゆだねるというのは近代国家の指導者層には了解しかねる相談であった。

 

「下田大臣のご発言の通り、我が外務省もそのあたりは妥協しかねるところがありますが、問題はロウリア王国とパーパルディア皇国との交渉です。

 ロウリア王国は、クワ・トイネ公国とクイラ王国のアシストが期待できない分自力での交渉となりますが、ロウリアは皆さまもご承知の通り、人種による迫害を是としている正義の観念が我々と違う未開の土人国家です。クワ・トイネ公国と先に国交を結んでいることがかの国の上層部の我が国に対する印象をマイナスに働かせており、交渉は難航しております、一応、クワ・トイネ公国西部のギムの街に外交官を送り込んでおり、そこからロウリアの東部のマインゲンという街の出入国管理官との間に交渉のパイプはかろうじて維持している形ではありますが、なかなか進んではいない状況です。」

 

 いったん話を切った徳川外相に対して、帝國政府のクワ・トイネ鉄道敷設計画を主管する運輸大臣が意見を述べる。

 

「外務省の労を多とするものであります。政府の計画では、将来的にギムの街から公都クワ・トイネに鉄道を引くつもりですが、着工を早めて、人的往来を活発にし、ロウリアにも我が国と手を結ぶことが国の繁栄につながるということを理解してもらうというのはどうでしょうか。」

 

「泉運相の意見には一理あると思うが、人種差別主義者の塊のような頭の固い連中が、鉄道という文明の利器を理解できるものかね。」

 

 王逓相が泉大臣の意見に対して懸念するところを述べると各席から失笑が飛び交った。

 

「タイムスリップ物の小説のお約束の展開ですね。人間は自ら理解できないものを恐怖するとも申します。かえって態度を硬化させる可能性も検討すべきとは思います。それで、外相。パーパルディア皇国のほうはどうなのですか。」

 

 結論は出ていないが。伊田文相が外務大臣に先を促した。

 

「パーパルディア皇国はもっと難しい可能性があります。一応、クワ・トイネ公国内にパーパルディア皇国の大使館があるにはあるらしいのですが、どうも大使は大使館に常駐されておらぬようです。かの国にとってはクワ・トイネ公国に赴任するというのは、無能物の烙印を押されたも同様の措置らしいですな。任務らしい任務もないようで、公都クワ・トイネの郊外にある大使公邸からめったに外に出ないか、出たとしても狩猟か何かに興じるだけで、遊び惚けておるらしいです。大使公邸を訪ねても大使館を通せの一点張りで、大使館を訪ねても大使が来た時に伝えておきますというだけのようです。我が公使館の開館式にも招待状を出しましたが、大使はおろか、大使館からも人が来てはおりません。

 また、これだけではなく、パーパルディア皇国というのは、この世界における列強国の一つということらしいです。地球でいうところの国際連盟理事会指定理事国の地位というところですが、そんな国に対して治外法権を要求したとして認められるのかどうか。かえって態度を硬化させてしまいかねません。とはいえ、陛下の赤子を未開の国家の裁判権に服させるというのも外務省としては同意しかねるところであります。かなり交渉は難航しそうです。」

 

 徳川外相が憂鬱な顔で説明を行った。列席の各大臣も顔をゆがませている。

 

「これは、なんというか、先行きが暗いですな。もういっそのことそれらの国とは縁を結ばなくてもよいのでは?つかず離れすというか、必要が生じれば向こうの方から接触してくるのではないでしょうか。それを待ってみてはどうでしょう。」

 

 鈴木環境保護院総裁が、あえて放置するという選択肢を提出する。しかし、徳川外相はこれに異を唱える。

 

「パーパルディア皇国はここ十数年で著しい拡張政策をとっている国らしいのです。放置しておいた次の接触が軍隊を派遣してきたという事にもなりかねません。平和的に接触を果たして、少なくとも大東洋方面での拡張、特にクワ・トイネとクイラに対するそれは掣肘しなければなりません。二国は我が国の生命線といってももはや過言ではありますまい。

 ロウリアも情勢が不透明です。特にロウリアは先の二か国と国境を接しております。悪戯に冒険主義に出られる前になんとか国境線を安定させる必要があります。」

 

「外相。それには、力を見せる必要があるのでは。」

 

 田山通産相が大田原兵相を見ながら、話しかける。

 

「クイラでの石油採掘施設の建築は今始まったばかりです。増産はおろか、パイプラインを今から引くところです。補給に不安がある中で、軍を動かすべきではないと思いますが、兵相はいかがお考えですか。」

 

「外相のおっしゃる通りかと。軍を動かすのは、補給がしっかり確立してからがセオリーです。いま軍を動かすとなると、内地や満洲から油槽船を大規模に随伴させる必要がありましょう。クワ・トイネとクイラの租借地建築も始まったばかりで、人手が足りません。工兵の大量投入と警護の歩兵部隊の随伴は可能ですが、戦車の投入はなかなか難しい。たしかに、戦車のようなあちらからしたら手も足も出ない兵器を見せるとすれば、士気をくじくことも可能でしょうが、補給が難しい。我々もまだ冒険に出る段階ではないだろうと思います。」

 

「外務省にはこれら二か国については、務めて外交的手段で対応してください。それに、御上も力の誇示は好まれますまい。さて、そろそろ、委員会が始まりますので、閣議はこれにて散会します。閣僚の皆様にはそれぞれの委員会に出席してください。」

 

 山上総理の散会宣言で閣議は終了した。本日は、貴族院において、オランゲ駐日クワ・トイネ公使を迎えての外務大臣による外交方針演説が予定されている。

 

―――――

平成27年3月3日午前9時

 

帝國議会院内閣議室

 

〇出席者

内閣総理大臣 山上誠一

内閣書記官長 荒池正十郎

外務大臣 侯爵徳川義輝

内務大臣 岡孝則

大蔵大臣 李俊太郎

兵部大臣 大田原信頼

農務大臣 朴詩織

通商産業大臣 田山宏茂

司法大臣 下田勇太郎

文部大臣 伊田信子

厚生大臣 飯島信繁

建設大臣 田中直茂

労働大臣 國枝千廣

運輸大臣 泉惣太郎

逓信大臣 王通宣

国務大臣兼環境保護院総裁 鈴木善太郎

国務大臣兼警保院総裁 大出幸司

国務大臣兼情報局総裁 殿山真二郎

〇陪席者

内閣書記官 日高祐樹

内閣書記官 朴信二

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