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「えー、名前はミラド。欠けた円環の継手所属チスイコウモリのSH。しいて言えば詩人な住所不定無職。間違いないな?」
吸血鬼?との遭遇から翌日。アークはラムルディ宅でとある人物の正体の確認を取っていた。とある人物とは当然。
「変哲なき亡骸を穿つ包丁」
ミラドと名乗った。吸血鬼?である。夜道で倒れた彼女をラムルディ宅に運びこみ食事と睡眠の世話をした後、アークたちは事情聴取をしたのだが案の定の言動であり今一つ容量を得なかった。だが、だからこそ適合した者がいる。
「疑いようはなく間違いはないとおそらく言うておるぞ。あとオブラートに包まぬから傷ついたとも言うておる。反省せよ」
「本当かぁ!?お前勝手に都合のいいように創造してない?」
「うたがわしいのだぁ。うたがわしきはばっするのだぁ」
「雪原駆ける二羽の白兎……!!」
「ほれ~無駄じゃからヤメロというておられるぞ~」
「だーからそれわかんねーんだよな~!?!」
ラムルディである。彼女は吸血鬼への過度な憧れゆえかそれともアニメのワンシーンにすら一喜一憂する共感性の高さによるものか。(本人曰く)ミラドの言うことが理解できると言い始めた。アークと話を聞きつけてやってきたメアは半信半疑であったがラムルディが吸血鬼自称者とは思えぬあまりにも曇りなき眼で語ることとミラドが一切否定の類の言動(言葉で示されてもわからないのだが)を示さなかったことで一応翻訳の内容を正しいものとして扱うこととした。
統合すると始めアークがまとめた通りの人物となる。つまり組織からの刺客であるが特段アークに敵意がある様子はなく。ガツガツと食事を食らい。バリバリと惰眠を貪り。トウトウと意味不明な言葉をのたまうのみである。なんだか彼女が住所不定無職の理由が見え透いてしまいそうだ。とんだ極潰しである。
一応日銭は稼いでいるようだが。
「誤植にまみれた辞書を手に船を出す。群魚を眺め。ただ行き会うのを待つばかりである……やっぱわからんな」
「なんかいなのだ~」
ミラド手売りの詩集はアークたちには不評だったようだ。実際売れ行きもそこまでよくはない。だが、やはりというかなんというか。
「含蓄に溢れた瑞々しい言葉の数々じゃのう~。これとこれとやはり全部三つずつ買わせてもらうぞ~。今日からわらわの聖典(バイブル)じゃ~」
ラムルディ(吸血鬼オタク)には好評のようだ。吸血鬼キャラとしてのポジションを賭けて戦う前に相手の本を多々買っておりもはや格付けは済んでしまったようだ。そんな彼女はアークにすら若干引き気味に心配するような声をかけられた。
「おい、その本意外と強気な値段設定だぞ?金払う価値ちゃんと感じてんのか?雰囲気に酔ってるだけの勢いで大金つぎ込むと後悔すんぞ。ちゃんと言葉わかってる?」
だが、頭の湯だった狂信者にはそんな心配はどこ吹く風。
「じゃってわらわ吸血鬼信仰厚き者じゃし~?こういうのちょっと読んだり聞いたりしただけで清廉で創造性溢れる心がピンときてしまうというかのぉ~」
「吸血鬼が信心深かったらダメだろ。ハイになってねーで灰になれよ」
「サン、ハイ!なのだ」
「ならぬわ!!そういうのはミラドの専売特許じゃろうに。のう」
「!?雪山で茸狩りに挑みし山猫……!!」
「無理じゃそうじゃ……」
「わかっとるわ!がっくりするんじゃねぇ!」
話は随分と逸れたが無事本物吸血鬼の疑いが解けたミラドと悲嘆に暮れる翻訳家ラムルディによって以下のことが分かった。
長く旅をしてきたがミラドもそろそろ一度腰を落ち着けたいということ。しかし、家を借りようにもお金が無くそれが叶わないので誰か泊めてくれないかと声をかけて回っていたこと。あと完全に昼夜逆転型の不健康な生活習慣であるということだ。
「ヒモか居候する気だった……ってこと?結構太い神経してるなコイツ」
「ニートに言われたくないのだ~」
「学ばぬのなら働けい無職。時にミラドはなぜこの方舟市に落ち着くことにしたのじゃ?確かにここは交通の便もよくほどよく都会と自然が……程よいか?」
市街地にまで野生動物が跋扈しており、たまにアークは庭先で行われたゴリラのドラミング大会で目を覚ますことがあるが。まあ、調和しているといえばしているのだろう。
ともあれその答えは──
「枯れ葉は大地に、蒸気は空へ、おじいさんは山へ芝刈りに」
「物事はあるべき所に落ち着く。今回もそういうことのようじゃ。つまりここがどことなく落ち着くらしいのう」
その感覚はアークにも理解できた。ここに初めて足を踏み入れた時。存在しないはずの故郷に訪れたような念。恐らく、それは他のSHたちにとってもそうなのであろう。故にこそこの街とその近郊にはSHが多く定住しているのではないか。アークはそのように認識している。
(騒がしい連中が多くてめんどくせえけど退屈はしねえなぁ)
理解はできた。が、だからといって目の前の吸血鬼が金なし家なし信用なしの3LDK(レベル違いのダメ顧客)であることには変わりはない。シンプルな疑問がある。
「こいつに家を貸してくれるところ……あるのか?」
シン……。一瞬にして鎮まり返る室内。しかし、社会のことを理解していないお子様(メア)が返す。
「アークが未だにどっかから金を借りれてるんだから信用0でもだいじょうぶなのだ!捨てる神あればひろう神ありなのだ」
「アタシは定期的にちゃんと返してるんです~!その後足りなくなってまた借金を繰り返しているだけです~!」
「この前リクの姉御のところのふみたおしてたのだ~」
「リクのところはいいだろリクのところなんだからよ~。アタシに貸すやつが悪いんだよ~!」
このような有様の人物に自らの信用について言及されたのがショックだったのかミラドは自嘲気味にこういった。
「福笑いに失敗したドッペルゲンガー」
「落ちこむでない!アークは信用マイナス。お主は信用0じゃ!お主が勝っとる!!」
「カースト最下位。ていへんの羽虫の争いなのだ~」
富裕層のガキは言うことが違う。この発言が引き金となり第一回お前が一番信用がない選手権が始まり全員が深く傷を負ったところでまともな会話は再開した。
「ともあれ真っ当な住居を借りるのは難しそうなので隙間産業というか……癖のある誰も住み着かないようなあぶれた物件を取り扱っとりそうな不動産屋をあたる……ということでよいな」
「おう、もうそれしかねーだろ」
「でも、そんな都合のいいふどーさんいるのだ?」
そんな拾う神がいたとして、その実態は精々貧乏神がいいところなのではないだろうか。という疑問はありつつもラムルディが反応を示す。
「あ、そーいえばじゃな。この家を見つけるにあたって利用した不動産会社の中にそういったところはあったぞ」
「本当か?」
「うむ。と、いってもあまりにも個性派が過ぎたので最初の数軒を提示された時点で利用を取りやめたわけじゃが……個人経営であまり儲かっていなさそうじゃったから。案外いけるのではないか?」
正に求めていたというような情報に対してミラドは。
「渡りに船……!」
「そこは普通に言うんかい!」
「ただのことわざなのだ……」
一体どのような基準で詩的なことば使われているのだろうか。というか先ほどのことわざは詩に入っているのだろうか。ともあれ。
「ラムルディが個性派すぎっつって避けるのは大分不安だが。まー、これしか候補はねーだろ」
「変なお家だったら冷やかしだけして帰ればいいだけなのだ~」
「決まりじゃの。案内はわらわがする。いい家が見つかればいいのう」
ラムルディの屈託のない笑顔に一歩引きながらミラドは皆の前に立ち深々と頭を下げる。
「地球を一周するケンダマ……!」
「そこまで感謝されると照れるのぅ」
「してるぅ!?ほんとにぃ!?」
こうしてアーク一行の摩訶不思議な部屋探しは始まった。ここからひたすら面倒な事変に巻き込まれるとも知らずに。
SHs大戦15話「言葉の宿」