あれから、冬至はいつまでも目を覚ますことはなかった。そのせいで新しく現れた僕の令呪は、日を追う毎に徐々にではあるが薄れていった。
「マスター」
僕達は今、アサシンと二人で自室のベッドに冬至を寝かせて看病していた。そしてその傍で懸命に看病してくれているアサシンが、せめてものとして冬至のその小さな口に粉薬を含ませ、零れないように水を飲ませている。アサシンは「ゆっくり治して、またいっぱいお喋り出来るといいね」と言って薄く微笑んだ。その笑みは、どちらかと言えばやはり悲しそうな感じだった。
「ありがとうアサシン。いつも手伝ってくれて」
「いいよ。だってキミからは本当に助けてもらったから。これくらい当然の事だよ。でも、そうだね、強いてキミから1つだけお礼をしてもらうとすれば……」
アサシンの視線がこちらへと向けられる。そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
「解ってるとは思うけど、絶対にこの子を死なせちゃいけないからね? そんな事をしたらどうなるか……勿論、解るでしょ?」
その表情には一切の冗談が含まれていなかった。とういうか、むしろこの子は冗談そのものを嫌っている。特に今回のケース。僕の妹……デミ・サーバントである冬至が、本当であれば脱落寸前だったところを、今僕といるこのアサシンのお陰でこうして一命をとりとめられたのだから。
――回りくどいせつめいかもしれないけれど、事実そうだったのだから言い直しようがない。
――そう、僕達は今、この子のお陰で生きている。
本来であれば、それはこの子の立場でも同じことが言える。この子は僕達のお陰で生きている。でも、僕達も僕達で、この子が生きていたからこそ、今もこうして聖杯戦争に参加する権利を維持出来ている。もしもこの子がいなければ、たとえ僕に残っている最後の令呪が無事でも、僕の場合は冬至が消滅したその時点で権利を剥奪されてしまっていた。
「ところでアサシン」
「何?」
僕は躊躇うことなく、アサシンに向けてこう言った。
「これからも、僕達に協力してくれる?」
そんな僕の質問に対して、アサシンは一瞬無言になったが、しかしすぐに微笑み、「当たり前だよ」と言ってくれた。
「確かに私は補助のサーバントにすぎないけど、それでも、マスターであるキミの為であればどんなことでも成し遂げてみせるから」
たとえ誰をどれだけ敵に回そうともね? ぽつりと言い捨てて、アサシンは1度その場をあとにした。
「……」
――冬至。
僕がこの子と出会ってもうすぐ1ヶ月が経つ。でも、その大半以上を、この子は僕のベッドの上ですごしているようなものだ。そんなこの子に、僕はせめてものとして、こうしてアサシンと共に形だけでもと思い、可能な限り時間を割いて看病している。
「ゆっくり休んでね」
冬至のその真っ白な頬を軽く撫で、僕も一旦その場から離れようとした時、
「マスター」
「っ!」
――冬、至?
僕の手を取り、小声でそう呟いた冬至は、しかし目を覚ますことはなく、再び口を閉ざしてしまった。
「……一画の令呪を以て命ずる」
ゆっくりと瞼を閉じ、僕は意識を集中させた。
――冬至、今キミが何を思っているのか、どういう気持ちなのか、僕に教えてくれ。
――投影、開始。
左手を冬至の額に当てる。その瞬間、僕の意識がいっきにどこかへと飲み込まれていくのが解った。
気が付くと、そこは一見すればどこかの雪原だった。そしてその向こう、1本の巨大な樹木の前に、1人の少女もとい冬至が佇んでいた。
――どうして冬至が?
そんなふうに、一瞬野暮な事を思い、すぐにこれがこの子の夢なのだろうという結論に辿り着いた。
「冬至!」
大きな声で呼びかけてみる。しかし、恐らくは僕の声が届いていないのだろう、決して無視する訳でもなく、素で僕に気づいていない様子だった。
――冬至は一体何をしているのだろう?
呼びかけても駄目なら。そう思い、ならば直接行くまでだという結論に至り、僕は歩みを刻んだ。
「冬至」
彼女の傍まで歩み寄り、改めて冬至の名前を呼んでみた。するとそんな僕には気付いた冬至はゆっくりと振り返り、「やはり来ましたか」と言った。
「ようこそ、我が固有結界。宝具、隠されし真実の純白《ザ・インサイド・オブ・ザ・ホワイトトゥルース》へ」
冬至いわく、それは彼女の意識の狭間らしかった……。