大日本帝國召喚   作:もなもろ

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ギム防衛陣地の現状です。


クワ・トイネ公国西部都市ギム西方防衛陣地 中央暦1639年4月2日

 クワ・トイネ公国国境の街ギムを防衛するために50年前の戦争時に設営された防衛陣地は、元々ギムとマインゲンをつなぐ街道を遮断し、空堀と盛土を備えていた。遮られた街道の代わりは城柵を沿うようにして新たに作られたが、何分遠回りになることから、行商人からの何度も行われた要請で、城柵のロウリア側とクワ・トイネ側の双方に門を設置して、中央を通す形で再度新街道が作られた。このため、東西を貫く街道を南北から挟む防衛陣地となっていたが、ロウリア側の出入国締め出し措置がクワ・トイネ側に伝わるや否や、新街道は閉鎖され、再度南北に分かれていた城柵は一つになり、陣地構築が急ピッチで進められていた。

 そこに、日本の臨時陸軍工兵連合隊から二個工兵大隊と一個歩兵大隊が加わり、ブルドーザーや油圧ショベル、トラックなどの重機が持ち込まれての野戦築城の規模が拡大した。城柵手前の空堀を少し深くしかつ広げる。空堀の前方には50メートルほどの長さの畝状竪堀を連続して造作し、大軍の侵攻をコントロールする。竪堀には騎兵の突進対策に逆茂木を設置するのも忘れない。そのさらに前方には地雷原を設置し、敵の多くを殺傷するとともに、勢いを削ぐ。

 本城たる防御陣地の左右の端には空堀や畝状竪堀を掘削した際の土砂が運ばれ、更に土塁を構築した曲輪が設置される。ギム防御陣地の前方から見るとさながら鶴翼の陣形を彷彿とさせる。更に街道の門があった場所には馬出を作り、左右の曲輪から挟撃することも可能な配置となっていた。

 これらの野戦築城に際しては、ロデニウス綜合開発の派遣工員が手伝いを願い出てきた。工員の中には、若いころの徴兵時に工兵隊に配属された経歴を持つ者もいたため、野戦築城についての経験がある。年齢的には年一回の召集を伴う予備役を終了して予備役年齢を超過した後備役に該当する者も多くいたが、重機の扱いには手慣れていたため、臨時陸軍工兵連合隊司令官の今西史郎陸軍中将は、人事権を区処する兵部省に伺いを出した。兵部省は、今事案に限って後備役の現役復帰を認めるとともに彼らの武勇を貴び予備役時の階級から一階級昇進させたうえでの現役復帰の辞令を発出した。

 陸に対する防御に対して空に対する防御はまだ手薄である。城柵の後方には簡易ながらも飛行場を設営し、戦闘ヘリ部隊の受け入れを始め、併せて、数個の燃料弾薬保管施設を建築した。いまだクイラの石油施設が本格稼働していないことから、弾薬のみならず燃料も日本本土から運ぶ形となった。船舶輸送で日本本土から燃料を輸送し、途中までであるが完成した野戦軽便鉄道を使って、燃料弾薬を輸送し、現地まではタンクローリーとトラックを使ってのピストン輸送である。開戦に備えつつある今日の時点ではまだ3回程度の全力出撃しかできない。

 日本軍先遣隊に遅れて到着した満洲軍先遣隊も徐々に戦力を増強させ、先遣隊同士での戦術会議も始まった。当初全軍の指揮権は満洲側にあることから戦線中央を満洲側が担当し、日本側が左右どちらかの曲輪を担当するとの案が日本側より出された。しかし、満洲側は総司令部はギム防御陣地本陣に間借りし、満洲側は左右の曲輪を固める。機甲師団を左右に分散配置し、左右の曲輪は遊撃的に動き、万一にも左右の曲輪の外から敵に迂回されないように警戒線を広く展開する。こういう見地から日本側には敵の正面を担当していただきたいとの案が満洲側から出された。日本軍は精強無比の近衛師団が派遣されると聞いている。実績に依拠して戦線正面の突破を防いでもらいたいとの意見に日本側も同意した。総司令部と各部隊をつなぐ有線回線の構築も無事整いギム陣地は開戦にむけての準備を整えつつある。

 西部方面騎士団団長バスチアン・モイジは防御陣地本陣に設置されている遠見櫓から重機のうなり声が高鳴る陣地前方を見ながら静かに闘争心を醸成させていた。

 

 

― 西部方面騎士団団長バスチアン・モイジ

 日本と満洲との交流が開始される前、このギム防衛陣地は敵を迎えるには全く役に立たないものであった。西部方面騎士団の名前で何度も中央に要請を送り、防衛陣地の整備と防衛部隊の増強を願い出てきた。ロウリアを刺激したくなかったのか、なかなか重い中央の腰であったが、ロウリアの様子がおかしいと中央が判断するや否や陣地の整備許可が降りた。防衛部隊も若干の増強があったが、大軍を擁していると言われているロウリア軍に対峙するには乏しい戦力であった。日々焦燥感だけが強くなっていく。妻と娘がいるギムの街を守れるのか。そこに降ってわいたような日本国と満洲国との国交樹立の話、公都の軍務局からなんでも日本と満洲の国力はすさまじいものがあるとの話だったが、眉唾もいいところだと思った。こちらは死を覚悟してロウリアに対峙しようというのに、気の抜けたような話を聞かせてきた軍務局の役人を恨めしくも感じたものだ。そんな話より部隊増強の願い出はどうなったのだと。

 我々の運命の変わりはじめた、いや変わったと認識されたのは、忘れもしない先月15日のことだ。国交を樹立したという日本国と満洲国の武官がそれぞれギム防衛陣地にやってきた。冲永陽介陸軍中佐と太田垣吉英陸軍中校と名乗った彼らはギム防衛の協力を願い出てきた。鉄でできた馬の曳かない馬車―彼らは自動車と言った―それに乗せてあった機関銃という武器を取り出した。どういう武器なのか試してもらったが、50メートルほど先においた鎧をめがけて筒の先から小さな礫が何十個も飛んでいき、瞬く間に鎧を跡形もなく破壊した。こういった武器を本国から持ってくるので、この陣地に設置させてほしいとのことであった。ついでに、陣地の防御能力を上げるための数々の方策もある。陣地の拡充を含めて、こちらにいろいろ任せてもらいたいとのことであった。

 陣地の改修は、街道から見えないところから始まった。敵に防衛能力の向上を知られるのは拙いとのことであった。私もまったく同感だと思った。改修図案を見せてもらったが、このような大工事すぐに済むとは思えなかった。戦争は間近に迫っていると感じられる。しかし、心配は杞憂だった。日本は重機なる機械を使用して物凄いスピードで工事を仕上げていく。地面が瞬く間に掘り起こされ、盛土がなされていく。地形があっという間に変わっていく。見慣れない構造の地形もあったが、説明を聞くとなるほど、これは敵の大軍を分散させて、小勢での防衛を可能とする構造だと感じた。

 中央部分の改修はいつとりかかるのだろうか。きいてみたところ、近くマインゲンの役人が日本との交渉打ち切りを通告するためにギムの街を訪ねてくるそうで、それが帰ってからだとのことであった。ロウリア側が既に国境を事実上封鎖しているため、こちらもマインゲンの役人が帰れば国境を封鎖する措置をとるとのことで、ギムの街上層部の許可も取ったとのこと。情報の封鎖が徹底していると思った。

 あわせて、斥候に対する排除措置もとるとのこと。街道沿いの森の中に潜伏し、長距離射程の小銃を使ってロウリアが送り込んでくるであろう偵察要員を人知れず射殺する。日本の小銃は森の中から狙撃ができるのだという。この防御陣地よりも前に出るというのだ。森の中に隠れてとはいえかなりの危険な仕事だ。我々西部方面騎士団の中から選抜すべきだろう。しかし、日満側から我らが銃の扱いに慣れていないということで、却下された。

 代わって立候補したのがクイラ王国軍の獣人部隊であった。なぜ我らと同じ時期に国交を樹立した彼らが銃の扱いに長けているのだろうかと思い聞いてみると、50年前の戦争におけるクイラの山岳地帯戦が関係しているらしい。戦闘状況を日満の軍上層部が確認し、クイラとロウリアの国境防衛のため多数の狙撃兵を速成したようだ。今回その部隊の一部がこちらに来た。クイラとロウリアの国境は、獣人の怪力と天然の要害たる移動には難儀する地形のおかげで、それに加えて日満の援助で今回も安泰である。しかし、ギムが敵の手に落ちれば、そうはいかない。ギムを守ることは、クイラ本国を守ることにつながる。ゆえに我々はギム防衛にはせ参じた。そう話して狙撃銃を背負い、自転車にまたがって颯爽と陣地を去っていった。

 これも日満両国の支援の効果なのだろう。クワ・トイネもクイラもロウリアを相手にして、共同して戦線を構築することなど出来なかった。クイラの獣人部隊が優秀といえども、自国防衛が精いっぱいだったのだ。我等西部方面騎士団は、防衛陣地の正面を担当する。主に竪堀を通過しようとする敵を機関銃でなぎ倒すのが仕事だ。まだ機関銃の扱いに慣熟していないと日満側から判断され、機関銃をあまり操作しなくても引き金を引くだけで対応できるようにと銃の向きをほぼ固定している。

 日満の手厚い対応によって陣地が様変わりしていく。この戦争は勝てる。ギムは守れる。頼もしく思うとともに、この戦場を支配するのは日満軍ということに一抹の寂しさを覚えた。クワ・トイネ防衛、ギム防衛の尖兵たる我らがその戦場においては、お荷物でしかない。これまでは、全滅を賭してでもロウリア兵を追い返すという悲壮な考えしかなかったのに比べると、なんと贅沢な話だろうか。我等の防衛戦に加わってくれた日満杭三国の将兵を愚弄するかのような話だ。「絶対的な強さは時に人を退屈にさせる」というのは誰の言葉だったか。埒もない。日満軍の絶対的な強さ、勝利を目前にして気が緩みすぎている。情けない話だが、改修が日々進んでいく様を見ながら鬱屈した感情があったのは事実だった。

 

 

― 西部方面騎士団団長副官クレマン・ジラール

 団長の背中から熱い血がたぎるかのような雰囲気を感じている。けして、昂奮しているわけではない。静かな闘志とでもいうのか、かならずやロウリアを撃退するという強い意志を感じる。

 ここ数日団長はふと浮かない顔をすることが増えた気がした。クワ・トイネ防衛の目途だけではなく、ロウリア軍撃滅も夢ではなくなったこの事態を目の前にして喜びの感情があらわになるというのであればわかるが、この場にふさわしくない表情だ。何度となく聞こうかと思ったが、どうもはばかられた。そんな団長の表情が戻り、今目の前で見せているような闘志をまとうようになったのは昨日の話だ。 

 4月1日、満洲帝国陸軍と大日本帝国陸軍の将軍がギム入りを果たした。防衛陣地の構築状況の視察と作戦計画の策定のためとされた。満洲帝国側がギム派遣軍司令官ホルスト・ベルゲングリューン陸軍上将、第六師団長李勝重陸軍中将、第三機甲師団戦車第八連隊長渡辺綾子陸軍上校の3名、大日本帝国側が近衛師団長滝沢秀勝陸軍大将、近衛歩兵第一連隊長真田邦繁陸軍大佐の2名の合計5名だ。日満には今までいろいろと驚かされてきたが、今回の驚きは女性の軍人だ。女性は男性と比べて体力が劣る。軍人には不向きだと思っていたが、日満ではどうも違うらしい。もちろん、日満でも軍隊は男性が圧倒的に多いが、女性の軍人も少なくはないらしい。だが、その目は軍人だと思った。よろしくと握手を求めてきた手はごつごつしていた。

 作戦会議の席上統括司令官を定めることが決まった。日満軍は前もってベルゲングリューン上将を彼らの統括司令官に於いていたが、クワ・トイネとクイラを含めた全軍の司令官を置くことを提案してきた。今回の戦争戦術をいろいろと計画し、陣地改修に努めてきたのは日満両国軍だ。当然ベルゲングリューン上将がその任にあたるべきだと思った。

 しかし、ベルゲングリューン将軍は、モイジ団長を総司令官に推した。当然、モイジ団長は断った。私は、あなた方の思考する戦術を理解しきれていない。あなた方を指揮するような器量などとても持ち合わせていないと。半月の間彼らと接してきた私もモイジ団長の気持ちがわかる。我々は日満側におんぶ抱っこだ。いろいろと世話になっている。とても上に立つような資格はない。

 ベルゲングリューン将軍は、モイジ団長に向き直り、頭を下げた。ロウリア軍は強大であり、数においても質においても西部方面騎士団のそれを上回ることがずいぶんと前から確認されている。にもかかわらず、団長はこの地に踏みとどまり、決死の覚悟で事に当ろうと防衛陣地の整備を行ってこられた。祖国の無事を、後ろにいるギムの街の人々を守ろうと懸命に励んでこられた貴方の姿こそが我々には必要だ。敵の兵力量は我等のそれを凌駕する。陸戦においては、兵器の質は量で覆されてしまうことがないわけではない。それに我々は実戦を久しく経験していない。また何と言っても我々は手伝い戦だ。ここ一番での踏ん張りが効かない可能性がある。ここ一番踏ん張るためには、モイジ団長、貴方を頭にして、貴方の勇姿を我々に見せつけてもらいたい。

 滝沢師団長も同様の姿勢を取った。モイジ団長の尽忠報国の志こそ我々武人が最も貴ぶべき心です。戦に勝つためには、武技を磨き、武器を整備することが重要なことは確かですが、心を鍛えずして勝ち戦はありえません。軟弱な心では勝てる戦も勝てなくなってしまう。我々をモイジ団長の指揮の下働かせていただきたい。我等将兵一同貴殿の手となり足となり、クワ・トイネとクイラを鬼神の強さで守り抜きましょうぞ。

 モイジ団長の右斜め後ろにいた私は、モイジ団長が震えているのがわかった。後ろ姿であるが、確かに団長の顎から雫がしたたり落ちるのを確認した。クイラの獣人部隊長が腕を組みながらうんうんと頷いていた。女将軍のわずかに涙をためた笑顔が印象的であった。

 今思えば、私も団長と同じような顔をしていたのだろう。あの時以来団長の雰囲気は確かに変わった。精力的に陣地を視察し、日満の将軍たちと作戦についての意見を聞き、作戦の全体像を飲み込もうと奮闘いている。

 クワ・トイネ、クイラ、日本、満洲の四か国の連合軍がギムの防衛陣地にてロウリア軍を手ぐすね引いて待ち構える。いざ来いロウリアの将兵共。出てくりゃ貴様らは地獄へ逆落としだ。




作中の渡辺戦車連隊長ですが、イメージ的には、「ブラックラグーン」のバラライカかレヴィみたいな目をしているものと思ってください。
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