大日本帝國召喚   作:もなもろ

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日本国内の異世界に一緒に来た外国大使たちとの関係を書いてみました。


大日本帝國東京都外務大臣官邸 国際連盟理事国連絡懇談会 2675(平成27・2015)年4月3日午後8時

 異世界に転移した日満両国であるが、日満両国には、数多くの「外国人」が同時に転移してきたことはすでに述べた。彼らは元の世界との関係が強制的に断たれ、国ごと転移してきた日満両国国民よりも深刻な不安感に襲われていた。在日大使公使を始めとする各国在外公館職員は、自身の不安も押し殺して、在留外国人の心のケアに努め、日満両国政府もまた地方自治体などと連携して各国在外公館に支援の手を差し出し、慰撫を継続してきた。

 こういった日満と外国との関係はどう推移していったのか、なかでも地球世界におけるほぼ全国家が加盟していた国際組織、国際連盟について確認しておきたい。

 

 国際連盟は、1914年に勃発した欧州大戦における戦争の惨禍を教訓として、国際平和の維持と多方面にわたる国際協力を目的として設立された組織である。この国際連盟構想は、当時の大国であった、イギリス、フランス、アメリカ、日本、イタリア、ロシアの6か国が中心となり、欧州大戦の相手国である中央同盟国との間の講和条約作成交渉と並列して進められた。本作における国際連盟のポイントは二つある。

 一つ目は、国際連盟設立の法的根拠が、中央同盟国各国の講和条約に合わせ抱きにされた「国際連盟規約」ではなく、単独の「国際連盟憲章」という条約であるということだ。現実世界では、交戦国各国との講和条約の冒頭にそれぞれほぼ同じ文章が存在する「国際連盟規約」が乱立する事態となった。ドイツとの講和条約であるヴェルサイユ条約にも、オーストリアとの講和条約であるサン=ジェルマン条約にも、オスマン帝国との講和条約であるセーヴル条約にも同じ内容の文章が冒頭に入っている。本作においては、このような講和条約の一部という形式をとらずに、独立した一つの憲章という形で、この憲章そのものに権威を持たせた。

 もう一つが、ロシアを原加盟国に加えたことだ。イパチェフ館の惨劇が発生せず、ソ連が成立しなかったので、ロシア帝国も国際連盟の理事国となった。

 

 中央同盟国との講和条約も現実とは違っている。中でも賠償条項は全く変わっている。本作世界線では、「西園寺演説」として有名になっている。

「ヴェルサイユに集ひし我らがカルタゴを滅したローマの如く独逸人をこの地球上より族滅せしめむと思考するならばまだしも、左にあらずとならば独逸に対する斯くの如き要求は独逸人の復讐心を駆り立てるものに如かず、延いては欧州平和、世界平和のために重大なる禍根を残すことに外ならず。ジョルジュ、卿が、フランスの安全を守護せんとする愛国者たることは吾人も既に知る。その手段に於て重大なる失敗を招きかねぬ卿の提案は、卿の後日名誉を害せしむ。ならば吾人は、帝國全権としてでなく、かつて同じ下宿で過ごせし親友として、絶対に認めるわけにはいかぬ。請う。卿の提案を取り下げむことを。」

 この演説により、イギリスのロイド=ジョージが折れ、対独強硬論を収める形となり、フランスも過酷な賠償要求を取り下げる形となった。

 

 流石に、新しき国際協力の枠組みなれば、中央同盟国も国際連盟に加えるべきとの日本側の主張は、昨日まで殺しあった仲であれば、時期尚早という反対の声に譲歩して、5年後の加盟という妥協案が成立した。

 後日ドイツ他中央同盟国が国際連盟に加盟し、ドイツとオーストリア=ハンガリーが常任理事国となった。

 なお、アメリカは国際連盟憲章の原署名国であったが、上院の反対により、ドイツの加盟よりもはるかに遅れて加盟することとなった。

 

 こうして、国際連盟の組織は、イギリス、フランス、日本、イタリア、ロシアの五か国に加えて、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、アメリカの合計8か国の「大国」である常任理事国と7か国の「中小国」である非常任理事国の15か国で構成される理事会を執行機関として組織している。全加盟国で構成する総会は、あくまでも議決機関として存在しており、大枠を定めるのみで、国際連盟の運営は基本的に理事会での決議を中心として動いている。

 

 国際連盟憲章では、常任理事国の拒否権は規定されていない。しかし、大国の利益は中小国のそれよりも優先される場合がやはりあり、大国の利益を全く認めないとすれば大国の仲が割れ、欧州大戦の惨禍を招きかねない。このため、大国八か国は常に意見交換を行い、友好関係を維持すべく、懇親の機会を設けていた。それが、国際連盟理事国連絡懇談会である。日本の場合でいえば、外務大臣官邸に他の七か国の特命全権大使を招いて、意見の交換を行う。大体月一回で夕食会の形を取り、ざっくばらんに話し合うことを目的としており、当然議事録などはとられない。

 

―――――

「徳川さん。やはり、日本国は律儀ですな。」

 

 フランス大使のオーバン・ベルモン伯爵は、在庫が残り少なくなってきたブルゴーニュ産のワインを飲みながら話しかける。徳川外相は不思議な顔をして、ベルモン大使の顔を見る。

 

「この連絡懇親会のことですよ。異世界転移後、元の世界と断絶した我々地球世界の列強国は最早他の国の大使公使と何の差異もない。大国が協調するための懇親を目的とした会合など必要はなくなったでしょう。にも拘わらすこうして招待が来る。転移直後で忙しい2月も3月もこうして懇親会は行われた。前世界の友誼を忘れないという事でしょうが、せめて回数は減らしてもよかったのではないかとも思いましてな。」

 

「まあ、この会合のおかげで、今ではどんどん市場からは消えていっている欧州産のワインがこうして飲めるのですから、私たちとしてはとてもうれしいのですがね。」

 

 美食の国イタリア大使のジュリアーノ・オルミ子爵の発言に会議参加者一同がどっと笑いが出る。酒の影響もあるのだろう。各国大使間の雰囲気はとてもよい。

 

「この懇親会の目的たる大国間の協調、協調の精神、これを忘れないためにというのがこの懇親会を継続している理由です。少なくとも私が外務大臣の職に在る内はこの会合は転移以前と同じように続けたいと考えております。」

 

「ほう。詳しくお聞かせいただいてもよろしいですかな。」

 

 赤ら顔のロシア大使のユリアン・ゴルロフ伯爵の言葉に各国大使は徳川外相を見る。

 

「そうですな。欧州大戦の戦禍を教訓にした国際連盟の設立と大国間の協調によって、地球世界における平和は長い間維持されてきました。平和的共存関係は、その後の世界の繁栄を築く礎、いえ、これなくして世界の繁栄はあり得なかったというべきでしょう。世界各国がお互いを尊重しあったうえで切磋琢磨し、科学技術の向上を通じて、国民の幸福を増進していく。時に外交交渉では、大きく対立することはございましたが、激しい議論の末に生まれた結論は世界を進歩させるための大きな道しるべになったものと思います。我々の先人が築き上げてきたこの価値観は、決して風化させるようなことがあってはならない。当初外務省内部でもこのような会合に時間をかける必要はないという声もありました。それよりも新世界の状況把握や国会対策などに注力すべきであると。しかし私は、この会議に継続することで協調の精神を忘れないようにすること、それを外務省の職員にメッセージとして託したいと思っておるのです。今我が国を取り巻く現状は確かに厳しい。対朗開戦やむなしという閣議全体の方針も間違っていない。しかし、相手が協調の精神を以ていないからと言って、こちらもその衣を脱ぎ捨てては、いずれこの協調の精神も忘れられてしまうだろうと考えております。外交官の矜持とでもいうのでしょうか、協調の精神これなくして、外交官たるべきではない、と私はそう思うのです。」

 

 静かな、決意のこもった徳川外相の声色に対し一同は耳を傾け、徳川外相の発言終了後イタリア大使が拍手を行う。

 

「ブラボー。ブラボーだよ義輝侯爵。同じ外交官として全く同意する。貴族たる誇り、外交官たる矜持を力強く感じさせる決意表明だ。我等G8一同は君を支持し、賞賛を禁じ得ない。」

 

 大使一同の拍手がひと段落するとドイツ大使ジークハルト・トラウトマン子爵が起立し、皆を促す。

 

「徳川外相の決意表明と今後の日本外交に大きな期待を込めて、プロージット!!」

 

「乾杯(各国それぞれの母語で。プロージットって格好いいよね(銀英脳))」

 

 各国一同が酒を飲み、一度気分が落ちついたところに、アメリカ大使パトリック・ハイドンが話しかける。

 

「徳川閣下。実に気持ちの良い表明の次の話題としては申し訳ないことだが、対ロウリア開戦というのはもう時間の問題ということなのかね。」

 

「ええ、もう避けようがありませんな。クワ・トイネは今後我が国が必要としている農作物を供給してくれる大事な友好国となります。またクイラは地下資源がそれです。どちらの国も非常に友好的な関係を維持しておりますし、失うわけにはいきません。今は、最後通牒の作成を本省で行っている所です。」

 

「最後通牒か。宣戦布告でないということは、徳川外相は先の表明の通りに最後まで外交官の仕事を行ったということですな。」

 

 オーストリア=ハンガリー大使ゲーアノート・レーデ伯爵が感心した声で話し出すと、イギリス大使のジョージ・ガーティン侯爵が後を受ける。

 

「レーデ大使。日本には、「仏の顔も三度まで」という諺がある。いかに温和な仏であっても、三度も無礼を働かれては怒るという意味合いだ。我々ならば、一度か二度で開戦に及んで懲罰を加えても不思議ではないロウリアに対して粘りづく交渉を継続しようとする日本外交にぴったりな表現ではないか。」

 

「然り然り。クレムリンならば、一度目から最後通牒を発していてもおかしくはない。」

 

 大使各位が笑い声をあげる中で、徳川外相が苦笑いを浮かべる。フランス大使が話しかける。

 

「徳川さん。貴方が気に病む必要はない。ロウリアは自滅をしただけだ。外交文書を無視するというのは如何に中世の国家であっても普通ならば考えられん。こうなったのは貴殿の外交の責任ではない。」

 

「いや、戦争に及んでしまったというのは、やはり外交の失敗ですよ。」

 

と返せば、アメリカ大使が、

 

「徳川閣下。貴方は生真面目すぎる。貴方の責任ではない。日本外交には、政治的にも道義的にも一切の責任はない。我がアメリカであれば、外交文書を無視された時点で、開戦に及んでいてもおかしくない事態なのだ。そう、1アウトチェンジとするところを3アウトまで認めたのだから、寛容さを示したにすぎず、それは貴国の精神の気高さを賞賛する声はあっても、貴国の失敗をなじる声はないし、許されないことだ。」

 

「そのとおりだ。我がオーストリア=ハンガリー大使館で世話をしている、クワ・トイネの外交官も日本に感謝している。日本滞在に便宜を図るなどの細やかな心遣いは徳川外相の外交精神が根底にあったからこそ行われたものだと思っている。転移直後の我々に対する配慮や在留国民に対する心のケアなどでもお世話になった。我々は日本外交の精華を身近に感じている。」

 

 続けて、それに私はこう思うのです。とドイツ大使が話し出す。

 

「土地ごと異世界に転移した。こんなことはどう科学的に考えても説明ができない事態です。ならばこれは、神の御業というより他にないと。とすれば、なぜ日本がこの世界に神から呼ばれたのか。これはやはり、混沌とした無秩序の世界に国際平和と協調という秩序をもたらすために神が日本をこの土地に呼んだのだと私はこう信じざるを得ないのです。」

 

 イギリス大使が驚きの声を込めて話し出す。

 

「論理をこよなく愛するドイツ人にしてはいささか詩的な表現ですな。」

 

「いいじゃありませんか。それに日本外交が無ければ、あの西園寺演説がなければ、私がこうしてガーティン大使の皮肉を肴にしたりベルモン大使と笑いあって話にすることなどできませんよ。この日本でも、母国ドイツでも、イギリスフランス国内でも隔意なく大使や外相が付き合えるのは日本外交あればこそです。あのときあの中央同盟国と連合国との講和条約がああならなかったら、我々の歴史は大きく変わっていた可能性があります。それを思えば、徳川外相、日本外交大いにやるべきです。それを広げるべきですよ。」

 

 徳川外相は面はゆい表情を浮かべて、

 

「皆様方の暖かい言葉を受けて、これからも外相の職責を全うしたいと思っております。」

 

 一同から拍手が巻き起こる。イタリア大使はブラボーブラボーと言っている。ロシア大使はウラーウラーと言っている。酔いが回り始めたようだ。

 

「ここで、少し話を切り替えたい。」

 

 イギリス大使がふいに声色を変えて話し出す。イタリアロシア両大使は水を飲む。各国大使と徳川外相は随行員に退席を命じた。

 

「我がイギリスは、承知の通り日本とは軍事同盟を結んでいる。もちろん母国とは断絶しているが、日本は地球世界でこれまで結んでいた条約は全て継続するとの宣言を行っている。この転移現象というものは英日同盟協約には規定されていないが、軍事同盟を発動すべき状態にあることだと思っている。間違えないでもらいたいのは、ロウリア王国との開戦がこれに該当するというわけではなく、転移現象そのものが日本の危機だとイギリスは考えているということだ。ここまではよろしいか。」

 

 各国大使がうなずく。

 

「うん。そうなればだ、母国と関係が断絶しているからと言って、我がイギリスは条約上の責務を放棄するような真似はしたくない。これまでのそして転移時の様々な支援という友誼もあることだ。ざっくばらんに言う。記憶にも記録にも留めないでいただきたい。もっとも貴国等も我が国と同様のことをしているとは当然に認識しているが、公然の秘密である諜報員だ。日本と軍事同盟を結んでいる我が国であってもこの日本には我が国の諜報員がいる。私は、イギリス大使として、女王陛下に代理して彼らに命じている。この世界の各国の情報を入手せよと。そして、その情報は徳川外相を通じて日本政府にも通報している。」

 

 各国大使が先を促す。

 

「MI6の諜報員は既に日本国内にはいない。すべてロウリアに散っている。そして、満洲国にいた諜報員も同様にパーパルディア皇国に散っている。どうだろう貴国等の諜報員も我が国と同様にこの世界各国の情報収集に動き出してはくれまいか。」

 

 ロシア大使が話し出す。

 

「私もざっくばらんに言うが、満洲国に散っていた我が国の諜報員はマオ王国とパーパルディア皇国に散ったと駐満ロシア大使から報告を受けている。日本国の諜報員については正直どうしてよいか大使の身分では権限が不明確であったのでわからなかったが、そういう話ならば協力させていただきたい。ただし、権限上命令までできるか不明なところがあるので、できる範囲でという形にはなるが。」

 

 各国同様に外交官が情報機関の人間に対する指揮権を持っているとは言えない状況であったので、情報機関の人間の中で協力者を募り、その協力者を一時的にでも在外公館の指揮系統に加えたうえで対応する形となった。

 

「では、今後の情報活動の報告会はこの席上ということでよろしいかな、徳川外相。」

 

「G8各国の皆様の力をお借りできることは非常にありがたいことです。これもこの場限りの話とさせていただきたいが、我が国の諜報員は地球世界に取り残された形となったため、諜報活動が困難になっているところがやはりあります。特にパーパルディア皇国に関する情報はこれからより必要になってくると考えています。大陸に関する他の情報は、これまでどおりそのままの所属を通して満洲国側に報告していただいて構いませんが、パーパルディア皇国に関する情報は皆様方にも入ってい来るようご調整いただければと思います。」

 

「義輝侯爵、外務次官か国際情報局長あたりの人間は用意できるか。ひと月に一回のペースは崩す必要はないと思うが、情報の整理が必要で、そのためには予備会合を持つ必要があるのではないか。」

 

 イタリア大使の発言に各国が同意し、後日の調整が行われる形となった。その後は、また随行員を同席させて、酒宴が再開された。

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