「おはようございます、マスター」
昨晩の誓いの儀式のせいで、僕はかなり体力を消耗していた。
――そりゃ初めてとは言えあれだけ緊張すれば肩にも力が入ってリラックスも出来ないよね?
氷雨、いや、冬至は僕の傍に立ち、僕が起きるのを待っていた。
――それにしても、
見た目は僕の妹だが、中身はまるで別人な訳である。
「ねぇ冬至」
ゆっくりと身体を起こし、「これからよろしくね?」と挨拶を交わした。
それから着替えと身支度を済ませた後、そろそろ頃合いだろうと思っていた時、
ピーンポーン。
「おはよう錬磨君。氷雨……冬至ちゃんは台所?」
そう言って僕の家に訪れたのは、僕の同級生にして幼馴染みで今回の聖杯戦争の参加者
の1人でもある春日谷心寧《かすがやここね》ちゃんだった。心寧ちゃんは確かに僕のライ
バルの1人ではあるが、一定期間が訪れるまでは共闘関係を築くという約束を結んでいる。
そんな心寧ちゃんは通学鞄を右手で肩に提げ、左手を腰に当てた姿勢で僕のほうを見つていた。
「ああ、うん。今日も丁度今、ご飯を作ってくれてるところなんだ。キミも一緒に食べていくでしょ?」
そう訊ねると、「当前でしょ?」と言って悪戯っぽく微笑んだ。
「――それで、他の魔術師の人達、特にあんた達が昨晩仲良さそうに話してたあの子、アサシンの女の子とは上手くいきそうなの?」
パクパクとご飯を口に運びつつ、心寧ちゃんは僕にそう訊ねてきた。僕は心寧ちゃんに、「そんな感じかな?」と応えてみた。すると冬至は、「食事中です」と言って僕達を注意した。
――やっぱり中身は氷雨のままか。
たとえデミ・サーバントとは言え、あくまで憑依しているだけであってまるっきし別人になった訳ではないから、性格や口調そのものは同じようだ。
そんなふうにゆっくりとした中で、僕達は朝食時を楽しんだ。
「――さて、それじゃあそろそろ行こう」
歯磨きと身嗜みを整え、僕は二人と共に自宅を後にした。
「おはよう」
「あ、おはよう。巴ちゃん」
現時刻は午前8時、僕達は学校の校門をくぐり、同級生の1人にして、大教会の神父様を祖父に持つ竜宮寺巴、巴ちゃん達と共にクラスに向かって行った(ちなみにそんな彼女の両親は、実はそれぞれマスターに選ばれた経歴があるらしいが、唯一その内容については口にしようとはしない)。
その後すぐ、僕達は屋上に向かった。
「――それで、今日からどうする? いよいよ始まったよ? 聖杯戦争」
僕の質問に対して、はじめに口を開いたのは巴ちゃんだった。
「10年に1度、あなた達のような魔術回路を持ったマスターが7人選ばれ、尚且つそれぞ
れに1人ずつ、サーバントと呼ばれる古の英雄がパートナーとして与えられる。そして、最後の1組になるまで殺し合い――」
「……」
――そう、その通りだ。
序盤はまだどうにでもなるかもしれない。でも、聖杯争いが激化するにつれて、場合によっては心寧ちゃんとも殺し合わなければならなくなる。それが、僕にとって最も恐れるべきものだった。
「なぁ、みんな?」
僕は今思っている胸の内を他の3人に述べてみた。すると、それぞれがそれぞれの返答をしてきた。
それは、
冬至いわく、「死なせはしない」
心寧ちゃんいわく、「いざとなったら忘れるな」
巴ちゃんいわく、「覚悟を決めなさい」
だった。
それぞれの厳しい言葉に改めて、僕はその重大さを思い知る。
「クソ!」
怒りに任せ、僕は金網を叩いた。
「……ごめん」
冬至達三人は静かに僕を見つめていた。
――仕方ない、かな?
僕はある決意を固め、すっと、左手を冬至へと向けた。
「……二画の令呪を以て、冬至、キミに命ずる」
「ちょ、ちょっとあんた! いきなり何てこと……」
「おやめなさい」
僕の冬至への命令を心寧ちゃんが止めに入ったが、それを更に巴ちゃんが制止した。
「たとえどんなことがあっても、キミだけは僕を忘れないでくれ」
その、たった一言の命令に、二つの令呪は消えていった。
――これで、僕の令呪は残り1つ。これを使い切ったら。僕は敗北する。
――でも、それでいいんだ。
――だって、
「僕には、キミがいるから」
だから、絶対に勝ち残る。
絶対に……。