平成27年4月5日 午前
徳川外務大臣ヨリ在塩国田公使及在或国大垣公使宛(電信)
対朗最後通牒発翰ニ付朗国大使ニ手交方訓令
第108号 至急
朗利亜王国ニ対シ帝國政府ハ満洲帝國政府ト協議シ最後通牒ヲ発スベク首脳電話会議ニテ決セラル本大臣ハ貴官等ニ最後通牒ノ手交ニ際シテ注意スベキ所ヲ数点命令ス
一、朗国大使ニ最後通牒手交スル際ハ必ズ駐在国外交当局ノ証人ヲ招聘スベシ、本件文書ハ朗国ニ対スル最後ノ通告ナレバ後日該文書ハ受領セラレザルト為ルガ如キ言説ヲ排除スベシ
二、朗国ニ対スル文書正本ハ従前ノ通リ塩須王国ニ駐箚スル朗国大使ヨリ伝送セラルベシ
三、本件文書ハ成ルベク塩国或国双方共ニ同時刻ニ手交セラルルベク公使間ニテ調整セラルベシ発翰日付ノ在ル文書ナレバ、多少ノ差異ハアレドモ同日中ニ手交スベシ
以上ノ点留意シテ貴官等ハ行動サルルヤウ別段申述候
(別電)
対朗利亜王国最後通牒
神武天皇即位紀元二千六百七十五年即チ中央暦一千六百三十九年四月六日大日本帝國政府及満洲帝國政府ハ現下ノ状勢ニ於テ大東洋ノ平和ヲ紊乱スヘキ源泉ヲ除去シ大東洋ノ平和ヲ永遠ニ確保スル為メニ極メテ緊要ノコトタルヲ思ヒ茲ニ誠意ヲ以テ朗利亜王國政府ニ勧告スルニ同政府ニ於テ左記二項ヲ実行セラレンコトヲ以テス
第一 鍬途稲公国「ギム」市街ヲ目標トシテ進軍セリシ朗利亜王國軍隊ヲ即時ニ解散スルコト能ハサルモノハ直ニ其進軍ヲ停止スルコト
第二 朗利亜王國「カルーネス」軍港ヨリ出師セムトスル軍船ノ出航準備ヲ即時停止スルコト
大日本帝國政府及満洲帝國政府ニ於テ敍上ノ勧告ニ対シ中央歴一千六百三十九年四月十日正午迄ニ無條件ニ応諾ノ旨朗利亜王國政府ヨリノ回答ヲ受領セサルニ於テハ大日本帝國政府及満洲帝國政府ハ其必要ト認ムル行動ヲ執ルヘキコトヲ声明ス
神武天皇即位紀元二千六百七十五年即チ中央暦一千六百三十九年四月六日
大日本帝国内閣総理大臣 山上 誠一
満洲帝国 国務総理大臣 李 陽詢
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日満のアルタラス駐箚公使は、外交部局よりの命令を実行すべく、アルタラス王国王都ル・ブリアスに存在する外務局を訪問した。前日にアポイントを取り、日満両国合同でとの話で外務局に訪れたため、アルタラス側もロウリアについてのことと想像はついていた。今度はどういう話をするのかとアルタラス外務局では噂になっていた。
外務局の玄関から中に入ると受付で名前を告げると外務卿室へと案内される。周りからの視線が気になるところではあったものの、これから行われる重要な外交文書の手交に緊張していた両公使であった。
「日満両公使がお見えになりました。」
お通ししてくださいとの返答に、受付嬢がドアを開け入室を促す。受付嬢の目線が男性の持っていた鞄に目がいっていたため、受付嬢も気になっていたようである。
「ようこそ、両大使。といっても、ここ最近は各国どの大使よりもよく顔をみせてもらっておる所ではありますけどな。」
アルタラス王国外務卿シモン・ド・ユグモンテは、ちょっとした皮肉を言い、両公使を席に着かせる。
「またしてもお忙しいところ、時間を取っていただき感謝します。本日はお願いに参りました。」
「ほう、またしても共同文書の作成ですかな。以前にも申し上げましたように、あれ以上の表現は難しい。ロウリアの行動は最近目に余るところは確かですが、だからと言って我が国がロウリアにケンカを売るというのは避けたいところです。これは前回の会合のときも申し上げたはずですが。」
「いえ、今回は共同文書の話ではなく、人を一人貸していただきたいのです。」
マニャール公使がユグモンテ外務卿の認識の違いをいなして、要望を話す。ユグモンテ外務卿は片眉を上げて、話の続きを促した。
「我々はこれからロウリア大使館に向かいます。アポイントはすでにとっております。此の際にロウリア大使に一通の文書を手交します。貴国の外務局のどなたかにその事実の証人になっていただきたいのです。」
「文書をですか・・・。ちなみにその文書何が書いてあるのか、見せてもらってもよろしいか。」
「ええかまいませんよ。いずれ公知されるところでしょうから。」
大垣公使は、自分の鞄から外交文書を取り出し、外務卿に差し出す。外務卿の顔が驚きに満ちた。
「これは、本気なのですかな。」
「ええ、本省からの訓令に従って我々は動いております。本国政府の意向です。」
「信じられない。両大使は以前おっしゃっておられたな。クワ・トイネもクイラも自身の属国や保護国ではないと。何故、ロウリアに手を出そうとされるのか。」
「我々は大東洋の平和を維持して、クワ・トイネともクイラとも貿易を継続して共存共栄の途を邁進していきたいとただそれだけを考えております。このためには、その障害の除去を行う。ただそれだけです。」
ユグモンテ外務卿の顔からは訝しむ表情が消えない。ややあって、
「本気なのですな。本気でこの文書のその先まで見据えていると。」
「本国はおそらくその準備を進めており、一部は既にその実行に至っておるかと思います。」
ユグモンテ外務卿は、一息ついて、
「確かにこのような文書は重要です。いずれ公表される内容としても、時刻を区切っている以上、手交した時刻も大事でしょう。外交官として、その認識は確かに間違ってはおられない。証人派遣の要望は了解しますが、この文書の内容については我々は知らない。それでよろしいか。」
「結構ですわ。それが現時点ではお互いの為でしょう。」
しばらくお待ちいただきたいと、席を外し、秘書官に人物を呼びに行かせた。数分の後、ドアがノックされ、人が入ってくる。
「外務卿。お呼びと伺いましたが。」
ジュール・サンカン。アルタラス王国外務局大東洋部ロデニウス大陸課長の職にある人物は、日満両公使の顔をチラ見しながら、外務卿に質問する。
「両大使。こちらは、我が外務局のロデニウス大陸課長だ。貴殿らの任務のためには下すぎる立場のものではいけないが、これより上の立場の人間を出すわけにはいかない。サンカン課長、君は今から両大使に付き添って、彼らのロウリア大使との面会に陪席するのだ。そして、彼らが確かに文書を手交したと確認してくればよい。」
サンカンは、最近話題になっている日満とロウリアとの外交交渉について役目上当然承知していた。第三者を陪席するということはよほど重要な内容なのだろう。ロウリアの意思が固いとみて、日満側はおそらく何らかの手土産を渡して手打ちするとみていた彼は、外務卿に話かける。
「その、その文書についての内容については、」
「文書の内容について君が知る必要はない!!ただ、陪席すればよいだけだ!!」
外務卿の大声にサンカンは血の気が引いたような顔をして、ただコクコク了承した。
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「やはり、馬車というのは乗り心地がわるいですわね。大垣さんもそう思いません。」
「しゃべっていると舌を噛みそうで怖いですね。」
「不思議なことをおっしゃいますね。馬車などどれもこんなものでしょう。」
王都内部なので、外の道ほど揺れは少ない。にもかからず揺れがひどいという話に、サンカンは首をかしげる。
「あら、我が国のモンゴル系国民が使っている馬車はもっと振動が少なく、乗り心地はよいのですよ。」
「ほう、それはそれは、なかなか面白い話ですね。我が国と貴国は国交を結んでいるのです。その馬車輸入させてはもらえませんかな。」
サンカンは、新興の国家が見栄を張ってと内心笑いながら話を受けた。
「そうですね。貿易は、我々も好ましいところだと思っておりますわ。ただ、こういう技術的な部分が絡む話となりますと、貴国には知的財産権に関する条約に加盟してもらわくなくては、貿易品の俎上に乗せるのは難しいですわね。」
「知的財産権ですか?」
耳慣れない言葉を聞いて、サンカンは聞き返す。
「ええ、我が国と日本ではもう馬車はあまり使われなくなっておりますが、民族的な文化の保護を目的として、馬車を使い続けている方たちがおります。彼らは馬車を改良して乗り心地を良くしたり、壊れにくくしたりと改良を重ねております。そういった技術改良には試行錯誤が必要だったり、独自のアイデアが盛り込まれていたりします。こういったアイデアを保護することで、発明や技術改良の成果だけを横取りされないように保護することが国家としては重要な仕事であると認識しております。このための法の制定。これが貴国には必要です。それも、満日両国が合意している水準の内容を盛り込んでもらわないと、我が国の民族が改良した技術だけを横取りされることがあっては、損失ですわ。貴国は彼らに対してアイデア料を支払って、貴国の馬車を改良する。そういう手順を踏んでいただきます。」
「な、なるほど・・・」
なんとなく言わんとすることは分かったが、新興国にもかかわらず身の丈に合わないこと言っているなと思っていると、
「ちなみに、クワ・トイネ公国とクイラ王国は、その枠組みを作成するべく今取り組んでいるようですわ。」
クワ・トイネもクイラもアルタラス王国からしたら東方の蛮族だ。その蛮族が知的財産権なるものを理解し始めているだと。サンカンはいろいろと考え始めた。
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両公使とサンカン課長の乗った馬車がロウリア大使館に到着し、一行は大使執務室へと案内される。執務机に座っているロウリア大使は、一行を一瞥し、
「貴殿らもしつこいのう。もう三度目ですぞ。私も貴殿らの自己満足に付き合っているほど暇ではないのだがな。おや、貴殿は確か、アルタラス外務局員の・・・一体どういうことだ。」
「は、ユグモンテ外務卿よりこちらの日満公使の陪席をするようにと指示を受けまして、私もなにがなんだか・・・」
「まあよい。それで、本日は何用ですかな。手短に頼みますぞ。」
ロウリア大使は、応接椅子を勧めながら、自分もそちらに向かっていき腰を下ろす。
「本日貴使をお尋ねしたのは、本国よりこちらの外交文書をロウリア本国に送るようにと指示を受けたからです。また第三者を証人に立てよとの本国からの指示によりユグモンテ外務卿にお頼みしたところ、卿の厚意により、こちらのサンカン課長を派遣していただきました。サンカン課長はただの見届け人でございます。」
「ふん。見届け人とは大仰な話だ。大した内容でもあるまいに・・・・なんだこれは!!!」
怒髪天を衝く。ロウリア大使の怒号が部屋にこだまする。
「文書の通りでございます。至急本国にお知らせ願いたい。」
「ふざけたことを。おい、アルタラスの課長。貴様らもまたしても我が国に盾突くつもりか。」
「ひぁ。え、私はその、何も。」
「おやめください。アルタラス側はこちらの文章の内容をしりません。」
「たわけたことを。最後通牒などという内容を知らずして同席を了承するなどと信じられるか!!」
「さ、最後通牒!!」
サンカンが日満公使の顔を見る。
「ふん。大方ユグモンテがそうしろと命じたのだろうが、まあそんなことはどうでもよい。貴様ら我が国にケンカを売るとそういうつもりだな。」
「我が国は、あくまでも平和的な解決を目指しています。貴国が我等の条件を受諾し、戦争準備を止めればそれがかないます。ケンカを売るというつもりはありません。」
「いけしゃあしゃあとたわごとを。もはや後悔しても遅いぞ。この文書は直ちに本国に魔信する。今からひっこめようとしてももう遅い。貴様らポッと出の新興国が我が国に歯向かったところで何ができるというのだ。頭の悪い連中だ。蛮族はこれだから始末に堪えん。もういい、会談は終わりだ。出ていけ。」
「では我々はこれで失礼します。文書をよろしくお願いします。」
日満公使が退出しようとする。ロウリア大使が公使一行の背中から話しかける。
「クワ・トイネとクイラを降した後はお前たちの番だ。おい、お嬢さん。覚悟しとけよ。俺の前に跪かせて、許しを請わせてやる。」
「あら、楽しみね。恋人亡くしてご無沙汰してるのよ。その日が来るのを期待しているわ。」
「ふん。勝気な女だ。お前は俺の妾にしてやろう。」
「ええ、よろしくね。」
一行は大使館を後にして隣接している日満公使館へと向かう。サンカンは同席を拒否した。
「マニャール公使、品がないですよ。我々は文明国の公使ですよ。ああいう輩でも節度を持たないと。」
「あはは、ごめんごめん。でも多少でもやり返さないと損じゃない。」
「全く貴方は。」
駐アルタラスロウリア大使館からの魔信は本国に向けて発信されていた。文明外諸国に激震が走るのはすぐに迫っている。