大日本帝國召喚   作:もなもろ

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ガルーデ氏の生存報告

次の話書いていたら、追記したくなりました。


後方司令部衛生部報告書及び日誌 / 西部都市ギム野戦病院 中央暦1639年4月12日午後5時

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 ギムの街に設置している四箇国聯合軍総司令部の後方部隊であるが、便宜上後方司令部として後方司令官を置いている。陸軍兵科の将校から輜重兵科出身の少将を後方司令として補職させ、その下に各部将校すなわち、技術部、経理部、衛生部、法務部の陸軍各部の後方支援任務を行う部隊を置いている。

 このなかでも一番人数が多いのが衛生部である。衛生部は、軍医、薬剤(満洲国軍は司薬科と規定されている。)、歯科医、衛生の各科に分かれている。軍医科、薬剤科、歯科医科は日満ともに「陸軍武官官等表」には士官しか存在していない。衛生科のみ士官、下士官、兵が存在する。

 軍医科は、軍における医師である。士官のみが存在する。大学医学部又は医学専門学校を卒業し、医師国家試験に合格した者が、陸海軍軍医学校尋常科に入学する。半年間軍医としての共通教育を行い、その後半年間陸海軍に分かれたうえでの専門教育を行った後に、一年間各部隊に配属されての研修を経て、医学部卒が陸軍軍医中尉に医専卒が陸軍軍医少尉に任官する。なお、任官するまでの二年間は陸軍軍医候補生という准士官相当の俸給を得る。

 薬剤科もまた同様である。大学薬学部や薬学専門学校を卒了した者が軍医学校薬学科(司薬科)に入学して二年間を修了すると部隊配属となる。任官が陸軍薬学中尉と陸軍薬学少尉に分かれるのも同様である。

 歯科医科も同様の経緯を経て任官となる。ただし、歯科医師の場合は少し異なる点がある。戦場においては、歯科医師もある程度の創傷の治療を行うだけの技量を持つ必要があるという観点から、歯科医士官に任官する前に一年間の医科研修期間が設けられている。

 なお、最終階級は陸軍軍医と陸軍薬剤が中将である。歯科医は少将となる。

 衛生科は以上の科とは違う経緯をたどる。

 まず衛生兵の存在だ。衛生兵は歩兵の中から志願者などから構成され、看護資格などを持たない者や准看護師の資格を有する者が就任する。戦場における極めて簡易な治療や戦傷者の後送などの任務に従事する。

 次に衛生下士官の存在である。衛生下士官は各職種に区分される。すなわち、看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士などであるが、これらを一律に衛生下士官として陸軍衛生曹長、陸軍衛生軍曹、陸軍衛生伍長の階級(満洲国軍の場合は、陸軍衛生上士、陸軍衛生中士、陸軍少士)に分けて、看護学校などの中等学校卒業後は伍長(少士)の階級となる。

 衛生士官は、陸軍衛生中佐、陸軍衛生少佐、陸軍衛生大尉、陸軍衛生中尉、陸軍衛生少尉(陸軍衛生中校、陸軍衛生少校、陸軍衛生上尉、陸軍衛生中尉、陸軍衛生少尉)となる。大学看護学部の卒業者が陸軍衛生少尉となり、専門学校卒は陸軍衛生准尉となる。

 いずれも年功で昇進するが、下士官からの昇進もある。

 

 

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 四箇国聯合軍後方司令部衛生部は、外科、整形外科系の軍医を中心に軍医科18名、薬剤科10名、歯科医科2名、衛生科士官5名、衛生科下士官15名、衛生科兵40名の合計90名の大所帯である。これに前線に投入されている軍医科将校や衛生科の将校兵を併せれば200名の人数となる。これにクワ・トイネの魔導士が軍医枠で若干名配置されている。

 

 今次戦役においては、自軍の戦傷者については、前線で魔導士が迅速な止血を行うという画期的な方法がとられたため、後方に搬出された戦死者の数は「この時点では」0人であった。ただし、後方に搬出された戦傷者は、後方司令部衛生部の統計では329名に上る。では、この時点までに後方野戦病院が行った治療について、後方司令部衛生部長兼ギム臨時野戦病院長の山脇雄介大日本帝國陸軍軍医大佐の司令部日誌とともにみていきたい。

 

 

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・・・帝國厚生省が出している厚生白書、年次傷病者数発生統計によれば、「重傷」と呼ばれる怪我の状態というのは、全治1か月を有するか否かによって区分される。全治一か月を下回れば「軽傷」ということになる。また、同じく三週間を超える入院を必要とする者を「重症」と呼んでいる。それ以下だと軽症ということになる。

 この定義に当てはめれば、4月12日午前の戦闘において発生した負傷者は「表面的には」軽傷ですらないことになる。何しろ傷はふさがっている。魔導士の治療を受けていない擦り傷や捻挫の軽傷者は全治7日などの診断がつくものの傷がない以上診断がつけられない。

 

 ただし、表面的にはという条件が付く。第一の症例は、各部隊から後送されてきた兵の中に出血性貧血の診断がつく者がいるということだ。つまり、表面上の傷はふさがるが失われた血液は戻らないということを意味している。このような患者には、比較的重い場合には輸血を行い、そうでない場合には、鉄剤を服用させ、2,3日休養させるという処置をとることとした。つまり、「軽症者」が多数発生したということだ。このような患者が136名に上った。

 

 第二の症例は、骨折の症例である。魔導士の治療は、身体の表面から効果を発揮する。つまり、皮膚や筋肉の組織再生が猛スピードで進んでいるということになる。そして、身体の内面にある骨格組織の再生に移行する。この際の魔導士の「魔力操作」が不十分であると骨折によって生じた骨組織の再生が不十分であるために、患者が自己の足で移動したなどの際に再骨折が生じるという症例が発生した。

 さらに魔導士の技量によってもこれは左右されるため、骨折の治療にもいくつかの異なった症例が発生した。魔導士の技量が低い場合は、骨折部分の骨組織の再生が不十分であるために簡単に再骨折が生じるが、その際は外固定(筆者注:ギプスなどを使用して「外」から固定すること)を行うことで自然治癒を期待した。このような症例が23件発生した。

 次に魔導士の技量が高い場合である。魔導士の技量が高い場合は、骨組織の再生が強固に進むことがX線検査で確認された。しかし、この際に、はじめから曲がった状態で魔法をかけたのか、魔力操作にムラがあったのかは不明であるが、骨と骨が曲がって接合されている事例がX線検査で発見された。比較的軽微で予後の影響がないか薄いと判断されるものについては、患者の同意の下、処置をしなかったが、予後が不良と判断されるものについては、緊急に骨接合術や骨切り術(筆者注:曲がってくっつき始めた骨を再度固定しなおしたり、骨の一部を切ってつなげなおす手術。メスで切開して、骨に直接医療用のボルトなどを使用して、「内」から固定するので「内固定術」ともいう。)を施行した。このような症例が4件発生した。

 

 最後に、内臓損傷の症例である。先に失われた血液は戻らないと記載したが、同様に失われた細胞も元に戻らないことがあることが判明した。むろん、皮膚や筋肉が再生したように、急速な細胞分裂により、内蔵の損傷もある程度細胞の修復が進んでいることが判明しているが、魔導士の技量によっては、細胞の修復が安全なところまで進んでいない状況で魔力操作を止めている事例が発生した。腸穿孔3名と鼠経ヘルニア2名の症例を確認し、緊急に開腹術を施行して処置した。

 

 以上のように今次戦役における、魔導士の迅速な止血術療法は、戦傷者を減らし、前線の戦力維持には有意義であるという結論は動かさないが、その運用についてはなお考究の余地大なることを報告する。

 

平成27年4月12日

後方司令部衛生部長兼ギム臨時野戦病院長 大日本帝國陸軍軍医大佐 山脇雄介 印

 

 

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 後方司令部においては、ギムの街の空き家の中でも規模の大きな施設を仮設の野戦病院として接収し、そこに病室を置いた。

 自軍の将兵とロウリア軍の将兵は分けて収容してある。当初日満軍は、敵味方を判別すると作業量が増え、人員が分散するために、敵味方混成での収用を主張したが、収容後に敵味方でいざこざが生じるため、かえって作業量が増えるというクワ・トイネ側の主張を受け入れ、敵味方を分別して収容することとなった。

 

 ロウリア東部諸侯軍のグレイブゲルト子爵領軍に属していた兵士ガルーデは、長い昏睡状態から目を覚ます。目を開けると室内にもかかわらず非常に明るい部屋の中にいて、自分はふかふかの清潔なシーツの上に寝かされていた。ふと痛みが走り、自分の右手を見てみると包帯でぐるぐる巻きにされていた。何か硬い芯のようなものまで入っている。目をさらに下の方に向けると右の腹にガーゼが貼ってあった。

 

 体を起こそうとしたが、痛みで動けずに思わず痛いと口に出してしまった。すると、「あ、起きられましたか」という声が聞こえた。首だけを動かしてその方向を見てみると、「今医者を呼びますので少し待っててください」と、女性の衛生兵が声を掛けてきた。少し待つと、白衣に軍服を着た男がやってきた。彼が医者なのだろうかとガルーデは彼の顔を見た。

 

「やあ、目が覚めましたね。自分の名前言えますか?」

 

「・・・ガルーデ。」

 

 相手の言われるままに答えたが、よかったのだろうか。ここはロウリア軍の駐屯所ではない。こんな施設は見たことがない。とすれば、敵の施設に違いない。急に不安になってきて、ここはどこかガルーデは尋ねた。しかし軍医はそれを遮り話を続ける。

 

「あー、そうだよね。不安になるのもわかる。でもまずは、ケガの話をさせてください。私はね、貴方のお怪我の具合を診察させてもらいました、満洲帝國陸軍軍医上尉のアーノルド・マルチアーニと言います。ガルーデさん。貴方の右腕ね。そうそれ、骨が折れてました。右の腕のこの部分、前腕っていうんですけどね、ここ2つの骨からできてまして、その中央部分が折れてました。幸いね。折れていたといってもヒビが入った程度だったからね、ズレとかはなかったのでね。まっすぐしてうごかないように、支柱をいれて包帯でぐるぐる巻きにしてずれたりしないように、動かないようにしてます。

 診断名はね、右橈骨尺骨骨幹部骨折。まずは全治3週間から4週間ってとこですね。途中でね、もし悪くなっているようなら手術しますからね。

 そしてね。体のところどころに傷がありましたが、これはね、キレイに洗って傷口が化膿しないようにしていますから。ここまではよろしいですか。」

 

 なるほど、骨が折れていたのか。気になっていたここはどこなのかを聞いてみた。

 

「ここはね。クワ・トイネ公国の西部都市ギムだね。これ以上はね、担当の人を今呼んでますので、その人から聞いてもらわないといけない。だから、少し待っていてください。何かあったらね。この部屋には2人人がいるからその人を呼んでください。こちらは、満洲帝國陸軍衛生中士のヨランダ・ピヴェッティさん。もう一人が大日本帝國陸軍衛生伍長の石橋倉雄さんね。それじゃ、ピヴェッティさんに石橋さん。あとは宜しくお願いします。」

 

 俺はどうなるのか。肝心なことは何一つ聞けぬまま軍医と名乗る男は去ってしまった。多分捕虜になったのだろう。こうして治療まで受けたのだ。殺されることは無いのだろうが・・・

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