クワ・トイネ公国公都クワ・トイネ首相官邸 中央暦1639年2月1日午後1時(1)
日満鍬杭外相級拡大会合会議録
開始時刻
平成27年1月30日午後1時
会合場所
クワ・トイネ公国公都クワ・トイネ首相官邸
出席者
大日本帝國外務大臣 侯爵徳川義輝
満州帝國外交部大臣 森山直次
クワ・トイネ公国外務卿 リンスイ
クワ・トイネ公国駐箚クイラ王国大使 ナーディル
クワ・トイネ公国首相 カナタ
会談目的
国交樹立にむけた事前調整
議事録作成
外務省 一等書記官 田中一久
外務省 一等書記官 大森泰三
外務省 書記官 和田順二
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カナタ「今回このような形で四か国合同の会談が行われるのはまことに珍しいです。大東洋諸国会議のような、お互い知っている国の間柄ではありませんが、お互いがお互いをよく知ることができるよう積極的な対話を希望します。」
ナーディル「では、まず私から。駐クワ・トイネ大使のナーディルと申します。私は、昨日日本国の田中氏と会談をする機会を得ました。話を聞くにつれ混乱し、正直まだ混乱は収まっていません。田中氏の話では、日本国と満洲国の外務卿と会談すると伺っております。両国ともに転移国家と申されておられる。この世界の常識について無知であるとも申されておられる。一方で、私どもは、日本国と満洲国とともに何も知らない。昨日私は日本国の技術についてその一端を見せていただいた。少なくともこの第三文明圏外の国が持てる技術ではないと感じているのは確かだ。その国々が対話を求めている。ならば、我が国は話し合いたいと思う。」
リンスイ「では、日本国の方から自己紹介をお願いします。」
徳川「ご指名に与り、自己紹介をいたします。大日本帝國の外交担当責任者として、外務大臣を拝命しております、徳川義輝と申します。大日本帝國は公称建国2675年、万世一系を有する大日本帝國天皇を君主とする君主国として前世界には存在しておりました。また我が国は、大日本帝國憲法という国の最高規範を持ち、その憲法には万機公論に決すべしとの今から三代前の天皇が我が国の神々に誓った誓約が盛り込まれております。これは、すべての物事は一部の人間が秘密裏に決定するのではなく、公論、つまり公の議論を経て決定されるべきであるという思想の表れであります。また同憲法には、聖徳太子という1400年前の人物が制定したとされる十七条憲法からの一節、「和を以て貴しとなす」という文言が引用されております。和とは、平和のことです。我が国は平和を貴ぶ国として、それを国是として掲げております。今回の国家転移につきまして、我が国は旧世界の友人たちをこちらにおります満州帝國以外なくしました。我が国は新しい出会いと友人を求めております。どうぞ我々を知ってください。そして、あなた方のことを教えてください。以上です。」
リンスイ「ありがとうございました。では、満州国の方からも自己紹介をお願いいたします。」
森山「はい。クワ・トイネ公国とクイラ王国の方々と初めてお会いすることとなります、満州帝國の外交担当責任者であります、外交部大臣の森山直次と申します。すでに日本側からもお伝えしておりますように、我々満日両国はこの世界に国ごと転移してきました。この世界のことは何もわからない状況です。我が国は、地理上海軍の規模が小規模のものとなっております。このため、日本国のように調査に乗り出すことが難しい状況でした。今回、日本政府より我が政府に申し出があり、我が国もこの世界における外交関係構築を目指して、この会合に参加させていただくこととなりました。急な申し出にも関わらず、参加を快諾していただいた両国に深く謝意を表します。さて、我が国は、日本国とは違って新しい国でございます。建国についても83年前とする人もいれば71年前とする人もあり、なかなか特殊な始まりの国となっておりますが、日本国と同様に平和を基調のものとする国家関係の構築を強く望んでおります。我々をあなた方の友人と認めていただけるようお願いいたします。以上です。」
リンスイ「ありがとうございました。最後に、私は、クワ・トイネ公国にて外務卿を務めますリンスイと申します。こちらは、我が国の首相のカナタです。首相におかれましては今回の会合について、異世界からの来訪者を迎え入れるため、国の代表からの視点もあった方がよいだろうとのことで同席しております。」
カナタ「クワ・トイネ公国首相のカナタと申します。本日は日本国および満洲国の方々をお迎えした貴重な一日となることを願ってやみません。今日は、日本国満洲国の方々から我が国及びクイラ王国に対していろいろな問い合わせがあるとうかがっております。まずは、そのあたりを話のとっかかりとさせていただきたいのですが、いかがでしょうか。」
我が国外相満洲帝國外相お互いに顔を見合わせ、満州外相が頷く。
森山「では、我が国から先にお聞きしたいことがあります。我が国は日本国の朝鮮半島北部と国境を接しております。面積1,133,437平方kmある国家で、これは旧世界の世界地図なのですが、このような位置と国土の形をしております。」
A1サイズの満洲地図をテーブル上に広げる。
リンスイ「おお、これはまた美しい光沢がある魔写ですな。」
ナーディル「しかも、なんという細かい記載だ。国内のおそらく小さな集落までも記載しているというのか。満洲国の人口はいかほどですかな。」
森山「住民登録上は、1月15日の時点で、181412325人となっております。旧世界に取り残された人数がどのくらいいるのか現時点では把握が完了しておりませんが、派遣外交官や外国に支社を持つ企業からの情報を考慮すれば、25万人は下回るかと思われます。」
ナーディル「なんと、それだけの同胞を一気に失われたと申されるのか。ちなみに日本国も同様であるのか?」
徳川「はい、我が国は前の世界では、国際機関に多数の人員を送り出していたり、経済活動の規模が満洲国よりも比較的大きいこともあって、40万人ほどと試算されております。」
ナーディル「それだけの数の同胞と別れざるを得ないとは神も残酷なことをされる。あなた方の深い悲しみに対してご心痛のほどお察しいたします。」
ナーディル氏、リンスイ氏頭を下げる。続いて、徳川森山両外相返答する。
森山「ご丁寧なあいさつを賜り、わが国民を代表して感謝の意を表します。」
徳川「貴国らの暖かいお言葉を本国政府に伝え、また天皇陛下にも上奏いたします。」
ナーディル「それで、森山閣下。お話というのは?」
森山「はい。我々、これは日本国のほうでも同じくですが、我々がこの世界に来たのは、1月16日の午前0時とされております。日付が変わったとたんに、闇夜に一瞬光が現れ、国境線の様子が変わったと報告されております。もともとの世界では、国境線の多くに河川を使ってきました。両国の間に流れる河川の中間ラインを国境とするということです。河川がない場合は、国境線があることをわかるように標識を立てたり、柵を立てたりして境界を示してきました。平原の国境線のうち、日付が変わったとたんに、国境線の向こうの平原が森林に変わったとの報告が国境守備隊の多数より挙がってきております。またその逆の報告もありまして、河川を国境線とする場合の国境線の向こう側、河川敷の向こう側が森林地帯であったにもかかわらず平原となっていて、集落らしきものが存在している場合など国境線の向こう側が変化しております。転移以後、国境線の向こう側から武器を持った集団、数名程度の集団から十数名程度の集団と、数はまちまちですが、それらと武力衝突が発生してしまったケースが数多く報告されています。国境侵犯に対して撃退はしておりますが、国境線の向こうについての情報が何もない状況では、こちらから軍を動かして国境線の向こう側へ行くわけにも行かず、防戦を繰り返している状況です。幸いにして、我が方は、相手側と武器の質が桁違いのものとなっており、これまでのところ、我が軍の死傷者は死者3名を含む17名と軽いものとなっておりますが、異世界転移という状況の急変に加え、我が軍の兵士はこれまで長い平和状態にあったせいか戦争を経験した者が数少なく、急な戦闘行動によって相手側の人間を殺したことからくるストレスに悩まされ、戦闘行動を継続することが難しくなった兵士がちらほらと出てきました。部隊の士気が落ち込んできたところに、日本軍から援軍を呼ぶことができ、部隊の再編に努めることができたのです。そして、今回の会合の情報です。今回の転移によって、国境線の向こう側にある国がどういう国なのか、可能であれば、国交を開き、国境の武力衝突を早期に解決したいと思い、この世界の情報を収集したくこちらに参上させていただきました。こちらに日本政府の協力を得て、我が国の位置関係を示した地図があります。我が国の国境の外にある国はどのようなものなのでしょうか?そして、どのように対応すれば、紛争を収めることができるのでしょうか?皆様が知っている情報を教えていただきたく思います。」
A1サイズの地図をテーブル上に広げる。
森山「こちらが我が国でこの部分が朝鮮半島、日本国の領土です。樺太千島列島北海道本州四国九州沖縄列島台湾となって、海を隔ててクワ・トイネ公国がある陸地がこの部分です。徳川閣下、この地図の解説をお願いいたします。」
徳川「承った。先だって、我が国の偵察機が貴国領空を侵犯した際に得られた情報をもとにした地図です。無許可で撮影したこともあり、この地図情報についてはクワ・トイネ公国にも提供いたします。また、この地図にはおそらくクイラ王国の情報も載っておりますので、クイラ王国にもお渡しいたします。改めて、クワ・トイネ公国とクイラ王国には国境侵犯について謝罪いたします。」
カナタ「我が国は先日の会談の際に申しました通り、謝罪を受け入れます。」
ナーディル「こんな精巧な我が国の地図をいただけるとは、逆にこちらこそ感謝の言葉を差し上げたい。それに知らなかったことです、領空侵犯については国王陛下にも了承の意をいただけるよう取り計らいますので、まずは頭をお上げください。」
徳川「ありがとうございます。地名がわかりませんので、教えていただけると助かります。今私どもがおりますのが、こちらの地点となります。この◎が書かれている地点ですが、首相官邸もあることですし、ここがこの国の主要な都市といってもよいかと思いますが、首都という表現でよろしいでしょうか。」
カナタ「はい。この都市は我が国の首都で公都クワ・トイネと表記されておりますので、そのようにお願いいたします。」
徳川「承りました。そして、ここから東に大きな港があり、この港を中心に栄えているようなのですが、この都市はなんと呼べばいいでしょうか?」
カナタ「この位置は、マイハークでしょうね。我が国では、経済都市マイハークと記載しております。」
リンスイ「徳川閣下。紙の左端にあるこの青い線は川ということでよろしいか。」
徳川「その通りです。そういえば、事前の情報では、この国は東の海岸まではこの国の領土とされていますが、西側はどこまでが領土なのですか?」
リンスイ「そうですな、川を境にしている部分もあるが、海側のだいたいこの辺りくらいからこのような形で隣国の領土となっておりますな。」
徳川「なるほど。クワ・トイネ公国、クイラ王国についで、新たに知る国家です。隣国については?」
リンスイ「うむ。我が国とクイラ王国の西側で接している国があり、その名前をロウリア王国という。」
徳川「ロウリア王国。その国についても後日ご紹介をいただきたいのですが、可能でしょうか?」
リンスイ「あいにくだが、我が国そしてクイラ王国とはロウリア王国との間に正式な国交がないのですよ。もちろん国と国との付き合いが全くないとは言いませんがね。」
徳川「差し支えなければ、その、どういった経緯でそうなっているのかわけを聞いても?」
リンスイ「・・・。首相、大使よろしいでしょうか。」
ナーディル「私としては一向にかまわん。友人になりに来たとおっしゃっておられるのだ。そして、この世界のことを教えてほしいとも言ってきておられる。クイラが日本満洲とお付き合いをしていくのであれば、むしろ知ってもらわねば困る。」
カナタ「現時点では、中立的な立場の者がおりませんので、一方的な話になりますが、われわれの立場を知っておいてもらった方がよいでしょう。」
リンスイ「そうですな。徳川閣下、貴国にそして満洲国の方々に知っておいてもらいたいことがあります。我が国とロウリア王国は50年ほど前に戦争となり、その結果、我が国はこの川から先のこの辺りを割譲する結果となりました。この戦争の原因ですが、先々代のロウリア国王が亜人の殲滅とロデニウス大陸の統一を唱えたことに端を発しております。50年前の戦争にて、我が国とクイラ王国は、ロウリア王国との間で激戦を繰り広げ、国土国民は疲弊しました。もちろん、相手であるロウリア王国にも大きな損害を与えて、ロウリア王国の統一を阻むことには成功いたしましたが、我が国は国土を一部割譲することとなりました。クイラ王国は防衛戦術に優れた軍を持っておることから、国境線の異動はなく戦争を終結させることができております。その後、先々代と先代の国王のもとで、ロウリアは疲弊した国を立て直すことに主眼を置いたようで国境線の平和は守られてきましたが、その間もロウリア王国内では亜人への迫害は続いております。そして、当代の国王となってからは、国民への税負担も重くなり、軍拡の速度が上がっているとの報告が入っております。我々は、貴国がロウリアとよしみを結ぶことを妨げるつもりはありません。紹介はできませんが、国境の町ギムに行けば、行商人がやり取りをする関係から、両国の窓口が小規模ながら存在します。そちらから話をすることは可能かと思います。しかし、我々としては、亜人殲滅を唱えるような国家とは仲良くすることは難しい。そのことだけは承知願いたい。」
徳川「リンスイ閣下、カナタ首相、ナーディル大使、ご安心ください。我が国には、八紘一宇という国是がございます。これは、天下を一つの家のようにすること、全世界を一つの家にすることという意味を持つものであり、人類は皆兄弟であるという思想です。この大精神はこの世界に転移した今となってもすたれるものではありません。元の世界では、肌の色によって人が差別されるという歴史がございました。私のような日本人はこのような肌の色ですが、もっと肌の色が白い白人や、肌の色が黒い黒人という存在がおりまして、旧世界では白人が力を持ち、黒人が奴隷となっていた時代がありました。その中にあっても、我が国はこの八紘一宇の思想の元、人種差別撤廃を国際機関に提訴したこともございます。ご安心ください、我が国は貴国のような様々な亜人いや、人ではないという意味合いが含まれる亜人という表現ではなく、「人種」と言い換えたいと思います。様々な人種がいる国を差別いたしません。」
森山「徳川閣下に同感です。我が国は、多民族国家です。日本人を祖先に持つ日人や、華人、満人、蒙人、露人といった多民族が生活しております。五族協和です
生活の利便性から日本語が公用筆頭語とはなっておりますが、彼らの民族語を排斥することはありません。肌の色が違っても、話す言葉が違っても仲良くすることは可能です。ましてや、この世界、話し言葉が同じですから、意思の疎通が困難であるということはございません。私どもは貴国達の国民を暖かく迎え入れることができます。」
リンスイ「両閣下のお話を聞きまして、少し胸のつかえがとれた感じがいたします。」
ナーディル「全くです。我々は新たな友人を獲得することができそうですな。」
カナタ「少し熱くなりましたね。ここらで、一度お茶の時間をはさみましょう。」
カナタ首相の言葉を受けて、議事中断となり、速記を停止する。