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ミラドたちがオウマの案内で内見を始めてから数日後。件の物件の前には三人の女性がたむろし、顔を見合わせていた。
「で……どうする?」
「どうするもこうするもいくしかないっしょ~」
「でも…………、オウマの作った家だよ?」
「「うっ」」
動かしようのない事実。それは前に進む気力を根こそぎ奪っていく。
「せ、成長しているかもしれないし…………」
「あのまま成長してたらむしろ殺傷力上がってない?」
「そうなんだよなあ…………」
「危なくなかったら私らもやんわりと止めるように言わなかったからね。うん」
かつてオウマと同じ隊に所属し。オウマハウスを楽しみ、同時にその被害に遭ってきた彼女らは眉を落とし。手元の手紙を見る。
「まさか今になって普通の遊びじゃなくて家に関する招待がくるとはなあ」
「私らが遠慮したがってるの若干察してたっぽいけどねえ」
「心境の変化があったのか。それともヤケになっているのか……」
「でも、どっちにしろ。行くっしょ?」
「ほんとに行くの?わかってる。もしそれで私らが死んだらあの子どうなるか」
「そんときゃそんときだろ。死ぬかもって仮定よりも行かなかった未来での確定のほうが耐えがたい。だろ」
「はいはい。隊長様のいうことには従っておきましょうか」
覚悟を持ってチャイムを鳴らす。即座に指先が爆散するかと思い。隊長は瞬間的に引っ込めたがすぐに応答が来た。
『はい。オウマです』
「あ、オウマ。招待もらってきたよ。開けてくれる?」
「はーい!ちょっと待っててね~!」
「ゆっくりでいいよ」
早速開錠の音が鳴った。隊長は道を譲り。
「次はお前がやれよ……」
「ええ……はいはい」
扉に触れさせる。電流が流れるかと思いきや何も流れず。拍子抜けした空気だけが流れた。だが、これで気を抜く彼女たちではなかった。
扉を引き、開ける。瞬間的に扉の後ろに身を隠す。玄関が爆発したり、矢が飛んでくる可能性があったからだ。
「どうだ!?」
何も飛んで来なかったし爆発しなかった。当たり前のことである。当たり前のことであるがそれが何より不気味であった。
「みんな油断するなよ。こうして何もないと思わせておいてワッとくるのがアイツのやり口なんだ」
「ジャンプスケアは苦手なんだよね~。もうちょい音とか質感とかでじわじわ恐怖感を煽るとかさあ」
「私ら今から事故物件に入るの?いや、これから事故する物件なのは確かなんだけどさ」
三人はちらりと扉の隙間から中を伺いたっぷり一分ほどどこにわなが仕掛けられている可能性があるかの検討を済ませてから潜入開始した。
土間に床にサイドに靴箱の一般的な玄関構成。この中でもっとも危険なのは靴箱であるゆえに一切触れずに靴を脱ぎ、慎重に床に足を滑らせた。
それがきっかけだった。陽気な、ダンスフロアで流れているような4つ打ちのビートが廊下に響き始めた。
「!?」
全員が即座に戦闘態勢を構えるも次の変化は予想外であった床が勝手にスクロールしだし。彼女達を先に進めていくのだ。
「これ……遊歩道!?」
「運ばれたままでいいのかこれ!?」
終点地点の間際まで行くと正面の扉が勝手に開き。リビングが見える。その先で出迎えたのは。
「みんな遠いところお疲れ様!久しぶりだね。今日は来てくれてありがとう」
オウマだった。意外とあっけない再開であったことに一同は気を抜かれつつも。挨拶を返す。
「久しぶり元気してた?」
「話している間に仕掛け作動したりしないよな?」
「じゃあ、みんなで外に出て買い物でもしようか」
「いやいやいや、みんなにはまだもうちょっとこの新しい家を体験していってもらうからね」
「そ、そうか~……」
「だ、大丈夫!大丈夫ですとも。今までの私の家と違って危なくないので……ええ、それはもうほんと」
「ほんとにぃ?」
疑い9割といった形だがそれでも彼女たちはオウマの案内に従うことにした。それに応えオウマも説明を始める。
「今回の家のコンセプトはね。生活を便利に安全に。かつ、飽きをなくす。というもの。安全に!が大事なの。散々注意されたから」
「お、おう」
「実際インターホン押してからここに来るまで危ないことはなかったでしょ?」
「まあ、そうねえ」
「この家は外敵用の兵装とか、高難易度の仕掛けとか積んでないから……これまでの研究の成果で勝負しているから」
「研究の成果が不安~」
ともあれ家の説明が始まった。
「ダイニングルームと繋がった広いリビングルーム。ここを抜けると畳みのある和室!」
「おお~、囲炉裏まであるんだ。雰囲気ある~」
「そして畳を剥がすと」
「畳を剥がすと!?」
オウマが和室の畳に手をかけひっくり返すとその下から下に続くエスカレーターが現れた。
「地下室への道が開けます」
「おお~、王道」
「えへへ」
地下へエスカレーターで降りてみると広い空間の他にいくつかの小分けにされた空間があった。和室で丸くなってたなんかデカイ猫のような生命体は無視した。
「地下部屋がいくつもあるのか」
「ええ、地面の下っていう天然の防音設備をいかしてね。カラオケルームと収録部屋とか作業部屋とかをこしらえました」
「へぇ~ライトも明るいし思ったより閉塞感はないからレクリエーションルームとしてはいいかもね。ちょっと手間だけど畳を剥がす工程も秘密基地に行くみたいでわくわくするかも」
「でも、オウマカラオケはともかく音出して収録する趣味とかあったっけ?部屋の仕掛け作るのに音出ないほうがいいのはわかるけどね」
「…………いや、新しく趣味を作ったわけじゃないよ~。いろいろあるの……、っとそろそろ二階の部屋を見てもらいましょうか」
一行は一階の廊下部分まで戻りつつ二階に続く階段へと足を進めた。勝手にエスカレーター形式で動き始めたことにはツッコミは入れず、一人が壁についた紋様に気付く。
「あれ、このマークに似たようなの、さっきの地下室にもあったような」
「あ、よく気づいたね。そう、実はこの家には毎日日替わりで5か所、こんな感じのマークが家のどこかに現れるのです」
「隠れミ〇キーみたいな?」
「そういうこと。ちょっとした気分転換みたいにね。お家をグルーット回ったり。普段しない場所の掃除のきっかけになったりしたらいいなって」
「…………なんか、昔みたいな仕掛けを考えたんだな」
「そういう茶目っ気のある所。好きだったけど~」
「過去形やめて~!」
はははと笑っていたら到着だ。二階には部屋が四つあった。手前の部屋を開ける。
家具の置かれていない殺風景な小部屋だ。特筆するようなことはなにもない。そう見えた。オウマが衣装棚の前でこう唱えるまでは。
「季節:春 テーマはBの3番で」
次の瞬間、衣装棚が一人でに開き。中にはコーディネートされた春物の衣装が一式揃ってお出しされた。
「どう?服を詰め込んで登録しておけばいつでも決めたセットで出してくれる衣装棚だよ」
「あ、便利~。どうしたのこれ、今回の家。発想が昔と違くない?」
「だからそういってるじゃん……!ん~とね。一回基本に立ち返って。私の好きな物件のどこがお客さんに受けたのかとか。嫌われてる要素もどうやったら+にできるのかとかちょっと見直してみたの」
「あのオウマが……頭を打ったのか?」
「私にも色々あるんです。残りの部屋も大体同じ規格。ただ別の空間にストックしている部屋と入れ替えたり。部屋の位置を気軽に交換したりできたりするけどね。これで大体全部」
息を整えてオウマはいった。
「私が、改めてキトカちゃんやマノエちゃん、ヒトトちゃんたちに面白いって、住んでみたいっていってもらえるような家を作りました。どうだったかな?」
「あー、下の収録部屋とかってそういうことか。マノエが配信とか演奏とかするからそれ用か」
「じゃあ、衣装棚は私用かな?」
「そう」
「エスカレーターやら遊歩道がやたら多いのは私用……か。随分変わったな」
「うん……それで」
決定的な答えは異口同音だった。
「「「面白い」」」
「本当?」
「ふつーに住みたいよね居心地もよさそうだし」
「色々便利そうだしねえ。ってよりちゃんと私らが利用すること考えられてるっぽいし」
「てかここオウマの持ち家ならシェアハやんない?ていうかオウマも元からそのつもりじゃないの」
「はは……」
一体、いつぶりだろうか。その言葉をこの人たちから聞いたのは。随分。遠回りをしたような気がする。
思えば自己物件の内見の際に現れる自分は醜かった。とにかく、当たり散らすのだ。なぜ、理解されない。これでいいじゃないか。理解しないほうが悪い。相手が悪い。
……一番悪いのは、それを醜いと思うよりも、心地よく感じてしまうことであった。ただ、それはもうやめることにした。
どうすれば高難易度になることを押さえられ。かつ面白みになるギミックになるのかの再検討、面白さに使える素材の再検討、相手のパーソナリティの再確認。家の配置。とにかく色々とやった。何日もいっぱい協力してもらって。とにかくやりきった。その結果。
「お気に召していただけたようでなにより」
少し、昔の気持ちを思い出すことができた。
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同時刻。ラムルディの部屋。そこで店のジュースを飲みながら。アーク、メア、ラムルディ、ミラドはダラダラとすごしていた。
「お、メッセージ来たぞ。ふむ、オウマの奴、うまくやりおったようじゃな」
「メアが協力したんだから当然なのだ」
「よかったじゃん。後できっちり礼もらわねえとな。あ~、でもよ」
「どうしたの?『パクチーかじる羊飼い』」
「ミラド、どうすんだ?結局オウマのとこで物件探すのか?」
そもそもの発端はミラドの家探しなのである。途中から完全に横道にそれておりオウマの家づくりばかりやっていたがようやく本題に戻る時だ。
「ああ、それなんだけど」
「ミラドはうちで居候することになったぞ。ちょうど部屋も余っとるし金銭はバイトで稼いでもらえばよいしのう」
「ん、ご厚意。感謝『白鳩受け取った王』」
「は?」
思わぬところで重要なことが決まっていた。蝙蝠たちは浮足立った様子で。
「これでいつでもミラドを吸血鬼スタイルにコーディネイトできるというものよ。休日には廃洋館などにいって撮影などしようかのう」
「ご自由に『祭りばやしのマリオネット』」
「な……」
収まるところに収まったそういえるそういえるが。
「色々やる前にそこに収まってほしかったな~~~!?!」
結局一周しただけなのである。世の中、案外そういうことが多い。
ただ、
「これからもどうぞよろしく『陽餅と茶柱』」
「うむ、よろしくのう」
一度回った言葉は。これまでとは違う速度で世界を回っていくだろう。気心の知れた人から、まだ見ぬ人の元へまで。
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<勝ち誇った女性の声>
よし……やった、やったぞ。ざまーみろ無実を完全に証明してやった!仮面がはがれた黒幕共の顔を見るのは爽快だったね!
ふぅ……もうここ四年分ぐらいは動いたな。もうあと三カ月はゴロゴロしていよう。ここしばらくアークの動向とか見られてないし……。
あ!?探偵?なんだ、感謝はしているがもう僕はお前に関わらな……はあ、便利だからこれからも助手として使ってやるだぁ?ふ、ふざるなよ~!?
SHs大戦15話「言葉の宿」完