「さて、この場を借りて、私からマスターに1つ提案があります」
そう言って、冬至は僕を見据えた。
冬至からの提案、それは次のようなものだった。
「ここで私を自害させるか、私の中にある氷雨の意識を抹消させるか、2つに1つを選んでください」
――何だろう? 何かとヤバそうな事を聞かれているような気がする。
――要するに、妹を手放すか冬至を殺すかって事だろ?
――馬鹿なのか?
そのモヤモヤは、いつしか怒りへと変化しつつあった。
「あのさぁ冬至、それって、まさか本気で言ってるの?」
「勿論です」
「だったらそれって、かなりたちが悪いんじゃない?」
「たちが悪い。とは?」
冬至は何を悪びれる訳でもなく、ただ淡々と疑問形で言葉を紡いでいた。
「ここは私の夢の世界ですよ?」や、「何故迷う必要があるの?」
など、どう考えても理解出来ない発言ばかり述べてくる。その度にそれに対して僕の怒りは膨張し、
限界を迎えてしまった。
「勝手なことばっか言うなよ!」
盛大に怒鳴り散らしてから、僕はハッと我に返った。「何て言うかその」や、「別にそういうつもりは」など、余計な言い訳しか頭に浮かばない。一体どうする? どうすれば冬至を説得出来るんだ? そればかり考えていた。そんな時だった。
「……全部、兄さんのせいなんだから」
ぽつりと、冬至が呟いた。そしてうっすらと、その頬を伝う一筋の何かを目の当たりにし、
僕の決意が固まった。
「それじゃあ冬至、僕から1つ、キミにお願いがある。これは強制ではないから、令呪は使わない。応えを出すのは、キミだ」
「……何ですか?」
「僕との約束を破棄するつもりならそれでいい。でもせめて、これだけは忘れないでくれ」
そう言って、僕は冬至に向けて手を伸ばした。
「死なないでくれ。キミの中には、僕の大切な妹がいる。そしてそれは、キミ自身も同じだ。だから、お願いだ……氷雨」
冬至の深層意識に存在する妹の名を口にした途端、彼女の様子が変わった。その表情には、まるで何かを言いたげな、しかし何を言えばよいのか解らないような、そんな矛盾した、曖昧な感情が見て取れた。
「マスター……兄さん……」
「僕は必ずキミと2人でこの聖杯戦争を終わらせる。絶対にだ」
今現在、脱落者は1名。アサシンのマスターのみ。そしてその当の本人であるアサシンは僕との再契約を果たし、僕達2人の味方となってくれている。
「……ズルいよ、いつもいつも」
とん。と、その小さな身体を僕に預け、氷雨はまた涙を流していた。この時以上に、自ら死を選びたくなった事は、きっとなかったはずである。そんなふうに、僕は思った……。