大日本帝國召喚   作:もなもろ

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海戦前日。戦艦の艦橋から眺める海の眺めはどんなもんでしょうか。


クワ・トイネ公国マイハーク港西部日満共同租界・マイハーク沖 中央暦1639年4月25日午後1時

 3月3日午前0時にマイハーク西部日満共同租界の建設が始められてから約2か月が経過した。まだコンテナハウスが主流となっているが、本国の建築基準法に適合した建築物も建築され始めている。共同租界行政府庁舎、長崎控訴院マイハーク分院兼大連高等法院マイハーク分院合同庁舎、陸軍兵器本部マイハーク造兵廠、マイハーク港湾局庁舎、港湾穀物倉庫、マイハーク西駅駅舎、マイハーク西空港など大規模建築物が建築を始めていた。港湾施設も大型船舶が2隻横付けできるだけの規模の埠頭が完成した。港湾施設にはクイラから石油タンカーを使って運ばれてくる予定となっている石油の貯蔵タンクが数基完成しており、もう2か月もすれば、第一便が運ばれてくることとなっている。

 クワ・トイネ開発の主戦力となる野戦軽便鉄道は、既に城塞都市エジェイ近郊まで開通しており、鉄道輸送による大量の軍事物資がギム西方の防衛陣地に休みなく運ばれている。行きは軍事物資、帰りは穀物を載せている。本国の鉄道と比較すれば如何せん貧弱な輸送能力であるものの、この世界においては極めて大規模な輸送が行きも帰りも行われていた。

 マイハーク共同租界は建築重機の音がひっきりなしに響いている。

 

 

――――――

 ― クワ・トイネ公国海軍第2艦隊作戦参謀 トーマス・ブルーアイ

 

 ロウリアの大艦隊がカルーネス軍港を出航したのは、ギム西方陣地への攻撃が開始されてすぐのころだった。開戦後、クワ・トイネと日満海軍幹部との間で行われた協議では、敵軍はギムを奪取後速やかに東進し、ロウリア海軍の艦隊がマイハークを占領する。その動きにつられてエジェイ城塞から援軍がマイハーク奪取に動くであろうから、エジェイを蹂躙し、公都を目指して進軍する。併せて、ギムから分派し、南下した一軍がクイラへと向かうこととなっていたと聞いた。

 これは、ギム西方陣地戦で捕らえた敵将が我が軍の尋問で語ったことであり、なるほど我等の戦前の予想では、それに十分な兵力があったことは間違いない。当初の我が国の計画では、ギム西方陣地を守っていたのは西部騎士団一万名に満たない数であった。敵軍は3万近く。更には100機以上のワイバーンを使用しての一気呵成の攻撃の前には、西方陣地は瞬く間に陥落したであろうことは、海軍出身の私にも容易に予想ができた。

 

 しかし、その計画は突如現れた日本国と満洲国の二か国によって覆された。ギム西方陣地をめぐる戦いでは、わずか一日にして敵の3万の軍を壊滅させた。この計画の要となったといってもよいのが私が今いるマイハーク西部日満租界だ。我が国で最も栄えている場所といっても過言ではないこの地域は、日満の技術力の粋を集めて、日夜突貫工事で建築物が立てられ続けている。

 近辺の住民だけではなく、東部の貴族領からも人足が集まってきて工事を行っている。港湾地域に設置されているクレーンという大きな鉄の骨組みの機械は、我が国の船舶の20倍にもなる長さの鉄製の船から、大きな鉄の箱を持ち上げ、降ろしている。この鉄の箱から我が国に敷かれる鉄道のレールや建築機材などが次々と現れ、いずこかへと運ばれていく。

 この国の急速な発展が、日満両国が対ロウリア戦争を勝利に導くための必要不可欠の措置になっているということを聞いたときは、よく間に合ってくれたものだと感慨深い気持ちになった。

 

 観戦武官の任を受け、日本海軍の艦隊旗艦への乗り組みを命ぜられた私は、集合時間までマイハーク西部租界を散策していた。日本の国旗「日章旗」と満洲の国旗「五色旗」が翻るマイハーク西部租界行政府仮庁舎での最終点呼を終え、埠頭の先端で待っていると日本製の双眼鏡を手にした観戦武官の一人にして、観戦武官長の任を受けた、マキスイ・ハンキ将軍が私に声を掛けた。

 

「沖合に巨大な艦が見えてきましたぞ。」

 

 陸軍の武官であるはずの将軍が、海軍の観戦武官の任を受けたのは、日本海軍側から観戦武官派遣の要請を受けたときにその場にいて、自分をどうしても任じてほしいとカナタ首相やコンボウ軍務卿に直談判したからだという。

 

「形は違いますが、手前の艦よりも奥にもう一隻巨大な艦がありますね。手前が戦艦で、奥が航空母艦でしたか?」

 

「おそらくその通りです。手前の艦ですが、艦体の甲板に箱のようなものがあり、そこから棒のようなものが突き出ているでしょう。あれが戦艦の主砲と呼ばれるものです。あの主砲は45km先まで届くというのですよ。」

 

「いやはや、物凄い射程ですね。敵艦隊を一方的に攻撃し続けることができるということですか。戦争の常識が一変してしまいますね。」

 

 沖合に見えた巨大な艦だけではなく、その他の艦も次々に姿を現した。更にそれが肉眼でも普通に見えるようになり、艦の甲板にいる人の姿を普通に視認できるころには、巨大軍艦の大きさがようやく実感できるようになり、その巨大さに身震いがしていた。こんな巨大な軍艦を建造する国が我が国の味方であって本当に良かったと思った。

 艦隊は徐々に速度を落とし、停止した。ハンキ将軍は、あれが常陸かと呟いた。御存じなのですかと問うと、あれの同型艦である駿河に対日使節派遣の際に乗り組んだことがあるという。なるほど、そのあたりの経験も買われての観戦武官長なのだろうなと思った。

 戦艦の艦尾から小さな船が水面に降ろされ、埠頭に向かってきた。あれに乗って、軍艦に乗り組むということなるのか。

 

「あの内火艇もそれなりに速いスピードだ。観戦武官の諸君。荷物を持て。忘れ物をするなよ。」

 

 ハンキ将軍が我々海軍武官5名を指示し、乗船の準備を開始させた。

 

 ――――――

 戦艦常陸の内火艇は10ktのスピードで海面を進み、我々を戦艦常陸の左舷中央まで運んだ。近づけば近づくほど、その巨大さに圧倒される。首を最大限までそらさなければ、艦橋のてっぺんが見えない。

 内火艇が停止したところに、上甲板に上るための階段が掛けられてあった。ハンキ将軍を先頭にカンカンと足音が鳴る。上甲板に上ると我々を歓迎するためだろうか、たくさんの軍人が列をなしていた。

 

「広い・・・」

 

 指定された地点に立ち上甲板の広さに声も出ないでいると、総員気を付けと号令がかかった。その声とともに軍人一同が一糸乱れぬ動きをする。挙手の敬礼だ。私たちも真似て同じような動作をした。

 それとともに我がクワ・トイネ国歌の演奏が行われた。国歌の演奏が流れている間、日本の軍人たちは微動だにせず挙手の敬礼を取り続けた。国歌の演奏が終わると、直れと号令が掛けられ、これまた一斉に手が降ろされた。

 

「台北の歓迎式典以来ですな。お久しぶりであります。ハンキ閣下。」

 

「吉田閣下もご健勝の様子何よりであります。台北の一瞥以来ご無沙汰しておりました。今回は援軍かたじけなく思います。」

 

「なんのなんの。友邦の危機とあらば万難を排して駆け付けさせていただきます。これ、武人の誉れというもの。遠慮は御無用に。」

 

「ありがとうございます。クワ・トイネ国民に成り代わり、お礼を申し上げます。」

 

 そうか。ハンキ将軍は既に艦隊司令長官とは既知であったということか。なるほど、観戦武官長に選ばれる理由がここにあるわけか。

 

「本日より、観戦武官の任務を行わせていただきます。私の他には全員が海軍武官となっております。いろいろと海軍のことも学ばさせてもらえればと思います。海軍武官筆頭は、こちら第2艦隊作戦参謀のトーマス・ブルーアイが任じられております。」

 

 ハンキ将軍がこちらに顔を向けた。相手の提督もこちらの顔を見た。

 

「クワ・トイネ公国海軍第2艦隊作戦参謀のトーマス・ブルーアイと申します。本日から観戦武官として、貴艦隊のお世話になります。よろしくお願いいたします。」

 

「よろしくお願いします。他の方のお名前もお願いします。」

 

 ハンキ将軍が随行の武官の名前を呼び、挨拶が続く。我々全員の挨拶が終わると、吉田提督側が自分たちの艦隊司令部と戦艦の艦長などの紹介を行った。そして、ハンキ将軍とまた二言三言話し出す。これから我々を艦橋に招待するということだ。これより進路を西にとると常陸艦長の梅野大佐に告げるや、梅野艦長は、大音量で機関原速準備と叫んだ。周りの軍人が了解と発し各個に散っていった。

 我々は吉田提督を先頭に艦内に入っていった。

 

 ――――――

 艦内に入った我々は、まずエレベーターという動く箱に乗り、一気に高層階にやってきた。この昼戦艦橋から眺め見る大海原の見晴らしは、私たちの軍船のマストの見張り台のそれとは高さがまた違う。マストの見張り台のそのまた上のてっぺんに上ったことのある水夫から水平線の先は丸く見えるとは聞いていたが、まさしくそうであった。

 

「司令長官。進路西よろしいでしょうか。」

 

「うむ。目標敵ロウリア艦隊。進路西へ。」

 

「了解しました。艦橋より航海。進路西。速力原速。」

 

 巨大な艦体が移動しているのがわかる。我々の前にあった艦の艦尾に白いウェーキが流れている。

 

「では、観戦武官の方々。今後の予定については、艦体参謀長の篠崎から夕食時に説明をさせますので、しばらくは経験したことのない海の眺めを堪能ください。この艦橋よりも高い防空指揮所のほうに興味があれば、登ってみて下さい。」

 

 吉田司令長官は我々がこの海の眺めを気に入っていることを十分の御承知だったようだ。

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