大日本帝國召喚   作:もなもろ

83 / 362
次なるは、法務部についてです。


後方司令部法務部について / 西部都市ギム野戦病院 中央暦1639年4月12日午後5時

 ――――――

 ギムの街に設置している四箇国聯合軍総司令部の後方部隊のなかで、衛生部の次に多い部隊は、法務部である。日満両国及び両軍は、戦争開始前の想定では、捕虜が大量に発生することを見込んでいた。圧倒的な戦力、攻撃ヘリや歩兵銃や機関銃で兵たちが大量に倒される様を目撃すれば、敵上層部は戦意を消失する可能性が高いといささか甘い想定をしていた。このため、捕虜の対応をするための法務部の人間が多めに必要だろうとの認識の下、法務部の陸軍軍人が衛生部の次に多いこととなっている。

 

 日満両軍の法務部(満洲国軍は軍法部と法令で呼称されている。ここでは、法務部で統一する。)は、法務科と法事務科の科に分かれている。

 法務科は士官のみが存在する。高等試験司法科に合格した者の中から陸軍法務将校たらんとする者は、志願書を兵部省法務局に送付する。志願者多数の場合は選抜試験が行われると「陸海軍法務科将校採用規定(昭和35年兵部省令第21号)」にはあるが、多数とはどの程度を差すのかについて明確な数字はなく、これまでに採用試験が行われた記録はない。法務科将校に採用されると陸軍法務少尉に任官する。その後半年間の研修を兵部省で受け、正式に部隊配属となる。

 

 法務将校の仕事は軍法会議における判士、予審官、検察官、弁護人の職務である。陸軍軍人が犯罪を為したと告訴告発があった場合や現行犯である場合などの事件の端緒があった場合は、まず憲兵より各軍法会議長官(高等軍法会議は兵部大臣、軍軍法会議は軍司令官、師団軍法会議は師団長)に対して調書の報告が行われる。長官は調書の内容により、検察官に対して公訴提起、予審請求手続開始又は不起訴処分の命令を行う。

 公訴提起の場合には、その後軍法会議が開かれる。不起訴処分は証拠不十分又は起訴猶予に相当すると思慮されるときに行われる。予審請求は、逮捕や捜索差押を伴う強制処分を行うに際して、予審官がこれを行うことを請求する際に行われる。

 原則として、憲兵や検察官は、現行犯である場合を除いて強制処分を行うことは認められていない。強制処分は、行政手続で行うものではなく、司法手続で行うことが、帝國憲法の意図するところであり、軍法会議もこれに倣った。

 公訴提起後は、予審官以外の法務将校と兵科各部将校を併せた合議体で裁判を行い、裁判長は法務将校から選ばれる。裁判官の数は原則として5人とされ、2名は法務将校が充てられる。今回の四箇国聯合軍軍法会議は、裁判長を日本陸軍法務少将から、裁判官として満洲陸軍軍法上校、日本陸軍中佐、満洲陸軍少校、クワ・トイネ西部方面騎士団団員から構成されることとなった。軍法はそれぞれの母国の軍刑法に依った。

 

 法事務科は、士官、下士官、兵が存在する。

 「陸軍兵等級表」によれば、法事務科の兵は上等兵と兵長のみ存在する。このような兵の設置方法を取るのは、あとは憲兵のみである。法事務科の兵は兵科の兵より選抜される場合と中等学校卒業者からの志願にて採用される場合がある。おおよそ警察でいうところの巡査の待遇である。主に書類整理や雑用に従事する。

 法事務科下士官は高等学校卒業者や兵からの昇進者が任官対象となる。また法律関係の資格所持者も法事務伍長の任官対象となる。法事務軍曹となると調書作成の権限が与えられる。

 法事務将校は、法学部卒業生が対象となる。大学法学部卒業生が法事務中尉となり、それ以外の学部か専門学校卒は法事務少尉となる。取調の権限が与えられており、法務将校の不在のときは、判士となる。

 

 法務部の業務はもう一つあり、捕虜の尋問を担当する。法務将校となる際の研修で叩き込まれるのがこの俘虜扱い規則である。法務部以外の軍人も尋問には参加できるが、必ず法務部将校の立ち合いを必要とする。但し、緊急の場合は法事務将校の立ち合いで可とされている。

 

 四箇国聯合軍後方司令部法務部は、法務科30名と、法事務科士官20名、下士官30名、兵30名の110名で構成されている。前線には、法務将校が3名配置されているだけで、これは各師団司令部直属の法務将校であり、それ以外は後方に回してある。捕虜は後送してから尋問する予定であった。通常、師団法務部に所属する法務部員は、部長として陸軍法務少佐、部員として法務尉官1名、法事務尉官1名、法務下士官2名、部附兵が1名から2名が定員である。軍法会議が開かれるときなどは、上級の軍司令部や他の師団法務部から応援が呼ばれる。

 捕虜から情報を取るという日満側の気合の入れようが伝わってくる。なお、捕虜の監視員としてクワ・トイネの雇員が若干名配置されている。

 

 

 ――――――

 

 満洲陸軍衛生中士ヨランダ・ピヴェッティと日本陸軍衛生伍長石橋倉雄からいくつかの注意点が伝えられる。一日に一度軍医の診察があること、今はとりあえず動かないこととトイレに行きたくなったときは、付き添うので呼ぶことを告げて、部屋の入口の隅に座った。そういえば、俺が来ていた服はどうなったのだろうか。今着ている服はとても清潔で上質な服だ。俺の持ち物ではないが・・・。

 寝台の上で横になっていると新たに3名の男たちがやってきた。彼らは寝台の隣に腰を掛けて喋り出す。

 

「初めまして。私は大日本帝國陸軍法務大尉の臼杵義雄だ。今から君の取調べを担当させてもらう。」

 

 取調べ!そんな俺は何も悪いことはやっていない!と起き上がろうとしたが、すぐにそばにいたもう一人の男に肩を掴まれ、動きを封じられた。

 

「ああ、取調べと言っても形式的なことばかりなので気にしないように。まず、君の今の状況について説明させてもらいたいが、まず名前と出身地年齢、所属している隊を教えてもらいたい。」

 

 どうしたら・・・。取調べなんて言われても、俺は何もやってない。下手なことは言わない方がよいとおもいながらも、何をいえばよいのかと逡巡していたが、今聞いている情報は君の個人識別のための情報であって、これを教えてもらわなければ、相手からの照会に答えることもできないため、正直に答えてほしいと言われた。

 

「名前は、ガルーデ。出身はグレイブゲルト様の領地のヘンゲン村だ。歳はたぶん20だ。所属はヘルメル隊でいいのかな。ヘルメル様という普段は代官をやってなっさる方が百人隊長として俺たちの指揮官だとおっしゃってた。」

 

「なるほどね。家名はあるかい?」

 

 おかしなことを聞くもんだ。農民に家名だなんてあるもんかね。

 

「うちは、農民だから家名だなんて大層なもんはないよ?」

 

 正直に答えると臼杵と名乗った男は困り顔になり、後ろに控えていた下田という男を呼び出した。

 

「下田君。これ、書類どうすればいいと思う?苗字なかったら、書類の空白埋められないんだが?」

 

「それなら、父親の名前を入れておきましょう。苗字もあくまで個人を識別するための符号です。他人と区別できるようになればとりあえずはいいかと。」

 

 なるほどねと返してから俺の方に向き直り、父の名前を聞いてきたので、グイードと答えた。臼杵は居住まいを正して、語りかけてきた。

 

「まず、ガルーデさん。君の状況について、教えておく。君は午前中の戦闘で我が軍の攻撃を受けて負傷した状態で発見された。君の体には亡くなった方の体がのしかかっていて、その際に腕に大きな力が掛かって、骨が折れたのだと聞いている。だが、状況から察するに偶然ではあろうが、その方々が君の盾になったのだろうとは思う。体にも多数の裂傷、擦り傷などができていて、我が軍においてこれらを治療した。その時点では君の意識はなかったわけだが、今君は起きていて、この状態を認識した。つまり、ここは君たちから見たら敵軍の圏内にいて、君は今敵軍に捕らわれている身の上ということになる。ここまではよいだろうか。」

 

 やはりそうだろうと思ったことが敵の口から明らかになった。俺は一つ首を縦にふり同意を示した。

 

「君の今後の処置についてだが、君はまず文字は読めるだろうか?」

 

 不思議なことを聞く。ただの農民だ。名前くらいしか書けないことを話すと、ではこれからいうことをよく聞いて、捕虜としての宣誓を行ってもらうと話した。

 男の話によると、捕虜としての権利と義務があるのだという。

 権利としては、身柄には危害を加えられないこと、言いたくないことには答えなくてもよいこと、とりあえずの衣食住は保障されること、労働は原則強制されないこと、やむを得ず労働を課されれるときは賃金は支払われること、労働を希望する場合は若干賃金は下がるが賃金が支払われること、こちらの指定する範囲内であれば、ある程度自由にしてよいことが捕虜の権利として認められることが話された。

 義務としては、こちらの指定範囲内から出てはならないこと、敵対行為はしないこと、これに反する場合には厳罰に処されることが説明された。

 サインをしなければどうなるのかについて聞いてみると、どちらにせよ捕虜としての身分は変わらないので、自分の不利になるだけだと答えたため、俺は、宣誓書にサインをした。

 

「では、君の捕虜登録はこれをもって終了する。今後の生活については、また別の者が応対する。すぐに来ると思うので、このまま待つように。あと、もしロウリア軍が君の所在について聞いてきたときは、原則として我々はこうして名簿を作っているので開陳するようにしているのだが、かまわないかね。」

 

「よくわかりませんが、故郷の両親に俺の無事が伝わるのであれば、お願いします。」

 

「では、情報開示に同意として処理しておくこととする。」

 

 男たちはそう言って去っていった。そうか。やはり俺は敵につかまったのか。爺さんのように戦利品を持ち帰って、村で有名になるんだと思っていたが、捕虜か。人生ってのはうまくいかないもんだな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。