4月26日午前10時、日本国中が大きな衝撃に包まれる発表が行われた。軍令部総務部長より本日午後2時ごろには海軍の艦隊がロウリア海軍と会敵そのまま交戦に入る公算大との臨時発表があった。続けて大本営総務部広報官及び海軍部報道官の連名で同様の発表があった。
報道機関各社は臨時ニュースを放送し、併せて報道特別番組に切り替えあるいは番組進行の予定を改変して時局にあたった。日本放送協会・帝都テレビ・富嶽テレビは報道特別番組に切り替え、テレビ東西・大日テレビは番組進行の予定を改変した。いずれの場合であっても、戦争に至る経緯、開戦以来の状況、なかでも開戦直後のスーシュウェイ会戦の大戦果を取り上げ、陸軍の大捷に続けと意気高らかに発言するキャスター・パネリストの姿が目立った。
午後0時25分、軍令部より再度臨時発表があり、艦隊司令部より会敵の時刻が一時間を切ったとの報告があったことが伝えられた。また、各テレビ局に対して、中継を許可する旨の発表が伝わるや、各テレビは艦隊後方の航空母艦最上甲板に駐機する報道ヘリの前からの映像を流し出した。6機のヘリが甲板上にあり、それぞれ飛行前最後の点検を行っている。
午後0時45分、発艦許可が与えられるや、各ヘリは一斉に飛び立つ。傍らを護衛のヘリが堅め総勢10機のヘリは海域前方へと移動し始めた。
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テレビ東西情報番組 午後も元気に!!
〇司会 矢澤光喜
〇アシスタント 田中姫子
コメンテーター
〇政治評論家 竹本萬斎
〇経済アナリスト 山井善治
〇東西新聞論説委員 吉井咲子
〇東京帝國大学法学部教授(国際法) 李甚太郎
〇タレント 武田純一
〇元プロ野球選手(東京帝都巨人軍一塁手) 大澤大二郎
(ヘリの発艦後の移動中はスタジオにカメラが戻るが、画面右下のワイプで中継は継続している状態。ワイプ画面が常陸をとらえる。)
〇矢澤 さあ、そろそろヘリが帝國艦隊を真下にとらえている頃ですね。中継を繋いでみましょう。真霜さん。
(ワイプ画面が画面全面に、ワイプ画面がスタジオ画面に切り替わる。画面は、上空からの撮影。海上を進む帝國海軍部隊。)
〇真霜記者
はい。現場の真霜です。ご覧ください帝國海軍部隊が海上勇進する姿を。巡洋艦那珂を艦隊艦隊先頭中央に配置し、駆逐艦が艦隊正面を単横陣で航行しております。この先を通すつもりはないと言った布陣でしょうか。さらに巡洋艦新高と品田が並走しております。そして、そして見えておりますでしょうか、戦艦です。第五艦隊旗艦戦艦常陸。雄々しくそびえたつ黒鉄の大鐘楼。精強無比を誇る46cm砲。海国日本の技術の粋を結集して建造された大戦艦が敵艦隊撃滅の使命を帯びて、この大東洋の海域に進撃をしてきました。クワ・トイネ侵攻をもくろむロウリア艦隊は4千隻を超える数との発表が軍令部よりありましたが、敵は幾万ありとてもこの巨砲を擁する我が海軍の敵ではありません。そして、我に戦闘機あれば、敵にワイバーン隊あり。艦隊上空の防空の任には満洲海軍虎の子の空母黒竜江が随伴しております。空の護りは任せろと艦隊上空には10機の戦闘機が、警戒を行って居ります。
艦隊司令部からの連絡では、もう間もなく、もう間もなく敵艦隊が上空のヘリの肉眼でも見える位置にまで来るとのこと。あっ、巡洋艦那珂が速力をあげております。巡洋艦那珂が速力をあげております。随伴の駆逐艦も那珂に併せて速力を上げて、艦隊本隊から先行しております。他の艦は速度維持です。一水戦が速力を上げて敵の大艦隊に向かいます。
報道ヘリも艦隊を追い越す許可が出ました。現場に急行します。あ、あ~、ご覧ください眼前の海を。4000隻の大艦隊。話には聞いていましたが、海が見えません。敵の帆船はある程度密集しているようです。なんという数でしょうか。海を埋め尽くす大艦隊。これが我々の敵です。我々同盟国の敵ロウリアの大艦隊。数の暴力とはまさにこのことでしょう。
あっ、今一水戦からスピーカーの音声が流れ出しました。
『私は大日本帝國海軍ロデニウス方面艦隊司令長官の吉田文吾である。これから貴艦隊に注意を行う。貴艦隊はクワ・トイネ公国マイハークに向けて攻撃を行わんとして東進航海中であることは既に我々の知るところとなっている。我々は貴艦隊の目論見を既に見抜き、これを阻止すべく本海域に軍を展開した。貴艦隊が我々の注意に従い、回頭して母港に戻るのであれば、この場に於て攻撃することはない。速やかに回頭して母港に戻るように。繰り返す。速やかに回頭して母港に戻るように。』
えー、ただいま一水戦の各艦から艦隊司令長官による注意の放送が行われました。今後どういう展開になるのでしょうか。いったんスタジオにお返しします。
(画面全面が再びスタジオ画面に切り替わる。)
〇矢澤 はい、えー怒涛の展開とはまさにこのことだと思いますが、まずは今後のロウリア艦隊がどういう行動をとるのかですが、
〇武田 いや、どうかんがえても従わないですよね。ここまで大艦隊を率いてやってきて、引き返せと言われて引くとは思いませんが。
〇吉井 まあそうですよね。しかし、「注意」というのが気になります。
〇矢澤 というと?
〇吉井 こういうときはやはり強い表現になるべきだと思うんです。警告とかが普通ですよね。その意図はどこにあるのか。
〇李 警告と言っても聞かないことは分かり切っているからだとおもいます。海軍にとって警告を無視されたというのは重いです。ただ、この世界における帝國海軍の威信というものはまだ残念ながら存在しませんので、さほど気にする必要はないと思うのですがねえ。
〇大澤 いやいや、教授殿。我々一般国民からしたら、面白くないですよ。帝國海軍の使命は、海の守りですからね。その旭日の軍艦旗をなびかせてこうして海を渡り、友邦救援の使命を帯びた我が艦隊の注意を無視されるというのは憤りを感じますよ。
〇李 まあその気持ちは私にもわかりますがね。だいたい、ロウリアは我々のことをろくに知りませんから、どうしても我々に対する動きは、我々から見れば無謀なものとしか見えません。そのあたりについては、ギムの戦闘で少しは学んでいてもよいような気はするのですがねえ。
〇矢澤 さて、現場で動きがあったようです。再度中継を繋いでみましょう。
(画面が切り替わる。)
〇真霜記者
はい、敵艦隊は我が艦隊の制止を聞かずに、マイハークへ進撃を継続している模様です。これに対して、我が艦隊司令部は、断固たる意思を示すべく警告射撃の実施を通達するに至りました。もう間もなく、警告射撃実施の通達があります。・・・
『大日本帝國海軍ロデニウス方面艦隊司令長官の吉田文吾が警告を発する。戦闘意欲旺盛なる貴艦隊の態度には同じ武人として敬意を表したい。しかし、我々もひきさがるわけにはいかない。我々は、貴艦隊に対して警告の意味を込めて、十数隻の貴軍船に航行不能の損害を与える。これは貴艦隊の大半が母港に寄港するための最後の機会である。速やかに回頭して母港に戻るように。なお、回頭して母港に引き返す行為を確認すれば、攻撃された軍船乗組員の救助を周辺の軍船が行うことができるように、攻撃目標は調整することを約束する。繰り返す。速やかに回頭して母港に戻るように。』
スタジオの方々もご承知の通り、警告射撃実施の布告が行われました。5隻の軍艦は敵艦隊に対して丁字の態勢を取っております。この先は通さないという意思の強さを感じさせます・・・その軍艦の砲塔がわずかに動いております。砲身がわずかに動いているのが確認できます。そして、砲身の動きが止まりました。あっ、発砲です。5隻の軍艦から砲弾が発射されました。そして、その砲弾は、敵艦船に命中。やりました初弾命中です。5隻の軍艦全て初弾命中です。そして、なんとなんと5隻の軍艦全て敵の軍船、ええと、敵の軍船は帆船ですが、そのマストに命中しました。すさまじい練度です。なんという神業。建軍以来百四十有余年、日夜に渡る其の修練の精華が今ここに結実しております。敵軍船はマストが倒れ、その推進力を失っております。
あっ、また発砲。また発砲です。そして、そして、着弾。またしても全弾命中。全弾命中であります。またしてもマストに命中。そして、マストに命中後、2発の砲弾はその推進力を維持したまま他の敵艦の船体に命中しております。3発の水柱を確認しました。
あっ、更に発砲。なんというコントロールでしょうか。またしてもマストを破壊しました。そして砲弾3発が他の敵艦船体に命中。これで各艦3発発砲し、総数15発。15発の砲弾で20隻に命中しました。それいずれもマストが破壊されております。うち8隻は2本マストの両方がへし折られております。
全世界よ明記すべし。我が海軍の神業を。敵に4000隻の大艦隊あれども、我に一騎当千の軍艦あり。鎧の袖の一触れと瞬く間に20隻の敵艦を行動不能に陥れるその力強さ。安心です。安心を我々に与えてくれる偉大なる我が海軍です。
さて、吉田長官から今一度の宣告が発せられます。
『大日本帝國海軍ロデニウス方面艦隊司令長官の吉田文吾である。警告射撃はこれにて終了とする。我が海軍の攻撃については既に貴艦隊の大半が承知したであろう。我々は、このように貴艦隊を我々に被害を出すことなく殲滅できる戦力を有している。会敵前より貴艦隊が勝利する途はなかったのだ。単純な数の上での戦力差は、もはや何の意味もない。
一斉回頭する諸氏を我々はあざ笑うことはしない。また、無駄死にを増やしたくもない。畏れ多くも大元帥陛下より、今次戦争に当たる我等陸海軍軍人に下された勅語の御精神でもある。一斉回頭後母港に帰投したるのちは、全員上陸することをお勧めする。我々の軍事行動はこのまま継続される。乗船は危険である。
なお、降伏を希望する場合は、船を停止させ、白い旗を揚げるように。捕虜については、人道的な対応を行うことを約束する。我々は貴艦隊司令以下諸提督の賢明な選択を期待する。
1時間後、我が海軍は、貴艦隊もしくはその一部あるいは艦船が撤退もしくは交戦の意思を放棄したとみられる場合以外は無警告にそして無差別に攻撃を与える。それまでに去就を定めるように。』
はい。吉田司令長官からの宣告が発せられました。我が艦隊は、水雷戦隊を敵艦隊から一度離すようです。敵がどういった反応を見せるのか、今後の展開も気になるところではありますが、いったんスタジオにお返しします。
〇矢澤 はい、お疲れさまです。戦場海域では、交戦状態に入っておりますが、今のところ我が軍優勢という形ですね。では、いったんCMです。