「――弱い!」
勝負が開始されてからしばらくの間、僕達はほぼ一方的にボコられていた。これは比喩でも冗談でもない超大真面目な話で、僕達は本当に手も足も出せない状態だった。故に、今のように僕達は3人で、それに対してあちらは2人に
も関らず、最早無傷そのものに等しい状態だった。
――なんて力の差なんだ。これじゃあ話にならない。
――いや、でも……、
逆手に取れば、今僕達に手を貸してくれているこのアーチャーの実力が確かだということが充分に理解できたのだと思えば、特別そこまで悔しがることはない。のだが、それでも、やはりここまでの実力差があるとなると、やはり
少し心配になってくる。
「――解った。一先ずは僕達の負けだ。今の僕達ではどのみちキミには勝てないと思うし、だからと言ってそれ程の実力があれば、あとは僕達が強くなるために努力すればいいんだから、どちみちキミとはいい勝負ができたと思う。まぁ、キミ自身にとっては、もしかしたら不服かもしれないけどね?」
「解ってるなら早く強くなってよ。私だって、いくら一時的共闘とはいえ本来は敵だし、そうでなくとも、今一時はあなた達の味方なんだから、そう易々と殺されてしまったら話にならないでしょ?」
だから、死にたくなかったら自分で言ったように強くなりなさい。そう言って、「今日はここまでのようね?」と
空を見上げた。夕焼けがまぶしく僕達を照らし出しており、そんな夕焼け空を眺めつつ、僕はこう思った。
――どうすれば、僕は強くなれるんだ?
どこぞのどなたさんは、強さを求めている時点で弱いものだと言っていた。だが、それでも今の僕にはどうしても強さが必要だった。何故なら何度でも言うように、僕達はこの聖杯戦争を終わらせなければならないからである。
――そうじゃないと、いつまで経っても醜い争いが延々と続いていく一方だ。
そして僕は、果たしてどのような気の迷いを起こしてしまったのか、こんなバカげたことを口にしていた。
「ねぇ、アーチャー? 物は相談なんだけど、もしよかったら今ここでキミの本気を見せてくれない?」
「……それ、どういう意味?」
つい先程までの穏やかな雰囲気が一変し、アーチャーはどこか殺気を纏っていた。
「もしかしてあんた、このあたしを怒らせるつもり?」
「だとしたら、どうする?」
「……」
互いの間に沈黙が訪れた。そして、その沈黙を先にぶち破ったのは、
「……上等じゃない!」
瞬間、四方八方、いやそれどころか上下左右あらゆる場所から、矢という矢が何本も僕目掛けて襲って
きた。そしてそれらは当然ながら僕に命中した。急所という急所をすべて回避して。
「どう? これで解ったでしょ。あんたみたいなただの人間じゃ、あたしには勝てないの。ましてやサーバントのいないあなたなんて怖くもなんともなければ敵にも値しない。だから、解ったなら早く謝りなさい。そうすれば、まぁとりあえず今度だけは許してあげる。これくらいなら、痛みは残るかもしれないけど、あんたの治癒魔術で傷くらいなら癒せると思うから」
「……嫌だ」
「何ですって?」
「嫌だ!」
そう言って、僕は身体に刺さる矢を1本1本、その痛みに心を折られそうになりながら必死に抜いていった。幸か不幸か、数はそこまで多くなかったため、そこまで時間は掛から
なかったと思う。だが抜き終わった途端、膝がガクガクと震えはじめ、立っているのがとてもつらい状態だった。
「僕はこの子達と、そしてキミ達と聖杯戦争を終わらせる。だから諦める訳にはいかないんだよ!」
「投影開始!」
自分の胸に手を当て、魔力を最大限に引き出した。これはある種で自分の心臓そのものを用いているため、実際は
あまりやってはいけないのだが、そうでもしなければいつまで経っても勝機が見えないままになってしまう。故に
僕はほんのいっときだけ三途の川なり幽体離脱なり何なりを経験する覚悟を決め、それを
実行した。
「まさかまだそれだけの力が残っているなんて。少し見くびっていたわね? いいわ、それじゃあ本当に、今から
もう手加減はしない。でも後悔はしないでよね? もしかしたら本気で殺すかもしれないから、気を付けなさい」
「宝具、復讐の時は来たれり。見よ、我が怒りを《ジ・アンガーリベリオン》!」
アーチャーの詠唱とともに、大空から一本の太く長い巨大な矢が出現した。そして僕の身体を拘束するように鋼の鎖が巻き付いてきた。これでは身動きが一切取れない。これは本気で僕を殺すつもりでいるのだろう。
――でも、僕だって!
「冬至!」
「はい!」
「令呪を以て命ずる。今こそお前の本気を見せてみろ!」
その命令は容易に受け入れられた。否、むしろ待っていましたとばかりの勢いで、冬至は僕の前に立ちはだかった。そして、「兄さんには、たとえ誰であろうと手出しはさせません!」と言って、あり得ない速さで詠唱を完了させた。
「はぁっ!」
両手を前方へと突き出し、その正面に白く淡い雪の煙幕を出現させた。その煙幕は徐々に辺りへ広がっていき、
最終的には大きなサークルへと変貌を遂げ、僕達3人を包み込んだ。そのサークルの障壁に衝突した巨大な矢は、しかし
それを打ち破ることはできず、役目を果たしたためか、何事もなかったかのように跡形もなく消滅した。
「……っ!」
「……」
アーチャーは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、しかしすぐに素直にこう答えた。
「まぁ、これなら合格かしらね? 確かにあなたは弱いけれど、その分、その子みたいな心強い味方が、いいえ、仲間がいてくれるなら、私も少しは安心かもね?」
前言撤回。改めて、これからよろしくね? 錬磨君。そう言って、アーチャーは右手を差し出してきた。
「こちらこそ、足を引っ張らないように頑張るよ」
ふと、僕は腕時計に視線を向けてみた。現時刻はもう午後7時を回ろうとしており、そろそろ帰らなければ夕食の
時刻が遅くなってしまうため、今日のところは今度こそこの辺で切り上げることにした。
「そうだ」
その間際、僕はあることを思い出し、心寧ちゃんとアーチャーを呼び止めた。
「死なないでね? 絶対に」
瞬間、1本の細い矢が僕の頬を掠め、それを放った本人であるアーチャーが1度だけ怒声を上げた。
「くどい!」
静寂が僕達を包み込み、再び彼女が口を開いた。今度は優しい声音で。
「あんたがいるから、きっと、いいえ、絶対に大丈夫よ。だから、心配しないで? ……いいわね!」
「……うん」
今夜は何を食べようか? 安心しきったせいか、僕はそんなことを考えていた。
翌日、悲惨な報せを耳にするとも知らずに……。