エラン・ヴィタール   作:Siri彦

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タイトルは適当です。


#01 Song2

 

──俺の家は、地域で百年以上続く華道の名家だ。

 

双子の兄として生まれた俺は、将来的に「美竹流」を継ぐ人間になるための教育を小さい頃から受けさせられた。苦痛だった。父は人間国宝にもなった偉大な祖父に対して強い劣等感を持ち、そんな祖父を超えられるように俺を”指導”した。

 

「それではダメだと前も言っただろう、凛!」

 

父を超えようとするのは、ある種男としては正常な反応ではあったのだと思う。ただ幼い俺がそんなこと分かるわけもないし、ひたすらに辛いだけだった。

 

やりたくも無い習い事をいくつもさせられ、家に帰れば父と華道の修行。

 

そんな毎日が10年近く続き、俺と妹の蘭は中学生になり、父は正式に美竹流を継ぎ、母は荼毘に伏した。死因は、癌だった。

 

心の拠り所であった母も失い、やりたいことも見つけられずただ父の言うまま華道の修行を続けていた、ある日。俺は、人生を変える出会いを果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、中学2年生になったある日のことだった。

 

いつものように学校を終えた俺は、真っ直ぐ家に帰っている途中だった。早く帰らないと父が煩いので、友達からの遊びの誘いも断って、だ。

 

歩いていると、ふとある店が目にとまった。少し錆びた看板に、窓にはこれまた古めのバンドのポスター。

 

街のレコード屋さん、と言うイメージにピッタリの外見のその店に、何故だか俺は引かれたのだ。

 

──少しくらい、遅れてもいいだろう。

 

ちょっとだけ店内を覗こうと思い、俺は店のドアを開ける。中に入ると、古着とレコードの混じった匂いが鼻に来た。どうやら、レコード以外にもちょっとした服や小物も置いているようだった。

 

「ファッキンいらっしゃい」

「ファッキン…?」

 

オクタゴングラスが特徴的な店主の特徴的な挨拶に首を傾げながら、俺は店の中を物色する。一見乱雑にレコードが並べられているようだが、ちゃんと見てみるとどうやらジャンルごとにきちんと分けられているらしい。オルタナティブだのパンクだの、名前すら聞いた事のないような多くのジャンルのアルバムが、そこにはあった。

 

あんまりにも狭い世界に生きてきたものだから、俺にはアルバムひとつひとつを眺めてゆくこの作業が世界旅行のように感じられた。匂い、質感、それがレコードの向こう側に広がってる無限の世界を暗示させる。

 

時間も忘れて俺が店内をウロウロとしていると、例のファッキン店主が自分のもとへとやってきた。

 

「おい」

「は、はいっ」

「お前、ロックとか聞かない感じか?」

「…家が厳しくて、聞いた事ないです」

「ふうん」

 

興味なさげな相槌を返されかと思うと、ファッキン店主は俺の頭上に手を伸ばし、黄色い車が表に描かれた「Blur」というカセットテープを棚から取り出した。

 

「こっち来いよ、聴かせてやる」

「えっ、いいんですか?」

「当たり前だろ。ロックンロールのロの字も知らない、てめぇみたいなクソガキが腰抜かすようなすげぇ曲があんだからよ」

 

イヤホンを耳に着け、その”すげぇ曲”が始まる瞬間を待つ。

 

目を閉じて待っていると、やがてドラムを叩く音が聞こえてくる。ドラム、ベース、ギター、そしてボーカル。

 

《Woohoo!》

 

ごきげんな、囃し立てるようなウーフーという声。

 

I got my head checked(頭に1発くらった感覚だ)

 

まるでジャンボジェットに殴られたかのような衝撃が、俺を襲った。これまで親に聞かされてきた優美で落ち着いた、風流な曲たちとは全く異なる攻撃的なメロディ。

 

Woohoo! When I feel heavy metal(ヘヴィメタルを感じれば)

 

何かを激しく訴えかけるような男の声。聞いていれば、自分は今薄暗い部屋に立っていて、目の前で男が叫びかけてきているような錯覚に陥る。

 

Woohoo! And I’m pins and I’m needles (針のように全てを突き刺す)

 

歌詞の意味は分からない。ただ、ひたすらに衝撃だけが俺の体を貫いてゆく。

 

Woohoo! Well, I lie and I’m easy(横たわるように、楽に行こうぜ)

 

メロディは攻撃的なのに、声はどこか悲しげで。その声を聞いていると、なぜか涙腺が緩む。

 

Pleased to meet you(でも、君に会えて嬉しいんだ)

 

最後のところだけ、辛うじて意味がわかった。俺は、まるで今の自分の気持ちを代弁しているように感じた。

 

「どうだクソガキ、めちゃくちゃ痺れるだろ」

 

店長の言葉に、俺は無言で頷く。

 

「……俺の家、歴史ある華道の家なんすけど。小さい頃から親父に馬鹿みたいに厳しい修行させられて、友達って感じのやつも全然居なくて。俺、何するために生まれてきたんだろってずっと思ってて…」

 

店長は何も言わずに、俺の言葉の続きを待つようにただ寄りかかっていた。

 

「でも、見つかった気がします。ていうか、見つかりました。俺のやりたいこと」

「そうか。…ならよクソガキ、そのカセットテープやる。ギターも欲しけりゃ言え。使ってないやつが何個かあるからやるよ」

 

店長の言葉を、俺は一瞬理解できなかった。たしかにこの曲を、ロックンロールをやってみたいとは思った。けど俺は、それを口に出した訳ではなかったからだ。彼の言葉はまるで、俺の心を読んでいるかのような言葉だった。

 

「ハートに火がついたって感じの顔してるからな、今のお前。生きてるって感じの顔してやがる」

「生きてるって感じの、顔…」

 

この日たまたま見つけた、小さなレコード屋での出会いは、俺の人生を大きく変えることになった。

 

親に「派手な髪型にするな」と言われていた髪は自分の好きなように切り。親に「帽子や派手な服は着るな」と言われていたファッションも、ファッキン店主ことリアムさんに手伝ってもらいながら、ちょっとずつ変えていった。

 

 

そして、中3の夏。

 

俺は(らん)を追いかけるように、友人たちとバンドを組んだ。

 

 





拙い作品ですが、どうぞよしなに。

https://youtu.be/SSbBvKaM6sk

Blurと言えばな曲。僕はオウェイシスの方が好きですが、Song2はめちゃくちゃリピートしてます。
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