Fate/the white memory   作:三点提督

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第3話 第二の誓い

 冬至が詠唱をおこなった直後、彼女はその場に座り込み、まるで苦しそうに呼吸を乱していた。その両肩は上下に揺れ、それが余程のものだという事が見て取れる。僕は慌てて冬至に呼びかけた。

「冬至、おい冬至!」

 返事がない。僕は何か嫌な予感がした。

 脳裏に浮かぶ最悪な予感。僕はその両肩を掴み、冬至の名を呼び続けた。

「……冬至」

「諦めたほうがいいと思うよ? だってその子、もう駄目だもん」

「どういう意味さ? それ」

 僕の質問に対して、応じたのは奴だった。

「応える必要はありませんよアサシン。何故なら彼はここで死ぬのだから」

 そう言って、奴は僕の顎を掴み上げた。

「いけませんねぇ、これだけ若々しいのに、このような愚かしい争いに身を投じてしまうのですから。だから僕達の餌食になってしまうのです」

 奴はその、狂気の瞳をランランと輝かせ、「実に愚かしい事だ」と言って僕の顎を暴力的に放した。その場面を黙って見ていたアサシンの双眸からは、僕の気の迷い、或いは心なしか涙が零れているようにも見えた。

 ――アサシン。

 本来は敵だが、彼女は僕達と初めて仲良くなってくれたサーバント。僕はそういった相手には手を上げる事が出来ない気の弱い人間だ。でも、だからこそ、

「……投影――」

 敵でも何でもいい。守りたい。守ってあげたい。

 たとえそれが、後に大きなペナルティーになろうとも、せめて、せめて、

 ――せめて……!

「――開始!」

 僕の魔力を左手に集中させた。そして、僕と冬至の怒りを、その全てを奴にぶつけた。

「く、僕の美しい顔に傷を負わせるとは。どうやら本当に死にたいようだ。いいでしょう、その望み、今すぐにでも叶えてあげましょう……アサシン!」

「……うん」

「一画の令呪を以て命じます。この二人を、必ずその手で殺しなさい!」

「……」

 僕は冬至の肩を抱き、アサシンの瞳を見据えた。彼女の瞳が何を伝えようとしているのか、それは解らなかった。それでもただ1つだけ解ったのは、

 ――本当に、キミはこんな戦いを望んでいたの?

 僕の両手に加わる力。しかしそれは、間違えれば冬至の雪のように美しい肌を傷つけてしまいそうだった。

「さぁ、やってしまいなさい、アサシン!」

「……!」

 アサシンがその細い右腕を振り翳す。僕は祈りを込め、瞼を閉じた。

 ――……、

 いつまで経っても痛みすら感じない。僕は不安をいだきつつ、ゆっくりと、その重い瞼を開いた。すると、

「あ、アサ、シン……」

「……ごめんねマスター。やっぱり私は、あいつらとは戦いたくない。ううん、もっと言えば、あいつの仲間とは誰とも戦いたくない。と言うか、むしろ……」

 アサシンは奴を抱くように向かい合い、彼女が持つ2本の短剣で互いの腹を貫いていた。その証拠に、彼女の背からは夥しい血液と共に、その剣が剥き出しになっていた。

「アサシン!」

 僕が彼女の名を叫んだタイミングで、ゆっくりと、彼女のその身体から細かな光の粒が広がっていった。脱落の合図、消滅へのカウントダウンである。

「……っ!」

 ――嫌だ。

「消えるな、アサシン!」

「錬磨君!」

 その間際、アサシンが顔だけをこちらに向け、僕にこう言った。

「聖杯戦争、キミは、それを絶対に終わらせるんだ。私は、それを強く望んでいるから。だからね? お願いだよ?」

 粒の量は徐々に増していく。僕は怖くなり、最早無意識的にこう口にしていた。

 

 素に銀と鉄、礎には石と大公。

 四方の門は閉じ、降り立つ風には壁を。

 王冠より出で、王国による三叉路は循環せよ。

 閉じよ、閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ。

 繰り返す都度に5度、ただ満たされる刻を破却する。

 告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いをここに。

 我は常世総べての善と成る者。

 我は常世総べての悪を敷く者。

 抑止の輪廻より来たれ、天秤の守り手――

 

「――アサシン、死ぬな!」

 その瞬間、僕の最後の令呪が目映い輝きを放ち、

 特異条件《イレギュラー》が発生した。

「……令呪が、元に戻ってる。それも、3つも」

 いや、それよりも、

「……どうしてかな? どうして、そういう事をするのかな?」

 アサシンは再び大粒の涙を流し、僕を睨みつけてきた。

「でも、もう、大丈夫なんだよね? これからは、キミのために戦えるんだよね? 錬磨君、ううん――」

「――マスター!」

 睨みつけてすぐのその笑顔は、とても可愛かった。

 ――って、そうだ、そうじゃないんだ!

「冬至、冬至、返事してくれ、冬至!」

 強くそう呼び掛け、僕は彼女を抱き締めた。

「……マス、ター」

 小声ではあるが、確かに冬至の声が耳に届いた。

 ――生きてる。

「冬至!」

 冬至の双眸が、虚ろながらもゆっくりとこちらへと向けられた。

 ――これで、やっと……、

「……うう、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「冬至!」

 冬至は頭を抱え、先程とは全く別の形でとても苦しんでいる様子だった。

「どうやらさっきこの子が使ったあの魔術が影響しているみたいだね?」

「それって、まさか……」

 ――冬至は、本当に死ぬ気で……?

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