♦
「~♪~♪」
個室、もとい管制室にて、オウマはご機嫌だった。本棚と一緒に大量に並んだモニターを前に彼女は椅子を大きく倒しその時を今か今かと身を揺らして待ち望んでいた。
ガチャリ。扉を回す金属質の音がなり。来た。彼女は勢いよく椅子毎身をそちらに向ける。
「はいどうぞ!おはいりください!!」
花開く笑みで迎える。来客者こそが彼女がずっと待ち望んでいた存在だからだ。
扉を乱雑に蹴り開き。姿を現したのは4人の客。内見に入った時よりも随分にやつれた様子のアーク、メア、ラムルディ、ミラドである。彼女らの様子も気にせずオウマは椅子から身を起こすと勢いよく接近する。
「お疲れ様でした皆さん!いかがでしたか?私が作成し、プレゼンする最高のエンターテインメントお家は!さっそく!さっそく感想が聞きたいんですけども!アンケートとか用意してて」
「……ばす」
アークの口から漏れ出た言葉も気にせずオウマは無邪気に気持ちを吐き出す。
「ばす?バスルームはまた違うステージを通ってもらわないといけないんですがそちらはまた後にしたひとまずここまで完走された感想を……」
「ぶっとばーす!!!!!」
「ぶげぇ!?」
怒り。それ以外がこもっていないであろう拳がオウマの腹部にめり込んだ。そしてそれでは止まらぬ。
「ぶっつぶーす!!のだ!!」
「ひゅげぇ!?」
小学生ならざる跳躍力で跳ねたメアが顔面に蹴りをいれ。
「わらわもやるぞ~!覚悟せよー!!」
「春の世の杉」
「おぎょぎょぎょぎょぎょ~!!?」
倒れたオウマを蝙蝠二人が餅つきのように交互に踏んづけてはなじっていった。
「ちょ、ちょっと待ってください!?ここは達成感にお互い抱き合うところでは!?何故に作成者に暴力をふるっているんです?エンドロールですよここ。まるですごく不満があるみたいじゃないですか!?」
「「「「不満しかないわー!!!」」」」
クアトロボンバーが炸裂し。オウマは轟沈した。
一通りしばき倒した後四人はオウマはを正座させ。
「で、弁明を聞こうか」
「あ、あの~。お嫌……でしたか?」
「「「「でしたね!!」」」」
異口同音に流石にひるんだオウマは素直に謝罪した。
「あ、はい。すいませんでした。それでその、どのあたりがダメでしたでしょうか……」
「「「「全部!!」」」」
「そ、それは流石に参考にならないのでできれば具体的に教えて欲しいな~なんて……へへへ……」
もはや若干涙目になっているオウマに免じて聞き取り調査が行われていった。
「いや……さ。シンプルに殺す気だった?」
「いえいえめっそうもない。家は家ですからね。暮らしのために死んではもともこもないです」
「じゃあプレス機を筆頭としたあの殺意のトラップ群はなんだー!!!」
「難易度調整ですよぉ。トアさんもこれぐらいやらないとダメっていってましたもーん」
「殺人鬼のご意見なんぞ取り入れてんじゃね~!お客様のご意見に耳傾けろや!!お客様は神様です!復唱しろ!!」
「お、お客様は神様です!」
「いうておくが金払わん客は神は神でも疫病神じゃからな?今度お祓いにでもいこうかなと思うておる」
「背後から撃ってくるんじゃねぇ!和式の神にたよってんじゃねぇよ吸血鬼!せめて洋式にしろや!」
「こ、この家に備え付けられているのは洋式ですよ。ウォシュレットもあります」
「トイレットの神様の話はしてね~んだなぁ!つかどーせあれだろ。お花摘みにいくのにもいちいちダンジョン潜り抜けていかねーといけねぇんだろ。零れ落ちるわ命と尊厳が!」
「ここのウォシュレット。カッターみてぇになってそうなのだ」
「巻き藁千人切り……」
一通り叫び切ったアークは息を切らし。肩を上下させると。
「も~いい。もういいだろ内見は。帰るぞ」
「そろそろ門限なのだ~」
「そじゃのう。ほれオウマ。反省したのであればいい感じに外に出られる扉を出すがいい。あるよのう?のう?え、ほんとにある?大丈夫じゃよのう?」
徐々に不安に言葉を尻すぼみにしていくラムルディにオウマは縮こまった様子で。
「あ~、本当に申し訳ないです。あ、いえ帰り口は出せるんですが。そうではなく……その楽しんでいただけなかったみたいで……流石に二度目のご利用は……」
「あるわけねーだろ!!」
「ですよね……」
がっくりと肩を落としつつ扉を宙に現出させたオウマ。アークたちは警戒しつつもその扉に手をかけようとするものの。
「待って!『夏口に止んだ蝉の声』」
詩人の一声がその動きを阻んだ。
制止する声。その意図が掴めず。
「えーっと、やっぱこの扉開けたらやばそうか?またなんかトラップだったりクソダンジョンに飛ばされる」
「わなだったのだ?ゆるせねーのだ!」
「そ、そうじゃなく!」
「ん、落ち着いて話すがよい。内見者はミラドなのじゃ。その扉を開けず。何がしたいのじゃ?言うかやるか。やってみよ」
ミラドは頷き、うなだれるオウマの前で鏡目線を合わせると。
「オウマはこの家で。何がしたかったの?『購入したのは何のチケット?』」
「それは……その」
たどたどしく語りだす。
「私の家のこだわりに納得してくださった皆さんに……楽しんで欲しかった……です。でも、それは失敗しちゃって。ご迷惑をおかけしました」
「うん、迷惑だった。『夜勤明けの工事』」
「う、すいません……」
「…………どういうこだわりを持っているかは聞いた。けどなんでそういうこだわりがあるかは聞いてない。オウマは。どこに自分の根源を持っているの?『咲かせた花の球根どこいった?』」
「それは飽きが……いえ、どういう積み重ねと経験の元で結論にいたったかということでしょうか?」
「そう。『割れた壁』」
「積み重ね……う、ううん。経験……その、せっかく聞いてくださったんですけど。すぐには……」
「ふむ」
「あ、おいラムルディ」
屈み、もう一人視線を合わせた。
「わらわがなんで吸血鬼名乗っとるか知っとるか?」
「吸血鬼が好きだから」
「それはそうじゃのう」
「あとあれなのだチスイコウモリだからなのだ」
「SHの技術ができたのはここ数年のこと。わらわが吸血鬼に傾倒しているのはその遥か前からじゃ」
「あるの?根源が『焼かれる前の芋』」
問いに、ラムルディは僅かに頬を染めつつ。
「先にいうておくが。笑うなよ」
「それより早くいってほしいのだ。門限くるのだ」
「情緒をわきまえよ!話やすい空気作りも聴くものたちの義務じゃぞ!」
「まったく」と憤慨し腕を組んでラムルディは話始めた。
「お主らも知っての通り欠けた円環の継手は年の近いもの達で部隊を組まされ、幼い頃から戦力として運用される。当然危険は盛沢山じゃ。何時メンバーが欠けてもおかしくない」
その言葉に、アークが拳を強く握りしめたのをメアは見た。
「幸いわらわの隊から欠けるものは出んかった。わらわの店知っとるじゃろう。あそこのバイトで雇ってるものたちは皆わらわの部隊……わらわ隊長じゃなかったら少し妙じゃな。まあよい。同じ部隊の隊員たちじゃ」
「……”ともだち”か」
「そんな繋がりがあったのだ」
「どうかのう。危険と隣り合わせではあったが。わらわたちはとても仲良く過ごした。しかし、隣り合わせじゃからこそ。その幸せがいつ失われるものかと。わらわはとても憂いた。そんな時じゃその存在を知ったのは」
吸血鬼。それは。
「不死身にして圧倒的な力をもつ神秘。血を媒介に眷属を増やすときた。わかるか?血を吸うことで好きな相手と家族になり。そしてその相手はそうやすやすと失われることはなくなるのじゃ。ただただかっこよかった。センスに響いた。そういうのは当然じゃ。じゃがそれ以上に当時のわらわはその性質に惹かれた。そこからじゃな入口は」
末っ子のようなポジションだった。あまり余裕がないであろうにも関わらず。向いてないことが明白でも。「やりたい」といえば気が済むまでやらせてくれる人たちだった。ああ、今回はコレか。と仕方なさそうに笑っていたが揶揄い半分で済ませてくれた。そんな場を長く繋ぐ手段が。ここにはあると思った。
「わらわはそんなところじゃ」
昔を懐かしむようにラムルディははにかんだ。
「こだわりとは突き詰めてしまえばそういったものが好き。という感覚でしかない。じゃが、好きであることには、惹かれることには理由がある。先鋭化させていくことにもな。感覚をかみ砕き、翻訳し、自分にも他人にも伝わる言葉にする。ここまでできればどうすれば自分が求めているものにたどり着けるかの道筋も作れるし、他人にどこを尊重してもらいたいのかも伝えられる。そしてここまではお主もできるはずじゃなオウマ。喫茶であそこまで語れたおぬしであれば。突き詰めて考えれば。振り替えって考えれば可能なはずじゃ。砕いてみよ、おぬしの記憶を。伝えてみよ。おぬしのことばで」
「…………はい」
ラムルディのオリジンを受け。オウマもまた応える。メアは門限にそわそわしているが無視する。
「ラムルディさんのお話しで思い出しました。私も、私は欠けた円環の継手の一部隊の中で、拠点の確保を得意としていました」
それは住居や廃墟を確保するというだけではない。任務は市街地だけにとどまらない。自然環境など居住に適さない空間でも生活空間を確保する必要がある。そのための仕事だ。
「生活環境の確保と守備。大変ではあるんですけど一度やってしまえば一番大変な部分は過ぎるので。他の仕事も担当しますが。疲れて帰ってくる部隊のメンバーをでむかえることが多かったんですよね。そんな時──」
ふとした笑いがあった。
「ちょっとした。部屋に仕掛けた仕組みがウケたんですよね。そんな大したものではなかったんですけど。みんなよっぽど疲れてたのか。床に笑い転げて……。こんなことで喜んでくれるんならって色々仕掛けるようになったんですよ。敵対勢力に対するトラップにもなりましたしね。作るごとに色々できるようになって……実用も兼ねるようになって……あれ?」
そこまで話されれば気づくこともある。
「ここの家の難易度ってトラップ的な思考で作っている……?」
「むしろそれしかねーだろ」
「なぜ気づかんのだ」
「いや……おかしいとは思ってたんですよ……最初の数年はよかったんですけど。どんどん技術力を高めて工夫を凝らせば凝らすほど若干引かれるように……というか喜ばれないというか。部隊のみんなにももういい……もういいよ?みたいな感じになってって……」
「そら……そうなるのう……楽しませる身内用の考えたかたでやるべきところを知らず知らずの内に外敵用の傷つける、不快にさせる様式でやっとったんじゃから」
認識、認知が初志と徐々にズレることはあるとはいえこれはあまりにも頭が痛い話題だ。実際抱えているものが何人もいる。
「あとアレだ。百歩譲ってアレが楽しみのために用意されてたものだとして、だ。難易度が高すぎる。死にゲーだぞあれ。死にゲーがなんで人気なのかってのはクオリティがたけえってのは当然だが。ゲームだから死んでもやり直すだけでゲーム内コストと時間しか消費しねーから気軽に再挑戦できるし、上達のための導線が上手く引かれてるからだ。よく観察して操作を鳴らしてアイディアを出して挑めば挑むだけ突破の率があがる。一方だ。ここは一回しか挑めねーし落ちたら奈落の底に真っ逆さまだし、トラップでも死ぬし。死ぬってことは再挑戦できねーし。いっこいっこのステージに連続性がねーから上達も糞もねーからシンプルにゲームとしてお粗末なんだ」
「み、耳が痛すぎる……で、でも私の技術習得研鑽。
「でも、どこがひっかかってるのか気づいたなら。方向性は合わせられる『粘土で回るヤジロベエ』」
「そじゃのう。現在の最高傑作は起点の理想とは随分外れたものとなっておったのじゃが。実際どうじゃ、こっちの方向で更なる理想を目指すのか原初を目指すのか」
「…………したいのは。そりゃ。みんなに楽しいと言ってもらえるものなんですけど。ですけど。私も、こう高難易度を作るために磨いてきた技術と時間があって……それを完全に捨てるっていうのも……簡単に決心できないです」
「捨てる必要ないとやつがれは思う『海を越えた硬貨』」
「え…………?」
ミラドはオウマの手を引き。立ち上がらせると。
「高難易度を作れるってことはどうやったら高難易度になるかがわかっているってことだから。難易度を下げれるってことでもあるし『腕切り蟹』。色々な仕組みを作ってきた経験は何をするにしても応用がきく『仕込まれた砂鉄』。とにかく、難易度が高いものにするにしろ。別の方向性を作るにしても先に聞いておくことがある『朝餉』」
それは。
「オウマは誰に家を……ここを楽しんで欲しいの?『血盟分けし者』」
「それはお客様……」
「お客様ってどういうお客様?オウマはお客様って存在に何を望んでいるの?『隣の客は柿を食う?』。これまで内見してきた物件と、今回の物件ではオウマが相手に望んでいることが違うと思う。これまでの家は、音や独自の仕組みのある家での生活を楽しめる……適応できる人に向けているけど、今回のは仕組みをクリアできる人を求めているように思えた『大きい箱は包み紙。小さい箱はマトリョーシカ』。求められている二つの人は全然別の人だと思うし。ここは統一するか、完全に分けて考えないと見当違いの方向にいくと思う『雪山で覗くのは羅針盤かコンパスか』。やつがれは、自分の言葉を理解してくれる人を探してた『砂漠に残す足跡』。理解してくれるなら誰でもいいと思っていた。けど、難解な文字列を理解してくれる人って。理解しようとしてくれる人で、理解しようとしてくれるのは。やつがれに凄く興味を持ってくれる人か底抜けに親切な人だった。やつがれがやるべきはただ悪戯に言葉を紡ぐことじゃなくて、そんな人たちにやつがれ自身へ興味を持ってもらうことか、親切を返してもいいと思われるようなことをするか。そうじゃなくても理解できる導線を用意することだった『航海先の猟』。オウマはどうなの?『蟻と彼方』」
誰かに何かを届ける時、重要になってくるのは”誰”に、”何”を届けるのか。ターゲットとコンセプトを見極めそのための道筋を整えることである。どれほど優れた研ぎ澄まされたモノであってもそもそもそれを求めていないものには届くことはないし。届いたところで最適に研がれていないのであればまた引き取りを拒否される。では、オウマのターゲットと、コンセプトはなんなのだろうか。
「今までの物件は。一風変わった面白い家を、私と似た感性を持って訪ねてきてくださった方に住んでいただくための物件です。でも、この家は、きっと」
オウマは振り返る。そもそものきっかけは何だったか。
「こんな面白い家を、部屋を作れるようになったって見せたかったんです。誰かに。誰かにじゃなくて。始めに肯定してくれた人たちに。途中から引かれちゃったかもしれないけどやっぱりアンタの作った仕掛けは楽しいよって言って欲しかったんだと思います」
「ん、そう。羨ましい『焦げた焼き菓子』」
「ようやっとスタートラインに立てそうじゃなあ」
「立てそうじゃなあじゃなくてよ」
腕を組み、アークは憮然と口を挟んだ。
「なんじゃあアークいい感じのところで水を差しおって」
「差しもするわ。なんなら栄養剤もつけるわ。え、何?ナチュラルにアタシらこいつのことを手伝う感じになってる?」
「じゃがお主こういうの好きじゃろ?凝り性め」
「そうだが~?普通に仕掛ける側になるのは面白そうだと思っていたが~?いい感じの空気に乗るのが癪だっただけだが~?」
「乗れるなら乗っておこう『カエル置きダルマ重ね』」
「み、皆さん……協力してくれるんですか……私、喜んでもらえなかったのに。なんで?」
「そんなん決まってんだろ」
そりゃそうだ。誰だってやりたいに決まっている。
「試練を与える側になるのは楽しいからな!」
「楽しんで貰うんですよ!?ともかく」
コホン咳ばらいの後にオウマは皆に頭を下げ。
「ご迷惑をおかけしました。私一人では恐らく喜んでもらえないかもしれないので……皆さんのお力を借りたく思います。よろしくお願いします!」
「そんなことより」
小学生は黙っていた。いつになく珍しく空気を読んでやっていた。それももう終わりだ。
「さっさと家に帰すのだ~!!」