大日本帝國召喚   作:もなもろ

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大日本帝國と戦争というとやはり御前会議ですね。


大日本帝國東京都宮城枢密院庁舎 日満合同御前会議 2675(平成・興信27・2015)年4月9日午後1時 / 荒池翰長覚書

樞密院官制及事務規程(明治二十一年勅令第二十二號・抄)

 

第一條 樞密院ハ天皇親臨シテ重要ノ國務ヲ諮詢スル所トス

 

 

参議府会議規程(大同元年教令第十八号・抄)

 

第六條 議長ハ必要ト認ムルトキハ参議府会議ニ皇帝ノ親臨ヲ奏請スベシ

 

 ―――――

 

 大日本帝國の史実枢密院は藩閥勢力や官僚勢力の牙城として国政に大きな影響力をふるい、軍部の台頭とともにその影響力を小さくし、憲法改正とともにその役割を終えたと評されている。拙作においては、枢密院は天皇の最高諮問機関としての権限を保持したまま存続している。無論その役割には修正が加えられている。

 たとえば、枢密院本会議には帝國議会貴衆両院の議長及び副議長若しくはその代理人を参加させることで、立法府の意見を尊重する姿勢を見せつつ、立法府と行政府の意見を集約した結論を出すような運用がなされている。具体的には、官制(いわゆる「〇〇省設置法」の類)や教育関係の勅令は法分類上「勅令」を以て制定されているが、これらを制定改廃する際には、行政府はあらかじめ勅令案を帝國議会各議院に諮り、それぞれの院から建議や決議の類の勅令案に対する賛同を取り付ける。その上で政府は枢密院に勅令案を諮詢し、本会議には帝國議会からの参加議員を通して勅令案に対する意見を枢密院が聴取するという慣行が出来上がっていた。

 

 

 満洲帝國における枢密院に類似する組織は参議府という。その権限は、重要国務の諮詢という抽象的な権限は日本枢密院と同様であるが、官制事項も教育関係の勅令も法分類上「法律」として満洲帝國議会の権限となっており、参議府の直接関与する諮詢範囲は日本枢密院のそれより狭くなっている。

 

 満洲国は、法制度上「帝国」であり、満洲帝國皇帝は法制度上存在する。満洲帝国初代皇帝である溥儀陛下の崩御が近いとされていた時期、次代の皇帝をどうするのか満洲帝國政府は検討に検討を重ねていた。終局的には康徳帝の遺志に基き、日本天皇が満洲皇帝に即位することが決まったが皇帝大権の行使に際してどのような形をとるのかについては趙江性が難航していた。初期には、昭和天皇の弟宮である高松宮殿下や三笠宮殿下、大正天皇の弟宮にあたる上総宮系の殿下達が、皇帝御名代として満洲国に一月交代で出張され、満洲帝國議会の開院式に出席するなどいわゆる国事行為を代行して行ったり、法令に対する署名を代筆する案も検討されていた。しかし、国内に皇帝不在とする状態は、「国家制度上も対面上も宜しからず」との叡慮により、満洲帝國に皇帝の代理人たる「執政」職が復活した。

 執政職の選任に対しては、宮家より任命するのは不可とする宮中府中の一致した見解により、満洲国側より人物を選出してほしいとの申し出が日本側から満洲側へなされた。国務院は、国務総理大臣や参議府議長の前官礼遇者の中から、満華戦争を勝利に導き、中華民国からの独立を達成した第三代国務総理大臣の李康正氏を執政に選出した。李氏は当時70歳を過ぎて、既に政界を引退していたが最後の御奉公として、執政職を受けることとした。後日新京で行われた執政親任式には、天皇自ら訪満し、「満洲帝国執政として朕の職務を代行し、諸事を帝國議会と国務院と臣民に諮り、王道楽土五族協和の繁栄を達成するように」との勅語を与えた。これが執政職務の心得として、満洲帝國執政が、史実におけるアメリカ合衆国大統領やフランス第五共和政に相当する強大な権力を行使するそれではなく、ドイツ連邦共和国のような名誉職型大統領制に相当するものとして観念される嚆矢となった。

 この執政職が後日参議府議長の兼職となり、名誉職型から半大統領制へとシフトチェンジしたかのような時期もあったが、執政と国務総理大臣の職務権限の争いには至らず現在に立っている。

 

 

 近年では、枢密院官制の規定にも拘わらず、天皇親臨の無い枢密院会議であることが常例となり、それが「憲政の常道」として定着していた。それは、天皇親臨の無い会議であることが国家が安定しているという証左であり、天皇の御動座なく、臣民不断の努力により国政を運営していることを誉とする政治思想の表れであって、決して天皇を軽んじていることからくるものではない。

 天皇も枢密院会議における天皇親臨の権限を手放しているわけではない。統治権の総攬者として君臨し、あえて個別の事態に介入しないことこそが、「憲政の常道」として帝国憲法に規定された天皇の国家統治の権限であると観念されているが故である。だからこそ、天皇親臨を仰ぐということは極めて重要なる国務の諮詢が行われることを差す。天皇御動座を奏請し、天皇親臨のもとに開催される枢密院会議を「御前会議」と称する。

 

 今回は、事の内容が、日満両国に同時に関係することであり、満洲国側からの要請により、合同しての御前会議が開かれることとなった。執政はあくまでも皇帝の代理人であり、事の内容は参議府会議に於ては皇帝親臨を奏請すべき事案であるとの理由による。初めての試みであり、新京の参議府庁舎とテレビ会議の通信を繋いでのものである。ZOOMの会議と言えば通りがよいだろう。

 出席者は、日本側が、枢密院議長、副議長及び筆頭枢密顧問官、内閣総理大臣以下国務各大臣及び貴族院長、貴族院議長及び副議長、衆議院議長及び副議長並びに大本営総監、副総監及び三軍参謀部長。満洲側が、執政兼参議府議長、副議長及び筆頭参議、国務総理大臣以下閣僚及び元老院議長及び副議長、衆議院議長及び副議長並びに幕僚総監、副総監及び三軍参謀部長。地球世界ならば本来一同に会合することが安全保障上はばかられるところであるが、新世界に於ては問題なしとなった。

 会議の内容は非公開。議事録は100年間は国家機密の指定となる。

 

 

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荒池翰長メモランダム

 

本文書は、山上内閣で内閣書記官長を務めた衆議院議員正二位勲一等旭日桐花大綬章荒池正十郎先生の没後に発見された会議メモであり、表紙には「機密指定事項もあるため、平成27年から100年に渡って公表することを得ず。」と記載されていた。ロデニウス戦争開戦前夜の状況を知る貴重な歴史的史料であり、御遺族の意向により東京帝國大學文学部に寄贈された。東京帝國大學文学部教授会は、大学評議会を通して、文部省及び内閣に対して議事録の機密指定の解除を奏請してきたが、このほどロデニウス開戦前夜の御前会議の機密指定の解除を受けたことにより、当該文書の機密性も解除されたものと判断したため、公刊に及んだものである。

 

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平成27年4月9日(木)

 

 

午後0時半、満洲国側との通信接続完了の報告あり。マイクテストおよび動画の再生状況も良好なり。信崎(編者注:信崎慎太郎内閣副書記官長(当時)のこと)より連絡あり。渡内府より御動座は予定通りでよいかと。予定通りで可。

 

45分 首相より出席者の状況最終確認の要請あり。国務各大臣、軍部全員出席。枢府は枢相より全員集合の確認を午後0時に確認済み。貴院関係者、衆院関係者会議室に一同着席済み。満側も同様の状況なりしこと報告し、首相とともに会議室に向かう。

 

50分 ストーニー官房長官より満側全員着席の連絡あり。信崎より渡御は5分後との連絡あり。着席一同に報告する。

 

55分 出御。始めに勅語あり。両国重臣のこれまでの働きに御満足あられられる旨一同恐懼して拝す。ただ、戦争の直前に際し、今一度他に外交手段はないか確認をさせてもらいたいとの叡慮を発せられ給う。重臣一同の積極的な発言を頼むとの思し召しなり。

 

午後1時 飯尾枢相の司会にて、これまでのロウリアの動きの再確認。徳川外相、森山外相、真柴総監、陳総監の順に発言。ロウリアは戦争準備を完成し、今や彼の軍は国境を侵犯しつつある状勢。我が国及び満洲国からの再三にわたる勧告も黙殺。外交部としてはこれ以上の外交努力は困難であると謝罪さる。

 

中野衆議院副議長(編者注:当時の日本衆議院副議長なり。)より質疑「パーパルディア皇国、ムー国に仲介を頼む可能性は有りや。」

徳川外相「パーパルディア皇国にとは未だ外交接触の成果なし。ムー国とは接触したるも、国交樹立には至らず、仲介を頼むだけの信頼関係なし。」

森山外相「満側も同様なり。パ国とは国境紛争は落ち着きたるも我等からの呼び掛けにこたえる声なし。ムー国とは、クワ・トイネにて接触を開始したのみ。」

 

此処に於て廟議は開戦已む無しと判断。両国首脳、議会も一致した見解を発す。

 

御上ご発言あらせらる。速記者に速記を止めるよう指示。ストーニー官房長官にも同様の連絡。

 

御上「重臣達の決定はよく理解した。ロウリア側に非戦の意思もないことも理解した。そのうえで、朕が今一度ロウリア国王に翻意を願う親書を出すことは能うか。」

山上「既に政府より三度にわたる警告を発し、ロウリアはそれ全てに黙殺しました。このうえ陛下の親書を出すことは畏れ乍ら政府として同意せざるものあります。」

李「かつて送られた陛下の親書にも相手方は回答を行ってきませんでした。臣未だ斯くの如き無礼を知らず。宸襟を悩まし賜いし事臣下として恐懼するも、その儀はご遠慮願いたく。」

御上「両国首脳の意思は理解した。このうえは各国それぞれの憲法の既定の手続によって事を運ぶように。なお、統帥部には、各々国籍、軍種問わず、協力して事に当たるように。陸海空軍将兵には国際法規の範囲に於て全力を尽くすことを命ずる。朕の軍隊の負傷者は極力少なくするように統帥部には作戦の考究に尽くすよう特に厳命する。統帥部にはいろいろ難しいことを言っていると思うが、朕の意を体してもらいたい。また速やかな平和の恢復に努めるよう外交部にあっても努力せよ。」

 

臣等一同恐懼して玉音を拝す。統帥部を代表して、真柴、陳両総監、特に統帥部への叡慮を賜りましたからには、陛下の赤子に死者を出すことなく我等は作戦の考究にあたる旨奉答さる。

 

その後、作戦概要の説明となる。まず、陸では、ギム防御陣地にて、敵を大幅に減らした上で、之を降伏に至らしむ。海では、軍船の3分の1は沈めたうえで、彼我の実力差を痛感せしめ、降伏または母港に帰投させしむ。作戦の細部は今まで以上に検討する。特にギム陣地に対しては、速やかな援軍を派遣し、相手を圧倒する。この時点で敵が戦力差を悟れば、アルタラス王国外務局を通して、和平の申し入れを行う。しからずんば、首都を一気に攻略し、母港の残存勢力を破壊させる。

 

会議終了午後2時半 入御。その後散会。

 

ストーニー官房長官と申し入れ、会議議事録はそれぞれ作成し、各位より承認をもらう。両国の同意は枢密院議長参議府議長、各首相、各議院議長、各統帥部長の署名にて共同議事録としての承認とすること。なお、陛下の発言は議事録に載せざることに留意す。ストーニー官房長官委細諒解。

 

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