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<ひと騒動に巻き込まれたと思われる女性の声>
な、なんとか無実を証明できたが。できたが……。
なんっで!僕が!きゃぴきゃぴ探偵を手伝って真犯人を捕まえる手伝いなんてしなきゃあいけないんだ!?
そりゃ、助けられたし。多少は感謝もしてるけどさ。それにしたって僕じゃなくてもいいだろう?
え、何喋ってるのかって?おわっ!?なんでもない!なんでも!はぁ?助手?助手?僕が!?正気で言ってるのかこの痛い痛い探偵は。こっちは遺体なんてみるのは勘弁だぞ。聞いているのかい?!
♦
一つの建物を前にあっけに取られる集団がある。
「ここが……」
「ラムルディがいってたふどーさんなのだぁ?」
彼女らの前には四角い箱状の白い建物西暦でも換歴でも一般的なものではある。何の変哲もない……とはその上にくっついているものを除いての表現ではあるが。
「相変わらず変わっとらんのう。この馬鹿デカ貝」
そう、貝である。この建物はちょうど砂浜でたむろしているヤドカリのように身の丈以上の大きなピンクを基調に多くの飾りをあしらったカラフルな巻貝を屋根として背負っていた。その表札にはこう書いてある。
オウマ不動産。
「…………とりま中に入るか」
気圧されながらも自動扉を抜けて中に入ったアークたちを出迎えたのは元気のいい声だった。
「いらっしゃいませ!オウマ不動産にようこそ。わたしが責任者のオウマです。本日はどのような物件をお探しですか?ウチはとにかく個性派ぞろい!必ずや刺激的で享楽的なお家を紹介してみせますよ!」
好みにあったじゃないんだ……。と一行を戸惑わせた声の主は。白のランドセルを背負った小柄な赤髪の少女だった。ゆったりとしたワンピースの彼女ははきはきとした調子でアークたちに着席を進めていく。とはいえその圧が強かったのか今回の主役は……
「ミラドが座らないとなんにもならないのだ~」
「忌避すべき円卓……」
「座ってもなんともならんぞ~押しが強いのはわかるがまずは話を聞くのじゃ」
通訳者の言葉にこくりとうなずくとミラドは黙って着席をした。ここから話を……の前にアークが目の前の疑問について尋ねる。
「え……と。オウマは、小学生。じゃねえんだよな?」
「学校じゃみたことないのだ~」
「こりゃ、ド失礼じゃぞお主ら……!すまんのうオウマ気を悪くせんでくれ」
謝罪にオウマは朗らかに応えた。
「いえいえよく言われることですから。それにわたし自身も話のとっかかりとしてよく利用しますからね。営業としての生存戦略みたいなものです」
「そういうもんか」
「ええ。そ・れ・で!本日の御用件はなんでしょうか!オウマ不動産は獲れたてピチピチの新鮮なお家からビンテージの香る熟成お家まで幅広く取り揃えていますよ」
「お家ってしゅうかくできるものだったのだ?」
小学生の疑問に同じような背格好の専門家が指を立てて答える。
「イエナルキという希少な木は年に数度。居住空間を実らせることで業界では有名ですよ!自然の産物なので必ずしも人間が住むことに適しているわけではありませんが。ともあれウチではイエナルキから獲れたお家も紹介できますとも」
「お、そりゃ面白そうだな。最初はそこ見てみるか」
「これアーク。今日の主題はミラドじゃぞ。のう、ミラド。お主もダマっとらんではよう希望を述べるがよいぞ」
「なるほど今日はそちらのお客様がお求めでしたか。それではゆっくりでいいのでお伺いしましょう」
自然皆の視線はミラドへと向かった。だが、彼女の希望はやはり。
「方舟に宿りし大樹の如し傘」
「????????????」
「あー、悪い。こいつこういう言い回しになるやつなんだ。ほら、通訳なんとかしろ」
「この方舟市で自分のような流浪の身が雨風を防げるならなんでもよいというておる」
「そんなこと言ってました?」
「いってたのだ~。ラムルディの中では」
「あとこいつの中でもな~」とアークがミラドを指すとパンクロックのコンサート会場のように頭を前後に振るう詩人の姿が確認できたのでオウマもなんとか納得したようだ。したが、それは都合がいいというわけではないようで頭を抱えている。
「き、希望が無いに等しい……。せめて少しは候補をしぼりたいのですが……」
「つってもな~。こいつ文無し。職なし。住所なしだからよぉ。あんまごちゃごちゃ注文つけてもなあ」
「信用が欠陥住宅に住まわされている!?」
「やっぱりしょうかいしてくれないのだ?」
小学生のまあ、そりゃそうだろ。という冷淡な疑問形の切り捨てだったがオウマはそれを拾うことにしたようだ。
「い、いえ!大丈夫!問題ないですとも!ええ!わたしは押しも押されぬ不動産屋の主兼エース営業(従業員自分だけなため)お家をお求めの方なら必ず納得してもらえるものを提供するのが使命!です!そういった支払いなどに関しては住みたい目標を見つけてからにしましょう」
「「お~」」
ぱちぱちとまばらな拍手にエヘンと小さな胸を張るオウマ。そんな彼女にラムルディが尋ねる。
「それは助かるのぅ。しかして居住希望主はこの通り余り自分の住む場所についてイメージを持っとらんようじゃがどのようにするんじゃ」
「そこは専門家にお任せください!条件にあったわたしのおすすめのお家をぶつけていきますのでどれかは琴線に引っかかるはずです!」
「シェフのおすすめコースに従うってことか。おもしれぇ。オメーのおすすめ見せてもらおうじゃあねえか」
「何が出てくるのかお楽しみなのだ~」
「孵化を前にしたヒヨドリの胎動……」
「こっちも何が出てくるのかわからんのだ~」
「なんとなく未知への期待があるのはわかるな……毒されてきたか」
「うぉいアーク!それわらわの仕事じゃが?」
「代わりやってやったからバイト代渡せや~?」
「あ、あの……ここで暴れないでもらえると~」
「やれやれ~!なのだ~」
かくして変わり種の不動産屋オウマによって家の紹介を受けることになったアークたち。この先に待ち受ける奇々怪々な物件の数々さて、どこまで正気を保っていられるものか。
♦
最初の家は、傾いていた。
傾いていたのである。物理的に。地面から斜め方向に向かって天に伸びる塔はあろうことかその途中で関節が生えたかのように更に角度を変えて斜め方向に傾いた。そして傾いた先で更に関節を決め。内見者たちの認識を「あ、これダメな奴だ」にロック。アークたちの家の中への期待は斜め下方向に傾いた。
「それでは中をご案内しますね~」
「いや、いいよ。なんかもうオチ見えたっていうかむき出しだしよ……」
ともあれその期待を越えた失望は裏切られることになる。なぜなら。
「かたむいてないのだ~?」
なんということでしょう。あれほど欠陥住宅丸出しだった外観からは驚くべき程に平らで一般的な玄関口と廊下だった。
「なんじゃなんじゃ、結構よい感じではないか。見た目を少し我慢すれば中々に住みよい場所になるのではないかの?」
「ひょうきんものの麗顔」
「ふふ、喜んでいただけて何よりです。ですが驚くのはまだ早い。奥に進みましょう」
フローリング造りに壁に張られたクロスの廊下を進み。オウマが奥のリビングに続く扉を開いた。開いたと同時に、中が公開された。皆は後悔した。
「いよ~~~~~~~~~~!!!!!」
カンカン!
「知らざぁいって聞かせやしょう。某こそが音に聞こえた風雲児。前田慶次にござ~い~!!」
カカン!カンカンカンカーン。
テテテ!(ここで舞台上の役者が見得を切る)
「……………」
アークたちは観客席でそれを無言で見ていた。リビング。というかホールでは席がいくつも並んでいた。そして台所の横には舞台が整えられ。数人の役者が……
「
「イヨォォォォォォォオォ!!!」
アークの叫びを主演の叫びがかき消した。そして彼女は隣のオウマに肘で制され。
「しっ、アークさん。演目の途中ですよ。静かにしてください」
「アタシらは内見の途中だが???」
「げいのうを見るのは眠くなっちゃうのだ~。お昼寝するのだ~」
「これこれ、演者さんたちに失礼じゃろうが。飲み物買って来てやるからもう少しもたせい」
「松竹梅……」
「ミラドは梅昆布茶じゃな。あいわかった」
「
「一体なにがわからないんですかアークさん?家賃?光熱費?なんでもお答えしますよ」
「先住民だよ!!」
「ここね。お家ではあるんですけど同時にスーパー歌舞伎団体の公演場所でもあるんですよ。激安で舞台を貸し出したり家賃が安かったりする代わりに住民と演者とお客。いい感じにやっていってくださいねっていう」
「要求が無理筋すぎる~」
「住所・職・こせき・3無しに家をかせっていうのも同レベルなのだ~」
「倉庫に追いやられしキリギリス」
「うんうん、気を使う場所はいやなんじゃな」
不評ににオウマは小学生のように口をとがらせ。
「えー仕方ないですねぇ。じゃあ演目終わったら静かにでましょうか」
「なんで一個目で既に投げやりなんだお前!?プロ意識どうした!?」
「イヨー!!!」
千両役者の声が高らかに響き渡る。
♦
一行が次に訪れたのは一戸建ての住宅。二階まで存在するその家は一人で住むには随分と広く持て余しそうな予感がするが。
「今度はいねーだろうな。先住民」
うんざりというアークにオウマは意外そうに返し。
「シェアハウスはお嫌でしたか?価格帯はぎゅっと抑えられますし、家事分担できたりしていいと思いますけど……」
「客と演者で何を分担すんだよ!分けられるのは舞台の感動だけだわ!」
「メアにはよくわからなかったのだ~」
「荒波に攫われしリンゴ……」
「人見知りに大勢の知らん人間はつらかったらしいのう」
「いいのかそれで客商売」
「芸術家なのだ~」
ともあれぶつくさいいつつも彼女らは敷地の中に入っていく。
「今回のお家はすこし騒がしいかもしれません」
「じゃあいるじゃん!先住民!」
「いえいえ、いらっしゃいませんよ。完全にお一人様向けです」
「ご安心なのだ~。でも先住民がいないならなんでうるさくなっちゃうのだ?」
「それは入ってからのお楽しみです」
人差し指を立ててにこりと笑うオウマ。彼女は取り出した鍵で玄関を開けると中に皆を招待した。
一見した感想としては。
「なんてことない玄関じゃのう」
タイル張りの土間があり。一段高いところに木製の廊下が存在する。左手には靴入れの棚。換歴に至っても一般的な玄関構成だ。
「といっても、前のところも玄関はまともだったからなぁ。油断せずいこうぜ……」
「見学にゆだんってなんのことなのだ~?ん?」
からかうメアの言葉は途中で止まる。というよりも途中でかき消された。新たに鳴った音によって、だ。
甲高い電子音。シンセサイザーなどから鳴るようなソレは。
「何が起きたのだ~?」
起きた現象を確かめんと地団駄を踏んだメアの地面に対する打撃の数と同じ分、放たれた。つまり。
「うるせ~~~~~~!!!!!」
ピロンピロンティラリティラリダラララリン。
音が内見者たちの鼓膜を打撃していく。
「おいメア、その動きやめろ~!!!」
たまらず家に上がってメアの動きを封じにかかるアークしかし。廊下に足を踏み入れたということは。
ドーンドーンラー。
「うぉぉぉアタシもか!余計やかましくなった!」
「もうじっとしておれおぬしら。ミラドが完全に音爆弾食らった鳥類先生みたいになっとるわ」
「クェー…………」
皆の戸惑いを笑ってごまかし音を鳴らしつつオウマはホップステップで音を鳴らしながら廊下に立ち、解説しました。
「ご清聴いただけましたでしょうか?こちらが当社ご自慢の音のあるうちです」
「ききゃわかるわ~!!」
「た~のし~のだ~!どんどん鳴らしていくのだ!」
「あ、コレ!ぬおおお、どんどん違う楽器の音が鳴っておる。場所によって変わりおるのか!?」
部屋廊下を突き進んでどかどかと部屋の奥に音を鳴らしながらいってしまったメア。それを同じぐらいの年に見えるオウマはほほえましそうに見る。
「ふふ、メア様には気に入っていただけたようですね。では皆様も中を体験してもらいましょうか」
「してますが???おっもしれぇのは確かだけどやかましいのも確かなんだよ。なんだこれ、踏み込む力に合わせて音がデカくなったりちっさくなったりしてんのか」
アークがぺたんぺたんと足を振り下ろす。その度にキックドラムの音がなるが、なるほど確かにその強さによって低音の腹の響きは強弱があった。
「で、あれば抜き足差し足で行けばあまりうるそうなく前に進めるじゃろう。童を回収してさっさとずらかろうぞ」
「事件現場のバスドラム……」
「こんなところにいてはおかしくなってしまうからのう!」
抜き足差し足忍び足……忍びの技を駆使して彼女らは前に進む。
「なあ……この移動方法、家のコンセプト全否定な気がするんだが……」
「仕方なかろう行動ごとにいちいち爆音を響かせておっては遠からず気が狂うてしまう。家に住むためには当然の適応じゃ」
ミラドは台詞もなしに首を横に振った。
「適応が必要な未来はなさそうだぞ」
「ミラドには刺激が強すぎたかおお、可愛そうに。ここから出たら静かなところにいこうのう」
ラムルディはミラドを抱き寄せ可愛がろうとしたが、ミラドは彼女の予想以上に消耗したのか大きくバランスを崩し、ラムルディを巻き込んで。
バーーン!
「ぬおわぁ!?」
「うるせー!!」
大きなドの音を鳴らしながら二人して部屋の中に倒れ込んだ。
「むきゅう」
「あらら」
ラムルディを下にしてミラドが覆いかぶさる形になっている。
「ご、ごめ……頭垂れる稲生」
「よいよい。疲れておったのじゃな」
ミラドは慌ててその場からどこうとするが上手くいかない。なんということでしょう。倒れた際に二人の手足は複雑怪奇に極まりそう簡単には抜け出せないようになっているのであった。
「んっ、くっ」ドドラ
「んごぉぉぉぉ!?極まっとる極まっとる!関節が見事に極まっとる!」ラララソファミ
「なーにしてんだお前ら。つーかうるさっ!さっさと外すか一生動かずそこいろ!」
ぎしぎしゆらゆら脱出しようともがけばもがくほど家との接触回数は増えて多様な音色になっていく。ミミレソラシド。二人が奏でる合奏はやがて幼女の元にも届き。
ララミドドドファ。
「楽しそうに演そうしているのだ!メアもまぜるのだ!」
「見るなー!!!」
インタラプトが発生してこの日一番の爆音が鳴り響き。蝙蝠二羽が撃沈したりした。
♦
「ひどい目に遭った……」
「お楽しみいただけたようでなによりです」
「どこがじゃ!!宿屋のようなことを言うでないわ!」
二軒目の内見を終えたアークたちは続く三軒目に向かって歩を進めていた。といっても既に散見される恐ろしい前例たちによって先行きには早くも暗雲が立ち込めていたのであるが……。
「さて、次なる物件にご到着です」
たどり着いたのは一つのアパート。その一室の前だ。あまり管理の手が入っていないのか雨汚れなどが壁面などにこびりついている。
「ちょっときたねーけど。見た目はまともだな……見た目は」
「さっきも見た目だけならふつうだったのだ~」
「で、今回は何があるんじゃ?あるんじゃろ?どうせ」
「戦場に一石投じる戦士」
散々ながら真っ当な顧客たちのいいようにオウマは冷や汗交じりの苦笑いで答えた。
「はは、お察しの通りこの物件の特徴は……」
彼女は少しためて決定的な言葉を放った。
「じこ物件です」
「アウトじゃー!!」
「そうはいいますが安いし簡単に借りれるんですよ。じこ物件は。失礼ながらミラド様の人生は盛大に事故っておりますのでこれぐらいでないと中々釣り合いは……」
「伐採続きの山崩れ……」
「そこまで言うことないじゃろうが~!!大丈夫じゃぞミラド。どこか探せば人生の保険屋さんもあるはずじゃからのう」
「保険屋さんは事故ってからでは手遅れでは?」
家の真実に真っ先に反応したのはラムルディのようで実は違う。それは、彼女は。
「アーク?大丈夫なのだ?」
「え?あぁ……うん。大丈夫……」
「全然大丈夫じゃなさそうなのだ!」
常ならぬ気弱かつ緊張した面持ちのアークに悪友は即座のツッコミをいれた。そこでようやく自分の変調に気づいたのかアークは荒い息を整えいつもに近い口調で答えた。
「問題ねーよ。……で、じこ物件ってことはアレだよ……な。昔人が亡くなったっていう」「いや、違いますよ?ここでは誰も亡くなっていません。死傷者ゼロです。そんなんあったらここの市場価値もっと下がってますよ」
「え、いやでも事故物件て……」
「まあまあ、そういうのは体験してもらった方が早いですって。大丈夫です。幽霊なんて出ませんよ」
「幽霊はね」そう誰にも聞こえないように言ってオウマは小さい体で扉を開き中に皆を招きいれた。
ひとまず幽霊が出ないという言葉に従って内部を進む顧客たち。
段差がないこと以外は騒音の家とほとんど変わらない玄関構成、サイドにバスルームやお手洗いのついた一本道の廊下。先に行けばリビングルーム。
リビングルームだ。そこにたどり着いてしばらくした後に変化は訪れた。キッチンのついた手狭なフローリングの小部屋。視界を塞ぐ荷物もない誰かを見失うなんてありえないこの環境で……。
アークは一人取り残された。
「ア!?」
いない。どこにもいない。メアも、ラムルディもミラドも、皆を引率するべきオウマすらもだ。世界に一人。それに気づいたことで気づく。
人がいる。
いないと思った。確かに数瞬前まで誰もいないと確かめたはずのその場所に、確かにそいつはいた。しかし、それは人といってもいいのだろうか?それは人を越えた存在。更にいえばそれは他人ではなく。
「お前……は?」
「よぉ、アタシ」
大きく肌を晒したパンクファッションに身体に刻み込まれた傷、そしてサメの尾。
どこからどう見ても原寸大のアークがそこにいた。
一分の一スケールのアークはゆっくりと床から立ち上がると未だ困惑する本物アークに向き直り、口を開いた。
「直観したな?理解したな?アタシはお前だ。いや、わたしっていったほうがいいかな?」「なわきゃ!あるか!」
受け入れられなかったほうのアークは思わず一打を放つが焦燥感に駆られてはなったそれは容易く受け止められる。
「な!?そうか……テメェ……なんかSHの変身かなんかだろ。正体を現しやがれ!」
アークショック。密着した状態から放つ電流は即座に敵の動きを硬直させる。
ことはなかった。
「耐性がありやがるのか!?」
「そりゃそうでしょ。わたしはあなたなんだから。ほんと……察しが悪いんだから」
綺麗なアークはため息をつき、語り始めた。
「市長に言われたこと。その通りだって思ってるんでしょ」
「お前……なにを?」
「だって中にいたんだもの。全貌はわからなくても相手がどれだけ強大かは身に染みて知っているじゃない。それが例えSHなんて力があったとしてもどうしようもない程の差があることは……なのに、わたしはまだ潰されず生きている、回収もされていない。わたしが本気で抗ってないから捨て置かれているのか……それとも、今の状態に価値があると思われているのか。決めかねているのよね。だから本気で欠けた円環の継手をつぶしにかかれない。その価値が崩れたらすぐに潰されてしまうと思っているから、そうなったらわたしだけじゃなくて、メアやサンたちもきっと無事ではすまないものねぇ」
「だから何をいってんだよ……オメェは……」
わたしはあざけるように言った。
「わたしはわたしの心を代弁しているだけだよ。だって、あなた自身なんだもの。わたしがこだわっているトモダチのくくり。わたしは知っているのよ。あなたは気づいているのよ、外の常識を学んだのだからわたしたちの関係は友達じゃなくてむしろ家族、姉──」「うるせぇっつってんだろ!」
シンアークによる加速により壁面に押し付けハンマーナックルを装備して打撃。しかし、それに完璧に同じくハンマーナックルを付けた打撃を合わせられて無効化。その後の幾度も拳を交わすが。
「わたしの信条。めいっぱいこの世を楽しむそれってさあ」
「あぁん!?」
有効打にならない。好き勝手に言われ続ける。
「元々誰の願いだったか覚えてる?覚えてるよねぇ。だから実行しているんだもの
散々破壊を巻き散らかし部屋が原型を留めなくなった頃、もう一人のアークは手を止めた。
「今日はここまでみたいだね。じゃあねわたし。自分の心に嘘はつかないように」
「ああ!?知るか!お前なんかアタシじゃねぇ!」
降り積もった怒りと共に殴りつけにかかるもののそれよりも先に世界が壊れた。
「!?」
「あ、アーク起きたのだ」
「おはようございます。お早い覚醒なによりですね」
瞼を開けると視界に入ってきたのはこちらを覗き込んでいるメアにオウマにラムルディ。本来一緒にこの部屋に来て、されど先ほどの世界では散り散りになったものたちだ
「うなされておったが。お主もアレを見ておったのか?」
「アレ?……あー……」
未だはっきりしない頭でアークは先ほどまでの光景を思い出す。自分そっくりの存在が現れ、自分しか知らないことをペラペラと好き勝手に喋り出す。どう考えても愉快ではない出来事だ。文句を言わなければならない。
「おい、アレどういうことだよ!なんでアタシは意識を失ったんだ!?んでめちゃくちゃ奇妙な夢をみたがお前のせいか?オウマ!」
睨みを受けても怒鳴られてもどこ吹く風という風に答えがきた。
「ですから先ほどからいっているではありませんか。ここは自己物件だと。ここで過ごしているともう一人の自分自身が姿を現して。自らと対話することになるんですよ。精神修行の一環として人気があるんですけど中々住むとなると人気ないんですよねこの現象が起きる部屋」
「あったりめ~だろがぁ!利用するやつの気が知れんわ。恐らく内見で何度かここを訪れているであろうお前の精神もなぁ!」
「慣れですよ慣れ。直接害があるわけでもないですし」
「精神的に直球で害があると思うが……っと」
そこでアークは大事なことに気づいた。覗き込んでた残り二人。
「おめーらは大丈夫だったのかよ?」
「メアはなんもでてこんかったのだ」
「わらわは楽しゅうおしゃべりしたぞ」
「はぁ?」
自分との余りの違いに間抜けた声を上げたアークに解説が差し込まれた。
「まだ幼い人の精神にはもう一人の自分が作られてなかったり……あとは自分の心に素直な人はそんなにすれ違うことなく穏当に済むことが多いみたいですね」
「つまり単純と」
「ぶっとばすぞ」
「のだ」
ばすぞ。ではなく言葉と同時に脛蹴りが二連で来てアークは地面に屈することになったがそのおかげで気づくことがあった。
「ん、アレ……ミラドは?」
そもそもの発端のミラドがいつまでたっても介入してくる気配がない。顔を上げて見渡してみるとその姿を確かに確認することができた。しかし、
「動く気配がない……あやつはまだ自分と喋っておる」
回り込んでみるとその表情は苦悶に満ち。とても穏やかな話し合いがなされているとは思えない。
「なあ、オウマ。これ、外から起こす方法はないのか?」
「う~んあまり無理に起こすと変な影響が残る可能性があるのでこちら側から呼びかけてあげたり軽くゆすったりする程度ですかね。推奨できるのは」
そういうことでお目覚めミラドちゃん計画が始まった。第一弾は携帯端末による目覚まし時計。甲高い蝉のような声が響き渡るが……。
「うるせえのだ!」
ゲシ!二軒目の自分の暴挙を忘れたかのようにメアが乱雑に弾き止めた携帯端末が勢いよく吹き飛び、ミラドの首筋に命中した。
「ふぬっ!!」
「おまえ~!?」
「やっちまったのだ」
「穏当も何もないですねえ」
それでもミラドは起きません。うるさい方法が禁止になったところで次なる手をとることにした。呼びかけだ。
「ところでなんていってやったらいいんだろうな。こいつに通じる文字列知らねーんだけど。文法がわからん」
「もう単語でいいんじゃないのだ」
「じゃあそれでいくかのう」
「私とメア様が左、アーク様とラムルディ様が右でいきましょう」
並んだところで。
(つっても単語ってもなあ)
「おはよー」
「あさだよー」
「ヨーヨーなのだ」
「ヨーグルト」
「戸棚」
「納戸」
「ドリルなのだ」
「ルーロー麺。あっ、やべ……じゃねえわ。べつにしりとりする必要ないんだよなぁこれ。……リンゴ」
「ゴリラ」
「ラップ」
「プリンなのだ」
「落とす必要ないんだぞ。ン・ダ〇バ・ゼバ」
正気に戻ったところでただ囁くのは暇だということに気づいてしまったのでしりとり続行。アークは左右から交互にささやかれ続けるミラドのこの状況にASMRを見出したが内容をよく聞くと発狂しそうなので別に羨ましくはねえなあと気を取り直した。
そうこうしていると変化も生じた。
「ん、うぅ……」
「おお、ミラドが目を覚ましたぞ」
瞼を開き、部屋の面々を認識したミラドは憔悴した様子で。
「成人腰掛ける砂場……」
「うむ、そうじゃ先ほどまでおった部屋じゃぞ。さっきまでお主がみとったのはお主自身が見せておった幻じゃ気にするでない」
「わからん……。ま、お前色々出してないこと多そうだし結構拗れたんだろうな。詳しくはきかんけど」
「きいてもわからなさそうなのだ~」
「…………」
「さて、皆さま体験も終わったところでご感想の方を伺っておきましょうか。この部屋はいかがでしたか?」
「いいわけあるか!」
「たいくつだったのだー」
「そこそこ楽しくしゃべれたのう」
いけしゃあしゃあとのたまうオウマに当然の言葉が投げかけられていく。ただ、そんな中でも黙っているものがいた。
「…………」
「ミラド?どうしたのじゃ、おぬしはなんぞいうことはないんか?」
ラムルディの呼びかけにおずおずと切り出した言葉は。
「V字の朝鳥」
「…………わからん」
「ラムルディ、なんていってるのだ?」
「うーんそうじゃのう……」
珍しく少し悩んでラムルディは答えた。
「どうしてももう少し早く起こしてくれなかったんだといっておる気がするのう」
「!?」
「あ!?ミラド!?」
「急にどうしたのだ!?」
ラムルディの言葉を聞いてすぐにミラドは駆け出し。わき目もふらずに部屋から出て行った。後に残されたのはあっけにとられた4人だ。
「え…………なんで?」