大日本帝國召喚   作:もなもろ

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ロウリア東部諸侯軍の嘆き。情報を得ることすらも容易ではない。


クワ・トイネ公国ロウリア王国国境付近 中央暦1639年4月8日午後6時頃

 ギムの街を守護すべく駆け付けたクイラ王国の獣人部隊は6人であった。3人一組となり、街道の左右に分かれて、日本軍満洲軍から供与された双眼鏡を使って監視任務にあたっていた。彼らの位置と街道からの距離はおよそ500メートルから600メートル離れている。

 

 ギムとマインゲンを結んでいるこの街道は、マインゲンがクワ・トイネ公国領だった頃は、二頭立ての馬車が三台通るほどの地面をしっかり固めた馬車専用通路があり、歩行者があるく側道も左右それぞれに5メートルほどの幅を有していた。しかし、50年前の戦争でマインゲンがロウリアに奪取され、そしてロウリアの再侵攻の可能性がある以上は、街道を整備する意思がクワ・トイネ側になくなったこともあり、一時は荒れ果て、しっかり固めた地面もところどころにひびが入り、ついには馬車の通行に支障をきたすほどになった。

 時間の経過により、ロウリアとの間の休戦期間が長くなればなるほど行商人の往来が増え、行商人たちによる補修を行ったこともあり馬車専用通路は、漸く馬車二台が行き交うことができる程度には修繕した。しかし、歩行者用通路に行商人は見向きもしなかった。その為、徐々に草が生い茂るようになり、森林地帯が街道に迫るようになってしまった。このため、本街道は森林地帯との距離が近く、狭隘な通路の様相を呈している。

 森の中から攻撃を仕掛けようと思えば守備側は身を隠したままで攻撃ができる状況にあった。

 もちろん攻撃側もこのことを考え、ある程度森の中に入って偵察を行っていた。しかし、ロウリア側にとって誤算だったのは、彼らが予想する襲撃ポイントよりもはるか遠くから攻撃されたことであった。無論、森の中は木々が生い茂るが故に死角が生じる。獣人部隊は大木を探し、その太い枝の上に床を張り、葉で周囲を囲って狙撃ポイントを作った。森の中や街道に向かって、赤外線センサーを張り、偵察兵の動きをいち早く知り、常に先手を打たれたロウリアの偵察兵は、次々に命を落としていく。

 可能な限り、遺体は収容し、獣人の怪力であっという間に掘った穴に埋葬していく。偵察兵が命を落としたことも相手方に知らせない。遺体を見聞し、何があったのかの推測さえさせない。地上からの偵察では、何もわからない状態が続き、仕方なくワイバーンを偵察に出せば、ワイバーンは音速を超えるミサイルによって何もわからないまま撃墜される。彼らの最後の魔信は、「なんだあれは。」、「何かが来る。」、「え?」というような要領を得ないものばかりであった。

 

 偵察さえもままならない状況が続き、東方征伐軍の先遣隊である東部諸侯領軍全体に不穏な空気が流れ始める。このまま部隊を前進させて良いものか。東部諸侯領軍はマインゲンを発し、東へ進軍中であったが、偵察がうまくいかないことから進軍ができずにいた。森の中の道は狭く、挟撃でもされようものなら大軍の利点を生かせない。東部諸侯領軍司令官であるジューンフィルア伯爵は森の中に入る手前で作戦会議を開いた。

 

「このまま軍を進めてよいものか。森の中で火を放たれでもしたら、我が軍はとんでもない損害を受けるぞ。」

 

「やはり、街道周囲の木を伐採しながら、道幅を広くして視界を確保しながら進むのが一番安全ではないか。」

 

「そんなことをしていてはいつまでたってもギムにたどり着けんぞ。もう、パンドール将軍も間近に来ていらっしゃるのだ。我々先遣隊がギムの街を攻略しなければ、将軍をお迎えする準備もできん。もう駆け足でもなんでも進むしかないのではないか。」

 

「一応ギムの街手前にはクワ・トイネが防御陣地を築いているらしいぞ。兵の体力を損耗させて陣地攻略をするつもりか。」

 

「一月前の情報では、陣地と言っても柵と土塁があるだけではないか。先遣隊は3万いるのだぞ。一気呵成に攻略を行えば、一呑みにできるだろうが。」

 

「一応は防御を固めた陣地だぞ。無駄に犠牲を出すことになりはせんか。」

 

「そうは言うがだ。現実問題として、せめて明日の朝には出発しなければ、パンドール将軍の本隊も通れんぞ。そんなことになったらまずい問題になる。夜の森の行軍は確かに危険だ。明日の明け方から行軍して走破するより他に選択肢はないぞ。」

 

「その選択肢を取った結果、我々の部隊が火でもかけられたら、不味いからこうして作戦会議を行っているのではないか。」

 

 議論百出。なかなか方針が決まらないにもかかわらず時間だけが過ぎていく。堂々巡りになっている議論の最中に天幕の外から声が聞こえてきた。

 

「こんなところで貴様らは一体何をしている。」

 

「だ、誰だ。今は作戦会議中だぞ。」

 

「作戦会議中だとぉ?」

 

 天幕の間から東方征伐軍司令官副官のアデムが顔を出した。

 

「ア、アデム殿。」

 

「貴様らこんなところで、作戦会議中とはどういう了見だ? 本来ならば、もうすでに先遣隊はギムの街へ襲い掛かり、街を平定しているところだろう。国王陛下が作戦開始時期を早めるように命令された筈だと言うに、何を油を売っている。」

 

「アデム殿。ギムに入る前に偵察を出しているのだが、どうもおかしいのだ。偵察に出した兵は、皆々音信不通となってしまった。やむを得ず、我々の隊に所属しているワイバーン部隊の半分を偵察に出したが全て未帰還なのだ。敵の全容は未だに不明のまま…」

 

「臆したか、ジューンフィルア伯爵。」

 

「な、なにを。」

 

「クワ・トイネの亜人如きに何ができる。それにクワ・トイネにもワイバーンがいるだろうが。少数を偵察に送り出すからこの様な事態になるのだ。先遣隊は3万もいるのだぞ。全軍で一気呵成に攻め掛かればギムなどすぐに陥落出来る。パンドール将軍閣下は明日にもマインゲンに到着されるのだ。それも直轄軍と地方軍併せて7万の大軍。こんな道端を占拠していては、パンドール将軍閣下の部隊が通過できぬだろうが。貴様はいち早くギムを落として、パンドール将軍閣下をギムにお迎えできるように準備せんか!!」

 

「しかし、パンドール将軍閣下より〝偵察を抜かり無く実行せよ〟とのご命令を──」

 

「無能。無能は口だけは達者だな。無能が無能を偵察兵に選ぶからこういうことになるのだ。全く、東部諸侯領軍が偵察もまともにできない無能ぞろいだったとは反吐が出ます。偵察もまともにできないのだったら、兵をすりつぶしてでも攻略を行うしかないでしょうが。」

 

「そ、そんな。我等の領民にそんな無体なことを。」

 

「まだわからんとは。貴様らが無能だから、貴様らの領民が死んでいくのだ。何を勘違いしているのだ。我らが無体なことをしているのではない。貴様らが無体なことをしているのだ、筋違いの反応は貴族の方々にはふさわしくない態度ですぞ。自重下され。」

 

 東部諸侯の顔が苦渋に滲む。顔を伏せている者もいる。言いたい放題言ったアデムの気持ちも晴れたのだろうか、口調が若干柔らかくなる。

 

「夜間の行軍は危険ですので、明日の朝には出発してください。予定には遅れましたが、ここからなら元々の開戦時期だった12日には十分に間に合うでしょう。いいですね。3万の軍勢を一気にぶつける。これでギムは陥落です。私は、パンドール将軍閣下に作戦開始時期の遅れを報告してきます。そのあとこちらに戻ってきます。あなた方に指揮を任せていては、時間の無駄になりそうですからね。しっかり監督させていただきますよ。それでは。」

 

 嵐が過ぎ去り、皆が沈痛な表情を浮かべている。貴族の領主にとって領民を失うのは、自領の生産力を失うのと同じこと。この戦争に勝っても、物資の収奪で一時的には潤ってもここ数年の生産力はがた落ちになるかもしれない。王家を富ませるだけで自分たちには何の利益もないのではないか。

 非情にも開幕ベルは鳴らされた。あとは、自軍の損害を如何にして回避するか。ジューンフィルア伯爵の陣幕では夜遅くまで作戦会議が行われたが、有力な情報もなく、結局は時間を浪費しただけに終わった。

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