アルタラス王国王都アテノール城
― ルミエス・ラ・ファイエット
本日は、ユグモンテ外務卿の召集による会議が開かれると聞いております。お父様から漏れ聞くところによると、日本国と満洲国との今後の付き合い方についてのお話だとか。詳細は会議の場で聞くとよいとのことでした。
私は、王族の一員として外務局に身を置いています。お父様より「外国使臣接待役」という役目を頂いております。要は外国の大使と儀礼的なお話をする係ですが、儀礼的な会話と実際的な会話は必ずしも白黒つけられる話ではありません。時には、文官とともに外交交渉を行うこともあります。
件の日本国と満洲国の公使(彼らは自分たちが大使とはいわないとかたくなに言い続けております。なかなか不思議な政治慣習です。)とも面会をしたことがあります。
日本国の大垣秀徳特命全権公使は男性でした。歳の頃は、30後半といったところでしょうか。一国の代表としてはとてもお若いです。御召し物は見たことのないような形をしており、手首にはムーの大使が持っていらっしゃったような懐中時計のようなものをつけていらっしゃいました。お持ちの鞄も気品あふれる光沢がありました。少し眉間にしわを寄せた不機嫌なような顔が特徴的でした。
もう一方の満洲国の特命全権公使には驚かされました。ローズモンド・マニャールと名乗られた方は女性でした。しかも、私とそう歳も変わらなさそうなとても若い方でした。満洲国という国は女性を一国の代表として送り出すという我々の常識からすればありえない政治手法を取る国なのだとおもいました。
もっとも、外務局の方々に言わせれば、人材が枯渇しているのだといいますが、私にはそうは思えませんでした。わたしは、彼女と喋ったことがあります。彼女はとても理性的に、そして論理的に私どもの外交部と話しておりました。とても、能力が劣っているような喋り方をするような方ではありませんでした。
時間になり、会議が始まりました。ユグモンテ卿は、昨日12日に行われた、我が国とロウリア、日本、満洲との外交の内容を報告しています。そういえば、先月から日満両国がロウリア側と頻繁に交渉を重ね、先日最後通牒を突き付けたと聞いております。そして、その最後通牒の回答期限は切れていたはずです。ということは、日満両国は最後通牒の期限を過ぎて、戦争状態が生じた状態になった後に、再度正式に開戦通告を行ったということですか。なるほど、彼らの外交流儀は手続的な部分で極めて厳格なのですね。
ユグモンテ卿の報告は、中立国の義務についての話となりました。話の内容を聞くにつれ、会議場に集った国家の重臣が小声ですがざわつき始めました。お父様も眉間にしわを寄せていらっしゃいます。魔石の交戦国への輸出禁止。我が国の貿易品が輸出できなくなるというのは大問題です。しかし、気になります。
「ユグモンテ卿にお尋ねいたします。日満両国の我が国に対する中立の要求なのですが、現実的に受け入れがたいことはよくわかります。しかし、彼らの要求は外交手続き上間違った要求なのでしょうか?」
私は気になったことを聞いてみます。最後通牒後に改めて開戦通告をするという厳格な手続きを行った両国です。そんな彼らが我が国との関係を悪化させるだけなのにそのような無駄な要求をするのでしょうか?
「ルミエス王女殿下の御質問ですが、戦争において中立とは戦争中のどちらの国とも距離を置くということです。従いまして、この意味においては、日満両国の我が国に対する要求そのものは、外交上の手続きに何ら違背するところではないというのが理論的な結論であることは確かです。しかし、理論的に正しいということとそれが受け入れられるかどうかということは別問題です。我等の貿易輸出品の中でも最重要項目である魔石の輸出を控える。このような要求は断じて吞めるものではありません。」
ユグモンテ卿がそういうや否や会議場から「そうだ」、「日満の要求は許し難い」という声が聞こえます。彼らの要求そのものは、手続きを厳格に適用しようとするものでしかないということですか。両国が我が国を敵視しているわけではなさそうなので安心しています。日満、というよりも満洲国のマニャール公使には今後いろいろと教えを乞いたいと思っているのです。女性の身でありながら外交の一線で活躍する彼女に私はひそかにあこがれを抱いています。
昨日12日の午後のことです。私は護衛のリルセイドを連れて、ル・ブリアスの近郊の海岸に遊びに出かけました。王室専用のビーチであって、王族の他は外国の要人にのみ解放されています。我が国の臣下は使用することのできないために、王室と外国の要人が、王国内の他の貴族に知られないように密会するためには便利な場所です。一応は外国要人を招待するためのという対外的な理由から、海岸は整備され、景色が美しく、遠浅の海岸は波が穏やかで、我が国の気温と相まって年中海水浴が楽しめる場所です。
彼女は海岸にパラソルを差して、休憩していました。しかし、ただ休憩しているようではありませんでした。彼女の側には、数名の人間が控えており、彼女は硬い板のようなものを横顔に密着させて独り言を話しておりました。いや、あれはどうみてもだれかと話しているようにしか見えませんでした。でも側にいた人間は特に話していませんでしたし、不思議です。
私が彼女に近づくと、彼女は立って私に向き直して挨拶を行いました。そしていろいろと外交官としての苦労話を聞かせてもらいました。彼女の母国では、男女の区別なく実力能力によって外交官の地位を得ることができるのだということ、そのためには大学という教育機関で優秀な学業成績を収める必要があるということ、そうであっても女性がこういった地位で活躍することはまだ決して一般的ではないということなどいろいろとお話を聞かせていただきました。
そして彼女は、頬を緩めながら、海岸の木々を眺め見て、この海岸は美しいとおっしゃいました。年中通して泳ぐことができて最高だと私に伝えてくれました。私もこの海岸が好きなので同意しました。そして、「気候が温暖なのだから、街の人も暖かいのでしょうね。私はこの国が好きだ」と言ってくれました。自国を褒められるのはやはりうれしいものです。そして、同性であるからでしょうか、いろいろと話しやすいです。また、お会いする約束をして、いろいろと外交官としての必要な知識などを教えてくれることとなりました。
そんな彼女がいる日満両国が私にはどうしても悪くは見えません。このような考え方は外交官として失格なのでしょうか。理性的な目で私は日満両国を見れているのでしょうか。
会議はなおも続きます。ユグモンテ卿は、大胆にも日満両国の旗色が悪くなれば、ロウリア側に立って参戦すべきと言いました。しかし、そのような態度は問題だと思いました。
「初めから参戦するのであればまだしも、片一方のほうが旗色が悪くなってから参戦するというのには反対です。なぜなら、勝った方についても価値が見えてからつくのでは、日和見的で信は得られませんし、負けた側からは必要以上に恨まれます。勝った側からの分け前もそうたくさんはえられないでしょう。むしろ、中立を貫くべきです。そうすれば、周辺国には我が国は一度決めたことは最後まで守るということを伝えられます。その方が外交上の無形の財産となるはずです。」
しかし、ユグモンテ卿は、反論しました。曰く、外交とはそういう甘い考え方ではいけない、周辺国の信義が要らないとは言わないが、時には冷徹な判断も必要だ。漏れ聞くところによると日満はそれなりの国家とのことで、ロウリアとて無傷で行けるとは思わない。日満は善戦はするだろうが、最終的はロウリアに軍配が上がる。その状態での参戦はロウリアの助けになる。恩を売ることができるのだという。
いくばくかの議論の応酬の後、お父様から結論は保留するということとなりました。早速彼女との会話の成果が生かされた気がします。
まずは、この戦争の行方を見守る必要があります。
議場の全体の空気としては、外務卿の意見に賛同する方がやや多いように感じました。このような形での参戦は周辺国の反感を買うと私は考えます。なんとかして弁舌の技術を鍛える必要がありますね・・・。