4月22日、十日前に行われたスーシュウェイ会戦の報告会と今後の作戦内の検討会が公都首相官邸にて行われた。
この報告検討会は、クワ・トイネ公国単独のものではなく、日満鍬杭の四国の首脳によるこの世界初のオンライン会議である。日満からは首相、内相、蔵相、外相、陸相の5相に統帥部長、各軍統帥部長、そして日本からは征夷大将軍、満洲からは執政が参加した。クワ・トイネ公国は首相のカナタ以下の閣僚と日満使節団長のハンキ将軍、そして、前線からモイジ総司令官とベルゲングリューン参謀長が呼ばれた。クイラ王国は、国王、宰相、外務卿、軍務卿、大蔵卿、内務卿が参加した。
「・・・以上、連合軍がギム西方防衛陣地をめぐる戦闘において、敵の先遣隊に対して大きな損害を与え、最終的な確定戦果として、捕虜13859人を得、与えた損害として約15600人と報告いたします。損害の確定については、与えた損害については、戦死体の数を基礎としてこれに捕虜からの情報にて死体はないが死亡したと確定できる数、そして奪取した敵軍の軍配表からかなり精度の高い推測となったと考えております。」
テレビ画面が並ぶ中、聯合軍総司令官であるモイジの声だけが首相官邸大講堂に響き渡る。モイジの報告が一段落となると、拍手の音がその場から及びスピーカーを通して流れる。
「防衛戦の指揮誠にご苦労様でした。戦闘詳報は読ませてもらっております。ロウリアの先遣隊約3万の撃滅という大戦果ありがとうございました。」
カナタ首相がモイジ総司令官を労う。これに対してモイジ総司令官は、満日とクイラの手助けがあり、成し遂げられたことですと返した。
「続きまして、クイラロウリア国境、南方戦線の戦闘状況について報告をお願いします。」
カナタ首相がアスアド・フラート・アル=バータジークイラ王国宰相に話を振った。クイラ宰相の声がスピーカーから流れだした。
「それでは、こちらの状況につきまして報告いたします。皆様ご承知の通り、我が国とロウリアの国境は峻厳な地形のため防衛戦に有利なものとなっております。それに加えて、今回は満日両国から高性能の武器を貸与させてもらっております。戦闘の経過としては、押し寄せてくる敵軍を追い返すという形をとっております。中でも狙撃銃を使用しての百人隊長への狙撃、これが功を奏しており、隊長を失い、統率をなくした敵軍は散り散りに潰走しております。本日までの集計で26人の百人隊長格、9人の五百人隊長格の狙撃に成功しております。また、迫撃砲を使用した攻撃で、目視によるものではありますが、500人程度の敵兵の損害を計上しております。こちらは捕虜獲得はできてはおりません。なお、こちらの戦線におきましては味方の損害は発生しておりません。以上であります。」
「ありがとうございました。南方戦線につきましては、そもそも大軍の利がなく、王国軍も積極的な攻勢を行う予定はない状態ですので、補給をしっかりとおこなうことで、この状態を維持することができると考えておりますが、日満側はいかがでしょうか。」
カナタ首相が日満側にさらなる積極介入の必要性について問いかけると、李国務総理大臣が答えた。
「現状に於て、さらなる攻勢を強めようとしても受け取っている資料を見る限りですと、装甲車両を送り込むことも難しい地形であると聞いています。敵側も大軍を送り込むのに向いていない地形であるということですし、この状態を維持し続けることが重要であると思います。こちらの戦線では、負けなければ問題がないわけです。」
山上首相が頷き、李首相の意見に賛同する。
「追加の部隊の錬成も順調であると聞いております。これからも日満側から小火器の供与は継続しますので、南方戦線については現状維持がよろしいと私も思います。」
「一同の御意見が決したようですので、南方戦線についての検討は以上と致します。続きまして、今後の作戦計画について協議したいと思います。まずは、日本大本営総監の真柴元帥より、作戦案についての説明をお願いいたします。」
「では、我が国が主導する作戦について説明を致します。本作戦は、帝國海軍の特務艦隊による迎撃作戦が第一段階となっております。
この特務艦隊は、日満海軍の合同艦隊となっておりまして、艦隊司令長官には、日本海軍第五艦隊司令長官の吉田文吾海軍大将を充てております。艦隊編成は、戦艦1、空母1、重巡2,軽巡1,4隻編制の駆逐隊2となっており、付属に工作艦1、補給艦1、揚陸艦4、護衛の駆逐隊1といった形となっております。この艦隊を以て、現在来寇中のロウリア艦隊を大半を撃沈破する予定となっております。敵の保有戦力は木製帆船4000隻となっており、本艦隊の戦力であれば十二分に対応可能な戦力であるといえます。
その後、艦隊は一時休息と補給の後、先のロウリア海軍の母港でもあります軍港カルーネスを襲撃し、随伴しております揚陸艦4隻に載せております陸軍部隊を上陸させ、同地を占領します。これが第二段階となります。
第二段階においては、この地に設置してあるとされている海軍本部を占拠する。これを重要事項とし、占拠後はこの施設を通じて、ロウリア王都に対して戦争の終結に向けての交渉を行う次第となっております。揚陸艦には空軍の戦闘ヘリを乗せておりますので、これの陸揚げを行い、必要とあれば、王都に向けての示威行動も辞さない形で対応を行いたいと思います。第一段階作戦参加艦艇の詳細につきましては、軍令部総長より説明をさせます。」
「では、画面を切り替えます。本艦隊の旗艦は戦艦常陸となっております。常陸は、紀伊型戦艦の3番艦として、昭和34年、中央歴ですと1583年ですね、今から55年ほど前に建造された戦艦でありますが、何度かの改装を経て現在も現役です。主兵装は50口径46cm3連装砲が3基という形となりまして、この砲から発射される砲弾が基本的な攻撃手段となります。高度50メートルで爆発し、焼夷効果のある子爆弾を周囲に振りまきます。範囲は直径100メートル。撃沈が見込めるのは、中心部40から50メートル。木造帆船が対象であることから、周囲の敵船の炎上を見込んでおります。戦艦の攻撃によって全体の4分の1、1000隻の撃沈破を見込んでおります。
続きまして一等巡洋艦は2隻、新高と品田。浅間型巡洋艦の6番艦と9番艦であり、こちらは主兵装こそは55口径15cm単装砲1基と戦艦と比べますと小さなサイズです。しかも、木製帆船に対して艦砲による攻撃はいささか牛刀割鶏の嫌いがあります。このため、巡洋艦の役目としては、主兵装を使用した対空警戒及び20mm機関砲による敵船の攻撃となります。500隻前後の撃沈破を目指します。
次に水雷戦隊ですが、二等巡洋艦の那珂と第六駆逐隊の暁以下は主兵装が55口径12.7cm砲と55口径10cm単装砲となりますので、木造帆船に対する主たる攻撃手段として考えております。20mm機関砲も使用するつもりです。1000隻前後の撃沈破を見込んでおります。
戦果の見積もりとしては、敵が撤退することを前提としています。搭載弾薬の50パーセントを使用して、敵の2500隻を撃沈破する予定ですが、爆風や破片などによる副次的な損害をこれ以上に計上できる見込みではあります。こちらとしては、損害が軽微な船が撤退するのであれば、問題ないものと考えておりますが、これらの攻撃手段を使用してもなお、敵が引かないのであれば、海軍航空隊によって機銃掃射を行い敵船を撃沈することも念頭に置いております。この際の空母艦載機は満洲海軍の空母黒竜江にお願いすることとなります。
以上が第一段階で行われる海戦の大体の作戦案となります。」
2500隻の軍船を撃沈破するという作戦案に対してクワ・トイネ側が口を開く。マルータ・コンボウ軍務卿は、事前に作戦案を聞いており、クワ・トイネ海軍が祖国防衛のための作戦に参加できないことを悔しく思っていた。
「資料によれば、戦艦常陸は全長328m、空母黒竜江は334mもの大きさを有しているとあります。しかもその軍艦は30kt以上の速力を有するとか。これでは、我が海軍が共同作戦を行うことは難しいことでしょう。しかし、この戦争は私どもの国が攻められておるわけで、我々が矢面に立って戦わねばならぬものであると考えております。我々にも何か役目を与えていただければと思うのですが。」
これに対して、柳沢軍令部総長は用意していた案を話す。
「私どもからクワ・トイネ海軍にお願いしたいことは二点あります。ひとつは、戦艦常陸に観戦武官を送っていただきたいということ。そして、二点目は作戦第二段階における上陸戦終了後の占領地の警備であります。
特に二点目は、上陸戦の最中に敵の残存軍船の多数を纏めて沈めるつもりですが、その全てを沈めきることは難しいと考えます。おそらく戦闘終結後に残った敵が脱出することは難しいでしょうが、そこを対処していただければと思います。クワ・トイネ陸軍の精鋭はギム方面に向かっておりますので、海軍の方々に占領地警備をお願いしたいと考えております。
ご承知の通り、今クワ・トイネ海軍とクイラ海軍の増強計画を日満海軍で実施中ですが、残念ながら貴軍の習熟はまだまだです。今回はこのような形で参加いただければと思います。」
コンボウ軍務卿は、自身の無念を押し殺しながら、海軍が一定の貢献を果たすことができることに胸をなでおろした。陸軍がギムの街で日満軍と共同戦線を張り、祖国防衛に一定の貢献を果たしたのに対して、海軍のそれは微々たるものでしかない。無論、彼とてこの状況下でクワ・トイネ海軍が日満海軍主体の作戦に参加できるとは思ってはいないのだ。
「では、次に、陸軍の作戦計画について、満洲幕僚総監の陳元帥より、作戦案についての説明をお願いいたします。」
「陸上兵力の展開につきましては、このほどギム防衛陣地に日本近衛師団の砲兵連隊の一個中隊が到着いたしました。155mm自走砲の到着により、ギム防衛陣地から直接マインゲンを射程に収めることが可能となりました。補給計画とも相談しながら、マインゲンのワイバーン基地や陸軍駐屯地を狙って攻撃を仕掛けていきたいと思います。現状マインゲンにいる部隊は、士気が低下しております。先遣隊と満足に通信できない状況、ことごとく失敗する偵察、敵軍司令部も作戦の立てようがありませんし、その状況下では敵は攻勢に出ることも難しい。そこに更なる混乱を与えたいとおもいます。
自走砲による長距離攻撃でまず、ワイバーン基地を破壊します。これにより航空支配を確立し、兵隊の駐屯する地に砲撃を加えます。敵軍兵の一部に脱走が生じれば、儲けものだと思っております。
そして、敵軍が混乱して、それが継続しているようならば、速やかに歩兵を前進させ、マインゲン陥落を目指します。マース川以東を占領した場合、ロウリア王国は、東方征伐軍が大敗したことを知るでしょう。そして、我が軍は、ロウリア軍が川を渡ることを許しません。海軍によるカルーネス軍港の占領によるロウリア陸海軍の敗北。統帥部としては、以上の戦果を以て国務側にその後の政略をゆだねたいと思います。」
「ありがとうございました。クワ・トイネ公国は、上記の作戦終結後に、ロウリア王国に対して、講和を申し出るのに賛成したいと思いますが、皆さまはいかがでしょうか。」
各国首脳からも同意の声が上がる。山上首相はその話の流れで、講和会議の開催場所について発言した。
「講和会議は、アルタラス王国の首都で行いたいが、いかがでしょうか?」
「山上閣下。その理由はどういうものでしょうか。」
日本首相の意図について、アル=バータジークイラ王国宰相が質問した。
「はい、我が国では、戦争相手国に攻め込んで、その地で講和を強いることを「城下の盟を強いる」と表現しています。そのような形での講和交渉は、相手国にとって屈辱的であるから遺恨を残すのではないかという声が我が国ではあります。こちらの習慣ではどうなのかは分かりませんが、もしよろしければ、こういうかたちで行っていただければと思います。」
会議場がざわめく。そこまで配慮する必要はあるのかという声だ。李首相が話し出す。
「まだ、検討の時間は十分にありますので、各国で検討されてみてはいかがでしょうか。ただ、戦争の終わらせ方というのは重要です。戦後処理が不十分であると、戦争の種が残ることとなります。また、ロウリアの全権を我々のどこかの国に呼びつけるのではなく、我々も足を運ぶ。おまけにロウリア本土から離して会議を行うというのは、本土の政府からもある程度自由に会議を行うことができるので、宜しいのではないかと私は思います。」
「山上総理の提案につきましては、今後各国政府で検討して、外交部局で検討を行うことにしたいと思いますが、いかがでしょうか。」
カナタ首相の提案を各国が賛同し、検討会は終了した。日満合同海軍による次なる作戦はもう間近に迫っている。