ギム防衛陣地中央左翼
― 近衛歩兵第二連隊第一大隊第二中隊第一小隊長 陸軍中尉 笹野小次郎
ようやく次の生物兵器を倒すことができたようだ。敵の生物兵器はどれも同じ生物のようだったが、一番最初の2匹よりは、次の2匹は半回りほど大きかった。そして最後の二体は、最初のよりも一回り大きい。ならば、時間はよほどかかるだろうと思った。
高射砲が地上の敵に向けて発射される。案の定だ。35mm高射砲はあまり効いているようには見えない。敵の生物兵器は悠然とこちらに一歩一歩歩んで来ている。いや、でも、先ほども攻撃を続けたら、いつの間にか撃破できた。今度も同じだろうか。クワ・トイネの兵士に聞いてみた。今度はどうかと。しかし、今度はあまり効いていないようだ。
生物兵器の死骸からは薄気味悪いもやが霧のように視界を遮っている。クワ・トイネの兵士によるとあれは魔素という生物が持つ魔力が漏れ出ているものだという。だが、普通は死体から発せられる魔素は霧散するという。あのように漂っているものではないというのだ。何かある。あのもやには。
既に敵は総攻撃の太鼓を叩いている。もう一刻の猶予もない。上はどうするつもりだ。陣地を放棄するつもりか。だとすれば、もう余裕はないが・・・。
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ギム防御陣地本陣・総司令部
― 西部方面騎士団団長副官クレマン・ジラール
総司令部は重苦しい雰囲気に包まれている。高射砲の攻撃は二度成功したが、最後の2体が倒せない。始めの2体は難なく倒せた。次の2体はようやく倒せた。
参謀長をはじめ満日の将軍は、次の2体への攻撃を効果がないとみていた。これは、満日の将軍に魔力が見えないことが原因だった。モイジ総司令官を始め我々クワ・トイネ側は、高射砲の攻撃によって敵の装甲が飛び散る様子を見ていた。砲撃の中止を命令しようとした参謀長に総司令官は、高射砲の砲撃が効いていることを説明し、その説明中に撃破した。
だが、最後の2体は駄目だ。装甲が砕け散る様子が見られない。満日の将軍は、総司令官に攻撃が効いているのかを確認したが、今度は総司令官は攻撃が効いていないことを説明した。これで、手はなくなったかに思われた。
「やむを得ません。戦車を投入しましょう。120mm滑腔砲にかけるよりも他に手はありません。」
廣澤機甲師団長が意見具申する。そうか。まだ我々には戦車があった。あの大砲ならば・・・。
「そうよな。これにかけるより他にない。切り札の切り時だな。総司令官、戦車の投入を意見具申します。これでもなお撃破できないという事であれば、残念ではありますが、ギムの陣地の放棄しかありません。速やかに撤退して、ギムの街の避難民を誘導に従事します。敵は総攻撃の太鼓を鳴り響かせております。ご決断を。」
「そうですね。地雷も機関砲もダメという事であれば、最後の切り札しか残されておりませんね。廣澤師団長、命令を。」
「はっ!!連隊本部聞いていたな。直ちに戦車を出動させろ。」
「その御命令を待っておりました。第一小隊前進せよ。直ちに陣地正面の生物兵器を撃破せよ。」
「了解。一個分隊、我に続け!」
「総司令官閣下。念のためです。各前線に撤退もありうると通達を。」
参謀長が総司令官に意見具申をする。モイジ総司令官は首を振る。
「まだです。敵は総攻撃の太鼓を鳴らして前進中です。その太鼓は我が前線にも聞こえています。ここで浮足立っては、総崩れとなる可能性もある。戦車の攻撃が失敗に終われば、皆覚悟が定まります。その時こそ、撤退の命令あるのみです。今はまだダメです。」
「はっ!!了解しました。」
「何、戦車砲の威力は私も確認済みです。何発か当てれば、大丈夫です。それよりも、攻撃に成功した後です。敵は総攻撃をかけてきますが、抑えきれましょうか?」
「問題はないでしょう。敵兵は2万から3万と聞いています。いざとなれば、残酷ではありますが戦車の榴弾で攻撃することも視野に入れますので、対処は可能です。」
「初めからそうするわけにはいかなかったのでしょうか?」
気になったことを聞いてみた。あの戦車の威力をもってすれば、敵の陣地を更地にできたはずではないかと。
「申し訳ありません。本国から、敵情を知るためになるだけ捕虜を取る事を要求されておりまして・・・。それで、食料の補給が多めで弾薬が少ないという始末で、ある意味腹立たしいことなのですが。」
「戦闘詳報には、きっちり書かねばなりませんな。前線にいらぬ苦労を押し付けるなとね。」
李師団長が軽い口調で言えば、
「剣呑剣呑。政府批判はご法度にて。」
滝沢師団長が笑い出し、総司令部の空気が少し明るくなったような気がする。戦車のエンジン音がここまで聞こえてきた。満日の地竜よ。ロウリアの陸亀を倒してくれ。
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ニージェイ山中腹 先遣隊戦闘指揮所
― ジューンフィルア伯爵家魔導士長 ワッシューナ
我が軍のリントヴルムが敵の隘路に差し掛かった。狭いところに入るのが苦手なのだろうか。いやあの逆茂木だな怖いのは。進入を躊躇している。くそう、なんという誤算だ。焼き払う訳にもいかん。やむをえん。少々かわいそうだが、装甲で強化されているのだ、歩いてもらうしか、むっ!なんだあれは!?
地竜だ。物凄い速さで地竜が走ってくる。あの長い棒は、先ほどの攻撃魔法を放つ棒と似ているな。肉眼ではわかりづらいが、大きさも大きそうだ。右側から4匹、左側から3匹。む、人が乗っている。あの地竜の背中には凹みがあるのか?凹みに身を隠すことができるとは、いやあれは竜なのか?どういう足をしているのだあれは?
む、こちらを向いた。フフフ、ロウリアの優秀な魔導士50名が命を捨てて作り出したこの土魔法そうやすやすとは、
ズガァーーーン!!バガァァァァン!!
は、破裂しただと!!我等の土魔法の装甲を一撃で破って、しかもリントヴルムに断末魔を叫ぶ猶予すら与えずにに死に追いやったのか!!
お、おそるべき攻撃魔法だ。
リントヴルムの魔素が広範囲に広がっている。山の中腹から敵陣は見えなくなってしまった。これはこれで、奇襲の効果が有るのか?
総攻撃の太鼓が鳴り響くなか、黒色槍魔法騎士団が一列縦隊で駆け抜けていく。黒色の鎧、黒色の兜、黒色の武器そして黒駒。馬の口に枚を噛ませているのであろう、黒一色に染まった集団が静かに山を駆け抜けていく。
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ギム防衛陣地中央左翼
― 近衛歩兵第二連隊第一大隊第二中隊第一小隊長 陸軍中尉 笹野小次郎
「ちっ!まずいなこれは。」
「ええ、前が見えなくなってしまいました。」
あの陸亀は戦車砲の一撃で破裂した。それはそれでよかったんだが、魔素が広範囲に散らばってしまった。おまけに先ほど高射砲が水平射撃を行うために陣地の壁の一部をとっぱらったもんだから、防御力が低下している。
「やむを得ん。おい、土嚢はまだか?!敵さんは待ってはくれねーぞ!」
太鼓の音がどんどん近づいてきていやがる。プレッシャーをかけるつもりか?!中世人のくせして心理戦とは味な真似をしやがる。
「小隊長!!」
「どうした?」
「きやがりましたぜ。あの音は、馬の足音です。」
「くそ、土嚢は間に合わないか!総員傾注!重装歩兵と防具をつけた歩兵は、防具の点検急げ。ジェラルミンや強化プラスチックの盾を構えろ。小銃隊はセミオートで待機だ。隘路から出てきたところを狙え。もう敵の足音はすぐそこだぞ!!」
「ヘリからの連絡です。騎馬隊がこちらに向かっております。」
「畜生!!なんだって俺らの正面にきやがるんだ!!」
防備のために用意した隘路に魔素が溜まっている。今ヘリがプロペラの風を当てて霧散するように仕向けているが粘性を持っているかの如くその動きは鈍重だ。黒い魔素に隠れて馬の足音が陣地の空いた穴に迫りつつある。