大日本帝國召喚   作:もなもろ

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宣戦布告に揺れるマオス翁。爺の勘はよく当たるのです。


ロウリア王国首都ジン・ハーク ハーク城 中央暦1639年4月12日午後3時

 ― ロウリア王国宰相 フランチェスコ・マオス

 

 とうとう日本国と満洲国からの宣戦布告が行われた。彼らがどういう国なのか、結局今の今まで詳しいことは分からずじまいであった。

 国王陛下は東方遠征が開始されたという前線からの報に接して上機嫌となったが、その後続報が一切入ってこないことに対して不機嫌を通り越してお腹立ちの様子であった。昼食の時間、マオスを呼べとの御命令があり、御前に侍ると、お前ではない息子の方だとおっしゃられた。息子が何かいたしましたかと問うと、息子が、東方征伐軍の飛竜隊がマインゲンを進発し、ギム総攻撃を開始したとの上聞を行ったが、勝利報告ギム奪取の報告に未だに来ない。何をしているのかと大層ご立腹であった。

 愚息が陛下への報告を怠っていることを詫び、事実確認のため、慌てて御前を下がった。速足で、外務局棟の外務卿執務室へと向かった。愚息め・・・なんたる短慮を。

 

 執務室に入ると、息子がいらいらした表情で執務椅子に座っていた。右手を執務机の上に置き、指で机を何度もたたいている。わしが入室するや否や、「父上!」と声を挙げた。

 

「馬鹿者。公務中だ官職で呼べ。して、続報はどうなっておるのだ。」

 

「東方征伐軍からは、その後明確な戦果報告がありません。予定ではギムの街を占領している時刻なのですが・・・」

 

 愚息が焦燥した顔で私の質問に応える。なるほど、執務机の上には交信記録の紙がおいてあるな。一番初めの記録は8時か。総攻撃の開始時刻に第一報とは先走ったものよ。

 

「ふう・・・。状況は最悪だな。進発時に連絡を入れてきた軍が現在までに連絡をよこさない。それで、督促はしておるのか?」

 

「はい。時折状況の報告の催促を行っているのですが、返答はありません。それどころか魔信がつながらないときすらあります。」

 

「魔信がつながらないときか・・・。前線は相当に混乱しておるものと見えるな。」

 

「ええ、いったいどうしてこんなことに。」

 

 ええい、なぜ気付かんのじゃ。今一度、現状の再認識を行わせねばなるまいて。

 

「考えられることは3つじゃ。我が軍の力を過大評価していたということ、または敵軍の力を過小評価していたということ、そして、それ以外の不測の要因が発生したということ、このいずれかじゃ。」

 

「しかし、我がロウリア軍は列強パーパルディア皇国の支援により支援前よりも格段の違いがあります。我々は身近でそれを見てきたでしょう。パーパルディアで運用しているのよりも小さいそうですが、地竜も配備されています。ロデニウス大陸にはいない生物兵器です。あの火炎放射の威力は物凄いものでした。それは宰相閣下もご覧になったはずです。」

 

 その通りだ。パーパルディア皇国からの軍事支援は6年前に始まった。この支援の中でも記憶に残るのが、地竜の派遣だ。観察軍の帳簿をいじって、比較的若い数体の地竜を死亡したこととし、我が国に派遣してきた。あの地竜見た目は鈍重に見えるが、ワイバーンが地上で火を噴いたような火炎放射と弓を通さぬ固い皮膚を持っていた。わしもあの姿を見たが、あれを擁する我が軍がクワ・トイネに負けるとは思えん。わしは、先を促した。

 

「うむ。続けよ。」

 

「次におっしゃいましたクワ・トイネ軍の評価ですが、半年前までは行商人になりすましたスパイをクワ・トイネに入れておりました。ギムの街も西方陣地もいずれも状況も監視していました。その報告に依れば、特段問題があるという報告を受けていません。横のつながりのない、スパイを複数人潜入させての報告です。評価は適正であったと思います。」

 

 これも間違いではない。横のつながりを知らせぬことで、談合して同じような報告を挙げさせるという手段を取らせなかった。愚息はその手法をパーパルディアの軍人から聞き、その方法を取り入れるよう政庁会議を主導した。この愚息は頭が固いわけでも、馬鹿でもない。なのになぜ、第三の選択肢に思い至らぬのだ。

 

「うむ、つまりは3番目の要因ということだな。」

 

「しかし、本日のギムの天候は晴れと聞いています。兵士の体調などに異常が発生したという話もありません。我が軍の装備も同様です。他に何が考えられましょうか?」

 

 なぜ、ここまで言っても、その先を認めようとせんのだ。腹立たしい。

 

「なぜ、我が国とクワ・トイネに視点を絞るのだ。他にも急に我等両国の関係に横入りしてきた国家があっただろうが。」

 

「ふう。閣下。またそのお話ですか。そのお話は、」

 

「しかし、それ以外に何が考えられるというのだ。これまで関係性のない国家が我が国とクワ・トイネの間に横入りしてきた。しかもだ、彼らはロデニウス平和宣言なる文書を我等に通告してきた。大東洋所属国家のほとんどがこの文書に調印をしておる。大東洋所属国家が開戦前に開戦を止める目的でこのような形式の文書を取り交わしたという記憶はない。あの大東洋諸国会議においても、話し合いが行われるだけで共同の文書が出たということはそう多くはないのだ。日満には、大東洋所属国家を纏める力がある。わしはそのように見ているが、外務卿はどう思うのだ。」

 

 愚息は、執務机の引き出しを開け、書類を手渡した。

 

「たった今。そう、ほんの30分前に届いた魔信です。アルタラスのベルシュ大使から届きました。内容については、ご一読ください。」

 

 アルタラスの大使が?宣戦布告文書を魔信した後に続報をわざわざ?あのスケベ親父め一体何を・・・。ふむ・・・、これはっ!

 

「外務卿!」

「ベルシュ大使がアルタラスのシモン・ド・ユグモンテ外務卿から聞き出した内容です。日満の当初の「共同勧告」案から実際の「外交宣言」は、主体も表現も後退しています。これはつまり、日満には、宰相閣下のおっしゃるような大東洋所属国家を纏める力があるとはとても思えません。この共同勧告案が採択されていたら、確かに我が国も流石に宣戦を躊躇していたかもしれません。他の有象無象の国家ならともかくアルタラスが敵に回れば魔石の輸入が途絶えることとなり、増強した軍の維持にも手を焼いていたでしょう。その懼れがあるとすれば、外務卿としては、難しい選択を迫られたことになることは否定しませんし、宰相閣下のお考えもまた事実としてとらえられたでしょう。

しかし、そうではないのです。むしろ日満はアルタラスを敵に回しています。中立を維持するなら、交戦国に魔石を輸出することはもう一方の交戦国にとっては敵対行為となる。なるほど、この理屈は確かにそうでしょう。間違ってはいません。ですが、アルタラスは魔石の輸出で儲けている国です。そこにいささかの配慮もないというのは、外交としては下策です。いわば日満は理を重視するのが外交と思い込んでいるようですが、利を重視しない外交などありえません。

これは、ユグモンテ卿の私見も入っていますが、日満はアルタラスからあまり魔石を購入していないそうです。それは、日満は国内に魔石の鉱山を多数抱えているということになります。それもそれなりの質なのでしょう。つまり、日満は中立を盾にして、我が国の軍を弱体化させ、自国に優位に働き掛けようとしたと推測しております。実に狡猾な考え方であり、アルタラスの貿易輸出額を減退させる意味もあるとすれば、アルタラスの弱体化も狙った、実に巧妙な罠である、とも言っています。

宰相閣下、私は、少なくとも日満が外交手腕に優れているとはとても思えません。こうしていらぬ敵を作り出したようなのですから。」

 

 ふむ・・・。日満は少なくともアルタラスの外交部の顰蹙を買ったことは確かか。

 

「外務卿。お主の考えはよくわかった。それもこうして証拠まで出されては信じざるを得ん。だがな、我軍にも問題なく、クワ・トイネ軍にも問題ないとすれば、それはどんなに信じがたくとも、そこにしか答えはないと思う。よもや、我軍の将兵全部が全部油断してましたという訳でもあるまい。ならばだ。こうして少しずつでもよいので日満の情報を集めてほしい。日満については未だ闇の中だ。しかし、闇の中からきっと何かが見えるはずだ。」

 

 わしは頭を下げた。愚息の話それ自体はよくわかる話であるが、どうも気にかかってしょうがない。

 

「まだこのベルシュ大使の報告の裏は取れておりません。既に日満と国交のある他国の我が国の大使を通じて、この文書の裏も含めていろいろ探らせております。それを待ってからの結論としても宜しいかと思います。」

 

 息子が溜息を吐きながら、わしを見た。爺の心配性が過ぎるとでも思っているのだろうか。日満については知らないことが多すぎるのだ。まだ結論を出す時期ではない。それを引き出しただけでも良しとするしかあるまいて。

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