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虫の音一つ囁かない夜の森で魔除けの火も焚かずに佇むテントが存在した。
天幕の内は外部からは想像できない程広く、十人以上が寝転がってもなお余裕があるだろうといえるほどだ。そんな場所で6名の勇者がふかふかの布団に包まりながら話にふけっていた。
「やっと完成したなヒュドラの仮面。いや~長かった」
アークが布団から手をだし掲げるのは一つのこの世界を救うアイテム。この世のものとは思えぬほどに入り組んだ奇妙な紋様の掘られた仮面である。アークたちはこれを完成させるために3つの神殿を占拠していた四天王たちを打倒し仮面の破片を入手していたのだ。
「この仮面の力があれば魔王城への道が開く……今はさしずめ決戦前夜というわけか」
ナチュラルにシロと同じ布団に身を沈めているリンが現状を述べるとランカが一つの提案をした。
「その通りにござるな。とはいえこれはゲーム。ここらで何か重要な見落としがないか、やり残しがないかを皆で振り返っておくのは大事ではござらんかな?」
「確かにそりゃ大事だな。いざ魔王城に乗り込んで大事なフラグを見逃してましたーじゃ話にならねえ。最悪そこからゲームオーバーまでみえる」
「そんな心配はしなくてもいいと思うけど……なんだか楽しそうなのだ」
賛成が得られたところで彼女らは光虫を利用したランプを中心に顔を付き合わせこれまでの旅程を振り返り始めた。
「ふむ……この空気あれじゃな?いわゆる修学旅行の教師が夜寝静まった後の感じじゃな?」
「ラムルディ殿それ漫画とかで読んだ知識でござろう?」
「アタシら誰も修学旅行とか経験したことねーだろ」
「のだー」
「ふむ私たちは旅行は多く経験しているが……そろそろまた温泉旅行にいくのはどうだろう?」
「あんま腕に影響ねーとこにしねーとな。じゃなくて振り返りだよ。まずは直近の四天王いっとくか」
魔王軍の幹部でありゼルデンリンクのボスキャラクターである四天王たちはそれぞれが強大な力を持つエネミーであった。
「最初の奴が本体と装甲で攻めて来るセミ、次が遠距離砲撃のハチだったでござるな。まさか神殿に入る前から針の狙撃を回避しながら進むことになるとは思わなかったでござるよ」
「あの時ばかりは工作員やっててよかったと思ったなー」
1つ目の神殿は亜熱帯のジャングルのような気候の地域に存在した。そこではボスの狙撃を中心としたゲリラ部隊の襲撃が行われた。過酷ではあったがSHたちの工作員としての経験と敵の行動ルーチンの見切が功をそうして無事に切り抜けたのであった。
「三体目の……いやこれは口に出すのはやめておこう。奴の速度と生命力はやっかいだったな」
「不評なのだ~」
「モチーフがモチーフじゃったし寒冷地で寒かったからのう。そういえば四天王は全員虫モチーフなのじゃのう。もしかすると魔王もそうなのかの」
「最後の奴も中国拳法カマキリだったしな。可能性はかなりあると思うぜ。となると虫系に特攻のある武器直ぐ出せるように準備しとくのもありだな」
その言葉を合図にそれぞれ所持品の中から対虫用の武器や道具をチェックしていく。
「虫と言えばこのテントには一匹も外の連中が入ってこぬし快適じゃがこれを手に入れるまでは随分窮屈な思いをしたのう」
「これ水害避難クエストの報酬だっけ?あそこの村の住人。水が迫ってんのにマジで逃げなくて手間かかったよなあ」
水害避難クエストとは旅の途中で立ち寄った村で発生したサブクエストの一つである。この村が大雨の水害によって沈むという情報を知ったプレイヤーが住人を説得して高台に逃がすという内容だ。
「あまりにも進まんから最終的にランカの能力で避難を促進したんじゃったのう」
「おかげで一つの村がまるごと防災ゾンビになり果てたけどなー。アタシらも噛まれかけたし。もうちょい制御できねーか?」
「それが出来たら苦労せんでござるよなあ。過ぎたことでござるし水害だけに水に流してほしいところでござる」
「こいつを流しとくべきだったな……」
「何とー!?」
ランカの抗議もそこそこに話題は切り替わる。
「やランカに噛まれなくてもみんなゾンビみたいになってたことあるのだ」
「テッチリ山の坑道に籠った時な!」
テッチリ山とは鉱石発掘が盛んな鉱山である。強大な敵に対抗するための武器を強化しようとするものの鉱石素材がまるで足りなかったアークたちは三日ほど鉱山に籠りきりになったのであった。
「あの時ばかりは監督してる地下労働の住人たちの気分がわかったでござるよ……。あの中でもリン殿は優雅にこなしてござったな……イケメンはものが違うということでござるか」
「鍛えているというだけさ。君たちの方こそ今一度教官に鍛え直して貰ってはどうかな?」
SHたちによる含蓄のある拒否の言葉で提案は封殺された。不服そうなリンを誅するかのようにシロは言葉を接ぐ。
「お前らの熱血についてこられるやつは希少なんだってことにそろそろ気づけ。マジで」
「とはいえmashiroはmashiroで中々に癖があるのは気付いておるか?」
「はあ?どこがだよ!?」
「他人の家に上がり込んで無許可で家探しして家中の壺を割っていくのは真似できんでござるなあ。いまでもウォッてなるでござる」
「べ、別にゲームの中だから当然だろ!?なあ?」
納得がいかぬと周囲に同意を求めるシロだったがその目論見は功を奏さず。
「いや、ゲームっていう前提あってもこんだけリアルな世界で躊躇いなく破壊はできねえと思うぞー」
「思い切りがいいのだー」
「う、嘘だろ……?」
愕然となるシロの頭を冷たく硬い手が愛おし気に撫でた。シロは甘えるように僅かに目を伏せる。
「気にするな。周りがどのように言おうと私はお前のそういった部分を愛しく思っているのだから」
「うるせえ!もういい寝る!!」
そう叫びシロは布団の中に潜りこんでしまう。後に残された面々もお開きモードになり明りを仕舞って目を伏せた。
静まり返ったテントの中でふとアークが誰に言うでもなく話す。
「なあ、ここまでやってきてさ。アタシら……悪くはなかったよな?」
これまでの一月足らずを確かめるように話すアークにリンが最初に返した。
「私たちは……私はサメのアーク。お前を信用したわけではない」
拒絶ととれる言葉の後「だが」と続けリンはいう。
「連携は悪くなかった。いや、我々は上手くいっていたとも」
「リン殿が盾役、やランカが雑魚を散らしてアーク殿とラムルディ殿が前衛やってメア殿が回復してシロ殿が指示を出す。いい感じに回ってござったよなあ」
「だからこれまでノーコンでやってこれたわけだしな」
暗闇の中ラムルディが彼女らの関係を表した。
「少々おもばゆいがわらわ達はよい”仲間(パーティ)”ということじゃな」
「メアたちは最高の”仲間(パーティ)”なのだ!」
「そこまでは言うとらん」「言い過ぎ言い過ぎ」などの訂正の声が入るが皆考えていることはそう違いはないことが声色からわかる。それを感じアークは言った。
「明日にゃ終わりだろうけどよ……それまで頼むわ”仲間(パーティ)”。おやすみ!」
「「おやすみ!」」
決戦の夜が明けるそれはパーティの終わりが近づいていることを意味していた。